みずたまり
昨夜の雨で駐車場のまんなかに大きな水溜りが出来ていた。
脇に立って覗き込んでみると、濁った水の底から金色の錦鯉が顔を出してこちらを見つめ返してくる。
その愛嬌のよさと珍しさのあまりに携帯電話で写真を撮ろうとしたとき、手を滑らせてしまった。
ドブンッ、という低く重い音を立てて携帯電話が水溜りへ落ちる。
錦鯉も逃げてしまった。
かがみ込み袖をまくって水溜りに右手を突っ込む。
朝陽でほどよく温まった水は生ぬるい。
手首まで浸しても底には届かなかった。
さらに手を水の中へ進める。
ひじまではいったも底へは届かなかった。
さらに袖をまくって這うような体勢になり思い切り右腕を突っ込んだ。
肩まで完全に浸かってしまう。
手に感じるわずかな水の流れの差で底が近いことがわかった。
シチューをかき混ぜるように腕をグルグルとまわしていると、固い感触にあたった。そして掴んだ。
間違いなく携帯電話だ。
だが、妙に重い。
水中であるためなのか、腕自体も動かしづらい感じがある。
肩先の力だけでは持ち上げられないことを悟り、寝そべる体勢から座る体勢へ変えた。 立ち上がるようにして全身を使い右腕を持ち上げる。
徐々に持ち上がっていき、まっすぐな形のままで腕が水中から出てきた。
右腕は、肩から先が金色に光っていた。
握っている携帯電話も、水に浸かってしまったシャツの袖も金色になっている。
反対の手で軽くたたくと固い金属音がした。
腕は完全に金属の物質になっている。
純金だろうか。
タイミングが良いか悪いかわからないが、金の腕の先で金の携帯電話が鳴る。
画面も見えず誰からの電話なのかもわからない。
通話ボタンは押せるが、このままではまともに話すことが出来ない。
右手から携帯電話を奪おうとしたが、一体化しているかのように固く握られていた。
金の親指をつまみ外側へ向けて思い切りチカラをこめて引っ張ってみる。
指は、固めのアメ細工のように曲がった。
――意外と簡単に曲がる。
すぐさま全ての指をあらぬ方向へまげ、携帯電話を取り上げた。
電話は友人からだった
友人が用件を言い出す前に、腕が金になってしまい大変なことになっていると伝えるが、
「あー知ってる知ってる。それって首にネギ巻くといいらしいよ。それよりさー――」
友人はボクの話を放ったまま、これからボクと行く予定のラーメン屋に開店前から大行列が出来ていることを報告し、それについての実況をはじめた。




