ロックオン
『………………………………………………………………………………………
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………………………………………………………』
黄金の瞳を見開いたままの竜は静かに浮遊、上昇する。
「上がってく?羽が動いてないのに?」
「えっと魔法的なモノとかじゃない?」
「あーそうね。あんな巨体が軽いわけないし羽で飛ぶとかありえないわよね」
彼等は動き出した巨大な竜を前にして当たり前に話し出す
「そんなのどうでも良いだろ。それより上渡!相手が動いたならカウント無しで攻撃だ!!皆もいくぞ」
「……やれやれ勝手ですね。まぁ良いですよ。もう力の充填は満タンだったんですからね。喰らいなさいね。大爆裂弾球」
巫女服の少女の錫杖の先端には宙に浮く野球ボール台の紅い玉。少女が優雅に、笑顔で錫杖を振ると玉は…
ギュオオオオオ!!
…けたたましい音を発しながら放出された!
玉は直線的に竜の顔面に向かう!
玉の速度は遅くは無いが速くもない。いや幾ら早くても最も的の小さな頭部、玉自体は目立つ紅、音も大きく、着弾までの時間も長い…幾ら巨体で動きが鈍くても避けられる可能性は十分に有るだろう。
ただそれは巫女服の少女も初めから織り込み済み。あの玉は高威力の変わりに目立ち速度が遅い。初手に射つのは悪手……当てるつもりならだ。
つまり避けられてもいいいいのだ。
狙いは連繋、次に打ち出す威力は弱いが早さは200キロに達する最高速の弾丸、『速爆の弾丸』
最低限の威力しかないが視界を防ぐ事が出来る。そして視界を防いだ隙に避けた『大爆裂弾球』を操作しぶつける。既に杖の先端には水の中に絵の具を一匙入れた様な目立たない薄い赤色の『速爆の弾丸』
……何時でも射てる準備をしていた巫女服の少女は整えられた眉を潜めた。
「……見てない。当たる?」
竜に向かい見つけて下さいとばかりに大きな音を出し飛来する『大爆裂弾球』。何故か一才反応していない竜……巫女服の少女は不審を感じた。
そのまま『大爆裂弾球』は…直撃!
ズゴオオオオオオンン!!!
命中すると同時に濃縮された玉のエネルギーが解放され、竜の顔を中心に広がる鉄さえ溶解させそうな高熱な爆破の炎。十メートルは有る竜の顔は爆破の炎に完全に飲み込まれた。
『大爆裂弾球』
殲滅の女王と呼ばれる代名詞となった高威力の攻撃は当たれば旅客機サイズの鉄の塊さえ溶解させる。
「なんだアイツ囮用の攻撃に直撃したぞ。ただのデカイだけの奴なのか。」
「ねぇ!もしかして一撃で終わっちゃった!?私達の出番は」
「たぶん無いだろ。あれだと首が消し飛んでるかもしれないか?流石殲滅の女王様だよね」
「まだ浮いてるし死んでないよきっと……まぁ瀕死だろうけど」
「それなら楽にしてやるのに斬らなきゃな……竜の解体何てのも面白そうだしな?」
遠く離れた自分達でさえ熱く感じる炎の熱風、どんな生き物でも助からないだろう。アキラ達は既に決着がついたと半ばまで思い込み倒し方を相談しだした。
「……当たった?」
だが次弾を準備していた当の本人が当惑し嫌な予感を感じていた。
そんな呟きを聞き逃しアキラはトドメを刺そうと飛び出す!
「フォークシング!」
剣に集まる雷光を放つ不可思議なエネルギー。集束した雷の様なエネルギーで出来た半透明な刀身、剣が三倍まで伸びる。
伸ばした刀身をそのままに竜を目指し隼よりも速い速度で飛行!竜の真横を通る瞬間!
「光迅剣!」
名前は兎も角威力は絶大!鋼をバターの様に切った実績のある巨大な刀身を竜とスレ違い様胴体に叩き込む!
叩き込んだ刀身の斬撃は竜の胴体の半分近くまで届き、竜の胴体に光る斬撃の跡を残していた!
竜の背後で止まったアキラの顔は……
「……え」
……叩き込むまで自信に道溢れていたアキラの顔は唖然としている。……竜の後方に居たために誰も気付かない。
「ありゃ本格的に終わっちゃったわね。ね、折角だから私たちもやっちゃいましょ」
「そうね。竜で的当てなんてそうできるもんじゃないしね」
大人向け魔法少女、腹部が開いた少し際どい似た感じの衣装の二人は同時に杖を構え……力を数秒間集中。
「「エレメントランス!」
放たれる数メートル有る氷と雷の槍。
この槍は戦車の材質の厚さ270ミリの特殊合金を貫いた実績を持つ。その威力は正に生身で放つ戦車砲!
斬撃の余波で未だ光る竜の胴体に戦車砲と同等かそれ以上の氷と雷の槍が直撃!
バァギイィンン!!!
黒い皮膚に当たった瞬間に………槍が砕ける。
「「嘘!?」」
飛び散る氷の破片、空に霧散して消える雷のエネルギー。
二人は自信が有ったのか刺さる所か砕けた事に驚愕する。
驚愕している内に爆発の余波が消えていく。そして更に驚いた。
彼等は当初は頭部が無くなった姿を幻視していた。だが爆発の攻撃の余波が消えると現れたのは……変わらない威容、焦げ跡一つ無い竜の偉容。何のダメージも見えない竜。
「……あら~…あんなに確り当たったのに…無傷?ふふ、どうしましょう」
巫女服の少女は冗談めかした口調で笑顔、いや笑顔は引き吊り冷や汗を流している。
そして斬撃の余波も消え……斬撃にも傷痕一つ無い事が判明した。
つまり彼等の攻撃全て直撃したのに傷一つ付いてはいない。浮遊を終えゆっくり前進し出した竜は攻撃されたと認識してるかすら怪しい。
攻撃が無意味。
少女達は自分達が手に入れた特別が欠片も効かないという現実に狼狽えた。まだ攻撃してない二人を除いて
「へぇ、無傷とは凄いじゃない。なら私のに耐えられるかな。リリン援護してね」
「確かに私のじゃ効きそうにないし援護してあげるわ」
チャイナ風少女は援護、武器としてこの中で最も威力の有りそうな大剣を装備した少女は攻撃を続行しようとして!
「だ、だめだ!今すぐ退くんだ!」
アキラの叫びに止められた。
「何アキラ?まだたった一回の攻撃じゃない!」
「そうだよアキラ、諦めるには早すぎるだろ、ってアキラ?何でそんなフラフラと」
まだ甘く見ている二人は前進を続ける竜から完全に意識を逸らし大声で不満を口にした……が……アキラの高度が異様に下がりフラフラとしている光景に抗議を中断。
「こ、此れを見みてくれ」
アキラが掲げた物を見て全員絶句した。
アキラが見せたのは……半ばまで折れた自身の剣。
剣からは空気の様な何かが漏れだしアキラの飛行は不安定になっていた。
「お、折れてる!?」
「そんな!?まさか切りつけただけで!?」
「……刃こぼれ所か…ポッキリ…」
彼等は恐怖した。
空を飛ぶ力、爆発、氷、雷の槍、魔法の様な力、彼等が竜と戦えると自信を持つ力は、……全て本来彼等が持っているモノでなく借り物の力。その借り物の力、と力を出す道具が無ければ彼等は一般人と変わらない。
その道具とは彼等か身に付けた武具。この武具は力を貸した存在から届けられた地上には存在しない特殊な素材で造られている。特殊な素材で造られた武具は現代の兵器ではキズ一つ付かない。それは装甲のない部分も含めた武具を装着した本人自身も加えてだ。例え戦争の真っ只中に入っても無傷で生還出来るだろう。
今までの認識で命どころか怪我をする心配も無かった。だから逃げた相手もバカに出来た。
命を掛ける覚悟のない彼等にとって武具は、自分達の身の安全を保証してくれる絶対の強度を持った都合の良い装備"だった"
なのにその武器が彼等の自身の源の武器が彼等が竜相手を攻撃し壊れる。
彼等はただ攻撃しただけで無惨に壊れた武器を見て……自分達の身を守る安全の絶対製が信じられなくなり、今更戦いとは相手と自分の命を掛けた文字通り命を掛けた戦いだと自覚した。
…竜との戦いを甘く見ていた彼等、少し前までただの学生だった彼等、たんにいきなり持たされた銃や権力、特別を持ち、調子に乗っただけの一般人とほぼ変わらない彼等……戦いを絶対安全なゲームと思い込んでいた彼等は……
「や、やばいじゃん!アキラの剣と私達の防具って同じ強度だよね!?あのデカイのが攻撃してきたら壊されて……し、死ぬって事だよね!」
「どうすんのよ!攻撃も効かないし攻撃したら武器が壊れるなんて!!」
「…折れる…私の剣も折れるかも知れないのか」
……意思や覚悟が無かった彼等は三人を除いて戦意を失う。
「ひ、退きましょう。元々私らだけでヤるなんて必要無いんだし!」
「他はもう逃げてるしね!」
「戦略的撤退ね」
「仕方ないか。あれが本格的に動き出す前に退こう」
「あ、おい!上手く飛べないササミ手を貸してくれ!」
彼等は三人を残し飛行が困難に成ったアキラを回収し慌てて逃げた。
「……見事に逃げたよ。ちょっかい掛けて逃げるって何考えてんだか。」
「……はぁ」
今まで戦力外だと自主的に後方で待機していた二人は呆れて逃げ去るのを見送る。
「あら?私は逃げてませんよ?家が近くですしね」
攻撃した組で一人残った巫女服の少女は二人の元へ赴く。
「…………姉さん?判ってたなら何で攻撃したの」
青髪の少女が巫女服の少女に冷たい目線付きで尋ねた。
「え、そのーだって……私達の家の近くだしね。直ぐに倒した方がいいかなーって」
巫女服の少女は微笑みながら答えた。額に見える汗は気のせいだろうか。
「うん、家の近くだよね?……此所で戦う気だったの?もし倒せても家に落ちるかもしれないね?」
巫女服の少女は微笑みながら目を逸らした。どうやら考えてなかったようだ。
「姉妹だったんですか。……姉妹喧嘩は後で頼みますよ…まだあの竜は居るんですから」
蚊帳の外で傍観していた野暮ったい少年は一段落付いたのを確認すると注意した。
「「ごめんなさい」」
二人は同時に謝る。
「…まぁあれだけ攻撃されて無反応な相手だと油断する気持ちは判るけど……」
「ホントねー。あれだけ攻撃して無反応なのよね~?…暴れられないのは有り難いけど、……私の最大級の攻撃が攻撃とも認識されてないのかしら?……あら?」
彼等は進む竜と一定の距離を取るように飛んでいる。
竜の移動の特徴に気付き巫女服の少女は困惑した様な声をあげた。
「どうしました先輩?」
「……そのね?さっきからあの竜ね。私達の方に着いてきて無いかなーーって……スゴい見られてるわよね?」
「……姉さんもそう思う?」
二人の同意見に野暮ったい少年も竜の視線の先を確認した。
「……私達というより……その、上渡さんを見てません?」
「リイちゃんを?そうにも……見えるかしら?ねぇ、リイちゃん移動してみて」
「……うん」
青髪の少女が恐る恐る右方向に移動すると…竜の進路が右に移動した。
「「「…………………………」」」
信じたくない青髪の少女は今度は左に移動した。……竜の進路はピッタリと青髪の少女を追っている。
「えーと、リイちゃん?えっと何かした?」
「……してないよ」
リイと呼ばれた青髪の少女は竜に狙われているという現実に怯え震えた声で答えた。
…巫女服の少女は逃げる事を考えず逆に離れていれば不安だろうと近付く。
「……姉さん危ないから来ないで」
「来ないで何て酷ーい。そんな酷い事言うリイちゃんの言う事聞いて上げない」
「……姉さん!」
二人は問答。まだ距離には余裕があると竜から目を逸らしてしまっていた。竜はその隙を窺ってたかの様に急加速!!
「危ない!」
その男の叫びをき少女二人が竜の方を向くと……見えたのは自分達に迫る巨大な生々しい生き物の中。もう逃げる時間は無い。
巫女服の少女は意味が有るとかそんな事を一切考えずにリイの身を抱き寄せ背に庇った。
「あ」
それは青髪の少女の抱き寄せられた瞬間に出た呟き……それが最後。
パク
……口が閉じ少女二人が竜の口の中に消え……
……竜はそのまま飛び去る。
残されたのは顔を青褪めさせた少年ただ一人。






