表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

引き籠り家から出てみました。

大幅に改装しました

メルソデル大陸にある小さな村落。


村の中を袋を担ぎ子犬の様に元気よく走る茶色の髪の少女、無邪気な楽し気な表情には犬の尻尾と犬の耳が幻視出来る……いや現実に犬耳が付いている。


「わわ!」

「おっとミミル、そんなに慌ててどうしたんだい?そんな荷物抱えて走ると危ないよ。」


家から出たばかりの恰幅の良いオバサン、その頭の上には少女と同じ犬耳、少女はぶつかりかけて慌てて止まる。


「えへへ、ごめんなさい」


おばさんは袋から飛び出た物を見て察しがついた。


「ああその袋、そうか袋の中身を売りに行商の所に行くんだろ」

「うん!そうだよおばさん!」


「ああ、やっぱりそうかい。今日は丁度その日だからそうだと思った。私も若い頃はミミルみたいに楽しんだよ。けど前は見なきゃダメだよ?」


「うん、おばさん。気を付けて走るね!」


「判ったらなら良いよ。さて、私も後から行くから先に行っといで」


「先に行ってるね!」


此処は穏やかなタイプの犬型と猫型の獣人がほぼ自給自足で暮らす平和な村。


人口40人未満。

イベントと言えば数ヵ月に一度だけ来る行商ぐらいと言うのどかな田舎の村。今日はそのイベントの日、行商が来ている。


大人は村で取れる特産品を子供たちは村の近くで薬草の原料になる植物等を集め、行商に売り品物を買う。



「どうだスゴいだろ」


村の中心にある井戸に集まり騒ぐ村人達、騒ぎは物騒なモノでなく祭りの様な興奮や愉しげな空気。

村人が囲ってるのは槍を持った筋肉質な中年。傍らには二メートルは有る獣、黒いイノシシに牙が付いた様な大きな獣。


「スゲェ!!これビクイグだろ!行商のオッサンが仕留めたのか!」

「ああ来る途中にこの槍で仕留めてやったんだぜ」

「スゲェ!!流石ランクCの冒険者!」

「ハハハ、元だがな。こんなの軽いさ」

「「スゲエエエエ!!!」」


筋肉質な中年を村人達はやんややんやと褒め称える。


ピグイグ、この近辺では二番目に強い魔物。


ビクイグは年に一度か二度村近辺に出没し、村人総出で何とか狩れる強敵、それを単独討伐なのだから凄いと思われるのは当然だろう。小さな村の村人には行商は勇者や英雄だ。


ただビクイグは一般人にしては強敵だが冒険者にとってはランクEの雑魚でしかない。駆け出しの冒険者でも狩れる筈で余り自慢は出来ない。


行商のモルトは何年も前に才能の面で冒険者を辞めた脱落者、一線から退いて腕は鈍り冒険者としたら強さは下から数えた方が早い。だから村人、特に子供達の無邪気な純粋な尊敬の視線に頬を緩める。モルトが世間知らずな村の子供相手に鼻高らかにどんなデカイのも槍で一突きだ!と気分よく話していると……


グラグラグラグラグラ!!!


ポムマム村を突如襲った大きな揺れ!地響き!

村人達は尻餅をついて騒いだ。


「な、なに!?地面が揺れてる!?」

「大地が怒っているのか!!」

「何だこの揺れは!?。普通の地震か?いや、だけど自然な揺れにしては揺れ方が可笑しい。火山の噴火……いやこの村の近くに火山はない。それにこの音はなんだ?」


初めての体験に村人がパニックとなる中、唯一冒険者、行商生活で色んな場所を回り知識が豊富なモルトは地面が揺れると言う現象が幾つか存在すると知っている。



その幾つかの中でこの一定間隔で来る地響きに地震に当てはまるのは……ランクS越えの大型の魔物の移動。


ランクSとは国さえ危ない怪物級の魔物。


「そんな……ま、まさか」


モルトは思い付き顔を青ざめさせどうか違ってくれと願う。

ランクSの三段階下のランクAの魔物ワイバーンを相手に現役時代死ぬ目にあったモルトにとって、ランクSなど勝ち目以前の問題だ。



だが地響きの正体はモルトが予測したのとは違い……モルトが想定した事態より……


…遥かに悪かった。


「ね、ねぇ!?何か来る!なにか来るよ!!ブネエ湖が有る方から山が来てる!!」


悲鳴の様に叫んだのはミミル。


「や、山って何を言って……」


モルト、村人達は東に有るがブネエ湖方面を見て絶句する。


モルトは見た。巨大な黒い山が動いているのを…以前手も足も出せず勝てなかったワイバーンは愚か…ランクSをも遥かに越えた化物を…モルトは知っているその化け物が何なのか…村人達も知っているその化け物の恐ろしさを……。


…やって来る山の様な巨大な化け物。


その姿はメルソデル大陸の誰もが…お伽噺として知っている最強の怪物…


それは大地の崩壊と共に現れる終わりをもたらす破滅の竜。


身を覆う黒鉄の鱗は伝説の剣をもっても傷付けられない


身の丈は天まで届く山と見間ごう、


息吹は灼熱であり極寒


咆哮は破壊の神の声、


歩みは大地を壊し怒りは星を消す、


その存在に触れること無かれあれは神さえ恐れる化物なのだから。


ランクSの三段階上の禁断指定の魔物。お伽噺では世界を滅ぼす化物……ただ一体で魔王の軍勢と同格とされる怪物……


…その名は…


「………………ルインの竜ゼルラークス」


誰かが呟いたその一言に……


「「「ギャアアアアアア!!!!」」」


先程まで英雄扱いだったモルトを含めた平穏な村に轟く悲鳴。


彼等の村の東にはルインの竜の寝床があり何時か破滅が来ると語り継がれてきた……その破滅が現れた


逃げようと慌てる大人達、泣きじゃくる子供、神に祈る老人、恐怖に負け失神したモルト…破滅が村に向かって……

 

「あれ?戻ってる?」


……こない。気付いたのはミミルただ一人。


……破滅は何故か戻っていく。


ただ気付くまでの五分間、村は混沌としたままだった。












ポムマム村から離れた場所。


山に腰掛け項垂れため息を吐く最強の竜。吐いた息が突風となり下の森を揺らす。森からギャアギャアと飛び立つ小鳥……いや最低一メートルはある百近い鳥型魔物の群れ。あれは魔鳥バーグズの群れ。

攻撃されればどんな相手であろうと戦いを挑む鳥頭な魔鳥。

バーグズは竜の顔の側まで飛んでいき……無意識にバクバクと食べられた。生態系がピンチなレベルで無意識にパクパク。





ゲプッ…



あー…暫くぶりの外出…外の空気を吸ってフと気付いたのよ。


…外出してから少しして気付いたのよ。


…マトモな…会話を…1000年以上してない。


うん、気付くと人と話したくなるもんだよね。


因みに過去の一応会話らしいモノと言えば……


何百年も前に何か白ぽいのと黒っぽい変な虫の集団が、従えとか偉そうに言ってきたから断ると言ったぐらい。あとは一方的に勝負だとか?シネェトカ?


あんなん会話ちゃうよね!!


てことはだよ……産まれて1000年以上一度も会話のキャッチボール一つもなし!!


これに気付いたら会話とかしたくなるに決まってるのよ!!


会話に飢えてる。気付くと無償に会話したくなって来るのは当たり前だよね!


なので文化的な交流しようと人を探してようやく見付けた村に姿見せたら悲鳴だよ。あの反応はヒデーのよ。 スゴい傷ついた外見で差別はアカンで……アカンのよ。



…やっぱりこの身体で小さい人と交流とか無理なのかね。

じゃあ同じくデカイのとの会話とか思い付くけど……サイズ的に自分と比肩するデカイのと会話は……更に通じない。

実体験だけどホント問答無用で襲ってくる。思い出すと腹立つ。同じ竜とか巨人とか変な玉みたいなのとか問答無用で襲ってきやがって…時々徒党も組んで!…


やっぱデカイのもアカンね!


はぁぁー、デカイのも小さいのもダメ。


千年以上この身体を使った結論。



こんなデカくて強い身体なんて普通に生活する分にはすごい邪魔。 


普通に考えてや、百メーターの巨大怪獣が日常生活とかスゴい難しいやん。


食事、前は唐揚げとか好きだった……材料がないオマケに料理なんて出来ないから最高で岩塩を砕いて付けたワイルドな火炙りの肉。

趣味、前は模型作りが好きだった……物造りなんて材料の段階で無理、岩を積み上げる位しか出来ない。

娯楽、前は本を読むのが好きだった……本とかその手のモノとか絶対見えへん。

お風呂、サイズ的に豪快に湖沸騰させて入るぐらいしか手段なし……耐久度的にマグマでもいけるけど気分的に嫌。


ホント!…昔懐かしい…人の身体の便利さよ。


人の身体が恋しーよー。一万年と二千……じゃなくて1200年ぶりに人の身体使いてーよー。


無理だよねー……あれ?無理だっけ?


竜の王道の人化って無かったけ?


変身魔法、魔法なんて大体やりたいと思えば一発成功してたのに出来なかったっけ?


確かだいぶ昔に一度だけ成功してたような?………あれ?じゃあなんで……今までヤらなかったん?


…………………思い出せない?何かとんでもないショックな事が起きたかな?……思い出せない?人化に成功した記憶しかない?え?記憶力結構良いのに?868年前に流れ星落ちたとか細かい事覚えてるのに?まさか……思い出すの脳が拒否?


けど出来たんだよな?何となく嫌な予感はするけど……怪我とか後遺症があったみたいな記憶も無いし……うん…………やってみるかな。


変身!!


身体がピカピカ光って縮んでく。ドンドコ縮んでく。

うん?成功してる感じだ。


おお手が人の手に……細くて真っ白い人の手に……随分と弱そうな腕だな?



筋肉とか欠片も無さそう。ぬう、無駄にプニプニしたけしからんお肌をしやがって



足とかも筋肉が無さ…………ない!?


え、ない!?マジでない!?


そ、そんな!?


ホントない!?


無い!?


ツルツル!?


無い!?どこ行った!?


私の!私の!息子はどこ行った!? 



どこ行ったああああ!!!


あ、あああ、ま、マイサァァアアアアアン!!!!


踏み荒らされた森の中、全裸の幼い"少女"の魂の慟哭。

未使用のまま逝ってしまった息子への哀悼の叫び。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ