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バリア

作者: 木村 恭

その娘を気にし始めたのは些細なきっかけだった。


もともと彼女は大学で非常に異彩を放っていた。

いつも和服に身を包み、目立っていることなんてお構いなしに凛としてた。


だから知らない人はいないだろう。




それに見てしまったのだ、本当の彼女を。


濡れ羽色の長い髪を後ろへ流し、銀色の縁の眼鏡の奥は涼やかな一重。

平安時代を匂わせるびんそぎは和服によく合う。

まるでどこか別の時代から来たように見える彼女には


「真面目」「清楚」「近付きがたい」


そんな言葉が似合う女No.1だと思う。


しかし俺は見た。

ふわりと風に舞った髪の下、その耳にはおびただしい数のピアスの穴があった。

ピアスが刺されていたわけではないから確かではないかもしれない。

でも俺も開けているからわかる。

あれはきっとピアスを刺す穴だ。


彼女のイメージとはかけ離れたそれらに度肝を抜かれた。


大和撫子というに相応しい彼女の闇を見た気がして、興味を持たないわけがない。

そんな訳で俺の付きまとい作戦が開始された。



「ここ、座ってもいーい?」


食堂で弁当を食べている横に返事を待たず座ると、ミニサイズの重箱の弁当をただ黙々と食べていた彼女は少し眼を丸くした。


(あ…、可愛い)


間近で見る彼女は思ったより美人だった。

というより俺のタイプどんぴしゃ。


「僕はねー、1年の牧村渉。よろしくねー?」


ここで悩殺スマイル!

大抵の人はこれで即、友達になれる。


「…大変そうね」


一瞬訳がわからなかった。

首を傾げた俺に、強烈な一言をふっかけてきやがった。


「その偽笑顔。

いつもはり付けておくのは大変でしょう」


今度は俺の瞳がまん丸くなる番。


「猫みたいね、顔だけ。

もっと自由に生きればいいのに」


そうしてまた弁当へと視線を戻す。


思い出した。

誰かが言っていた。


”片瀬紗綾は見かけによらず毒を吐く”


本当だったのか。


「あははは。

いいねえー片瀬、僕ますます気に入っちゃったー」


この笑顔には嘘偽りはない。

ま、片瀬にはお見通しだろうということはなんとなくわかっていた。


「変な人」










いつだったか、大分仲良くなってきた頃に訊ねたことがある。


「紗綾はさー、どうして和服着てるのー?」


「好きなのよ、和装。

それにこの格好していれば近づく人は少ないでしょう」


なるほど。


「でもさでもさー、紗綾ならそのオーラで誰も近寄らないんじゃなーいー?」


さらさらと髪を撫でていると突然、胸に顔をうずめてきた。

ち…近い。


「……高校までって必ず制服じゃない。

色々あったのよ」


そう言う彼女は何かに耐えているようで、怯えているようで。


「そっか…。

でもだーいじょうーぶだいじょうーぶ。

今はこの渉様がついてるからねー」


ぎゅっと包み込んで頭に口づけを送ると少しばかり面を上げて、微笑みながらキスを返してくれた。


彼女が乱れているとき以外でこのような行為をすることは無いに等しい。

だからその、ね?わかるよね?


「あれ、顔赤いよ」


「うるせーっ」







「見た目で威嚇してる人で、本当に怖い人は少ないんだよ」


その言葉が刺さった。

それはもうぐっさりと。



抜けた色は俺の周りにバリアをはり、開けた痛みの分だけ強くなれる。

人懐っこさも上辺だけなのを周りはわかっていないだろう。



彼女は俺と似ている。

それが吉と出るか凶と出るか、今はまだわからない。


※びんそぎ 

 女子が成人に達したしるしに,垂れ髪の鬢の毛を切りそぐこと。近世は普通一六歳の6月16日に行う。男子の元服にあたる。婚約者か,婚約者がいない場合は父兄が切った。


今風で言えば姫カットとか、そんなかんじの髪型と勝手に認識してます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 片瀬さんのキャラが可愛くて良いですね! [一言] 私も変わった小説を書いてるので良かったら見て感想などよろしくお願いいたします
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