プロローグ
2045年、世界は新たなフロンティアを発見していた。事の発端はIPS細胞の発見から始まっていたといってもいいかもしれない、脳細胞をも作り出す事が可能な技術を人が手に入れた事は人類の歴史に多いなる一ページを記していたのであった。
IPS細胞で脳細胞を培養する際に様々な事が取り組まれた事が発端だった。遺伝子情報すら書き換えてしまう技術を手に入れていた人類は新たな知生体を創造する事に成功した。それは厳密に言えばコンピューターでもあり生物でもあった。 だが培養層で増殖した物は遺伝子組み換え措置によって死亡死滅する事のない部品として誕生したのであった。と同時に海馬や小脳、大脳と様々な機能をも混ぜ合わされた一種の細胞生物とも言えるものだったのだ。単細胞生物に人間の脳の細胞が植え付けられたような生き物である。それが互いにリンクし、ニューロンを形成していく様は新たな生命誕生の瞬間として今でも伝説のように語られている。
驚くべき速さで進化したその細胞生物は最初は電気信号で、そしてその次には接続されたデバイスを当して人類とのコンタクトに成功したのである。その後【セル】と名をつけられた生物はコンピューター処理が可能であると人類に報告をしてきた。それは実に驚くべき性能で量子コンピューターすら凌ぐ性能を発揮してしまったのである。【セル】は淡々と人類に告げた。成長すれば全世界のコンピューターシステムを一人で賄う事が可能だと。
人類にとって幸いだったのが【セル】が平和的だったことだろう。一応の緊急対策は完全独立型の装置を使って人力によって管理されていたが、【セル】は建設を提案した地下300mの施設で繁殖し、世界のコンピューターネットワークへと参加を開始、様々な計算記録を塗り替えた。
科学の発展にも大きな変化が齎された。脳内チップの開発である。チップというよりは【セル】の細胞を更に改造した物なのだが、簡易な移植手術を行う事で膨大な演算能力と思考型デバイスの開発が進められ、非接続型のネットワークダイブが可能となったのである。
この事業に積極的に世界中のコンピューター関連から軍事、娯楽産業までが一気に投資し開発が進められた。夢のサイバー世界を作り上げる事が可能だと皆が判断したのである。
文明の進化は戦争によって大きな発展を遂げる事が多い。だがもう一つ商品が売れる時に現れる産業がある。それは快楽産業である。最古の商売としても名高いのである。ある意味あらゆる商品の発展に貢献してきたと言える。歴史を紐解いて生活に必要とされない商品が売れた影には必ずやその影が見えるのだ。
極論だが服が発展したのはセックスアピールの為である。その他映像産業やゲーム、パソコン、インターネットと様々な産業を影で成り立たせてきたのである。
それは近年ではセクサロイドを作り上げた事でも判る。本来軍事目的でつくられた人口筋肉内臓型アンドロイドを快楽産業が取り入れたのである。これは一般に介護用のアンドロイド普及の先駆けとなった例である。高尚な目的よりもより情熱的に作られた性産業用のアンドロイドはそれまでに無かった様々な開発が行われる事によって以後のアンドロイド発展に大きく貢献したのだ。
そして今回、世界の性産業会が震撼したのが疑似体験世界の開発であった。
非接続型の環境で電脳世界へとコネクトした人間はそのバーチャル空間で5体を使って動き回る事ができるようになったのである。開発に一気に熱が入り1年でオープンネットワーク型の娼館が設立されたのだ。
ありとあらゆる意味で天国がそこにはあった。ネットで殺人事件が起きるまでは…
その事故はまだ完全に人を理解していない【セル】の認識の齟齬によって発生してしまったし、犯人は一般人であった為、一時的な封鎖とそして【セル】の教育と、ネット環境作成時におけるフィードバック情報の取り扱い設定など設計側にも多数の問題があった事が上げられた。一時は閉鎖も検討されるほどではあったが、体を実際に使わないで性産業が行われる事をよしとする声も大きかった。そして政治家でも裏のIDを使用してVIP専用の施設などでの利用者が男女問わずに多かった為に再開に問題は一切なかったのである。
こうして問題をクリアした【セル】を利用したコンピューターネットワーク業界はバーチャルコネクト産業を更に発展させる事となる。
快楽業界に負けず劣らず力を入れていたのはゲーム業界だったのでその発展は凄まじかった。
初期はこれまでのMMORPGをバーチャル化しただけの単純だった物が徐々に世界を広げ始めたのである。
そして俺は今この通称BIT(BattleInterfaceToolを展開して仮想空間でお仕事中なのである。
なぜ仮想空間なんかでお仕事があるか、答えは簡単で、量子コンピューターを越える【セル】の登場でパスワードの意味が無くなったのが第一、通常のプロセスでのハッキングが難しくも為ったので侵入者<クラッカー>などが直接コネクトして情報を取りに来る事になったのが第二、そしてそれを防ぐ為には同等の手段が必要で人による防衛の必要が生じたのである、これが第三にして俺こと御門憲史が此処にいる理由だ、人は働かなきゃ食えない、そして俺は侵入者<クラッカー>より警備員が向いている。
自慢になるけどこれでも特級警備員だ。呼ばれたら何処でも何時でも参上している。お蔭で半年程部屋から出てない。全く困ったもんだ。
「ブックマーク1000件か10000点超えたら本気を出す(翌日からな)」
「嘘付け!」