古参と新人
今回も前回に引き続き<黒剣騎士団>幹部のメイン職&種族捏造です。ままれ先生に怒られませんように・・・。自分で書いててなんですが、MMORPGでどうやってくじ引きするんだよ?
老舗MMORPG<エルダー・テイル>日本サー バーにおいてLV85以下入団お断りのエリート主義で知られる戦闘ギルド<黒剣騎士団>大規模戦闘コンテンツ『ラダマンテュスの王座』を世界最速で攻略し、日本サーバーでは知らぬ者も居ない有名ギルド。一時期の入団希望者殺到も落ち着き始めた頃のお話。
アキバからそう遠くない高レベル帯のモンスターの多い上級者向けの狩場。<黒剣騎士団>のギルドタグを付けた、狼牙族の<神祇官>と猫人族の<武士>がモンスターを狩りつつ会話をしていた。
「八姐さんが戦闘訓練担当の時はなんつーか場が和むから覚え易いつーか、楽しいつーか、何とも云えない雰囲気があって好きなんだけどさぁ・・・」
何とも情けない声で泣き言を云う鋭い目つきの猫人族の<武士>昨日のわんこ、彼もここ最近入団したばかりの新人である。
彼が泣き言を云うのも無理はない。<黒剣騎士団>には一応組織図的な物は有るには有るのだがあくまで『その場のノリ』で作られたような物で日本サーバー最大手戦闘ギルド<D.D.D>のように完全に組織化され『教導部隊』など各部門がある訳ではない。なので<黒剣騎士団>の場合、新人指導の戦闘訓練は古参メンバーがクジ引きやジャンケンなどその場で指導引率組を決めるというアバウトな方針の為、指導する人員に当たりハズレが発生する。古参メンバーからも『姉御』『八姐さん』と慕われる伊庭八郎やギルド一番の常識人レザリックやウッドストック、副総長ドン・マスディなどは新人からすると『当たり』であるが、ギルドマスター“黒剣”のアイザックや特攻隊長“雷神”フリード、親衛隊長ゼッカ=イーグルなどは『ハズレ』である。コレは個人の資質に依るものも大きいので仕方ないと云えば仕方ない。
「あぁ~・・・それは分かる気がするけど、ギルマスの教え方はアレ『見て覚えろ!身体で覚えろ!』な教え方だよね・・・多分。本当にハズレはフリードさんとゼッカさんかなぁ・・・だって・・・」
「俺とフリードが、な・ん・だっ・て?義盛~?」
会話に夢中になり全く気が付かなかったが、義盛とわんこの後ろに厳つい金属鎧を纏いハルバートを装備したエルフの<施療神官>親衛隊長ゼッカ=イーグルが仁王立ちしている。
「「えっ?」」
義盛の中の人も昨日のわんこの中の人もPCの前で言葉が詰まり冷や汗を滝の如く流す。全く持って油断していた。
「いや、そのゼッカさんはかっこいいな~憧れるなぁ~・・・って、もう話聞かれてたんですよね・・・。」
義盛がおどおどしながら聞き返す・・・。
「おう!最初の方から聞いてた!自慢じゃねーが、俺もフリードもボスも教えるのが下手だ!文句あるか!」
怒鳴られると思い覚悟を決めていた2人に予想外の居直り発言が飛び、その場で絶句しモンスターの攻撃をモロに受けてしまう。
「馬鹿!戦闘中に手ぇ止めるな!とりあえずモンスター始末するぞ!お前らの言い分聞くのは後だ!」
ゼッカのハルバートがモンスター共を蹴散らす。
■ ■ ■ ■ ■ ■
「まぁ、お前らの不満も、もっともだ!もう一度ハッキリ云うが俺もボスもフリードも人にモノを教えるガラじゃねーしな。」
完全に居直って威張っているゼッカだが、新人2人を咎めるつもりは無いらしい。しかし、陰口を云った後ろめたさからゼッカの前で直立不動で
「「すみませんでした!」」
を連呼する。
「あ~もう気にするな!なんか俺が新人イジメしてるみてーじゃねーか?辞めろよ~?俺が泣いちゃうよ?」
おどけて可笑しな言動をするゼッカだが、全く持って全スルーである。スルーされた挙げ句、更に新人の『すみませんでした!』コールのボリュームは上がる一方だ、困り果てたゼッカは一旦諦めてフレンドリストを検索し『念話』をはじめた。
暫くして赤髪ポニーテールの女<武士>が現れ新人2人に『ハリセン』で<兜割り>をお見舞いする。
『スパーン!!』『スパーン!!』
「あんたら落ち着け!」
「「八姐さん!」」
やっと我に返った新人2人。
「姉御~、俺さぁそんなに怖いか?こいつらのリアクション見てると凹むんだけど・・・。」
完全に心折れ、げんなりした声を発するゼッカ、親衛隊長の面目もクソもあったものではない。見かねた八郎が口を開く。
「はいはい、ゼッカは凹まないの!義盛にわんこ、世間様は<黒剣騎士団>をエリート主義なんて云うけど、私らにそんな主義主張はないの!ただの高難易度コンテンツジャンキーの集まりなの!一応型だけの組織図はあるけど、あくまでもそれは『型』だけ!只々、難解なダンジョンを潜り抜けて馬鹿みたいに強い大規模戦闘モンスターやっつけて!俺達が誰よりも速く制覇したぞ!スゲーだろう!!って威張りたいだけの集団なの!分かる?」
「「はあ・・・。」」
「ん~?その返事は分かってないね!こないだ戦闘訓練の時、云った事と矛盾するけどねぇ平たく云えば、<黒剣騎士団>に入ったら上も下もないの!大規模戦闘に着いてこれるだけの実力が在れば問題ないの!・・・古参メンバーや幹部に対しての礼儀とか敬意は最低限だけもってりゃいいの!」
・・・本当に身も蓋もない云いようではあるが、これが<黒剣騎士団>なのだ、LV85以下お断りなどと云うがそれは、それ以下だと大規模戦闘に着いて来れないからだ。<D.D.D>や<ホネスティ>のように巨大で明確な組織化をされているギルドならば低レベルのプレイヤーを育成も出来るだろう。しかし、<黒剣騎士団>は<D.D.D>の1/10程度の人員しか居ない中小ギルドで明確な組織化などしていない。新人育成の為の部門もない(寧ろ皆が面倒臭がってやりたがらない)だから初めから大規模戦闘に対応出来るだけのLVに達したプレイヤーしか募らないのだ。
「・・・義盛はなんか『エリート主義』ってのに憧れてたみたいだけど?今の話で幻滅した?わんこも呆れたかい?」
八郎が寂し気に2人に質問する。暫く返事は返って来なかったが義盛が涙声で最初に返事を返す。
「確かに私は『エリート主義』に憧れてました。入団テスト合格した時は嬉しかったです。反面、幹部の人達のガラの悪い言動に閉口も幻滅もしました!でも・・・、でも、戦闘く・・・ウェェ、訓練の時の・・ウェェ姐さんの言葉とか、ギルマスの普段の・・・ウェェ~ン!」
「馬鹿!義盛、男が泣くなよ!俺はゼッカさんや総団長はエリート意識が強くて新人を見下してると思ってました!」
チョイと不貞腐れ気味にではあるが昨日のわんこのそれも本音だろう。
「あ~もう、なんか今度は私が悪役っぽいな・・・、義盛は泣き止め!わんこはそう思ってたか、アイザックやゼッカ達は教え方が下手な上にぶっきらぼうだから勘違いされるけど、見下してるんじゃなの。そこは誤解しないでやってアイザックは無神経だから論外!、ゼッカやフリード達はアレはアレで馬鹿なりに毎回気にしてるんだよ?」
八郎が云うとフォローしてるのか貶してるのか分からなくなるが、それでも言葉を続ける。
「前にも云ったけど、私らはもう<黒剣騎士団>のメンバーで『仲間』なの!云いたい事は面と向かっていいな、腹割って話せば分かるから!誰もあんたらを見下してなんかないよ?ただ不器用なのが・・・多過ぎなのよねぇ・・・、今までもこんな事あったわ・・・、その度にレザリックやウッドストックが頭抱えてたわ。」
最後は今までにも在った新人と古参のすれ違いを思い出しげんなりして無言になる八郎。
「・・・姉御ぉ~結局、俺も悪いモノじゃん!そうだ!全てはボスが馬鹿だから悪いって事でいいんじゃねーの?」
「あ~私、賛成するわ・・・」
「ぞ・・・れ・・・でウェェいいん・・・エッグ・・・でずが・・・?」
「いいんですか?八姐?ゼッカさん?」
未だに泣き止まない義盛と半信半疑なわんこ。
「「(私)(俺)らが許す!元凶はバカザック!!分かったら返事!」」
「・・・はい・・・エッグ・・・」
「押忍!」
この後、今回の話は義盛、わんこの口から他の新人達にも広がり古参メンバーへのわだかまりはなくなったが、『何かギルドで不都合が在ればそれは全て総団長のアイザックが悪い』という暗黙の了解が後々まで語り継がれる事となる。
本来は次話の導入部分だった話が大きくなって1話分になったという本末転倒なお話です。捏造のオンパレードです・・・昨日のわんこさん、古参だったらどうしましょう??ごめんなさい。