入団試験~case1義盛くんの場合その3~
「旦那、珍しく苦戦してたなぁ。」
興奮冷めやらぬアイザックがリチョウに声を掛ける。
「ったく、なんで俺がお前の処の入団試験に駆り出されにゃならん!」
呆れた口調でリチョウが言葉を返す。
「なんでぇ、バレてたのかよ。」
「当たり前だ!お前は馬鹿だし、レザリックは真面目過ぎてこの手の悪戯は思い付か無ぇどうせ、八郎の悪知恵だろう?違うか?」
アイザックもレザリックも反論出来ない、否!アイザックは『馬鹿』の一点だけは反論したかったが、それ以外は反論の余地もなかったので辞めた。
「リチョウさんは何時、気が付かれたのですか?」
レザリックが問う。
「あ~、あの義盛って兄ちゃんが俺見た時の反応で気が付いた。」
そう気が付いていて敢えてこの茶番に付き合ってくれていたのだ。
「じゃあ、旦那は手加減してあの兄ちゃんと勝負したのかよ?」
怪訝そうにアイザックが尋ねる。
「馬鹿か!あれが、手加減してるように見えたか?こっちは最初から本気だよ。PVPであんなに追い詰められたのなんて何時以来だ?」
今まで、クラスティに喧嘩を売りに来たプレイヤーの全てを人知れず返り討ちにしてきた、しかしリチョウがこれほど苦戦した相手は数えるほどしか居ない。
「アイザック!あの兄ちゃん、不合格にするなら<D.D.D>に勧誘してもいいか?」
「ふざけるな!合格に決まってるだろ!誰が<D.D.D>なんかにくれてやるか!大体、手前の処は頭数多いんだから要らねーだろ!」
「そうかい、じゃあ伝えといてくれ。気が変わったら<D.D.D>に来いってな!あと、八郎に伝えとけ!悪戯するのに余所のギルドの人間巻き込むな!次やったら承知しねぇぞ!絶対伝えとけよ!」
忌々し気に言葉を吐き捨て退出するリチョウ。
~~~~所変わって大神殿前~~~~
大神殿から抜け殻の如くフラフラと出てくる義盛。PCのモニター前でも抜け殻の如く天井を見上げて呆ける中の人…。格上との心踊るような対戦は負けはしたが楽しかった、だが『負け』即ち<黒剣騎士団>入団テスト不合格なのだ、負けた事よりも憧れのギルドに入団出来ないと云う現実に泣きそうになる。
そんな時、不意に話掛けられる。
「あんたがウチに入団テスト受けに来た義盛って云う坊や?」
慌てて中の人が画面に目を向けると、義盛の前に<黒剣騎士団>のギルドタグを付けた女性<武士>のアバターが立って居る。
「合格おめでとうさん。私は<黒剣騎士団>の伊庭八郎、ギルド登録する為にあんた迎えに来たよ。あと、私の事は八郎でも姐さんでも好きなように呼んでおくれ。いやぁ~、アイザックのヤツが『面白いのが入団テスト受けに来た』って云うから気になって、気になって、別の入団テストに同行してたんだけど、あとはウッドストックに任せて先に帰って来ちゃたよ!帰って来るなりアイザックの野郎が『さっきのヤツ合格だから迎えに行ってこい。』だって!何様のつもりかね?あの馬鹿は!・・・ってギルマス様か!さぁギルド会館に登録に行くよ?」
問答無用のマシンガントークで話を進める八郎。
「・・・へ?」
義盛は全く状況が飲み込めない、確かテストはリチョウを倒せば合格だった筈だ。しかし、自分は負けて大神殿送りになった。なのに目の前の女<武士>は『合格おめでとう』という、全く意味が分からない。
「・・・あの~伊庭八郎さん・・・云ってる事が理解出来ないのですが?合格って・・・どういう事でしょう?!」
聞き返す義盛よりも怪訝そうに八郎は返す。
「ん?あんたが馬鹿なのそれとも連絡の不備?アイザックにもレザリックにもギルドチャットで“リチョウのHPを半分まで削れば合格”って云っておいたんだけど・・・?」
「・・・え?」
言葉を失う義盛、どうもアイザックに騙されたらしい。何となく察した八郎が口を開く。
「あのバカ、リチョウに勝ったら合格って云ったみたいだね?ごめんね~。半分は面白がってだけど、半分はあんたの本気を観たくて云ったんだと思うんだ、だから許してやってよ。」
「・・・した・・・ね。」
「なに?」
「・・・私、合格したんですね!」
騙された事など、義盛にはどうでもよかった、『合格』した事、憧れの<黒剣騎士団>に入れるのが嬉しくて仕方なかった。中の人はマイクをオフにしてPCの前で嬉し泣きした。
そう!これより始まるのだ。義盛の憧れとはほど遠い、地獄のように騒がしく慌ただしい、それでいて面白可笑しい日々が。
■ ■ ■
余談ではあるが後日、義盛がリチョウに今回の件の礼を述べるため?と非礼を詫びるため?(義盛がそんな事をする理由は無いのだが、要は義盛なりのケジメらしい)<D.D.D>のギルドキャッスルに赴くのだがその時、何がどうしてそうなったのか“<黒剣騎士団>の新入りが殴り込みに来た”という誤解を受け大変な目に遭ったとか、遭わなかったとか・・・。