入団試験~case1義盛くんの場合その2~
前回のあらすじ
最近エリート主義を売りに頭角を表した<黒剣組>に入門すべく門を叩いた義盛くん。悪逆非道そうな見た目の真っ黒組長アイザックは義盛くんを鉄砲玉にするべく敵対関係にある<D.D.D組>古参幹部リチョウの命殺って来いと唆す。哀れ義盛くんの運命や如何に!(BGMは仁義無き戦いのテーマで)※嘘あらすじに注意!
<D.D.D>日本サーバーにおいて最大手の戦闘ギルドその最古参のメンバーである猫人族の<武闘家>リチョウ。一般にはギルドマスターのクラスティや三羽烏と呼ばれる最高幹部に比べると知名度は低いのだが、PVPをメインでやっている連中の間では“超”が付く程の有名人だったりする。
エルダー・テイルに関わらず、どんなゲームでも『最強』の二文字を欲する輩は居る。老舗MMORPG<エルダー・テイル>でもそれは例外ではなかった 、それがプレイヤー単位なのかPT単位なのかギルド単位なのか、個々によって理由も単位も様々ではあるがPVPを主体に楽しむプレイヤーにとっては『1対1』の対戦で最も強い者=『最強』という図式になるようだ。しかし、エルダー・テイル日本サーバーにおいて『最強』のプレイヤーと噂されるのは最大手戦闘ギルド<D.D.D>のギルドマスター“狂戦士”クラスティなのである。『PVPプレイヤー最強説』を唱える者達にとってそれは許されない噂である。“我こそは『最強』プレイヤー”を自負する者達は挙ってクラスティに闘いを挑むのだがその全てがクラスティに一矢報いるどころか姿を見る事すら叶わず、リチョウに屠られるのだった。そんな彼をPVPプレイヤー達は畏怖と畏敬の念を込めてこう呼んでいる。“曰わく”<D.D.D>の番人“曰わく”<D.D.D>の人喰い虎と・・・。
<黒剣騎士団>ギルドマスター執務室
今、義盛の前に立つ猫人族の<武闘家>リチョウが今にも噛み付かんばかりに吠える。
「小僧!ウチの大将の首が欲しけりゃ、先ずは俺を倒してみやがれ!」
(えぇ~!何で<D.D.D>の人喰い虎が出てくるの?!しかも<D.D.D>のギルマスの首ってどういう事ですか~!?)
一度は冷静になった義盛に更なる混乱が襲ってくる。
「リチョウの旦那ぁ、このゾーンは戦闘行為許可してある。兄ちゃん!そういう訳だ、クラスティの首獲る前に、この旦那を倒せって事で!頑張れよっ!」
愉しげに声を掛けるアイザック、その横で何故か終始無言のレザリック。義盛の混乱を余所にリチョウの<ワイバーンキック>が義盛に直撃する。
「どうした小僧?もう戦闘は始まってるぞ?」
モニター上部に◇戦闘中◇の赤い文字が表示され、やっと我に返った義盛は急速に頭の中を戦闘モードに切り替える。
(グダグダ考えても始まらない兎に角、目の前の敵を倒す事を優先。)
義盛のアバターに狼牙族の特徴、狼耳と尻尾が現れる。
<雲雀の凶祓い>で一気に間合いを詰めて一閃。義盛の一撃はリチョウに直撃した。
「「「なっ!?」」」
義盛以外の3人は今起きた事態が把握出来なかった。一番困惑しているのは攻撃を受けたリチョウだ。
本来、大太刀や両手斧などの長大で重量のある武器を使う場合、打刀や剣などよりも取り回しが悪く攻撃スピードが落ちるのだが、義盛の攻撃スピードは明らかに打刀などと同等の速さだったのだ。<無影脚>で迎撃するつもりだったリチョウからすれば完全にタイミングを狂わされた形になる。
虚を突かれたリチョウは態勢を建て直すのに手間取り2、3太刀浴びるが<ワイバーンキック>で反撃しつつ間合いを取り直す。
(何だ?今の攻撃・・・<神祇官>の特技に武器の重量無効化する特技なんかあったか?)
「兄ちゃん、今の大太刀の攻撃スピード、一体なんの手品だ?」
「リチョウさん、手品師が手品の最中に種や仕掛けを教えてくれるワケないでしょ?」
2人とも実に愉しげに会話をする、否、この戦闘が恋人同士の営みの如く愉しくて愉しくて仕方ないのだ。
「確かに、そうだ!!」
間髪入れず<オーラセイバー>を放つが<禊ぎの障壁>に阻まれる。
(さて、どうしたもんか・・・間合いを取っちゃいるが<剣の神呪>がくればこんな間合い意味も無え、となると間合いを詰めてコンボに持っていくか!)
一気に間合いを詰め弾幕を張るかの如く攻撃を仕掛けるリチョウ、<禊ぎの障壁>はあっと云う間に砕け散ったが、それでも真正面から斬り合う義盛。2人のHPは徐々に削られていくが矢張り、本来のHPの高さや攻撃力の高さで<武闘家>のリチョウに分がある。それでも一歩も退かず義盛は特技を発動する <三方御饌の神呪><神祇官>屈指の必殺魔法。一度使うと24時間使えない上に相手にかなり接近しなければ使えない特技だ。
「そう来るか!だが予想済みだ!」
リチョウは、それを見越して居たかのように<ファントムステップ>でかわし、義盛の斜め後ろに回り込む!
「残念!避けられるのは承知の上!」
義盛は <討伐の加護>とサブ職<狂戦士>の特技<ルナティック・アーマー>を矢継ぎ早に発動し斜め後ろに回り込んだリチョウに凶悪な一撃を叩き込んだ。
「おいおい・・・、サブ職<狂戦士>かよ、とことん戦闘特化型か・・・、本当に勝っちまいそうな勢いだな・・・。」
予想外の状況に唖然とするアイザック。
「まさか、ここまでやるとは私も思いませんでした・・・。」
やはり、レザリックにとっても予想外の展開のようだ。
だが、勝敗は決していない。一太刀目、二太刀目まではリチョウの身体を斬り刻んだが、三太刀目から義盛を嘲笑うかのように攻撃を回避するリチョウ、 <討伐の加護><ルナティック・アーマー>の効果も切れ <三方御饌の神呪>のダメージ遮断効果も切れた時、リチョウによる怒涛の反撃が始まる。
「お前さんの太刀筋は見切った!」
<タイガーエコーフィスト>からの <オリオンディレイブロウ>トドメの<ワイバーンキック>で勝負は着いた・・・。
「勝負ありですね。」
レザリックの呟きが義盛の耳に響く・・・。
(あ・・・私、負けたんだ・・・不合格なんだ・・・悔しいな・・・。)
義盛はその場に倒れ消えた。
ーキャラクター紹介ー
義盛LV90 メイン職<神祇官>サブ職<狂戦士>狼牙族
本作の主人公。キャラクター名からも分かるように日本史好き。メイン職が<神祇官>なのに僧兵装備という、知らない人からも「その装備ならメイン職<武士>でサブ職<僧兵>だろう!」「僧兵装備なのに何故武器が薙刀じゃない」等とツッコミを入れられる残念さん。本人は『和風の魔法剣士』のつもりでキャラクターを作ったのでツッコミが入る度に凹む。大艦巨砲主義、先手必勝のプレイスタイルの為、極度の攻撃偏重型に見えがちだが<神祇官>(回復役)としての腕もそれなり。緊張しいで戦闘以外では常にテンパってる。(入団テスト当時)なおポリシーとしてPVPでは障壁と回復呪文は使わないという縛りで毎回、公式、非公式大会に臨んでいた。
[アイテム紹介]
鎌鼬の手甲
製作アイテム、防御力よりも使用する武器の重さを軽減するのが特徴。<武士>がこの手甲を装備し、打刀を使えば<盗剣士>バリの剣速も出せる代物。