あの人の妹がこんなに可愛い訳がない。
次が最終話でございます。サブタイトルは某ラノベのパクリ(全く読んだことがありません・・・。)水無瀬香生様作『 或る歌唄いの非日常 』のストレリチアさん、お名前だけの出演させていただいております。
老舗MMORPG<エルダー・テイル>日本サーバーにおいてアキバ5大戦闘系ギルドと呼ばれるギルドの一角<黒剣騎士団>2017年某月某日某所での新しい出逢いのお話し。
この頃になると<黒剣騎士団>の誇る?4馬鹿娘も大規模戦闘を主にする戦闘系ギルドのギルメンに相応しいだけの実力を着けていた。
義盛、サツキ、朝右衛門の3人はソロプレイヤーとしての実力も約二年の間でかなり上がった。
特にサツキは<付与術師>のビルド“スプリンクラー”を確立させ。それなりにサーバーでの知名度も上がったが“トリガーハッピー”と云う有り難くない二つ名も同時に付いて来て本人はそれを不満に思っている。
ヘルメスは大規模戦闘では情報監視者や戦域哨戒を任され、義盛と共に入団テストの試験官や生産系ギルドとの交渉を任されるようになった。(本人曰わく、状況を把握しながら歌ってるだけの簡単なお仕事と若旦那あしらうだけの簡単なお仕事らしい。)
朝右衛門は、<黒剣騎士団>で大規模戦闘に行かない時でも、海外の大規模戦闘やクエストに傭兵で参加し、色々なレア素材アイテムやレアな武器を収集して一部で“器用貧乏”“歩く武器庫”などと呼ばれるようになった。(朝右衛門としては不本意で呼ばれる度に“千変卍華”と訂正させている。)
そして、4馬鹿娘で最初に<黒剣騎士団>へ入団した義盛はと云うと、昔と比べると豆腐メンタルから高野豆腐メンタルくらいには成長し?レザリックのサポートなどをこなしながら、新人の戦闘訓練などを担当していた。(余談ではあるが新人からは“兄さん”と呼ばれている。)
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シンジュク御苑の森
「誰か助けてください~!」
全身、赤い金属鎧と背丈に不釣り合いな大盾に騎乗鎗の<守護戦士>女ドワーフのアバターが大量のオウルベアをトレインして逃げ回っている、どうやらソロプレイヤーが無闇に挑発スキルを乱発して捌き切れなくなりトレインしているようだ、周りのプレイヤーも巻き込まれるのが嫌で誰も彼女を助けようとしない。
「・・・おかしい!お姉ちゃんは私と同じレベルの時はこれくらい1人で捌けたって言ってたのに~!お姉ちゃんの嘘吐き~!」
この場に居ないであろう姉を嘘吐き呼ばわりする女ドワーフ、泣こうが喚こうが現在の状況は打開出来ないのは判ってはいるが叫ばすにはいられないらしい。
「あ~ん!もう自棄だ!玉砕だ!遣るだけ殺ってやる!お姉ちゃんのアンポンタン!」
姉に悪態を吐きながら踵を返しオウルベアの群れに特攻をかける女ドワーフ。
「あ~!見ちょられんね!ヨシ!加勢しちゃろうや!」
「エン兄ィはお人好しだなぁ・・・ってまぁ云われるまでもなく、そのつもりでしたけど、行くよ!みんな!」
「「「了解 (~♪)(ですわ)(です!)」」」
偶々、狩りに来ていた<黒剣騎士団>の4馬鹿娘と“人外無骨”“黒剣の一番槍”の二つ名を持つエンクルマが加勢に入りオウルベアの群れを蹂躙して行く。
流石と云うべきか、戦闘態勢を整え手際良く次々とオウルベアを片付けていく様は矢張り日本サーバーでもトップクラスの戦闘系ギルドのメンバーである、女ドワーフも負けじとオウルベアと交戦するが如何せんLV差や装備、プレイヤースキルが違い過ぎて彼女が一体倒す間に残りは全て倒されていた。
「お嬢ちゃん、いけんよ。無闇に挑発スキル乱発したっちゃろ?流石にLV85の<守護戦士>でん、この数を1人で捌くんは無理やけんね、無茶したらつまらんばい。」
自他共に認める<黒剣騎士団>随一のお馬鹿さんにして、根がお人好しのエンクルマが優しげな声で女ドワーフに声を掛ける。
「あ~、エンクルマ先輩がナンパしてますよ?ストレリチアさんに通報しちゃおう!うん、そうしよう!僕は何時だって女性の味方です!」
「朝ちゃんは、なんち事云いようとね?ユキさんと儂はそげな関係やないち何遍も云うたやんね!」
「朝ちゃんはエン兄ィをからかわないの!で、『エボリューション』さん?大丈夫だった?」
エンクルマをからかう朝右衛門に小言を云いつつ、義盛が女ドワーフ『エボリューション』のステータスを確認して声を掛ける。
「あっ!ハイ!大丈夫です!危ない所を助けて頂きありがとう御座いました!<黒剣騎士団>の皆様。申し遅れました、私のPC名はエボリューション、友達からは『ランエボ』って呼ばれてますので、皆さんにもそう呼んで頂けると幸いです。・・・あと、昔お姉ちゃんが<黒剣騎士団>に散々ご迷惑掛けたみたいで・・・ごめんなさい!」
「「「「「え?誰の妹さん?」」」」」
ランエボの最後『姉が迷惑掛けてすみません 』の部分で義盛たちの頭の中は『?』だらけになって中の人たちはPCディスプレイの前で首を傾げたまま固まる。
「えっと・・・お姉さんのPC名を聞いてもいいかな?」
義盛が恐る恐るランエボの姉のPC名を聞いてみる。
「アレ?冴子お姉ちゃんのPC名ってなんだっけ?え~っと・・・東八郎?タコ八郎??宅八郎だったかな?!なんか、歴史上の人の名前でナントカ八郎だったと・・・」
「・・・え~っと『伊庭八郎』?かなもしかして??」
「はい!それです!それ!<黒剣騎士団>さんには散々ご迷惑掛けたみたいで、本当にごめんなさい!姉に成り代わりお詫び申し上げます・・・。」
一瞬、その場に居た<黒剣騎士団>のメンバーの時が止まったかのような静寂、そしてその後の大絶叫大会・・・!
「お嬢さん、そげな嘘はつまらんばい!姐やんの妹さんが、あんたんごつ『まとも』な訳なかろうもん!あん“チープスリルジャンキー”にこげん立派な妹さんがおってたまるかい!」
「エン兄ィ~♪お、落ち着いて、八姐があぁだからって親族まであんな感じのノリとは限らないで・・・しょ・・・??」
「そうですわ!八姐がアレだからって妹さんまで、アレな訳ないじゃないですか!失礼で・・・すよ?」
「アレですよ!伊庭八姐さんの妹さんならサブ職も、きっとピーキーなサブ職の筈ですよ・・・!」
「・・・あんたらが落ち着きなさい!取り敢えず、団長やらログインしてるメンバーに連絡!八姐の妹さんがエルダー・テイルやってるって知らせて!」
今まで八郎がこのメンバーにどう思われていたのかが良く解る動揺の仕方である、本人が聞いたらどんな反応をする事やら・・・、各人の念話で現在ログインしている<黒剣騎士団>のメンバーが続々とシンジュク御苑の森に集結している。
現在ランエボは東山動植物園のコアラか上野動物園のパンダのような扱いである。
「マジで八郎の妹なのか?」
「八の姉御の妹ってどれよ?」
「やっぱ、姉妹揃って<剣狂>か?」
「伊庭ノお嬢ト付キ合イ長イガ、妹ガイルナンテ初耳DA。」
「どっかギルド入ってるのか?」
「八姐の妹ならリアルも可愛いだろうな・・・、誰か彼氏居るか聞いて来い!」
「いやいや!マジで姉御の妹だったら、手ぇ出した時点で地獄見せられるぞ??」
「・・・確実に殺られるな・・・。」
etc.etc.etc.……
兎に角、質問責めでしっちゃかめっちゃかで勢いに押されて呆気に取られて、どの質問から答えてよいのやら解らないランエボを見かねて義盛が一喝する。
「ちょっと!あんたら!ランエボさんが怯えてるじゃない!只でさえ<黒剣騎士団>はノリと勢い任せの戦闘馬鹿集団って余所様から後ろ指を指れてんのに!ちっとは自重しなさいよ!特に団長!」
「流石!義盛兄さん、俺達が云えないような台詞を団長に云ってくれる!其処にシビれる!憧れる!」
義盛を慕う新人達からの羨望の言葉が飛び交う。(義盛的に兄さん呼ばわりは、かなり不本意だが、そこは敢えて我慢の子。)
アイザックや役付きからのブーイングもどこ吹く風、取り敢えずランエボに自己紹介を促す。
「えぇ~っと初めてまして、冴子・・・じゃなくて八郎お姉ちゃんが現役時代大変ご迷惑をお掛けしました。姉に成り代わりお詫び申し上げます。私のPC名はエボリューション、鎗使いなので、友達からは『ランエボ』と呼ばれています、皆さんにもそう呼んで頂けると幸いです。お姉ちゃんが引退した後から<エルダー・テイル>を始めました。メイン職は<守護戦士>LV85、サブ職は<鎧職人>LV90です。姉妹と云っても義理の姉妹ですが・・・。」
自己紹介が終わると何故か歓声が上がったり、更に質問責めにあったり・・・、一部のお馬鹿さんが、
「義理って事は・・・芋姉ま・・・。」
「だぁ~!!なんて事、云ってんだ!馬鹿、阿呆、間抜け!八姐の旦那の妹さんって事だろう!なんで下ネタに持って行こうとする!」
こういう所は平常運転だ・・・。
ランエボは八郎の実妹ではなく、旦那さんの妹さん・・・つまり義妹だ、それを聞いて皆が納得する。(新人で八郎を知らない者も居たが後で古参にどんなプレイヤーだったかを教わる。)
「やっぱり、そげんね。姐やんの実の妹さんがこげん出来た、可愛いかお嬢さんな訳なかもんな~。」
「中の人が可愛いかどうかはアバターだけじゃ判断出来ないぞ?」
「エンクルマ先輩やっぱりナンパしてる~。」
「何?何?エンちゃん、二股?やるね~!この残念イケメン。」
「・・・なし、今、儂が弄られないけんかね?」
脱線しつつも賑やかに八郎の近況を聞いたり、八郎の数々の悪行を全く盛らずに伝えたりと色んな八郎絡みの話で盛り上がる、悪行の数々を聞く度に一々謝罪するランエボの様がこれまた可愛らしく、女性メンバーの少ない<黒剣騎士団>の男性陣から受けもよく。『萌え』だの『彼女になって』だの『可愛い』だのというコメントがチラホラ。
そんな男性陣を尻目にヘルメスがランエボに話し掛ける。
「ねぇ~♪ランエボさん、その『鎧』は自作?」
「はい!作るのが楽しくて、いつの間にかメイン職よりサブ職の方がカンストしちゃいました、今装備してるのが最新作です。」
「ほうほう♪これはこれはぁ♪」
なんというか、『金』の匂いを嗅ぎ付けた時のヘルメスの独特と声色に変わっている、本人のサブ職が生産系で、元は生産系ギルド<第8商店街>に籍を置き、今でも生産系ギルドとの交渉役を任されているヘルメスの製作級アイテムを見る目と勘は鋭い、多分ランエボのサブ職<鎧職人>の腕はヘルメスから見ても良い線なのだろう。
リアルでも長い付き合いのサツキはいち早くヘルメスの下心を読み取り先制して釘を刺す。
「ヘルメスさぁ~ん、また私腹を肥やそうと悪巧みしてませんかぁ~?アイザックさん、ヘルメスがまた良からぬ事を考えてますよ~。」
ちょくちょく、腕の良いソロの生産職プレイヤーを見掛けると声を掛けては大規模戦闘などで入手したレア素材でアイテムを製作してもらいマーケットに流し利鞘を稼ぐヘルメス、普通だったらギルドから追い出されても仕方ないのだが、それ以上にギルドに貢献しているので半ば黙殺されている部分もある。
「ヘルメス~!ゲームとは云え、その歳で銭金に執着してっとロクな大人になんねーぞ。」
「えぇ~♪私がぁ♪お金に執着してるんだったら、今でも<第8商店街>に籍を置いてますよぉ♪」
・・・ああ云えばこう云う・・・。
ヘルメスのお陰で、装備品のメンテナンスなど腕の良いプレイヤーを紹介されてる手前、余り強気にも出れない総団長アイザック・・・。
八郎絡みの話で均きり盛り上がった後、ランエボに<黒剣騎士団>への勧誘もあったが、中の人がバンギャでログインが不安定の為、大規模戦闘には参加出来そうにないとの事でランエボの<黒剣騎士団>入団は白紙になったが、<黒剣騎士団>戦士職の鎧のメンテナンスや鎧の製作をたまに依頼する確約がなされた。
その後、野郎連中に惜しまれつつログアウトするランエボ。
12番目の拡張パックが実装されるまでまだまだ時間のある、珍しく平穏な<黒剣騎士団>のある日の他愛もない出来事と新たな出逢いのお話。
ランエボちゃんが出てきた事で、短編集第2話『高みの見物~』の女<武士>の正体がばれましたね。(いや、気が付いてない人は居ないと思いたい。)
実はランエボさんは自キャラではなく、某女史のLHTRPG用のPCでしたが、ふとした切欠というか馬鹿話の延長線で八姐の旦那の妹という設定が出来上がり今に至ります。なのでランエボちゃんのキャラ紹介は割愛しますです。(某女史の許可が下りればキャラ紹介も書くかもです。)




