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517=626

インチキ推理小説風味。

 それは突然だった。4月の終わりに黒剣騎士団ギルド掲示板に書かれた。一文。


◇◇◇


旅に出ます捜さないでね。伊庭八郎 (ハート)


トリバネ古戦場

ザントリーフ地方

パイドパイパーリア

関門都市ハコネ

サカワ

チョウシの町

ヨコハマ

要塞ペンタグラム


517=626


◇◇◇


 最初は皆、何時もの悪ふざけだと思って気にも留めていなかったが、フレンドリストの『伊庭八郎』の覧が<黒剣騎士団>から<無所属>に変わっている事、ログインはしているらしいが掲示板の暗号じみた文が掲載されて以降、全くギルドに顔を出していない事も在り段々心配するものが増えてきた。


 念話で連絡を取っても『私を捕まえてごらんなさい。ウフフアハハ。』などと石器時代の少女漫画な台詞を吐いたり。『この念話は現在、使われておりません。もう一度お確かめの上、お掛け直しください。』や『私、メリーさん今貴方の家に向かってるの・・・』など様々な意味の無い台詞でのらりくらりと回避かわされ、居場所が掴めない、八郎が無断でギルドを抜けている為ギルドサーチも機能しない。


「クソ!八郎のヤツ何考えてやがる!何が『捜さないでね』だ?捜せって云ってるのと同じじゃねーか!おい!レザリック、あの暗号みたいな書き込みの意味判るか?」


 唯一、念話を着信拒否の如く不通にされている(要するに念話してもガン無視される。)<黒剣騎士団>総団長“黒剣”のアイザックが忌々しげに<黒剣騎士団>参謀格レザリックに尋ねるが答えは『NO』である。

 ギルド内に様々な憶測が飛び交うが全て『憶測』の域を出ない。


「なんやろうね・・・クエストやろか?」


「馬鹿、くえすとニシテモ共通点ガ無サ過ギダロ。」


大規模戦闘レイドが絡んでるのも2ヶ所くらいか?」


「517=626ってオカシイだろ?全然イコールじゃないし。」


「ゾーンも関連が在るのかないのか判りませんわね・・・。」


「考えてもらちが開かねー、取り敢えず今、ログインしてる奴らに連絡して捜させろ!」


 アイザックの檄が飛び<黒剣騎士団>による伊庭八郎捜索が始まる。


 捜索開始から幾日経つか・・・依然足取りは掴めない、数人が掲示板に書かれたゾーンで八郎を発見してもその場でログアウトされたり、アイテムを駆使して逃亡されたりで捕まらない。


 ここ数日、義盛と朝右衛門の2人は常に連絡を取り合っている。


「ヨシ先輩、掲示板の暗号ってやっぱり・・・。」


「・・・多分、朝ちゃんも私と同じ答えに辿り着いたか・・・。」


 義盛、朝右衛門は暗号の答えに気付いたらしい、しかしまだ確証が持てないでいる。


「エッゾ帝国中を探し回ってるメンバーはまだ伊庭八姐には遭遇してないって話ですよ?」


「アノ暗号にはフォーランドとナインテイルのゾーン名は1つも無かった・・・。」


 思案にふける義盛、ある程度まで答えは見えて来ているらしい。


「一度、シド兄ィかレザリックさんに私たちの推論を聞いてもらう?」


「僕もその方がいいと思います。」


 一旦、ヴィシャス、レザリックに連絡を入れ<黒剣騎士団>ギルドホールに集合する4人。

 4人全員が集まるまでに、義盛と朝右衛門はお互いの推論を摺り合わせる、やはり概ね同じ事を考えていたらしい。

 2人の摺り合わせが終わった頃、ヴィシャスとレザリックもホールに到着、義盛達の推論を2人に開陳する。


「・・・なるほど、そういう事ですか・・・、そこは完全に盲点でした。」


「ニャルホド~確カニ盲点ダワナ~。ッテ事ハ『その日のその場所』ナラ伊庭ノお嬢ヲ捕マエラレルト云ウコトカイ・・・?」


 2人が感心する通り、義盛達の推論は完全に盲点だった。多分、<黒剣騎士団>ギルメンでこの事にいち早く気付いたのはおそらく、義盛と朝右衛門だけ。


「八姐の意図は計りかねますけど、時期的に考えても『その日のその場所』には必ず八姐は居ます!それに、その日に捕まえないともう会えない気がするんです・・・。」


 それは義盛のカンでしかないのだが、その場に居た他の3人も同じ考えらしく誰も異を唱えない。

 取り敢えず、他のメンバーにも連絡を取り義盛達の推論に納得し、『その日のその場所』に集まれるメンバーで集合する事となる。





5月17日 エッゾ帝国 要塞ペンタグラム


 その要塞のほぼ中央に伊庭八郎は立っていた。彼女の前にはその日、ログインした<黒剣騎士団>のギルメンが並んでいる。



「・・・見つけられたか・・・、誰が気が付いた?義盛?朝ちゃん?」


「私と朝ちゃんです・・・。」 


 義盛が今にも泣きそうな声で呟く。


「・・・そっか、本当は史実のスケジュールでゆっくり回ろうと思ったんだけど、諸事情があって、急ぎで回る羽目になっちゃってね・・・。」


 なんとも歯切れの悪い八郎・・・。


 黒剣騎士団ギルド掲示板に書かれていたゾーン、あれを現実世界の日本の地名に置き換えると自ずと答えは出る。


トリバネ古戦場=鳥羽・伏見古戦場

ザントリーフ地方=房総半島

パイドパイパーリア=甲府

関門都市ハコネ=箱根

サカワ=小田原

チョウシの町=銚子

ヨコハマ=横浜

要塞ペンタグラム=五稜郭


 伊庭八郎のキャラネームの元となった、幕末に実在した人物『隻腕の剣士、伊庭八郎』が戊辰戦争で転戦、立ち寄ったルートだ。因みに『517=626』は伊庭八郎が服毒自殺した日、旧暦 明治2年5月17日=新暦1869年6月26日を指していた。

 

「・・・って流石!私と同類おなかま、判ってらっしゃる。伊庭八郎、『エルダーテイルでの最期の悪戯』誰も気付いてくんなかったら、私ゃ今日、泣きながら1人寂しく引退してたよ。」


 先ほどの歯切れの悪さは何処へやら、無理に陽気な声でさらりと引退宣言をした八郎、しかし誰も驚かない。予想外の反応に八郎の方が驚く・・・。


「・・・もしかして・・・皆さん、怒ってる?」


 この後、一斉に皆が騒ぎ出す。


「姐やん!なんで引退するならするでちゃんと云わんとね?」


「姉御!俺ら馬鹿の集まりがあんな暗号解ける訳ねーだろ!」


「八姐~ウソだよね?ウソだよね?何時もの悪ふざけだよね?」


「八郎姐~ウソだよね~?ウソって云ってよ~。」


「八郎テメー誰が引退していいって云った?誰が下のもん、纏めるだコラァ!」


「相変ワラズ、唐突ダナ~オ嬢ハ・・・。」


「・・・伊庭八姐~・・・。」


「理由くらい教えて頂けませんか?八姐・・・。」


 皆、一斉に言葉を発するものだから全く収集が着かない。取り敢えず、ひとしきり皆の騒ぎが静まってから一息置いて八郎が改めて引退理由を云う。


「え~、今までわたくし、伊庭八郎!黙っておりましたが、6月に現在お付き合いしている男性と結婚する事と相なりました!それに伴い永く親しんだMMORPGエルダー・テイルを引退します。・・・急にこんな事云ってみんなに悪いとは思ってるけど、流石に旦那貰って仕事してってなるとログインなんて、まともに出来ないと思う訳よ今までも秀く・・・彼氏に甘えて、散々ゲーム優先してたから、コレを期に引退しようと思うのよ・・・ごめん!我が儘は重々承知しております!何卒、何卒~。あっ因みにギルド外の知り合いにはちゃんと報告は済んでおります。」


 芝居掛かった言い回しだが、これが今の伊庭八郎の精一杯なのだろう・・・。


 その場で大泣きする者。

 引退撤回を要求する者。

 祝福する者。

 呪詛を吐く者。

 昔の話をする者。

 泣きながら罵声を浴びせる者。

 無言の者。

 最期の一言にツッコミを入れる者。


 2016年5月17日

 <黒剣騎士団>“チープスリルジャンキー”こと伊庭八郎引退。


 2016年、エルダー・テイルでの主な出来事。

11番目の拡張パック<錬金術師の孤独>実装。

<放蕩者の茶会>解散。


 後にアキバ5大戦闘系ギルドと呼ばれる<西風の旅団><シルバーソード>結成。



 日本人だけでも10万人、全世界で2000万人がプレイしている世界最大級のオンラインゲームMMORPGエルダー・テイルでは極々当たり前で、さして大きな話題になる訳でもないちっぽけな1プレイヤーの引退話。

一応、一話からの伏線を回収しました。初期に考えていた話から大分、毛色の違う話になったなぁ・・・なんて思いつつ書いておりました。


コレにて『残念職と呼ばないで(仮)』での八姐はアキバから退場です。

ただの狂言回しで作ったキャラなのに主役より目立つキャラになってしまったのが未だに謎です。(大笑)


なお、ゾーン名称『トリバネ古戦場 』はオヒョウ様作『私家版 エルダー・テイルの歩き方 -ウェストランデ編-』よりお借りしました。

要塞ペンタグラム=五稜郭 は捏造ゾーンですが色々な方からお知恵をお借りしました。この場を借りましてお礼申し上げます。本当にありがとうございました。





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