2015,12,21弧状列島ヤマトの旅その1
「ヨシ先輩!サツキさん!ヘルメスさん!お久しぶりです~!そしてごめんなさい!すみません!許して下さい~!」
ペコペコとアバターにお辞儀のエモーションをさせハイテンションでまくし立てる朝右衛門、それに対して怒る訳でもなく苦笑する義盛。
「久し振りだね、朝ちゃん。何時エルダーテイルに復帰したの?」
「あ、はい!!一昨日から復帰しました!!お休みしてる間にレベル上限が上がってたり、アイザックさん所のギルド名が変わってたり、大規模戦闘コンテンツ増えたり<放蕩者の茶会>が大暴れしてるとか・・・やっぱり面白いですね~エルダーテイルは!」
なんとな~く余所余所しいというか空々しい事この上ない、上ずった声で受け答えをする朝右衛門、先輩と慕うプレイヤーに無礼を働いた事への罪悪感と自分の愚行を見られた気恥ずかしさからだろう・・・、しかし義盛は全く気にしてない風で・・・。
「そうか、そうか!復帰したのか~!じゃぁ久し振りにサツキお嬢と私と朝ちゃんの『3人で』旧交を温めましょうかね~♪」
明らかに禍々しい負のオーラは収まっていない・・・それ処か更にその言葉尻には邪悪なモノを感じずにはいられない。
オドオドして口隠る朝右衛門(アバターが無意味に付近を行ったり来たり)を余所に義盛はサツキと連れ立って朝右衛門を連れて何事も無かったようにその場を去った・・・。後に残され呆然とする八郎とヘルメス。
「ヘルメスちゃん、あの厨二全開なお嬢さんは一体、何者なの?」
「あ~♪朝ちゃんですかぁ~♪」
ヘルメスの説明に拠ると、義盛とサツキがPVPメインでエルダーテイルをやっていた頃に知り合ったプレイヤーで、年下であるがプレイ歴はヘルメスたちより若干長いらしい。
PVP大会公式、非公式に関わらず、よく2人と対戦でぶつかり一度も勝てず何時の間にか義盛を『先輩』と慕うようになり、一時期は4人でパーティーを組んで活動もしていたのだが、朝右衛門にリアルで彼氏が出来た為、拡張パック<幻夢の心臓>実装前にエルダーテイルを一時休止していたとの事。
休止前はエルダーテイルで有名になって“二つ名”を付けられる事を目標としていたらしく、積極的に大規模戦闘コンテンツに傭兵として参加したりもしていて自称“千変卍華”(敢えて『万』ではなく『卍』らしい)の朝右衛門を名乗っていたが全く定着はしなかった・・・。
「う~ん・・・、彼氏が出来て休止してたんでしょ?・・・と、云う事はアレよね・・・、フラれたから復帰したと・・・、然も八つ当たりの為に・・・。分かり易い面倒くささだねぇ~、休止前は“二つ名”欲しがってたとか・・・、あんなもん有り難くも何ともないのに・・・。」
「“二つ名”については同意しますけどぉ♪事在る毎に惚気る八郎姐さんも大概、面倒くさいですよぉ~♪」
「・・・さり気なく毒を吐くよねヘルメスちゃん・・・。」
『パシャーン』『パシャーン』『パシャーン』『パシャーン』『パシャーン』『パシャーン』 盛大に白く煙るエフェクトが発生する。
八郎、ヘルメスに各3発、計6発の雪玉が命中する。会話に夢中になり完全に油断していた2人は呆然となる・・・雪玉を投げた相手はよく見知った相手だったがギルドタグだけが違っていた。
ギルドタグは<スノウフェル死ね死ね団>だが、そこに居るのは紛れもなく“黒剣の残念職3人組”その1義盛と、その2サツキ。アキバ否、日本サーバー最大の戦闘系ギルド<D.D.D>の大幹部<三羽烏>のリーダーにして“突貫黒巫女”“レイドランクの黒姫”“黒剣もドン引き”など数々の二つ名と武勇伝を誇る櫛八玉、同じく<三羽烏>にして、本職が女性自衛官だとか某国の外人部隊所属などと噂のある<D.D.D>の中心人物、高山三佐、桜色の和鎧姿の<武士>・・・櫛八玉の親友で<D.D.D>所属の<守護戦士>ヤーヴェの別アカウント『八枝』と、彼氏にフラれてエルダーテイルに復帰したという自称“千変卍華”の朝右衛門の6人。
「ごきげんよう!リア充の八姐にヘルメス!<スノウフェル死ね死ね団>参上ですよ~!」
多分、PCの前では眼が笑ってないであろう義盛の愉快そうな声がその場に響く、そして無言かつ、問答無用で雪玉が八郎達を襲う・・・。
「え~っと義盛さんサツキさん?・・・一体どうしちゃたのかなぁ・・・あと、櫛八玉さん、かなりお久しぶりの八枝さんに・・・そして!!!何故、この場に居る!?高山女史!」
現在、置かれている状況が全く理解出来ず困惑する八郎、そしてこの場に一番場違いな高山三佐に異議を申し立てる!
「私ですか?クシ先輩とヤエ先輩が面白そうな企画に参加するとのこ・・・。」
『パシャーン』
無言で雪玉を高山三佐にぶつける櫛八玉。
「・・・ごほん!いえ、先輩が必要以上に暴れない為のお目付役として参加しただけで、決して面白がって参加した訳ではありません、あと、断じてサツキさんにスウィ…買収された訳でもありません。」
(絶対面白がってるじゃん!高山ちゃんそんなキャラだったの~!!)
(スウィーツで買収されちゃったんですねぇ♪高山さん・・・)
その後、無言で黙々と雪玉を投げつける高山三佐、他のメンバーが何かしら叫んで投げてくる分、彼女だけが異彩を放つ。
「山ちゃんノリノリだね~♪」
「仮にも<D.D.D>の幹部なんだから悪目立ちは控えて欲しいのだけど・・・。」
自分の立場を丸無視で後輩の心配をする櫛八玉、彼女が動く事も十分悪目立ちなのだが本人には全く自覚がない、そんな彼女と友人の八枝に非難の声が飛ぶ。
「クッシー!ヤエちゃん!あんた達、お、恩を仇で返す気か~!!」
「え~♪八郎姐さん、それはそれ、これはこれじゃないですが~、それにセッティングしてもらった合コンの男性陣、みんな姐さん狙いで私達モブ扱い!このリア充め!このリア充めぇ~!」
八枝の悲壮感漂う叫びに呼応して、雪玉が間断なく八郎達(主に八郎)に浴びせられる。
「ん~♪別にぃ~ダメージとかの実害がないですけどぉ♪雪玉を投げ付けられるとイラッとしますねぇ♪」
珍しくヘルメスの声に怒気が籠もるが、その怒りを八郎が冷静に去なす。
「確かにイラッとするけど、怒りに任せてアキバの外に出たら、私らに勝ち目はないよ!あっちにはバケモノが3人に戦闘狂が3人、兎に角、トランスポートゲートで他の本拠地に逃げて、彼奴等撒くよ!」
八郎に真正面から戦う意志は無いがこのままログアウトするという妥協案もない、兎に角、逃げながら現状打開策を練る算段らしい。
かくして、八郎&ヘルメスVS<スノウフェル死ね死ね団>の鬼ごっこが開始された。
■
兎に角、八郎達は一路トランスポートゲートへ向かった、後方から投げ付けられる雪玉を回避し、見知らぬプレイヤーを盾にし、無我夢中でトランスポートゲートへ向かった。
「なんで逃げるんですか~八郎姐さん、“羅刹女”の二つ名が泣きますよ~。」
「クッシー!止めれ~!人の黒歴史を掘り起こすなぁ~!大体!二つ名を2つも3つも持ってる、あんたに云われたくないわ~!」
「クシさん、“羅刹女”って?」
「あ~義盛ちゃんたち知らないか~、今でこそ“チープスリルジャンキー”の方が有名だけど、昔は・・・。」
「あ~あ~あ~!聞こえない!聞こえな~い!」
大声で櫛八玉の言葉を遮る八郎、現在の彼女にとって“羅刹女”の二つ名は黒歴史らしい・・・、普段は人を手玉に取って悪戯する八郎が今回は逆に手玉に取られている、アイザック辺りがこの場に居たら腹を抱えて大笑いしているに違いない。
なんとかトランスポートゲートに辿り着き、中に飛び込んだ2人・・・。
「ここまでは作戦通りですわね、八枝姉様、高山女史。」
「いや~たまにこういう悪戯も楽しいね~。上手く行けば、否が応でもあの2人はアキバに帰ってくるよ。」
「そうですね、普段の伊庭さんなら最終的にアキバに帰ってきますね。」
ここまでは八枝と高山三佐の作戦通りの運びのようだ、そして彼女たちの読みは間違っては居ない、ヘルメスだけならいざ知らず、伊庭八郎に『戦略的撤退』はあっても『無様な敗走』はない、腐っても<黒剣騎士団>古参の彼女には・・・。
■
本拠地ミナミタウンゲート付近。
『お!義盛ちゃんか!こっちは準備万端!何時でもバッチコーイや!』
念話にて、義盛と連絡を取る西武蔵坊レオ丸。彼を長として関西でも名だたるプレイヤーやギルドのメンバーがトランスポートゲート付近に大挙している。しかし、この一団おかしな事に皆、本来付いていない筈の・・・或いは本来とは違う『モノ』が付いていた。
這々の体でアキバからミナミに転移した八郎達の目の前に大挙する<スノウフェル死ね死ね団>のギルドタグ・・・、流石にそれは想定外の光景だった。
「リア充さぁ~ん!いらっしゃーい!八郎ちゃ~ん、あかんで~幼気な女子高生と女子中学生イジメたら。」
茶目っ気たっぷりに桂三枝師匠のモノマネをするレオ丸、多分サツキか義盛経由でミナミにも情報が回って居たのだろう事は八郎にも分かった・・・、完全に自分達は彼女らの掌で踊らされているらしい。
皆、手に雪玉を携帯し何時でも一斉掃射可能な状態だ、完全に詰んだ・・・と思われたこの状態をヘルメスの一言が変える。
「その節はお世話になりましたぁ♪“屍体愛好”の西武蔵坊レオ丸さん♪」
その一言で世界は一瞬止まった・・・、そして再び世界が動き出す・・・。
「・・・あのおっさん、そんな趣味があったんか・・・。」
「道理で・・・いい歳して浮いた噂一つ聞かんのはソレでか・・・。」
「・・・せやから、従者もゲテモンの牝ばかりなんか~。納得やわ~。」
「危篤なご趣味で・・・精々お巡りさんのお世話にならんようひっそり頑張りなはれや・・・。」
「うっわ~・・・めっちゃサブイボが・・・。」
トランスポートゲート付近はヒソヒソ話で持ち切りである。名指しでアブノーマルな性癖の持ち主とレッテルを貼られたレオ丸は未だに世界が止まっている。
「おう、アンディーツ!ネクロナンチャラってなんやねん?そんなケッタイな事なんか!?」
関西最強戦闘系ギルド<ハウリング>のギルドマスター(現:<スノウフェル死ね死ね団>団員)ナカルナードが隣に居る<ハウリング>のギルメン(現:<スノウフェル死ね死ね団>団員)に質問する。
「団長、ネクロナンチャラやのうて、“屍体愛好”・・・要はゴニョゴニョ・・・。」
「なっ・・・!おっさん!そんなアブノーマルな性癖やったんか!ボッチでアブノーマルって・・・ええとこなしやんかい!」
ナカルナードの言葉にやっと我に返ったレオ丸が雪玉をナカルナードに投げつけ反論する。
「ワシは“屍体愛好”やのうて!“死霊使い”・・・でもない!“幻獣の主”や!そんで見解の相違で1人やけどボッチやないわ!この阿呆太郎!」
「誰が!阿呆太郎じゃ!このネクロナンチャラ!」
「だ・か・ら!違う云うとるやろ!」
このやり取りを皮切りに盛大な雪合戦から戦闘行為に発展し、<衛兵>が大量投入される阿鼻叫喚地獄となったミナミトランスポートゲート付近。
それを尻目にトランスポートゲートで他の本拠地へ転移する八郎とヘルメス。
「ナイス!ヘルメスちゃん!」
「え~♪私は何にもしてませんよ~♪」
取り敢えず、ミナミは無事に?やり過ごす事が出来た・・・しかし、次の本拠地も<スノウフェル死ね死ね団>の魔の手は伸びていることだろう・・・それでも上手くやり過ごせるのか!?
頑張れ!ヘルメス!負けるな!ヘルメス!取り敢えず八郎もげろ!
今回他所様の作品の登場人物がコメディーリリーフ的扱いにされております。
ヤマネ様、オヒョウ様大変申し訳ありません。苦情その他は速やかに対応させて頂きます。
そして次回もヘルメスさんの受難は続きます。八姐?日頃の行いが悪いので仕方ありません!合掌。




