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―― それは、相手の容姿のせいもあるが、まるでステラの魔術アカデミー……その授業における模擬戦を見ている様な光景だった。まぁ勿論、戦闘規模はたかが見習い魔道士のそれより遥かに凄まじいが。
予想外な事に、女王が手にする武器は杖ではなくウィザーズクリス、魔法使い用とはいえ細身の剣だった。そして開幕一番、呪術でも魔法でもなくツインカッティングで先制攻撃を仕かけて来る。短剣で繰り出す技としては、かなり難易度の高い強打攻撃だ。
けれど剣なら兄貴も得意とするところ、やはり一撃の威力が高い技・シャープで応戦。すかさず中級としちゃ威力が高い風刃魔法・ウインドスパイラルも放ったが、女王はそれを、ほぼ同難易度の水魔法・ウォーターショットで相殺し ―― といった感じで、双方かなりの素早さで技の応酬を繰り広げている。
時々女王が近接攻撃を狙うのは恐らく、そこからドレインに繋げて兄貴の動きを鈍らせ、仕留める為なんだろうが、当然それを警戒してる兄貴は何度となく相手を風刃魔法で弾き飛ばし、遠ざけている。ただ、女王の次の一手があまりに速く為されるせいで、やや発動が遅くなる大地魔法は今の所出せないでいるみたいだ。風刃魔法は兄貴より俺の方が得意な位だから……このままだと負けはしないが勝利を得るのもちょっと厳しいって感じかも知れない。
「……想像以上の手練ね。それ程の腕がありながら何故、雪兎族如きに使われているのかしら?」
「依頼内容が至極もっともだったからな。それに、あの子は別に君達自体をどうにかしろとは言わなかったし。だから“使われてる”ってのは正しくないよ。おれは彼らの傭兵とかじゃない、ただ人間にも及びそうな害を除こうとしてるだけだからね」
そんなやり取りの間にも、女王はウォーターショットやアクアスプラッシュを立て続けに放ってくる。合間には短剣技の最高峰・ダンシングエッジまで披露してくる始末だ ―― 魔法の得意属性までラーンさん似か? ますます混同してくるぞ。ま、あっちはこんな見事な剣技なんて使えやしないけど。
そう、外見からは全く予想もしなかったが、正直この女王は呪術師と言うより女剣士といった方が良いんじゃないか? て程に、敵ながら練達した腕の主だった。もし冒険者として旅にでも出ていたら、一躍名を馳せてたんじゃないだろうか。……ウサ耳の、しかも若い女性って時点で妙な顧客が付きそうな気もするが。
「ふん ―― 便利だからと言って魔法作物などに依存している辺り、人間も大したものじゃないって事に気づけばいいものを。我々に一方的な要求を突き付ける前に、少しは自分達で新しい薬なりなんなり開発してみなさいな……!」
少々横道にそれた考えが浮かんでいた時。今までとは逆に兄貴から遠ざかった女王はそう言い放つや一気に魔力を高め……直後、大津波と見紛う激流がその手元から兄貴へと迸った。
「アクアウェーブか、魔法使いとしても一流だな……っ!?」
兄貴だけじゃない、見ていた俺も驚いた。水系の最上級呪文を放った、正にそれと同時。女王は別の魔法も使ってきたのだ ―― これも雷属性では最上級の魔法・エレクトサークルを。
つまりは完全に、ラーンさんと同属性の魔道士か。おまけに熟練度まで大差ないと言える、この合成魔法の鮮やかさ。認めたくはないが、ラーンさんと魔法の真剣勝負になった場合、俺でさえ多分敵わないかもしれないのに……彼女に匹敵する実力者が相手では、こと攻撃魔法に於いては一歩俺に及ばない兄貴には重荷かも。これはもしかしなくても、かなりまずい事態かっ?
「兄貴っ大丈夫か!?」
「本当に結構な腕だこと……直撃は上手い事避けた様ね。でも、次も逃げられるかは怪しいわよ」
「それは ―― やってみないと解らない、だろ?」
その返事が割と普通の声音だったので一応は安心したが……どうやら咄嗟にヘイストと、魔法力の直接放射で何とかあの凄まじい攻撃を凌いだらしい。とは言え相手も指摘した通り、完全にかわせた訳でもない様で、どこか苦しげな兄貴が発動しているのはアースヒールだ。
しかし、休息の暇など与えてくれそうにない女王はその姿に向かって一気に間合いを詰め、再びツインカッティングの体勢を見せつつ飛びかかってきた。
「 ―― !?」
「魔法の2種同時発動ができるのは何も、君だけじゃないんだよ。ラーテス女王」
だが小さな悲鳴を漏らしつつ、ウサ耳姿が派手に弾き飛ばされる。兄貴のウインドスパイラルで……そして。
その身が地に投げ出される寸前か、同時 ―― ここぞとばかりに解き放たれた兄貴の上級大地魔法・アースクエイクは確実に女王を捕え、相当のダメージを与えてみせた。