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聖樹にまつわる交響曲  作者: ファル
― second Mov. 野兎の円舞曲 ―
7/35

b-2

 黒と白 ―― 夜兎族と雪兎族、2種の兎達が住んでいるのはコーストからトワイライトへ向かう途中の広大な草原“コースティス平原”だ。一口に草原、といっても実際には小規模な森も点在するこの平地は、結構モンスターも多かったりして旅人には危険地帯と言えるが、あの兎達はどちらも名だたる魔法種族。他の種族と比べ楽に隠れ住んでいられるのも、その力故だろう。雪兎族の方は山人参を初め幾つもの魔法作物を人間へ売り歩きもするから、人里が意外と近いというメリットもこの平原にはある。


 そもそも、何故この2種族間に止まぬ紛争があるのかは人間からすれば謎なのだが……。


「まぁ、相反する性質の持ち主を認め難いってのは人間だって良くある話だしな。それに、昔は彼らをそれぞれが雇って戦争をしていた国さえあるって伝承もあるくらいだ、そんな所からもお互いへの憎悪が根深く引き継がれてきてしまってるのかもな」


「そうした“利用される”状態嫌さに、ステラ並みに閉鎖的な里になったのが夜兎族って訳か……一方の雪兎族は未だに人間との交流が盛んってのも、気に食わない一因って所、と。でも考えてみたら、手を組みさえすれば攻防一体の能力でちょっとした規模の国家さえ築けそうな連中なのに勿体ないよなぁ。そう言う視点に立てる奴が出ないって辺り、さすがは『兎頭脳』?」


「いや……現れたとしても他の一族から排斥されるだけ、とかじゃないか。あまり馬鹿にしてかかると痛い目見るぞ? ブルー」


 疾風の羽のお陰で、ステラから瞬時に移動できたポイントは、けれどざっと見には周辺のどこにも何らかの集落めいた物が見当たらない場所だった。しかしアイテム性質上、移動先からそう遠くない処に夜兎族の里はある筈、つまりは連中、人間嫌いが高じてステラ以上に自里を閉鎖している……何らかの目眩ましの術で里全体を「消して」いるとしか思えなかった。


 従って、俺と兄貴で魔力探査での里探しをしている最中、交わされた会話の最後にちょっと数時間前の出来事を思い出してしまった……実際あの蹴りは痛かった。本物の兎も後ろ足の力は強いが、なまじ人型であるが故、小技も効かせればその威力は半端じゃなくなるのは確かに怖い。


「―…ん。あの森の中、と言うか森自体が……何かまやかしっぽくないか? 兄貴」

「そうだな、きっとあれだろう。後は彼らの術をどう突破して中に入るかだが ―――― 」


 何やら広範囲に「風刃魔法」の気配が襲いかかってきたのは、その時だった。


 咄嗟に兄貴も俺も、ウインドスパイラルで防御を図る。どうやら相当の人数による多重詠唱呪文だったらしい強力な魔力の渦も、2人がかりの為何とか相殺できたようだ。


「―― 人間が、我々の里に何の用だっ」

「身の程を弁えないと、痛い目見るぞ。さっさと立ち去れ、次はもっと上級呪文にするからな!」


 次の攻撃に備え身構える俺達の周囲に、いつの間に湧いて出たのか、多数の夜兎族がこっちを取り囲む勢いで一斉に睨みを利かせてくる。内数名は、やたら戦意が高そうにそんな事を叫んでも来た。


「って、まだ里に近づいても居ない内から、なんて乱暴なんだっ? そんなんだから、他種族から警戒されたり嫌われたりするんだぞ、お前ら!」

「ふん、少なくても人間なんかに嫌われた所で痛くもかゆくもないねっ。逆にこっちが呪い殺してやってもいいくらいだ!」


「まぁまぁ、落ち着け ―― おれ達は別に、争いに来た訳じゃないんだ。ちょっと話があるんだけど……誰か、君達の中で里の中枢に属してる人物はいないかい?」


 一気に口論に突入しかけた兎達と俺の間に、割り込む形で兄貴がそう語りかける。が、どうにも血の気が多いこの兎達は、あまり素直に受け答えしそうにはなかった。


「人間なんぞと、何にせよ話なんかしたくないねっ。早く消え去れってのに」


「そう言う訳にもいかなくってね。今、君達が行ってる呪術は人間にも遠からず悪影響を及ぼすものだ。そうなったら、流石に人間の側だって君達に何らかの対策を取る事になるだろう。そうなる前に何とかしてもらえないかって、そういう話し合いに来たんだが」


「……ふーん。お前ら、雪兎族に雇われた冒険者か。だったら尚更、ここで始末を……」

「お待ちなさい」


 何とも不穏な空気を撒き散らす連中の背後から、突如そんな声がかかる。その途端、兎達の声音から攻撃性が淡雪の如く消えていった。

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