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「アスティ~起きてる? エルフィンちゃんがお見舞い来てくれてるわよ」
足が痛いので、今日は部屋に籠ってても怒られそうにないと安心して寝ていたら、お昼頃そんな声がドアの外から聞こえてきた。
もちろん大歓迎で入ってもらうと、エルフィンは何だかいい匂いのする小さなバスケットと一緒に入ってきて、それを差し出してくれた。
「うわぁ、美味しそぉ♪ エルフィンが作ったの? これ」
「うん、だからちょっと不揃いだけど……あ。後お薬をアスティのお母さんに渡してあるから」
ちょっと位形が揃ってなくても問題ない。お店で売る訳じゃあるまいし。てな訳で、早速そのクッキーを口に放り込む。―― うん、甘さ控えめながら美味しい♪
それにしても……ユグドに来てから2ヶ月足らずでバトル可能な程強くなるわ・料理もできるわ・薬草の目利きもできるわ・見た目も良いわ、って、この子はどれだけ万能なんだろぉ? これじゃ比べられたら私じゃなくても、大抵の子供はあっさり負けるに決まってる。
「もう少しいられると良いんだけど……今日もそろそろ稽古の時間だから、ごめんね」
「あんな強いのに、やっぱりまだ修業するんだ。エルフィンて本気で将来、モンスターでもバッサバサ斬り倒しまくる女戦士とかになるの?」
「そう言う目標じゃないんだけど……でも。それなりに自信が付いたら一度、セレンには行きたいかな ―― じゃ、お大事にね。アスティ」
そっか、あくまで目的は“恩人に認めてもらう”なんだなぁ。その為だけに毎日頑張れるエルフィンは偉いと思う。……んー。私も何か目標があれば、やる気になるんだろぉか?
セレンってかなり遠い所だよね確か……もしエルフィンがそこまで行く時は、一緒に付いていこうかなぁ。でも、そこに行くまでにはきっと魔物も沢山出る。ならそう言う場合の為に武芸でも……ダメだ……私に剣や槍は向いてないきっと。それに、それは既にエルフィンが強い訳だから、私が多少剣を使えるようになった所で逆に足手まといっぽいや。
でもでも、だからって何も特技がないままじゃ、それこそただの「お荷物」だ。友達だからってだけで危険な旅について行く訳にはいかない。何か“売り”がないと。それこそエリアンさんみたいに薬師にでもなるとかで……ん??
そぉか、モンスターと戦うなら、いくら強いエルフィンでも怪我くらいするよね? だったら……。
「あら珍しい。それリンが昔読んでた本じゃないの? アスティが自分からお勉強なんてねぇ」
「お母さん……せっかくやる気になってるんだから、水差さないで……」
ただでさえ、お兄ちゃんの読む本は難しいのが多いんだから。ここで気力を削がれたら多分、この先ずっと“修行”を続けてなんかいけないだろう ―― そう。
長い旅の間、怪我なんかしたら治るまで暫くは動けない。ちょっと位なら、って休まず歩き続けたとしても、立て続けに魔物に襲われたら、下手するとどんどん怪我が悪化しちゃうかもしれない。そんな状態で、どこかの町に着く前に更にモンスターと会っちゃったら? ―― そう言う危険を避ける為に必要な能力はきっと“魔法”だ。薬師でもいいけど、その知識はもう、エルフィンにも少しはありそうだし……大体こう言っちゃなんだけど、薬じゃ怪我が治るまで時間がかかる。
傷ついたエルフィンを、ささっと回復魔法で治してあげたら……これはきっと評価アップだよね♪ て言うか、これならまず「旅のお供」を断られる事もないだろぉ。うん、きっといけるっ。
エルフィンみたく万能じゃなくても、スバノンみたく怪力や図太さがなくっても。私は私だけの『特技』があればいいんだ、1つだけでも。唯一ちょっとだけ不安なのは、売り込める程の魔法能力を身に付けられるかって点だけど……お兄ちゃんは誰に教わらなくっても、何冊かの本を読むだけで色々な魔法が使えるようになったらしい。私だって、一応お兄ちゃんと同じ血が流れてるんだから、鍛えれば育つ程度には魔法の素質はある筈だ。
待っててねエルフィン。エルフィンが旅に出ようと思う頃までにはきっと、私も魔法を身に付ける。そしたら一緒に楽しい旅をしようね♪ ……スバノンも多分入るから少しうるさそうだけど。