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《……大丈夫でしょうか。今一度、シュティグ全域を捜索するべきでしょうか?》
「いや、奴の“移動”能力は封じてあるままだろ? なら心配は、多分ないよ ―― 俺達の世界では、息絶えるとああして“消滅”するモンスターが多いんだ。あいつもきっと、そういうタイプなんだろう……つまり、これで完全に平穏を取り戻す事に成功したって訳さ」
心配するティリアに、ブルーがそう返して安心させる。その横手からスバノンが。
「ブルー、カブラスって何だ? いや、誰だ? のが合ってるか」
「そこまで知るか。まぁ……どこか敵視してる感じだったし、奴のライバルの魔物とかじゃないか?」
「ふーん。ま、いっか……ところで。今度こそ、俺たち元の世界に帰れるよな?」
「あ、そうだ。それが最終目標だった ―― ティリアちゃん。ターミナルの修復は出来たかい?」
問われて漸く思い出す、というのも少々、おっとり過ぎる気はするが……訊ねられた電子妖精は、彼女には珍しくやや返事に時間がかかった。
《お待ち下さい。……残存データより、ポイント検索。跳躍航法理論に基づく空間地図展開……座標確定。X=0.9,Y=-6,Z=90。接続試行中 ―――― ……お待たせしました。転送可能です》
「おー、やっと帰れるか! や~ずいぶん長旅だった気がするなー」
《但し接続先がかなり安定性に欠けております。これは恐らく、出口の施設は寿命かと……貴方達の帰還、それは私の全力を以てサポート致しますが、今回一度のみでこの“道”は自然閉鎖されるかと思われます》
「成る程……元々が、相当危なっかしい魔法陣だったからな。夢魔の奴も、その『後一回』が使えればそれでいいと考えてたんだろう……嫌な奴に悪用されてしまったもんだな、転移魔法陣も」
言いつつ顔を曇らせたブルーは、或いはこの世界の住民に謝罪したい気分だったのかもしれない。性能の狂った魔法陣が魔物を次々この地に送り込んだのは別に、彼の責任ではないのだが……その魔物達と同郷という事で重苦しい気分に陥るのも、まぁ解らなくはない。
けれど、そうした点を責めるつもりは全く無さそうなティリアは淡々と告げてきた。
《幸い、ここは制御分室です。歩いて戻らずとも“道”の入口たるイースト・エリアの当該ターミナル前までは瞬時にお送りできます。……本当に有難うございました。眠れる都市・シュティグの全住民を代表して感謝を述べさせて頂きます ―― 形あるお礼をお渡し出来ないのが心苦しくはありますが、どうぞご容赦下さい》
「いや、そんな気を使わなくても……転送してくれるだけで充分、ありがたいよ」
「そうだぜ、気にするなっ。こっちのエルフィンにも会ってみたかったが……よろしく言っといてくれ」
《それは勿論。貴方達は今やエルフィン博士同様、シュティグ住民の救世主です。そのご活躍は逐一、記録してあります ―― 皆が目覚めた時、必ず最初にその記録を伝えるとお約束します》
「や、なんか……そうお固く言われると逆に、なんつーか……」
困惑したかの顔で口ごもったスバノンに、ティリアは淡いながら笑顔を覗かせた。
《貴方達を見ていれば解ります ―― そちらのエルフィン博士もきっと、自分より他者の為に働く素晴らしい方なのでしょう。だから貴方達も、危険な“道”でもその下に帰ろうとするのでしょうね》
「おう、確かにアイツは良い奴だぜっ。美人だし俺の友達だし、それに何たって、これから世界を救う予定な勇者様だしな!」
「いや待て……お前の友達ってのは別に“良い人”の条件と関係ないんじゃ」
「何でだよっ。そこ一番重要だろーが! ま、ともかく俺たち帰るよ。お前も元気でな、ティリア」
最後までこの調子なのは、いっそ褒めて然るべきか……そんなスバノン達に、ティリアが再び笑顔になる。それは今までと異なり、彼らの仲間の少女かと錯覚する程の明るく自然な笑顔だった。
《ありがとう……貴方達の事は、この身が朽ちる時まで忘れません ―― “我が永遠なる親友達”よ》




