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雨神

作者: 椙口音織

毎年のごとく、梅雨の時期が来た。六月に差し掛かってまだ間もない頃合に毎年、この地域は雨が降る。

雨を降らす雨神(あまがみ)様のせいだろうって皆は言うがつまらない空想話に興味は沸かない。

しかし、雨が降るこの時期は丁度、作物画実りやすく育ちやすい。

そして、いつものようにこの時期にしか姿を見せない少女がいた。


「農業は進んではる?」


大きな睡蓮の葉を傘がわりに青い着物を着た、青い髪の少女はにこやかに笑う。

この戦乱の世には似合わない美女。その少女に僕は唾を飲んで頷く。


「ああ、雨神様のおかげで上手い事、今年も大幅に貢献できるよ」


この世は戦で溢れ返っている。農民である自分たちは国の貢献をしないと生きていけない身分。

それ故に雨の日は都合が良い。枯れた大地が水を欲して枯れる、それを防げる。

少女にその事を言いながら笑うとクワの持ち手を差し出して手伝う事を言うが毎年のごとく、やんわりと断られる。


「ほんまぁ……。それはええ事やからねぇ、ウチもお手伝いしとうけど今は体調悪くてなぁ」


どことなく嬉しげに笑いながら少女はそういうと首を横に僕の申し出を断る。

毎年の事だから慣れた事だ。いつものように笑うとクワを手に僕は土を耕す。

その姿を少女は近くの塀から見ていた。


少ししてからか、近くにある城下町の城門が開いて兵士がざわざわと出てきた。

話し声はなんとなく聞こえる。少し離れていようが声はよく聞こえるものだ。

今宵も奇襲だの、なんだの。僕には関係ないが少女は僕を見れば警告を告げた。


「今宵の奇襲作戦は失敗して城内に入り込むわ。今のうちに避難しといた方がええと思う」


ほな、と最後に伝えて少女は傘を手に塀を伝って歩いていく。その背姿を僕はうっとりと眺めていた。

少女が来る日は国が荒れる。不運を呼ぶ少女は同時に農民の僕らに幸せを与えていた。



その日の夜は少女のお告げが的中した。

奇襲作戦は逆にやられてしまい、国を乗っ取られて大騒ぎ。子供のような半端な話ではない。

幾多の帰らぬ人が出た。帰らぬものとなった人の葬式は遺体の損害が大きく、できなかった。

それから何日も経ってから城の君主は病死。国は大荒れし、その隙を他国に突かれて壊滅。

散り散りに皆は逃げた。もちろん、農民は既に避難して新たなる地域で土地開拓を進めていた。



それからか、翌年以降の梅雨には雨が降らなくなった。

少女も見かけなくなって農民の僕らは土に毎日、水をかけていた。

それから十年たった今、少女を見たのは僕一人だけだった。


「どうないしたん?元気ないわぁ……」

「お前……なんで、来なかったんだよ」


あの時となんら変わらない容姿の少女は微笑んでいたが僕の言葉に俯いた。




―――雨神少女と僕。

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