淫裸女万子とプール
ちょっとしたトレーニングの話
学校のプールの時間、あたしは、プールサイドに立っていた。
「それで実際に出来るの」
あたしの言葉に万子は、頷くとプールに浮かべたビート板の上を走り抜けていく。
クラスメイト達が歓声をあげる。
「次は、錬の番だよ」
「解ったよ!」
あたしは、勢いをつけてビート板に足を乗せた。
そして、派手にプールに突っ込んだ。
ジムでその話をすると拳一先輩が呆れた顔をする。
「お前なー、仮に総合格闘技やっているんだから、バランス感覚をもう少し鍛えておけよ」
「バランス感覚は、あるつもりだよ」
あたしの反論に、変な機械でジムの練習生の動きを記録していた万子が言う。
「ビート版の中心を見極められて無かったからだよ。どんなに本人がバランス感覚に優れていても、中心から離れたらひっくり返るだけ」
「それにしても万子は、完走できたのに、お前は、何度もやって半分がやっとだろ?」
拳一先輩の突っ込みにあたしが、言い返す。
「そこまで言うなら、拳一先輩がやってみせてくださいよ」
拳一先輩が視線をそらす。
「残念だが、プールに行く機会が無くてな」
睨むあたし。
「今から行こうじゃないか」
拳造先生がそういってくれた。
「いきなりなんですか!」
驚く拳一先輩に拳造先生が答える。
「トレーニングで利用するプールの視察に行く事になってな、丁度良いです」
顔を引きつらせる拳一先輩。
案の定プールに落ちる拳一先輩。
その横でプールに浮かべられたビート板の上で回転蹴りなどを見せる万子。
「何であんな事が出来るんだ?」
プールサイドに上がってきた拳一先輩の問いに拳造先生が答える。
「重心が何処にあるかを正確に把握している証拠ですね」
「でも、流石に打撃技は、威力は、落ちますけどね」
万子は、ビート板を飛び移って戻ってきた。
「もう一度チャレンジだ!」
あたしが、ビート板に乗る。
今度は、何とか体を乗せられる。
「よし中心を捉えたぞ!」
そう思った時、ビート板が飛んできた。
「危ない!」
あたしは、体をそらして避けたがそのままバランスを崩してプールに落ちる。
「足元に注意を集中し過ぎては、駄目ですよ」
拳造先生が淡々と告げる。
プールサイドに戻ってきたあたしを含めて拳造先生が説教を始める。
「戦いでは、常に足元への注意が必要です。特に実戦では、足を滑らせたり、体重をのせきれなかったりするからです。しかし、先ほどの錬の様に、集中しすぎるのも駄目。意識の一部を足元に常に置きながら周りの状況へ意識を配る。それが出来なければ真の武道家には、なれませんね」
そういって服のままビート板の上を普通に歩く。
周りに居た子供が揺らす波すら予測し、濡れる事もなく向かい側までついてしまう。
「流石拳造先生」
簡単の声をあげるあたし達であった。
プールからの帰り道。
「しかし、拳造先生は、ああ言ったけど、大変だよね」
あたしのボヤキに拳一先輩が言う。
「拳造先生は、俺達の将来の事を考えて教えてくれている。ああ言う技術は、試合では、あまり必要とされないが、実践では、必要不可欠。試合に勝つだけの格闘家でなく、武道家としての道を進めといってくださっているんだ」
「解っては、居るんだけど」
頬をかくあたし。
そんな時、先に行っていた万子が何故かヤクザに絡まれていた。
「嬢ちゃんよ、ぶつかっておいて挨拶なしか?」
「ワビにちょっと付き合ってもらおうか!」
脅しているつもりなんだろうが、万子は、平然としている。
「あれって……」
あたしの言葉に拳一先輩が頷く。
「間違いなく絡ませたな」
「ごめんなさい」
頭を下げる万子。
「謝ってゆるされると思うなよ!」
腕を掴んだヤクザだが、軽く引っ張られたと思うと足を払われて体が浮く。
その瞬間に万子が全体重を乗せた肘を胸に当てて打ち下ろす。
「……」
音にならない悲鳴を上げて白目を剥く、ヤクザの一人。
「本当にゴメンナサイ!」
まるでハプニングのように装う万子。
「おいおい、ただで済ませられると思うなよ」
顔を強張らせて囲み、周りから万子を隠す。
「あーあ、ああ成ったら、完全な正当防衛成立だよね」
あたしの呟きに拳一先輩が同意する。
「運がなかったな」
万子のヤクザの一人の足の小指を踏み潰す。
「ギャー!」
悲鳴をあげるヤクザに他のヤクザが視線を奪われた瞬間、万子が他のヤクザのベルトを抜き取る。
「何しやがる!」
両手でずれ下がるズボンを押えるヤクザ。
手での防御が取れないヤクザの胸に万子の抜き打ちが決まる。
ここまで僅か一分足らず。
倒れるヤクザ達を踏みながらあたしが近づいて言う。
「もう、なに遊んでるの?」
万子が苦笑する。
「ちょっと、確認しておきたい危ない技があったんだけど、丁度絡んできたから」
「嘘付け、お前がぶつかるなんて事あるわけないだろう」
拳一先輩の突っ込みに万子は、視線をそらすのであった。