淫裸女万子の大会出場
大会出場の話
『ですから、何度も申し上げた様に、拳一は、試合直後で子供相手でも勝つのは、難しいコンディションでした。それでも負けなかったのは、格闘家としてのプライドです』
街頭のテレビのニュースで必死に弁明する勝俊社長。
『しかし、偶々その試合を目撃した当社の記者の感想では、充分に試合が出来るコンディションだったと言っていますが?』
記者の質問に更に弁明を続ける勝俊社長を眺めているところに正枝が来た。
「実際、どうだったの?」
あたしは、自信を込めて言う。
「間違いなく、その前の戦いよりすごい戦いだった」
複雑な顔をする正枝。
「あの子だったら充分に考えられるけど、正直悔しい。この世界に居れば男女の壁が明確にあり、越えられない物だと思っていたのをあっさり越えられるなんてね……」
あたしは、頬をかく。
あたしだって同じ気持ちだ。
男にだって負けないと思っていても、いざ戦うとなれば二の足を踏む。
「少しでも近付かないと、その為の大会でしょ?」
あたしの言葉に頷く正枝。
「今回は、負けないから」
「返り討ちにしてあげる」
あたしは、正枝の家族の車に便乗して、大会の告知イベントに向かう。
本当だったら、勝俊社長が同行してくれるはずだったが、拳一先輩の件でそれどころじゃないのだ。
イベント会場で各団体の出場選手の紹介があった。
「一枠余ってるけど、また海外からのサプライズ選手かしら?」
正枝が呆れた顔をする。
実際のところ女子格闘大会は、大規模の物とは、言えず、海外からの参加選手は、たいてい二流の話題作りだ。
フリーの質問タイムになると予測された無関係な質問がされる。
「高橋拳一選手の件ですが、詳しい話を聞かせてください」
黙っているのがベストだと言われたが、難しいので万子と拳一先輩に許可を受けた嘘を吐く。
「拳一先輩のファンだっていうあたしの友達の思いで作りでした。勝ち負けがつくと折角の思いでにケチがつくので態々引き分けにしてくれたんです」
「本当ですか?」
嘘だが正直に言えないので一言。
「信じてください」
後は、適当に流してイベントを終えた。
翌日、万子に勉強を教わった帰り道、突然、囲まれた。
「何、あたしに用?」
あたしの問い掛けに中央にいた、空手着の女性が言う。
「お前とは、大会で勝って優勝の価値をあげる。今は、お前だ!」
万子を指差してきた。
「特に恨まれる覚えは、無いんですけど?」
万子が聞き返すと空手女が言う。
「お前に勝てば、大会の出場権が得られるんだ。あたしの踏み台になれ!」
無造作に踏み込む空手女の腹に万子の指が触れる。
次の瞬間、万子の体が上下し、空手女は、白目を剥く。
「あいも変わらず一撃必殺だね。万子は、滅茶苦茶強いよ」
あたしが牽制すると散っていった。
「何か面倒な事になってるみたいだね」
万子の言葉にあたしが頷く。
ジムで拳一先輩に相談すると呆れられた。
「本気で話題作の為に手段を選んでないな。万子の所に出場依頼来てただろう?」
万子が頷く。
「興味が無いので断りました」
連絡先をどうやって調べたんだろうか。
「何時までも空けたままにしておけないからそれまでの辛抱だ」
「常識ないやつが多すぎ!」
怒鳴るあたし。
それから、毎日の様に勝負を挑まれる万子。
無論、全部圧勝である。
こうなるとまた変な噂が高まる。
「適当な相手に負ければ良い」
相談すると勝俊社長が不機嫌そうにきってすてた。
「そうすると、俺に引き分けた相手に勝ったと喧伝する馬鹿が出てくるんですか?」
拳一先輩の言葉に勝俊社長の顔がひきつる。
万子が諦めた顔をして言う。
「このジムの所属として大会に出ます」
それを聞いて勝俊社長が指を鳴らす。
「それだったら問題ない。しかしでる以上は、勝てよ」
万子は、疲れた顔をして頷いた。
万子と別れ一人家路の中、あたしが呟く。
「万子との公式戦……。勝ちたい……」
こうして大会に出ることになった万子だったが、実績のない万子の出場には、条件が突きつけられた。
大会当日、あたしと同じコスチュームを着てリングに立つ万子に観客も参加選手も驚く。
「あんな小柄の女の子が大の男を倒せるのかよ……」
多くの戸惑いの声。
主催者は、拳一先輩の件を前面に出したかったのだか、万子が拒否した。
交換条件としてプロの格闘家との試合だ。
この直後に行われる予定だが、相手は、まだ聞かされていない。
幾つかのセレモニーの後、万子だけリングに残り対戦相手を待つ。
「お前が拳一と引き分けたって言うのは? かつてのライバルの不甲斐なさには、落胆しか無いな」
リングに現れたのは、拳一先輩に負けて、違う団体に行っていた大友剛、あたしも何度かあった事があるが、良い感じがしない。
ガタイが良く、名前も売れてるので選ばれたんだろうが、予定を無視して、本気になりそうな気がする。
簡単なルール説明の後、試合開始。
大友剛は、余裕綽々にノーガードで言う。
「ハンディキャップだ、一発好きに入れろよ」
解説が言う。
『随分と意地悪な事を言いますね』
『意地悪ですか?』
実況の質問に解説が頷く。
『あの体格差では、まともな攻撃が通じません。淫裸女選手としてみれば、相手の攻撃にカウンターを合わせるしか方法が無い筈です』
万子は、無造作に近付き、腹に指を当てた。
万子の体が上下した後、嘔吐する大友剛。
『どうなっているのでしょうか!』
驚く実況と言葉を無くす解説。
大友剛は、怒り狂い、突進するが、相手のタックルより頭を低くした万子の背負い投げが決まり、マッドに叩きつけられる大友剛。
万子は、追撃しない。
立ち上がった大友剛が言う。
「多少は、やるみたいだが、これが女の限界だ。決定打にならない!」
『確かに。見事な投げでしたが、そのまま寝技に持ち込めない以上、決定打には、ならないでしょう』
解説の人は、かなり誤解している。
万子が終わらせるつもりだったら投げやその後の寝技で充分だった。
ただ主催者から通達された時間までまだまだ達していないから決めなかっただけだ。
大友剛は、投げを警戒してリーチの差を利用した打撃を続ける。
万子は、ある程度余裕をもってかわす。
当たらない攻撃に大友剛が焦れ始めた時万子が時計を確認した。
頷くと大友剛の手首にチョップをして、打ち払うと同時に自分の手が当たる間合いに入った。
咄嗟にガードを固める大友剛だったが、ガードの上から、万子の掌打、『振掌』が入り、後退する。
手打ちのジャブで牽制する大友剛に対して、万子は、肘で打ち返す。
大友剛が攻撃に躊躇すると万子は、股の間に足を入れ、膝裏に爪先蹴りを入れる。
体制を崩さない様に踏ん張った時、膝を蹴られた方の腕が軽く引かれた。
抗うため、その腕を引くと逆手が強く引かれ空中で反転しながら顔からマッドに倒された。
そして、片手を掴み腰に足を置かれた大友剛は、力業で脱出しようとするがその場でぐるぐる回るだけで逃れられない。
「『竹山』は、抜け出すのは、大変だぞ。名前の由来の竹の様にわざと相手を動かせ、その力を腰中心に掴んだ片手で回転運動へ変化させる。理想的な寝技だな」
自分がやられた技の為か、やたら詳しく質問していた拳一先輩が解説するのを周りの記者が必死に書き留0める。
体力を使い果たした大友剛がギブアップして試合が終わった。
その後の一回戦もあたし共々楽勝してこの日の試合は、終わった。
翌日のニュースでは、大々的に扱われた。
『最後の寝技が注目されていますが、私としては、その前の投げに高評価を与えたい。膝裏への蹴りで重心を固めさせ、次の軽い引きで相手に強い力で引かせる。最後は、なんとかバランスをとっていた状態を逆手への引きで倒壊させる。結局のところ大友選手は、自分の力で投げられたみたいな物ですよ。淫裸女選手の技は、女性が男性に勝つための理想を具現化した物と言っても良いでしょう』
昨日の解説が偉そうに言ってるが、試合直後は、解説を忘れ呆然としていた。
大会は、トーナメント形式で、同じジムとなっている万子とは、決勝戦まで当たらない。
「準優勝なんて狙わない」
あたしは、万子に勝つための特訓を続ける。