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淫裸女万子への挑戦者

通し技術の対決です

 あたしと正枝がテレビ番組の企画で古武術の道場に来ていた。

「これが我が道場に伝わる奥義『通し』です」

 師範が列べられた煉瓦に打ち込むが、打ち込まれた煉瓦は、砕けず、中間の煉瓦が砕けた。

 番組スタッフが驚く中、正枝があたしに肘うちをし、小声で呟く。

「驚いて無いね?」

 あたしは、囁き返す。

「今回の事を話したら、万子の祖母が同じ技を見せてくれたから」

 あの時は、驚いた。

 奥から一個飛ばしで一つずつ煉瓦が粉砕していくんだから。

 正に達人技だった。

 それでもあたしは、テレビなので、驚いたふりをして、師範を誉め称えた。

 番組収録が無事に終わり、スタッフの人と師範にお礼を言う。

「突然のお願いにご協力感謝します」

「素晴らしい技を見せていただき感謝します」

 あたしも頭を下げると師範が言う。

「別に構いませんよ。それより気になったのですが、通しの技術の事を何処で知って、番組にしようとしたのですか?」

 スタッフの人が頭をかきながら告げる。

「諸般の事情からお蔵入り入りした撮影の途中に、その技を見て、熟練者だったら今みたいな芸当を出来ると聞いたもので……」

 鋭い目になる師範。

「この技を使う流派ですか? どんな達人ですか?」

 興味では、ない。

 この問い掛けは、技に対するプライドからの対抗心だ。

 それに気付かずスタッフが気楽に答えてしまう。

「高野錬さんの知り合いの女子高生ですよ」

「詳しく話を聞きたいですね?」

 師範のあたしを見る目が怖かった。



 道場の奥の応接間で正枝共々、正枝が研究用と前回番組スタッフが偶々撮った映像と共に万子の話をすると師範は、あからさまに不機嫌な顔をしていた。

「淫裸女流戦闘学、あの面汚しがまだ残ってたか……」

 正枝が首を傾げる。

「知っておられるのですか?」

 師範が嫌々そうに頷く。

「この世界では、有名な恥部。他の流派の技を節操もなく取り込んだあげく、学門だとほざく、名前通りの淫らな連中だ」

 万子から聞いてたけど本当に毛嫌いされてるな。

 拳一先輩曰く、流派それぞれが自分の技にプライドがあり、それを持たず、他の流派の技を盗み続ければ当然の事らしい。

 そんな中、師範と一緒に映像を見ていた、切れ目の大学生、師範の長女、遠野響ヒビキさんが立ち上がる。

「我が流派の技の方が格段優れてます!」

 やっぱりこういう展開に成ったか。

 格闘技をやってる人間は、対抗心が強いその上、かなりこの技にプライドがあるみたいだから当然の反応かもしれない。

 師範が真剣な顔で言う。

「しかし、相手は、女子高生、私が相手をすれば恥だ、お前が証明するんだ」

 響さんが力強く頷く。

「数年の鍛練の差など気にならない圧倒的な格の違いを見せてやります!」

 そんな二人を見て、正枝が囁いてきた。

「いつの間に対決することになったのかしら?」

 あたしは、肩をすくめる。



 数日後、番組が用意した道場で万子と響さんが相対していた。

 あたしが手を合わせて頭を下げる。

「面倒な事にして、ゴメンね」

 万子が苦笑する。

「よくある事だから気にしないで」

「さっさと始めるぞ!」

 響さんが言うなか、知り合いのスタッフに審判として引っ張り出された拳一先輩が手を前に出す。

「試合は、目など急所攻撃及び、投げ技、間接技を禁止の時間無制限、ノックアウト制、異存は、無いな?」

 響さんが拳を鳴らしやる気を見せながら告げる。

「安心しなさい、年下相手に本気なんてならないから。その代わりに明確な力差をみせてあげる」

 負けフラグな気がする。

 万子の了承を確認し、拳一先輩が手を上げる。

「試合開始!」

 万子が直ぐ様動く。

 横に回りこみ、フックの様に掌打を打ち込む。

 響さんは、当然の様に腕でガードしたが、体勢を崩した。

 驚いた顔をする響さん。

「万子、今の何?」

 あたしの問い掛けは、普通なら答えが返って来ないが、万子は、答えてくれる。

「『振掌シンショウ』だよ。一撃必殺の『通し打ち』や『振撃掌』と違って、相手の体勢を崩したりに使う繋ぎ技」

「中途半端技を使って!」

 いきり立つ響さんが、攻める。

 強力な踏み込みから打撃を放つ。

 万子は、それを食らう直前、微かに前進した。

 響さんは、笑みを浮かべる。

「貴女の紛い物とは、違う『通し』の技の威力を思いしった?」

 万子が困った顔をする。

「すいませんが、『打撃殺し』を使ったんで、殆どダメージありません」

 顔をひきつらせる響さん。

 あたしが万子に解説を求めようとするのに気付き、拳一先輩が言う。

「打撃を食らう直前に前に動き打撃点を狂わしたんだ。『通し』も打撃技、打撃点がずらされたら予想した効果が得られない。そのくらい気付け!」

「あんな小さな動きで出来るのですか?」

 後学の為に見学に来た正枝の質問に万子が答える。

「振動を武器にする打撃は、打撃点が重要で、少しでもずれたら予定した効果が求められないの」

「知った風な口を叩くな!」

 響さんは、再び強力な踏み込みからの打撃を放つ。

 万子は、正面から打撃で打ち返し、相殺する。

「相殺なんて生意気な!」

 意地になって連続して『通し』を放つ響さん。

 万子は、その全てを相殺してしまう。

 その様子を見て正枝が理解した。

「なるほど、『通し』には、強力な踏み込みが必要とされる。その為、予備動作があり、そこから技のタイミングや威力を読み取り、相殺しているのですね」

 この時点で万子が手を抜いているのが丸解りだ。

 連続して相殺出来るならカウンターを打ち込むなんて容易なんだから。

 この場でそれに気付いて居ないのは、響さんだけだろう。



 肩で息をしながらも闘志を無くさない響さん。

「いつまでも続けられると思うな……」

 説得力が欠片もなかった。

 そんな中、万子が動いた。

 強い踏み込みがない、最初に打った、振掌みたいな打ち方で、ガードの上から左右のボディーを放った。

「このくらい……」

 響さんが堪えようとしたが、膝が折れた。

「まだよ! まだ闘える!」

 あたしは、拳一先輩が無情にカウントダウンするなか、尋ねた。

「最後のは、どんな技なの?」

 万子が答える。

「『双振交ソウシンコウ』、左右の掌から、振動を送り、体内の目的の場所で交差させる事で大ダメージを与えるの」

 本気で底が知れない流派だ。

「テンカウント、淫裸女流戦闘学の勝利」

 拳一先輩が万子の勝利を宣言した。

「クソー!」

 響さんの悲痛な叫びが道場に木霊する。



「結局、その試合は、テレビでは、放送しないって本当ですか?」

 あたしがジムで拳一先輩に質問した。

「技を公開する交換条件にされたらしい。淫裸女流戦闘学側も異存がないと言ってきた。俺は、ただ働きだ。今度、飯を奢らせるから、万子も連れてこい」

 あたしは、素直に頷く。

「了解」

 そしてトレーニングに戻ろうとしたあたしに拳一先輩は、自然な様子を装い問い掛ける。

「お前は、あいつと俺、どっちが強いと思う?」

 あたしは、答えられなかった。

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