淫裸女万子の密室殺人体験
推理物?
「本当にあちきまで一緒に来てよかったんですか?」
万子が心配そう言ってくるので、あたしは、気楽に返す。
「あっちがタッグを組む同世代の女の子だったらだれでも良いって言ったんだから気にしない」
小さくため息を吐く万子。
「それが一番の心配です。あちき、まともな試合なんてしたことありません」
想定内だ。
「大丈夫だって、試合は、基本的にあたしがするから」
「そうですか?」
不安げな万子。
あたし達は、拳一先輩の知り合いだと言うテレビ関係者の企画の為に飛行機で沖縄に向かっていた。
テーマは、使い古された、南の島で特訓とその成果を試す為の練習試合だ。
「今さら沖縄で特訓って何だろね?」
あたしの呟きに万子がスケジュールを見せてくる。
「どちらかと言うと観光案内見たいです。多分地元のホテルとかが誘致してると思います」
スケジュールを見て、確かにホテルでのロケが多い。
「精々楽しみますか」
気楽なあたしだった。
現地のホテルに着くと脂ぎったサングラスのオヤジが歩み寄ってくる。
「待ってたよ。まあ、気楽にやってくれ、どうせお遊び企画だ」
やっぱりそうだったか。
しかし、先に来ていたあたしの対戦相手の二人組が激しく反応する。
「ふざけないで下さい。私達は、真剣何です!」
長い黒髪で、沖縄なのに袴姿の女子高生は、大会で対戦した、柔術の使い手、真田正枝だ。
「あたいだって高野錬とテレビで試合が出来るから来たんだ、いい加減な事されたら困るんだよ」
こっちは、タイへの留学経験もある女子高生ムエタイ選手、外田麻里。
サングラスのオヤジが舌打ちする。
「リベンジのチャンスをくれてやったんだ、言われた通りにしろ」
不機嫌そうな顔をする正枝に詰め寄る麻里。
「ふざけるなよ!」
タッパのある麻里に襟を掴まれビビりながらもオヤジが言い捨てる。
「帰っても良いぞ。チャンピオンと戦いたい奴ならいくらでも居るんだからな」
悔しそうに手を離す麻里。
「幸先不安……」
万子の呟きが全てを物語っていた。
部屋に荷物を置くと早速撮影が始まる。
ホテル自慢の施設を使ったトレーニング。
あたしと万子が軽く流して居ると麻里がやって来た。
「まさかと思うが、そのガキがパートナーって事は、ないよな?」
あたしは、平然と告げる。
「あたしのパートナー、クラスメイトの淫裸女万子だよ」
麻里は、万子の頭に手を置き、怒鳴る。
「あたいらの相手は、一人で十分だって……」
言葉の途中で、麻里が近くのプールに投げ込まれる。
その光景には、誰もが唖然とした。
すぐさまプールから上がった麻里が叫ぶ。
「誰だ、邪魔するのは!」
正枝が万子を凝視して告げる。
「彼女です。彼女がしゃがみ、一瞬体勢を崩した貴女を放り投げたのです……」
信じられないって顔をする周囲にあたしが告げる。
「勝率一割、あたしが万子とスパーやった結果だよ」
「お前より強いって言うのか?」
麻里の質問にあたしが溜め息を吐く。
「認めたく無いけど、現時点では、数段上を行かれてる……」
唾を飲み込む正枝と麻里。
そして事件は、起こった。
「プロデューサーが殺された!」
朝食の席で告げられた事に驚くあたしに拳一先輩の知り合いのADが小声で続ける。
「それも密室殺人だよ」
とんでも無いことになってきた。
「プロデューサーは、何かとトラブルが多くってね。今回の企画も、出演者の宿泊代は、要らないと言っていたのを拡大解釈してスタッフの分までただだろうと言って、ホテル側とトラブルになっていたんだ……」
隣で茹で卵の殻と格闘していた万子が質問する。
「よくそんなプロデューサーを使ってましたね?」
ADが苦笑する。
「この業界、視聴率が全てって、空気があるから……」
呆れ顔になるあたし達。
一応、あたし達も事情聴取を受けたが、警察も密室殺人だけにどうしたらいいのか困惑していた。
「まさか本当の密室殺人と遭遇するなんて……」
戸惑った顔を見せる正枝。
「折角のリベンジのチャンスが無くなったじゃないか!」
舌打ちする麻里を見て万子が頬をかきながら言う。
「あちきだったら密室でも、殺せるよ」
周りが驚くなか万子が立ち上がる。
「論より証拠、実践するよ」
犯行現場に移動した後、万子が説明する。
「今回の事件は、外部から侵入出来ない状態の被害者が壁に背を預けて内臓破裂していた。こんなことが可能でしょうか?」
麻里が怒鳴る。
「出来ないから密室殺人で、警察が犯人を見つけられないんだろうが!」
万子は、枕とシーツでダミー人形を作り、椅子に座らせて部屋を出ていった。
「何をするつもりなんだ?」
現地の警官が眉をひそめるなか、万子の声が廊下からする。
「行きます。淫裸女流戦闘学、透し打ち」
ダミー人形の枕が弾け飛ぶのを見て誰もが驚愕した。
「トリックだ! トリックに決まってる!」
怒鳴る麻里を尻目に正枝が呟く。
「まさか、私達と同年代で裏打ちを体現出来るなんて……」
戻ってきた万子が説明する。
「振撃掌と同じで、振動が壁を通して送り込んだの。この技術の熟練者に成れば並べたレンガの狙ったレンガだけを破壊出来るそうだよ」
気楽に言ってくれるが間違いなく達人技だ。
意外な事実に警察が混乱する。
「こんなことが出来るからなんだって言うのよ!」
麻里が怒鳴ると万子が訪ね返す。
「一つ聞いて良いですか? 何で錬との試合を諦めたんですか?」
意味がわからない質問に麻里が明らかに動揺する。
「殺人事件何だから当然だろ……」
「出演者は、誰も欠けてない。第一、番組なんか二の次、錬に勝つことの方が大切じゃないんですか?」
万子が追求に黙る麻里。
「どうしてそんな事を気にするのですか?」
正枝の質問に万子が麻里を見る。
「何か業と錬に拘ってる様に見えたからね。その理由を考えたらね……」
視線が集中する中、麻里が万子に接近すると必殺の肘を放つ。
「折角の完璧な作戦を出鱈目な技で台無しにするなんて!」
万子は、更に踏み込み、指を腹に当てる。
肘を避ける上下運動に合わせて放たれる振撃掌が一撃で麻里を戦闘不能にした。
帰りの飛行機の中、あたしが呟く。
「あのプロデューサーもとことん最低だったな」
万子が頷く。
「金になるからって、タイの子供をテレビの番組だって入国させて、非合法な仕事をさせていたなんてね」
正枝が溜め息を吐く。
「その一人が麻里さんの留学中の知り合いで、東京で再会した」
あたしが続ける。
「悪行を知った麻里は、恩返しもあって、密室トリックを考えて殺害計画を行った」
正枝が万子を見て言う。
「それなのに密室トリックを台無しにする技の使い手が居た」
万子が苦笑する。
「実は、あれって無理があるんですけどね」
あたしが首を傾げると正枝が解説する。
「物理的には、可能でも、相手の位置が解らない限り実行不能、詰まり密室の条件が成立するような状態では、無理なんですよね」
万子が頷く。
「麻里が怪しかったから、動揺させようとやって見せたんです」
あたしが苦笑する。
「その罠にまんまと嵌まったのか。ところで正枝は、あたしとの決着は、いいのか?」
正枝は、肩をすくめる。
「あんな技の使い手が居るのに貴女とどっちが強いなんてあまり意味が無いですからね」
あたしも頷くしかなかった。