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淫裸女万子の家族構成

家族のお話です

 体育の授業、それも柔道。

 正直、苦手だ。

 強すぎて相手も嫌がるし、素人と相手だと手加減が難しい。

 しかし今回からは、違う。

「万子、相手して」

 万子があっさり頷くと周りがチャカス。

「弱いもの虐めは、駄目だよ!」

「虐められるのは、こっちだよ」

 ぼやくあたしにクラスメイトがまたまたって顔をする。

 柔軟体操を終えて投げの練習。

 多少体格差があって投げ辛がったが、そんなことより問題なのは、何故か万子が足から着地している事。

「どうやってるの?」

 やりながら聞く。

「投げられる前に自分で跳んでるだけ」

 万子は、何でも無い事の様に言って居るが、早くても、遅くても駄目、あたしの投げるタイミングを完璧に掴んでいる証拠だ。

 次に万子が投げる番。

「淫裸女、無理しなくても良いぞ」

 体育教師がそう言うと万子が頭を下げる。

「ありがとうございます」

 そして、組まれた瞬間、体勢が崩され、踏ん張ろうとした時には、畳に背中がついていた。

「投げに大切なのは、崩し。それさえ上手く行けば、後は、タイミングよく動くだけ」

 万子の説明を聞きながら立ち上がり、組む。

 今度は崩されない様に腰を据える。

 右手を引っ張られたので引き返す。

 するといきなり引く力が無くなる。

 体が游いだ瞬間、逆の手が引かれ、体勢が崩される。

 再び投げられるあたし。

 その後も必死に抵抗したが、耐える事が出来なかった。

「次、寝技の練習」

 背中を合わせて、先生の合図で同時に動く。

 先に倒したのは、あたし。

 柔道の寝技の中でも外し辛いと言われる横四方、きっちり決まったと思った時、あたしの首と右股に万子の腕が入る。体重が逃がされた瞬間、万子の頭が脇を押し上げ、そのままびっくり反される。

 気が付いた時には、袈裟固めを掛けられてしまっていた。

 あたしは、足を伸ばして万子の足を取ろうとするが後少しの所で若干動かれ届かなくなる。

 もう少しと頑張るが何度やっても同じ結果だった。

 そのまま三十秒が過ぎてしまった。

 寝技を解かれ、再び背中を合わせる。

「今度こそ!」

 勢い込めて押し倒そうとしたが、何故か空中で反転させられ押さえつけられていた。

「何が起こったの!」

 もがきながらの質問に万子は、押さえ付けながら答える。

「跳ぶとどうしても発生する、重力と上昇ベクトルの均衡時間。その状態だと小さな力で動かす事が出来るんだよ」

 詰まり跳んだあたしが頂点に達した瞬間、体を反転させられたのだ。

 理屈は、わかったが脱け出せない状態は、変わらなった。



 体育の後の教室。

 あたしは、机に突っ伏していた。

「たった数分だった筈なのに、どうしてこんなに疲れてるの?」

 スポーツドリンクを買ってきてくれた万子が説明してくる。

「押さえ付けられた状態で動くのは、普通と違う力の使い方するから余計に力を使うの」

 万子を見上げ言う。

「押さえつけてた万子は、どうして平気なの?」

 小さな力瘤を作る万子。

「鍛え方が違いますから」

 口を尖らせるあたし。

「練習量だったら負けないと思うけど?」

 苦笑する万子。

「だから鍛え方が違うんです。立ち技メインの錬は、どうしても蹴りやパンチに必要な筋肉を優先する。あちきは、どんな動きにも対応出来るように鍛えあげてる。簡単に言えば、錬は、短距離選手で、あちきは、中距離選手って感じです」

「そんなもんなのかな?」

 あたしの言葉に万子が頷く。

「何かに特化すれば何かが落ちる。生物学上の定めだってお母さんが言ってます」

 万子の母親か、少し興味がある。

「その人も淫裸女流戦闘学を使えるの?」

 首を横に振る万子。

「嫁入りしていて、大学で運動物理学を教えてる。因みに女性に受け継ぐ事になっててお父さんは、栄養士。お祖母ちゃんに習ってる」

 面白い家族構成だ。

「どういう切掛けで知り合ったか興味深いね」

 万子は、淡々と答える。

「大学で、エネルギーの摂取と消費について共同研究したのが縁だって聞いてる」

「意外な繋がりだね」

 あたしが感心すると万子が首を横に振る。

「お父さんは、元々戦闘時に効率のよいエネルギー摂取の研究をしてたから、自然の流れだよ」

「一度、会ってみたいよ」

 あたしの感想に万子があっさり言う。

「だったら家にくる? 今日だったら家族が揃ってるから」

「行く!」

 こうしてあたしは、淫裸女家に訪れる事になった。



 淫裸女家は、想像と違い近代的な三階建ての家だった。

「一応、両親とも本を出して売れてるから」

 玄関に置かれた、格闘技に関する研究書とスポーツ食の本を見せてくる万子。

「何故に玄関にあるの?」

 あたしが質問に万子が顔を紅くする。

「お祖母ちゃんがお客さんに自慢する為に置いてあるの」

「お茶目なお婆さんだね」

 あたしが呟いた時、後ろから声がかけられる。

「自慢の息子夫婦だからだよ」

 振り返ると何処にでも居そうなおばさんがいた。

「万子のお母さんですか?」

 馬鹿笑いをあげるおばさん。

「これでもあんたが通っている所のじいさんと同じ年だよ」

「嘘!」

 驚愕するあたしの肩を叩き万子のお祖母さんが言う。

「あんたも、若さを維持したかったら、規則正しい生活を心掛けな。あのじいさんは、若いことを良い事に暴飲暴食に徹夜を繰り返してたからつけを払ってるんだよ」

 よく覚えておこう。

「話は、聞いてるよ、上に来な。息子が体に良い三時を用意してるよ」

 万子のお祖母さんに案内されるままに入る。

「お邪魔します」

 二階に上がるとリビングがあり、そこには、本格的なティータイムがセットされていた。

「凄い!」

 あたしが感心してると万子が不思議そうな顔をする。

「うちは、普段からこうだよ」

 そんな中、奥から巨漢の男性がやって来る。

「いらっしゃい、私が万子の父です。何時も万子がお世話になってます。今日は、遠慮なく食べてください」

「ありがとうございます。それじゃあ、遠慮なく」

 クッキーを口に入れる。

「美味しい!」

 あたしは、次々に手を伸ばす。

「気に入って貰えて良かった。気合い入れて焼いたかいがありました」

 万子のお父さんの言葉にあたしが驚く。

「嘘! 買ってきたんじゃなく、本当におじさんが焼いたんですか?」

 万子が頷く。

「カロリーとかの調査の為にたいていの物は、材料から作ってるよ」

 ため息混じりにあたしが言う。

「冷食のオカズばっかりのうちの母親に見習わせたいよ」

「うちの母親は、家事は、全くしないけど」

 万子の衝撃の告白に驚くあたし。

「本当なの?」

 笑顔で万子のお父さんが答えてくれた。

「研究が忙しくってね。私の場合は、料理が研究の一部だから」

「おやつを食べたらお母さんの研究室に行こう」

 クッキーを頬張りながらあたしが頷く。



「入るよ」

 万子がドアを開けて中に入るとそこは、不思議な実験装置が溢れていた。

 その中心にいるのは、白衣を着た凄く美人の女性がいた。

「初めまして、貴女が高野錬さんよね?」

 あたしが緊張しながらも頷く。

「はい。しかしお綺麗ですね」

「無駄にね」

 万子の言葉にその母親まで頷く。

「綺麗だからって研究の足しになるわけでもないし、逆に邪魔になることが多いのよね」

 間違いない万子の母親だ。

 その後、何故か幾つかの数値取りに協力させられた。



「お疲れ様」

 麦茶を渡してくる万子。

「ありがとう。ところであれは、何をやってるの?」

 あたしは万子の母親とお祖母さんがパソコンの画面とにらめっこしてるのを指差す。

「現代のパンチ時の筋力の使い方の変化の考察」

「何それ?」

 眉をひそめるあたしに万子がパンチを何発か打ちながら説明する。

「全く同じパンチでも、時代によって、筋力バランスが異なるの。理由は、色々あって、体型の違い、運動力学の発達等々。でも不思議な事にファッションと同じで何十年単位で繰り返される可能性があるって、過去の資料を調べてる所」

 難しくてよくわからない。

「それって意味があるの?」

 万子が苦笑する。

「ほとんどない。そんな事を調べるより、練習量を増やした方が威力あがるね。でも僅かな意味を積み上げていくのが、学問なんだよ。そこが実戦を重視する錬たちとあちき達の一番の違いかな」

 あたしはその姿に淫裸女流戦闘学の真髄を見た気がした。



 翌日ジムでその話をすると、拳一先輩が肩をすくめる。

「俺には、真似できないな」

 あたしも頷く。

「やっぱり、体を動かして練習する方をとりますよね」

 すると師匠が来て言う。

「だがな、常に考えて練習することは、後進育成には必要だ。自分だけにしか解らない感覚的な物を感覚的に教えるだけのやり方では、これからの格闘技では、生きていけない。自分が掴み取った技を完全な形で継承し、発展させていく。肝に命じておくんだぞ」

「はい!」

 返事をしながら、あたしは、自分なりのやり方を見付けるのに万子のやり方が助けになると思うのであった。

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