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淫裸女万子の戦闘学のススメ

タイトルは、エッチですが、格闘物です

 あたしの名前は、高野タカノレン、高校二年生だが、女子総合格闘技大会のチャンピオンだ。

 学校でもそれなりに有名人で、ファンクラブまである。

 そんな環境の為、学校は、色々と面倒な場所だった。

 そんなあたしに普通に接してくれる子がいた。

 未だに小学生に間違えられる彼女の名前は、淫裸女ミダラメ万子ヨロズコって、変わった名前の子だけど、真面目で、何かと遅れがちな勉強を教えてくれる、あたしと正反対の文系の子だ。

 今日も図書室で苦手な数学を習っていた。

「あたしの脳ミソは、数学が出来るようになってない」

 万子は、淡々と数式を分解しながら言う。

「少なくとも数学においては、日常生活をおくれるなら問題ない。問題は、出来ないと諦める事。これなら解りますよね?」

 万子が分解した数式は、あたしにも十分に解るレベルになっていた。

「数学だけじゃなく、大抵の問題は、読みといていけばちゃんと解けるはずです」

「その読み解くのが難しいんだよ」

 あたしのクレームに万子に眉をひそめる。

「そこが醍醐味だと思うけどな?」

 万子らしいな。



 勉強を終えて、雑談をしながら下校していると、立派なガタイをした格闘家が立ち塞がった。

「女子総合格闘技のチャンピオンの高野錬だな?」

 大きくため息を吐く。

 チャンピオンになってからこの手の輩がやって来る。

「そうですが、何か用ですか?」

 格闘家が上着を脱いで筋肉を見せつけてくる。

「世間は、お前を過大評価している、戦いは力こそ全て。この筋肉の前では、お前の攻撃など無意味だ!」

 完全な勘違い男だ。

「確かに貴方がそうやって身構えている限り、あたしの攻撃を無力化出来るだろうけど、戦いってそれだけじゃないでしょう?」

 勘違い男は、笑みを浮かべる。

「認めたな! やはり俺は正しかった!」

 あたしの言葉をここまで曲解出来るのは、ある意味才能だ。

「守ってるだけじゃ勝てないよ、攻撃に合わせたカウンターが決まれば一発で終わる可能性もあるよ」

「そんなのは、運不運の問題で実力とは関係ない!」

 試合に負けても全部運のせいするタイプだ。

 まともに相手をしていたらきりがないが、万子もいるから下手な事は出来ない。

「それで、貴方は、何がしたいの?」

「俺と戦え!」

 ストレートな男、正直まともな試合なら勝つ自信はある。

 しかし、ウエイト差がここまである相手に守りに入られたら崩すのは、難しい。

「野試合なら受けないよ。だからジムに来てそこだったらいくらでも相手してあげる」

 まともな試合になるように誘導してみる。

「駄目だ、ここで戦え!」

 話しが全く通じない。

 ここは、相手をするしかないと思い構えに入ろうとした時、万子が無造作に近づき、五指の先を男の腹に触れさせた。

「鍛えぬかれた筋肉の壁を無力化するのは、難しい事じゃないんですよ」

 男は、反発する。

「そんなことは、ない! 鍛えた筋肉は、絶対だ!」

「万子、離れて。そいつの相手は、あたしがする」

 万子は、淡々と告げる。

「一撃で終わりです」

 その瞬間、万子の体が激しく上下した。

 そして男が地面に崩れ落ちる。

 こんな真似は、あたしでも無理だ。

「いま、何をしたの?」

「淫裸女流戦闘学、振撃掌シンゲキショウ、古流にある鎧抜きと呼ばれる技法に近い技で、うちの場合、体重の上下移動と踏み込みのインパクトを掌を当てる衝撃にプラスし、斜め下から上に撃ち込み、強力なダメージを筋肉を透過し直接内臓に与えています」

 あたしも総合格闘技をやっている人間だから鎧抜きや体重移動を攻撃に使う技があることぐらい知っている。

 しかしそれを実践で見せられたのは初めてだった。

 そしてこれが異質な格闘技、淫裸女流戦闘学との出会いであった。



 その日のジムでさっきの事を話すと尊敬する先輩で、あたしより何倍もメジャーな高橋拳一先輩が首を傾げた。

「正直しんじられないな」

「でも実際に一撃で倒したんです!」

 あたしが主張すると拳一先輩は、手を振る。

「そっちじゃない。理論的にもそんな筋肉馬鹿だったら十分に倒せる技だよ」

 あたしが口を尖らせる。

「だったら何が信じられないですか?」

 拳一先輩が真剣な顔で言う。

「技を細かく解説した事がだよ。鎧抜きの技法の多くは門外不出、間違っても技の論理を説明しないぞ」

 言われてみれば確かに異常だ。

 あたしも首を傾げているとジムの創立者であたしの師匠、拳一先輩の祖父、高橋拳造先生が教えてくれた。

「それは、淫裸女流戦闘学だからですよ。名の由来が節操のない淫らな女の様にいろんな武術を習い取り込んでいる事からの蔑みから来ていて、この業界では、まともな流派と認められていません」

「節操なしの武術か、確かにそんな匂いをさせる技ですね」

 拳一先輩が納得する中、あたしは、直球の質問をする。

「強いのですか?」

 拳造先生は、遠い目をして答えてくれた。

「勝ったら結婚を申し込む予定でしたが、結局、勝てないまま亡くなった妻に出逢ってしまいましたよ」

 拳一先輩ですら遠く及ばない拳造先生にそこまで言わせる武術にあたしは、強い興味を持った。



 翌日の昼休み、万子を捕まえて話をする。

「どんな流派なのか知りたいんだけど教えてくれる?」

 万子はあっさり頷く。

「最初に言っておくけど淫裸女流戦闘学は、戦闘を学習し、研究する事を大事にし、戦いに勝つ事は二の次なるよ」

 眉をひそめる。

「勝つのが二の次って、随分と変わってるわね」

 万子は、今度もあっさり頷く。

「だから、異質扱いされてる。大体一子相伝を旨にしているのに技の秘匿は一切してないから、まともなところにしてみれば名前通りの変態だと思われてる」

「万子は、それで良いの? あれだけの実力があれば十分メジャーに成れる」

 あたしが極々当然の事を言うが、万子は、全く興味が無さそうに言う。

「あちきの夢は、もっと学問として体系化する事だから」

 本気で変わっている。

 あたしは立ち上がり構えをとる。

「言葉を並べるより、拳をまじえた方が解りやすい。やりましょ」

 万子も立ち上がり合気道に近い構えをとった。

「ルールは?」

「基本寸止め、後は、フリー!」

 言いながら、ジャブを放つあたしに更に近付き、お腹に手を当てる万子。

 昨日の技を警戒して大きく間合いを空けると万子は、後回し蹴りを出して来た。咄嗟に更に後に下がったあたしの顔の横を万子の爪先が通り過ぎる。

「まずは一本で良い?」

 あたしは頷きながらも質問する。

「何故蹴りの軌道が大幅に変化したの?」

 すると万子は少し離れて、再び回し蹴りをするがその途中で、軸足が地面を蹴りあげていた。

「ニ蹴と言ってる。威力は落ちて必殺じゃなくなるけど、相手を怯ませて次の攻撃に繋げるの」

 初めて見る技にあたしは、驚きを隠せない。

 結局、十回やって勝てたのは一度だけだった。

 一度勝てたと言う事実が逆にあたしを落ち込ませた。

「ルールや相性で絶対勝てないって訳じゃないってことだもんな」

 その上、目新しい技も多かったが勝負を決めた技の多くがよく知っている技だった。

「錬も凄い、純粋な技の切れだったらあちきより数段上です」

 完敗したあたしは苦笑いをするしかなかった。



 今日は、ジムの練習時間が早いため、図書室で調べ物をしている万子を残し先に下校するあたしの前に昨日の男が現れる。

 懲りない男だが丁度良かった。

 万子に負けたフラストレーションを解放する相手になって貰おう。

「戦うつもりなら、相手してするけど、時間をかけられないよ!」

 構えるあたしに対して男は、笑みを浮かべる。

「こちらもそのつもりだ」

 余裕に違和感を覚えた時、背後に気配を感じ、体に電気が走った。

 倒れる中、後ろを見るとスタンガンを持った男がいた。

 昨日の男が言う。

「お前との勝負はまた後だ。淫裸女流戦闘学なんて卑怯な技を遣いやがって。お前を人質に正々堂々と勝負してあのガキに身の程を知らせてやる」

 人質をとっておいて正々堂々なんて腐った奴、体が動けばあたしが性根を直してやるのに。

 スタンガンの男があたしの携帯を使って万子を呼び出す。

「錬に、変なことをしてないよね?」

「逃げずによく来た、こいつを無事に返して欲しければ、淫裸女流戦闘学なんて卑怯な技を遣わず正々堂々と勝負しろ!」

 腐れ男が宣言した後、あたしが叫ぶ。

「あたしの事は気にしないで自分の戦い方を貫いて!」

「黙ってろ!」

 スタンガン男がスタンガンを当ててくるがあたしは、黙らない。

「自分以外の戦い方を卑怯と罵って認めないあんたの方が卑怯だよ!」

 腐った男があたしを睨む。

「たかがガキの大会で優勝しただけの小娘が偉そうな口をききおって!」

 まだ動けないあたしを力いっぱい殴る。

「錬!」

 叫ぶ万子にあたしが笑顔で応える。

「腐った男の拳なんて痛くも痒くもない。好きに戦って!」

 次の瞬間、万子が消えた。

「どこに消えた!」

 腐った男が周囲を見回す中、その足元に到達していた万子が足を鞭の様にしならせ、腐った男の股を蹴りあげる。

 腐った男は、白目剥き、泡を吹いて倒れる。

 そのさまにビビったスタンガン男は、スタンガンのトリガーに指を添え、あたしを盾にする。

「スタンガンだって何度も食らえば命取りだぞ!」

 すると万子は大きく息を吸う。

『ケェェェ!』

 甲高い声にスタンガン男とあたしが硬直する。

 その間に万子がスタンガン男のスタンガンを蹴り飛ばす。

 硬直がとけたスタンガン男が飛んで逃げていく。

 解放され、倒れそうになるあたしを支える万子。

「大丈夫?」

 あたしはガクガクしそうになる足に力を入れて一人で立って強がる。

「このくらい大した事じゃないよ。それより解説をお願い」

 万子はあたしをじっくり見て苦笑する。

 多分、強がっている事はばれただろうが今更止められないし、やめる気もない。

「最後のは、凶鳥鳴き、特定の音波で人を一瞬だけ硬直させる技。最初のは、単純に極端に低い体制を取って高速で動いただけ。人は、左右の動きより上下の動きの方が捉えづらいんだよ」

「なるほど、元々小さい万子がやれば効果倍増だね」

 あたしの軽口に少しだけ不機嫌そうになる万子から倒れたままの男に視線を移す。

「自業自得と言え、男は、廃業みたいね」

 ズボンが真っ赤に染まっている以上、急所もただでは、済まないだろう。

「男としてはどうか知らないけど格闘家としては、おしまいだね」

 その後、警察が来て、男逹は、逮捕、当然万子には、正当防衛が認められおとがめ無しだった。



 翌日、殴られた顔にシップをしてジムに行く。

「今日くらい休んでも良かったんだぞ」

 拳一先輩が優しい言葉をかけてくれるが、あたしはトレーニングを始める。

「昨日も休んでますからこれ以上休めません」

 肩を竦めた拳一先輩だったが、思い出した様に言う。

「万子ってお前の友達、随分とえぐい事をするな」

「急所潰しでしたら、あの時は、仕方ない事ですよ」

 あたしのフォローに拳一先輩が手を横に振る。

「潰されたのは肛門だ。よく穴に力を入れろって言うだろ。あそこを壊されたら間違いなく格闘家は、廃業だな」

 驚くあたしに拳造先生が教えてくれる。

「淫裸女流戦闘学では、相手が男でも女でも有効な攻撃が研究されている」

 それを聞いて、あたしの中での淫裸女流戦闘学への興味が強くなった。

 そして、実際に深く関わる事になるのだがそれはまた別の話である。

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