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CROWN  作者: 緒俐
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第七話:攻撃補助

 ほんの一瞬のことだった。おそらく動態視力が余程優れたものでなければ、まず捉えられない領域の芸当。それをやってのけた陸にとってはもはや当たり前の戦法だが、初めて体感した昴の鼓動は早い。


 だが、それ以上に呆気に取られていたのはフィールド内の三年生だった。そう、誰もが想定していなかった出来事だったのだから……


「何が起こったんだ……?」

「苦無が消えた? いや、避けたのか?」


 そんな訳があるか、と昴は心の中で突っ込む。こっちは丸腰で特攻しろと言われたのだ。おまけに魔力の制限まで付けられては苦無を消すのは疎か避け切ることは明らかに不可能だった。


 ただ、三年生達には当然それを言っても聞き耳など持ちはしない。寧ろ、昴を睨んで完全に彼の性だと思い込んでいた。


「あの初心者が何かしたんだ! 早く潰せっ!!」


 違う、自分は何もやっていない、と当然言ってる暇はなく殴り飛ばした三年生の傍にいた同学年の仲間が二人、昴に向かって殴り掛かって来た!


「うわっ!!」


 二人が繰り出した攻撃を昴は後ろに跳んで避ける。さすがに二人掛かりだと余裕が無くなるのかと三年生達は思うが、昴が動揺していた理由は主に二つあった。


 一つは先程消えた苦無の謎。突っ込めと陸に言われて無我夢中で突っ込んだ訳だが、微かにだが苦無は弾かれたように見えた。

 しかし、音が全く無く一遍に数本弾ける芸当を持つ中学生など聞いたことがない。それも苦無に大した魔力も纏わせずにだ。


 そしてもう一つが今のこの状況。陸に制限を掛けられているため確かに魔力は発動しづらいが、三年生の相手をするのにそこまで辛い訳ではない。

 寧ろ反撃のチャンス時には一気に力を上げてくれている。その効率があまりにも良過ぎて動揺してしまうのだ。


「くっ……! 喧嘩慣れしてんのかよ!」


 そんな風に見えるのか、と昴は思う。確かにいつもならどこかで使う無駄な力は全くと言っていいほど出て来ない。出す前にそうするなと自然に力は必要な部分に流れる。

 ただ、魔法格闘技においてそれこそがスタミナを持続させるために重要なスキルだ。


「初心者がっ!!」


 パシンっ!と痛快な音が響き渡る。それは昴の顔面を殴ろうとした拳を止めた音。

 これ以上の暴言は飽きたといわんばかりに彼は普段の人懐っこい表情から一転、まるで正反対の刃のような視線を相手に向けた。


「初心者、初心者ってうるさいっスよ。あんた達より魔力は上なんで少しは認めて欲しいっスね」

「ノヤロっ……!」


 その怒りにピクンと陸は反応した。魔力の制限は四割と言っておいたはずなのに、感情が抑え切れずそれを無理矢理外そうとし始めたのだ。


 もちろん制限なので陸自身がそこまで魔力を使うわけではないのだが、無理矢理抗われてしまうと味方の魔力を抑さえ付けるといった形になるので、陸も魔力を発動しなければならなくなってしまう。


 こればかりは仕方ないかと、まだ予想の範疇立ったため陸は傍にいた雅樹に任せることにした。


「雅樹君、すみませんけど」

「ああ、行ってくる。だけど昴の制限は五割にしてやってくれねぇか?」

「その必要は……」

「そっちの方が陸も楽だろ? それに俺だってあの三年共にはムカついてんだ。陸にもだが藍達にも弱いと言いやがった。だからその分の落し前はきっちり付ける!」


 仕返しは任せとけ、と向けて来る笑みに陸は雅樹の頼もしさに微笑み返したいところだが、ほのぼのするのは試合の後だと彼は一瞬のうちに切り替えて無表情のまま、いつものように返した。


「……昴君も初心者だと罵られてましたけど」

「あいつは強いから気にすんな。寧ろ腐るほど働けってんだ!」


 これからコキ使われるんだろうな……、と思いながらも、そうなっても特に気にしないのが陸が雅樹の相棒たる由縁。それにあれほどの才能があって働かなければどの道風雅にシバかれるだけだ。


「んじゃ、あいつのことは頼んだぞ」

「ええ、任せて下さい」


 そして雅樹は乱戦と化している昴の元へと飛び出した。


 今現在、相手側のダウンは一名だがおそらくそろそろ復活する頃。控えも一名なら出してくるのはあと数分後。

 涼、藍、真理の三名は一対一の攻防戦だが四割の魔力制限で十分戦えているため心配いらない。雅樹に昴の救援も頼んだとなれば楽をしたいところだが、おそらくそれでは納得しないだろう者達が多数だ。


「……蓮君の出番は諦めてもらいましょうか」


 あとで先輩達と戦ってもらえば実力は分かるだろうし、と若干申し訳なさを感じながら陸は少しずつ魔力を高め始めるのだった。


 そして、昴の方は雅樹の言うとおり、経験不足のためか四割の制限を無理矢理やぶろうとしている状況に追い込まれ始めていた。


「一気に片付けてやる!!」

「うわっ!!」


 急に攻撃速度が上昇する。しかし、それ以上に一撃喰らえばそれなりにダメージを受ける威力の方が大問題だ。

 魔法格闘技においてもっとも戦闘者が使う格闘技の型「豪拳」。魔力を纏うことによりスピードはもちろん、大きなダメージを与え体力を減らすオーソドックスな格闘タイプだ。


 しかし、天性の反射神経を持っているのか、昴はギリギリそれを回避、または防御出来ていたのだが反撃に転ずる事が出来なくなった。


『豪拳二人辛っ!! やっぱり腐っても一軍ってことっスか!?』


 声に出していたら余計攻撃がきつくなりそうなことを思いながらも昴は戦う。


 魔力は高くとも経験の差は必ず出て来る、と試合前に言われていたことにようやく納得した。スポーツ万能であるがために致命傷は負わなくとも確実にスキルのなさがこの状況を生み出している。


 しかし、このままでは肉体面のスタミナが確実に削られてしまうと思い、何とか攻撃を繰り出そうとしたその時、青いオーラを身に纏った野性児が昴の視界に飛び込んで来た!


「全く、その程度の豪拳ぐらいさっさとかわして片付けろよな」

「グハッ!」

「ブホッ!」


 突然飛び込んできた豪拳のスペシャリストは昴と三年生達の間に無理矢理入り込むなり、あっさりと三年生達の腹部を蹴り飛ばして昴を背に庇った。


「ま、雅ちゃん!?」


 一体どうやって今のを捌いたんだと昴は目を見開く。特別に速かった訳でもないが、攻撃の合間に反撃する流れがあまりにも型に嵌まっていないスタイルで戸惑ってしまった。


 しかし、そんなことぐらい余裕だと言わんばかりに雅樹はニッと呆けている昴に微笑を向けた。


「何だ、さっきまでの勢いは無くなったのか?」

「な、無くなったりなんかしないっスよ! あまりにもいろいろ有り過ぎて驚いてるだけっス!」

「ああ、確かに陸の攻撃補助は驚くかもしんねぇな。目の前で苦無が消えるみたいなもんだし」

「……攻撃補助?」

「ああ、さっき体験しただろ?」


 まぁ、実際は苦無を弾いてるんだけどな、と今まで何度も陸の攻撃補助を受けて戦っている雅樹は淡々と答える。

 しかし、さっき雅樹に助けてもらったことですっかりその疑問が頭の中から消えていた昴は思い出したかのように声を上げて驚いた!


「って! あれって陸ちゃんがやってるんスか!? 魔力切れで倒れたらどうするんスか!!」

「いくらあいつでも苦無投げる程度の魔力じゃバテねぇよ……。あとお前、あれだけ攻撃かわしてそこまで疲れてねぇことにも気付け」

「そこまでさせてるなんて……! やっぱり陸ちゃん死んじゃうっスよ!!」

「だから魔力を無理矢理抑えつけてんのと制限は違うってぇの! 大概理解しろタコッ!!」

「だけど陸ちゃんに何かあったらどうするんスか!!」


 フィールド内で口論が始まる。何でそうなるんだ……、と二人を除く者達は思うが突っ込んでいく気力があるものはいない。


 そして、そんな口論に魔法格闘技内でも常識人の部類に入る修平は同じく常識人だと信じている蓮に脱力しながらも尋ねた。


「……東條」

「何です?」

「お前苦労してるだろ」

「それなりに……」


 それは否定出来ない。雅樹一人だけでもかなり手を焼くというのに、これでは昴も同じように面倒を見る羽目になることは決定したも同然だ。

 もちろん、昴の教育係もとい飼育係は陸だろうが、中一全体の面倒は蓮が見るようになるのが昔からのお決まりだ。


「それと風雅、中一共がこれからの成長も考えれば充分一軍の実力があるとは分かった。木崎も三年生二人掛かりで制限四、五割なら一軍でも構わない」

「そうか、物分かりが良くて助かるよ」


 未だに杏を後ろから抱き抱えて観戦している風雅に、そろそろ殴っても良いかと思うが、そうすることによって杏の身が余計に危険になるため修平は我慢した。


「ただ、小原はまだ納得いかない。苦無数本弾いたのと制限だけじゃ俺はあいつを一軍に推せない。他には何かないのか?」

「ない。ただし苦無が針や円月輪に変わることや魔力は消費するが仲間のリミッター外しも可能だ」

「スキルは戦闘向きじゃねぇのか……」


 もちろん戦い方を全て見た訳ではないので役立たずとは言えない。苦無を正確に弾く実力は評価に値する。だが、あくまでも格下相手じゃなければ制限は意味がないということも忘れてはならない。


 ならば違う意見を持っているであろう杏に、風雅は悪戯な笑みを浮かべてからかう気持ちを半分込めて尋ねてみた。


「杏はどう思う?」

「きゃっ!」


 わざと耳元でしゃべったな……、と風雅の行動に修平は苛立ちを覚えてきた。それを駿が宥めてくれるが、本気でそろそろシバいてやろうかと思う。


 しかし、やられた本人は風雅には絶対服従という環境におかれている性か反抗せず、彼女が抱いた些細な疑問を告げた。


「あの……、陸君って相手に見える位置にずっと立ってますよね?」


 その意見に風雅の口角はクイッと上がった。どうやら良い線をついたらしく、修平達はその意見に耳を傾ける。


「ああ、センターラインの端から動いてないな」

「なのにどうして誰も気にしないんでしょうか。皆さんのスピードなら充分狙える距離にいるはずだと思いますが……」


 地上、上空とそれぞれ散っており人数や視点から考えても陸を見る機会はかなり多いはすだ。それなのに何故狙わないのだろうと杏は思う。

 すると正解だと言わんばかりに風雅は杏を抱きしめる腕をさらに強めた。


「さすが杏だ。頭が固い奴と違って見る目があるな。ご褒美は何がいい?」

「ひゃっ!」


 後頭部に口付けを落とされ杏は小さな悲鳴を上げる。もうこれ以上は……、と杏は涙目になるがベタベタとくっついてくる風雅を切り離すことが出来ない。

 けっして嫌な訳ではないが、心臓が破裂する行為ばかりは控えてもらいたい。特に一日の間に何回も口付けられては消えてしまいそうなほど恥ずかしいのだから……


 ただ、そんな光景でも駿はわりかし平気なのかついに怒りを通り越して脱力している修平にサラっと尋ねた。


「修平、止めないの?」

「もういい……、だったら東條、小原は何をしてるんだ?」

「何もしてませんよ」

「はっ?」

「だけど何もしてないからこそあいつが本気を出した時、一番チームの攻撃が通用するんですよ。それと考え方を変えて下さい。あいつはフィールド全てを見渡せる位置にわざわざ立ってるんですよ? 気付かれもせずに」


 気付かれもせずに、その言葉を強調した意味に修平と駿はハッとした。


 そう、フィールドの外から見れば陸が全く動いてないようにしか感じられないが、フィールドの中で戦うものは陸のことを気にかけてもいないのだ。

 相手を戦闘不能に追い込んだ数が多ければ勝ち、つまり弱いものを叩けばそれだけ勝率が上がるにも関わらず陸は全く狙われていないのである。


 そこまで言えば修平と駿は答えに辿りついた。味方の制限が可能ならば、自分に制限を掛けることも可能だということ。


「なるほど、苦無を投げたことすら気付かれないレベルにまで魔力も抑えてるって訳か」

「しかも意識まで消える苦無に向けてしまえば当然気付かれない。おまけに味方は目立つ子ばかりみたいだから、そっちにも意識を誘導出来るんだね」

「ええ、基本はそれで正解です。でも陸のタイプはあくまでも攻撃補助。あの位置に立つ理由は全てを見渡せるからですよ」


 それも相手が飛び道具を一斉に使い始めるとよく分かると告げ、修平達の視線は視線は再びフィールドに戻った。



 そして相手がダウンしていたから良かったものの、しばらく言い争っていた雅樹と昴はゼェゼェと息を乱しながらもようやく戦闘に戻ることにした。


「はぁはぁ……、と、とりあえず……、お前はさっき殴った三年沈めろ。俺が今の二人を止めてやるからよ」

「はぁはぁ、わっ、分かったっスよ……! 負けたら承知しないっスからね……!」


 そう告げて昴は一番最初に特攻を仕掛けた三年生の元に再び攻撃を仕掛けに行った。フラフラしながら立ち上がっているが、控え選手がいつ出て来るか分からないので常に気を抜かないように、と雅樹に言われたため魔力を纏っておく。


 そして雅樹も先程昴と戦っていた二人の三年生と対峙した。雅樹の仕事はフィールド内で一番強い存在であること、つまりエースとして働くべき存在だ。


 今年は風雅がいるから、などという甘えは絶対に許されず雅樹自身もそうなるつもりはない。当然、チームメイトといえども他の者に譲る気などさらさらない。

 誰よりも強く、それが雅樹は魔法格闘技にはまっている理由だ。


「さてと……!」

「うっ……!」

「くっ……!」


 一瞬にして詰められた間と繰り出された拳を三年生達は辛うじて避けた。しかし、そこから雅樹は人と違う動きを見せる。


 通常、殴った後には蹴りや裏拳、または魔法を使って来るという選択肢が多い。だが、雅樹は殴った後その場から一瞬のうちに消え、いつの間にか背後を取って相手の一人を蹴り飛ばした!


「グハッ!」


 一体何をしたのかと雅樹の動きを捉えられなかった三年生は目を見開く。しかし、その見開いてる一瞬のうちに雅樹はもう一人の懐に飛び込んで腹部に一撃お見舞いした。


「ウウッ……!」

「反応遅ぇな、これでも制限を掛けられてんだからもっと楽しませてくれよな」


 挑発のために言ったといえば作戦と取られるが、明らかに雅樹の場合は陸達が馬鹿にされたことに対しての仕返しでしかない。ただ、それは充分挑発として機能したらしく三年生達をキレさせるのに成功した。


「生意気な……!」

「粋がってんじゃねぇぞ! 一年坊主!!」


 強力な魔力を宿した拳が雅樹に襲い掛かってきたが、雅樹は当たる前にその拳を容易く止めた。そして弱者を見下すような顔をして吐き出す。


「何だよ、真理より全く力ねぇな。あいつが本気で殴って来たら、俺だってフィールドの端から端までぶっ飛ばされてるぜ?」

「ブホッ!!」

「グハッ!!」


 正に一撃必殺。フィールドの端の方で戦っていた雅樹は三年生の頬を殴りフィールドの端までぶっ飛ばした! そしてニヤリと笑い、極めつけをボソリと付け加える。


「まっ、俺も出来るけどな」


 そんな雅樹の戦いぶりを全て捉えていたいた修平は、平然とその試合がさも当たり前だと思っている風雅にもっともな感想を告げた。


「風雅、とんでもないルーキーを入れてくれたな」

「雅樹か」

「ああ、豪拳のスペシャリストな上に予測の付かない動きじゃ相手はガードするのに困るどころじゃねぇな」


 魔法格闘技には主に四つの格闘タイプに分かれる。パワーを重視した豪拳、関節技や点穴狙いの柔拳、スピード重視の烈拳、最後に武器を使って戦う技拳の四つだ。


 雅樹はその中の一つ、豪拳を使うわけだが、それなりに型があるにも関わらず殆どそれに当て嵌まらない攻撃を繰り出している。


 先程の動きを例に挙げれば、ストレートの次に上空を舞って相手の後ろを取り、回し蹴りが来るという通常は考えられない動きを持って来る。

 おまけにそれを高速でやってのけているのだから、戦闘の上級者でない限り雅樹を捉えることはかなり困難だ。


 しかし、そんな雅樹の動きを見ていた風雅は冷静に彼の力を修平達に解説した。


「確かに雅樹は強い。才能というものが存在するならあいつはそれに恵まれた天才だ。もちろん涼達もその部類に入るが豪拳の本質は野性、つまり一番覚醒してデカい力を得るのはまずあいつだ」


 いつかは止められなくなるほどの……、とは敢えて続けなかった。豪拳といったタイプから考えれば、いつかパワー面に関しては風雅でも追い付けなくなるほどの強さを手に入れるだろうと思っている。

 それがいつになるのかは予測出来ないが、体が出来上がっていない今だけはまだ開花して欲しくないとは思う。強過ぎる力はあまりにも危険だから……


「まぁ、野生動物並の知能しかないという点においてもあいつは強くなれるかもな」

「何だ、あいつ特進クラスでそこまで馬鹿なのか?」

「ええ、俺が観戦しながら予想問題集作りをしなければまずいほどに」

「すぐ作れ! 補習なんて死んでもさせんな! うちの恥だっ!!」

「うちの部は補習は厳禁だからね」

「はい……」


 これは本気で補習回避に努める三年間になりそうだと思う。文武両道は魔法格闘技部には必須条件らしく、それが出来なければたとえスタメン入りしても試合に出さないというのが部の方針。

 ただし、特進クラスということもあってか必ず勉強が出来るものがいるため、助け合いの精神も培われているらしい。


 そして、風雅の視線はもう一人の問題児に向けられる。魔力の制限は現在五割でスタミナは残っているが、どうも反撃のタイミングをいくつか逃しているのが勿体ない。


「やっぱり昴のところか、よくやってるがまだ経験不足だな」

「だから陸を出したんですけどね。でも、雅樹が陸は攻撃補助タイプだって忠告したと思いますけど……」

「まぁ、信じられないだろうな。なんせまだ苦無を消すぐらいにしか感じてないんだろうし」


 そんな味方にどう答えるのか、それが今回風雅が陸を評価する課題だった。いつかはCROWNに所属する身ならそれは絶対越えなければならない壁だ。


 あくまでも部活の一貫、しかし、魔法学院の魔法格闘技部に入部するということは将来、魔法議院の戦闘官を目指す者が大半であり、特に彼等が憧れるのが魔法議院最強部隊と謳われる「CROWN」なのである。

 事実、高等部の一軍は全員CROWNに所属しているのだから……



 そして昴は天性の反射神経を活かしながら相手の攻撃を避けていたが、ついに一瞬の隙を突かれて投げられた苦無を避けバランスを崩した!


「まずっ!!」

「喰らえっ!!」


 声と同時に十本近くの苦無が投げられる! さすがにあの数は避けきれない、そう思った一瞬で飛んで来た苦無は視界から姿を消したのである!


「ちっ、避けやがったか!」

「えっ……?」


 避けてなどいない、しかし一撃も攻撃を受けてないことは確かで手数のゲージは変動していない。ならばと自棄になった三年生は苦無に魔力を宿し、倍の数を投げ付けてきた!


「倍なら無理だろうが!!」

「やばいっ!!」


 あれは初心者に向ける数じゃないと修平達が飛び出そうとしたその瞬間、三年生が新たに投げ付けようとした苦無までが視界から消えた、いや、弾かれたのだ!


「くっ……!」


 さすがに痛みから手に持っていた苦無が弾かれたことには気付いたのか、三年生は苦無が飛んできた方向を微かに感じたためそちらを見れば、そこには魔力を宿した苦無を構えている陸がいた。


「あいつか……!」


 ようやく陸の存在に気付いた三年生は地上にいた陸を睨み付けた! しかし、今まで散々苦無を弾かれていたにも関わらず、彼はそのことも忘れているのか陸に苦無を数本投げ付けた!


「無意味です」

「なっ……!」


 音もなく苦無は陸の前から消され、さらに陸の投げた苦無は大きくカーブし、上空で戦っていた藍の相手であった三年生の太股に突き刺さった!


「ぐあっ……!」

「りっくんナイス!」

「ガハッ!」


 見事に作られたチャンスを活かし、藍は相手を地上に叩き落した。しかし、陸の攻撃補助はさらに続く。同じように上空で戦っていた真理のもとに苦無を飛ばした瞬間、それは彼女の手に収まり丁度振り下ろされていた剣を受け止めたのである!


「なっ……!」

「先輩の力も弱いわねっ!」

「うわっ!」


 腕力か魔力か、どちらかは分からないが真理の相手をしていた三年生は押し返されてバランスを崩し、彼女に横っ面を殴られて地上に叩き付けられた!


 そのあまりの出来事に昴も彼の相手をしていた三年生も呆然としてしまったが、一瞬早く気付いた三年生が再度陸に攻撃を仕掛けようと地上にいた彼を狙おうとしたが視界から消える。


「どこにっ!?」


 それは呆然としていた昴も一緒だったが、フワリと感じた気配に気付いて昴は後ろを振り返ると、そこには無表情のままでも頼もしさを身に纏った陸が苦無を手にして昴に告げた。


「昴君、止まる必要なんてないですからさっさと片付けて下さい。どれだけ向こうが攻撃して来ても僕が全てサポートしますからまずは戦うことに慣れて下さい」


 一度や二度ではない正確な苦無捌き、しかもダース単位でさえ一瞬のうちに弾き飛ばしてしまうスキル、おまけに全て任せろと言われてはもう信じないわけにはいかない!


「……!! 分かったっス!!」


 陸に絶対的な信頼を寄せて昴は三年生に向き合った。その表情は勝ちしか感じられないといったもの。拳に纏った魔力は今まで以上に高い。

 ただし、相手にとっては初心者と弱者にやられるわけにはいかないと奥歯を深く噛み締め、怒りを露わにした魔力を体中から発した!


「舐めるな一年坊主!!」

「昴君!!」

「任せろっスよ!」


 昴が相手に突っ込んでいくと同時に陸の魔力は解放される! そして今までひた隠しに魔力を溜めていた苦無を昴を追い越すほどのスピードで三年生に投げ付け、それは相手の腕を貫いた!


「うわぁっ!!」

「喰らえっ!!」

「ガアアッ!!」


 昴の強烈な右ストレートが左頬に決まって地上に叩き落とされ、ついに三年生は完全に戦闘不能に陥ったのだった。


 そして、涼もそろそろ頃合いかと次々とやられていく仲間に動揺している三年生を片付けることに決めた。

 おそらく、もう陸も昴も一軍に昇格させると風雅達は決めているに違いないのだから自分も手加減する必要はない。


「一体どうなってやがるんだよ……!」

「簡単なことですよ」

「くっ……!!」


 急激に上がった攻撃スピードに三年生はバランスを崩されたが、そこで更なる攻撃を涼は敢えて加えなかった。

 おそらく自分の相手をしている三年生はギリギリ一軍に入れるレベルなため、陸の力をきちんと解説しておこうとトドメを刺すのを踏み止まったのである。


「陸は攻撃補助の天才です。フィールドにいる味方の魔力の温存、さらには飛び道具から味方を守って俺達のピンチを防ぎ、おまけにカウンターチャンスまで作る。それも五人分全て一人でやりこなせるんですよっ!」

「グハッ!!」


 涼の烈拳が決まり、三年生はその場に倒れる。そこからさすがにまずいと出て来た控えの戦闘者だが、出て来た瞬間に涼がもう一度烈拳を繰り出した!


「沈めっ!」

「グハァッ!!」


 交代して僅か三秒、控えの戦闘者は七発の打撃を受けてその場に気絶した。そして、そこからまだ戦闘を続行しても良かったのだが、修平が審判にこれ以上は必要ないと目線で合図したため勝利は確定する。


「勝者Aチーム!」

「お前達、負傷者を止血次第フィールドの外に出せ。杏、すまないが手伝いに行ってくれ」

「はい、すぐに」


 マネージャーの仕事をするときにはさすがに解放するのかと修平はそこだけは安心した。最悪、自分以外の部員を治療するなと言い出しかねないと思っていたからである。


 だが、この試合を見て思わされたことがある。まだ蓮の実力は見ていないが、いまの中一メンバーでここまでやれたというのなら今年は風雅のとんでもない挑戦に付き合っても良いとさえ思えるほどで……


「……全く、とんでもないルーキーばかりだな」

「そうだね、まだかなり鍛え上げなくちゃいけないけど良いんじゃないかな」


 修平と駿の視線は了承の意を込めて風雅に向けられる。それならばと風雅は今年、一軍昇格テストのメンバーを敢えて多くした理由も含めて蓮に問い掛けた。

 その問いこそが蓮にとってのテストだと言わんばかりに……


「蓮」

「はい」

「高等部と、いやCROWNと戦う覚悟はあるか?」


 CROWNと聞いた瞬間、蓮の脳裏には冴島淳士をはじめとする兄貴分達の顔が過ぎる。自分が知る限り魔法格闘技において最強のチームだ。

 そして高等部である彼等と戦うチャンスと言えば練習試合を除けば一つしかない。


「……冬のジュニア選抜ですか?」


 ジュニア選抜、それは十歳以上十九歳未満で行われる魔法格闘技の大会であり、魔法議院に所属している未成年者も出場するいわば未来の担い手を占う大会となる。


 そのジュニア選抜で昨年優勝しているチームがCROWNであり、個人戦で三連覇を成し遂げているのが冴島淳士なのである。


「ああ、公式戦としては最初で最後のチャンスかもな。それを逃せば二度とあの最強の布陣と戦うチャンスはもうない。なんせ淳士さんは今年卒業だし、大学に進むのかも分からないからな」

「まぁ、大学も日本とは限りませんしね……」


 下手をすれば世界中の猛者と戦うために留学を繰り返す可能性すらある。寧ろ、どこに籍を置いてるのかすら分からないという状況を生み出しそうなのが冴島淳士だ。

 ならば昔から兄貴分達に憧れてきた蓮の答えは一つだけだ。


「だったら決まってます。淳士さん達は俺達の憧れです、だから必ず勝ちます……!」

「じゃあ、決まりだな。さて……」


 風雅はスッと立ち上がると軽く肩のストレッチを始める。このあとは風雅達がテストを受ける番だ。もちろん、圧勝するのだろうが……


「お前はそのまま雅樹達のテスト対策を続けろ。実力は充分分かってるから一軍、いや、選抜メンバーになるからな」

「えっ……?」


 一軍ではなく選抜メンバー、そう言い残して風雅はジャージを脱ぎ捨てるとフィールド内に入って行ったのだった。




お待たせしました☆

今回は中一組というより陸と昴君メインの話になりましたがちょっと解説を。


とりあえず陸君は攻撃補助タイプだということで、魔力を制限してスタミナを持続させることと苦無をとんでもない速さで投げて仲間を飛び道具から守ったり、反撃の機会を与える役割ということでした。


では、今回は杏ちゃんと先輩二人のやり取りをどうぞ☆



〜先輩の学力って?〜



修平「へぇ〜、杉原は学年三位なのか」


駿「凄いね、さすが杏ちゃんだね」


修平「頭を撫でるな。風雅にシバかれるぞ」


駿「別に良いじゃない」


杏「ですが先輩方も高い順位だと聞きましたが……」


駿「そうだね、修平より良いかな」


修平「お前達が異常なんだよ……、俺だって学年三位だからな」


杏「うわぁ、凄いですね!」


修平「だろ? 分からないところがあったら」


駿「風雅に聞いたら良いよ」


修平「おい、遮るなよ……」


杏「風雅様にですか?」


駿「うん、風雅はいつも学年トップで全教科満点だからね」


杏「凄いですね……! さすが風雅様ですっ!」


駿「あと俺も二位だからね」


杏「駿先輩もすごいですっ!!」


修平「……俺は用無しかよ」




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