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CROWN  作者: 緒俐
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第四十四話:撃つしかねぇだろ!

 野外活動センター本館屋上。CROWNの新人戦闘官達は不思議な現象に遭遇していた。先程まで人として成り立っていたものが完全に魔力が抜けきった後、土へと変質してしまったのだ。


 そこへ高い魔力を持った彼等の上官といえども色香漂う年下の戦闘官がやってきた。CROWN情報部・桐沢部隊副部隊長の服部翔子だ。


「翔子副隊長!」


 ビシッと効果音がするほど直立するのは新入りな証拠。ちなみに自分より年上なのだから、もっと気楽にしてもらいたいと思うのは高校生達共通の認識だったりする。


「翔子さんと呼んでくれて構わないわよ。それより敵が泥人形に変わったって本当?」

「はっ! 敵に土属性の術者か傀儡使いかがいるかと思われます!」


 傀儡と聞いて翔子はピクリと反応した。そして、彼女は土を掻き分ければ小さな木札が一つ出て来た。傀儡を操作していた元凶だ。


「核はあるみたいだけど……!!」


 そう告げた瞬間、翔子は鞭を換装し戦闘官達の間を縫って一閃の攻撃が突き抜ける! そして、後ろを振り返ればそこには鞭で縛り上げられた土の巨人がいて、彼等は慌てて横に飛んだ。


「あらあら、どうやらかなり高等な術者がいるみたいね。どうお仕置きされたいのかしらん?」


 その言い方といい色香漂う容姿といい、本当に高校生なのかと魅了されてしまうほど彼女には艶がある。

 しかし、この場に東吾あたりがいればさっさと片付けろと言うに違いないが。


「あれが女王の鞭……!」

「ちょっと叩かれてみたい……!」


 ポッと頬を染めてしまうのは仕方ないが、発言はやはりCROWNといったところ。とはいえ、彼女は女王様というようなドS気質ではなく、どちらかと言えば東吾にげんこつを落とされているタイプだ。


「まっ、平伏して貰うけどね」


 ペロリ、と舌なめずりして翔子はスルリと土の巨人から鞭を解くと、瞬身で上空に飛び上がり強烈な一撃を繰り出した。


「翔子お姉様とお呼びなさいっ!」


 バシン!と痛快な音が響き渡り土の巨人はあっさりと崩れ去った。女王様と言わない辺りは翔子の茶目っ気らしい。


「鞭の威力すげぇ……!」

『そうですね。ですがどちらかと言えば彼女の攻撃範囲でしょうか』

「良秋さん!」


 飛んできた念波に戦闘官達は驚いた。「世界一性格の良い財界トップ」から念波とはいえ話し掛けられるとは思っていなかったのである。


 そんな初々しい新人戦闘官達にクスリと笑いながらも、翔子は確信した情報をオブラートに包んで良秋に報告した。


「良秋さん、もしかしたら奴が来ているかもしれません。ボスが万が一と言ってたのはこっちになったみたいですね」

『だとしたら良かったです。僕も風華さんもいますからどう転んでも対処出来ます。まぁ、彼は敢えてこっちを選んだのかもしれませんが』


 力があるものはそういう傾向にあると良秋は思う。事実、淳士や風華も魔法覇者なだけあって必ず強敵と真っ正面から戦いに行くところがあるからだ。


 ただし、翔子も確かに強いが今回は少々分が悪いため良秋はきちんと注意しておくことにした。


『では、引き続き翔子ちゃんは調査を続けて下さい。ただし、危なくなったらすぐに退却、または淳士君達を呼ぶように』

「あらら、呼び出したら東吾ちゃんに叱られちゃう」


 授業を抜け出してきたからなぁ、と苦笑しながらも翔子は引き続き調査を進めるため、別の部屋へと瞬身で消えるのだった。


『それと新人の皆さんは生徒達の護衛に当たって下さい。本館はフィールドと同様の結界が張ってありますが、風雅君達が張り切りすぎると魔力に当てられる可能性がありますので』

「ラジャー!」


 ハキハキと答え、屋上から戦闘官達は姿を消したのだった。



 館内では主に晴人が真央の命令で切り込み隊長役をやらされていたため、風雅と修平は時々攻撃を加える程度で済み、楽に敵の指揮官の元へ進んでいた。


「手応えないのも作戦のうちか?」

「確かにな。だが、晴人が働いてるぐらいで済むなら俺達は楽してれば良い」

「お前らもちったぁ前に出ろよ!!」


 強さはなくとも数が多ければそれなりに消耗するものだ。しかし、風雅達は全くといって良いほど手伝ってはくれない、寧ろ魔力を温存しているようだ。


 そして、そろそろボスが待ち構える部屋かと四人は強い魔力を感じ取れば、良秋から念波が届いた。


『風雅君、少々油断出来ない相手が待ち構えていますので警戒して下さい。晴人君は突入次第先制攻撃、真央ちゃんはバリアをお願いします。修平君は念のためバックを警戒して下さい』

「ラジャー!!」


 そう答えて四人は敵の指揮官が待ち構えている大会議室に辿り着き、その扉をバンと強く開いた瞬間、中から発砲の洗礼を受けた!


「晴人!!」

「任せとけっ!!」


 真央からバリアの補助を受け、晴人は乱撃戦に対応したが、そこには野外活動を占拠するにはあまりにも豪華な敵が待ち構えていたのである。


「……おいおい、聞いてねぇぞ。あいつら国家御用達の射撃部隊だったよなぁ」

「みたいね。まぁ、クズ役人がなんで野外活動センターを占拠したか分からないけど、ちょっと出て来るには豪華なメンバーかしら」


 役人ではなく射撃部隊が、というのは察してほしいところだが、クズ役人は周りの護衛が強いことを知っているためかこちらを見下した態度で発した。


「よくここまで来たが、一之瀬風雅、お前の父親か母親を出してもらおうか。直接話をさせてもらいたい」

「だったらちゃんとアポを取れ。母さんはともかく、父さんは老人から子供に至るまでちゃんと接するぞ」


 それこそ重要な会議を蹴って、孤児院のクリスマスパーティーを優先させた財界のトップだ。その度に重役達を泣かせているが、それ以上の成果を上げてしまうのも良秋ならではということ。


「だが、重役達から門前払いだったよ。竜泉寺夏音を利用しようとした者に用はないとな」

「自業自得だ。父さんは夏音姉さんに甘いからな」


 それも権力を駆使してかなりの激甘になってる、とは言わなかった。それほど良秋は夏音に甘く、さらに風華も便乗しているため性質が悪過ぎる。


 しかし、それほど甘やかされているにも関わらず、夏音が我が儘お嬢様にならなかったのは環境の所為なのかもしれないが。


「つまり良秋さんが応じてくれないから風雅君を誘拐でもして話し合いたいって訳?」

「そうだな。しかも人質が多ければ多いほど交渉に応じやすくなるだろう?」


 確かに役人の言うとおりで基本、善人である良秋なら出て来る可能性は高くなる。風雅が頼めば「良いよ」の一言で済むのも分かっている。

 だが、あまり出て来てほしくないと思うのも息子ならではだ。この程度で手を煩わせたくはない。


「で、父さんどうする?」


 とりあえず念波だけは飛ばしてみるかと思い、風雅は良秋に尋ねれば、彼は息子の気持ちを半分汲み取った答えを返してくれた。


『そうですね、出ていっても構いませんけど今回は指揮官ですのでお断りして下さい。あと、風華さんはとても可愛らしいのでもっと出したくありませんと言っておいて下さい』

「応じたくないとだけ言っておく」


 こんな時まで晩年新婚夫婦ぶりを見せ付けられたくはない。というより恥ずかしくて答えたくない。そんな息子の気持ちをそろそろ察してもらいたいものだ。


「残念だが出たくないそうだ。それにお前程度は晴人が撃ち抜いて終わる」

「俺は庶民だから巻き込むな」

「撃ち抜きたくないのか」

「一瞬で片付ける気しかねぇよ」

「だったら殺れ」


 上手くのせられたような気がしたが、どの道やることは変わらないため今更訂正するつもりはない。


 ただ、クズ役人は風雅の挑発に上手く乗ってくれたようだ。とはいえ、身の危険だけは感じたのか射撃部隊から離れて防弾ガラスのシャッターを下ろし高見の見物を決め込んだ。


「お前達、あいつらを捕らえろ。意地でも一之瀬良秋を引っ張り出してやれ」

「了解」


 低い声で答え、射撃部隊の面々はサッと構えた。その動作に真央の分析はかなり進んだ。全員が同じ動きということは一定の型がある、つまり単調ということだ。


「俺は庶民であんま価値ないがな……」

「俺もだ。てか、俺は将来一般庶民になりたいんだよ」


 どいつもこいつも巻き込みやがって……、と晴人は思う。しかし、自分が関わっている以上どうにもならないことも分かっているのだ。


 そして、真央はそんな二人に早くも見抜いた敵の動きを監督らしく伝えた。


「修平、あいつらは間違いなく機械的な動きをして来るから一刻も早く自分の間合いに引き込んで。晴人の相手はあの一番魔力の高い隊長格だけど弾丸の殺傷能力は晴人の方が上だから、乱撃戦に持ち込んで相手を一撃必殺で仕留めなさい」

「ラジャー!!」


 そう答えて修平と晴人はそれぞれの武器を構える。だが、一番の問題は先程から冷静に見えて実は内心イライラだらけの風雅様だったりする。


「風雅君は月眼禁止ね。というより、その禍々しい魔力何とか発散して」

「すまないな。杏に会えないだけでもストレスなのにこんなクズに会うとな」


 八割は杏に会えないことに違いないが、残りの二割を突き破るきっかけとなったのはクズ役人の所為だということ。ならば、と四人は瞬時に四方へ散りストレス発散の戦いが始まった!


「ちっ! やっぱ国家の射撃部隊って訳か。油断出来ねぇな……!」


 任務で培ってきたものだと分かる一撃一撃の狙いは正確。ここに陸の攻撃補助が入れば隙もすぐ出来るかもしれないが、生憎彼は学校で授業を受けてる最中だ。


 しかし、修平はニッと口角を吊り上げた。彼が今まで戦ってきたガンアタッカー達と違い動きは単調だと分かったからだ。


「テクニックアタッカーで助かったな。マット運動で地獄を見せられた動きに翻弄されろ」


 そう告げて修平は空を蹴ると、雷を宿したトンファーで銃弾を弾きながら敵との間合いを詰め、発砲させないように乱撃戦に持ち込んで行くのだった。


 そして、それは真央も同じだった。早くも相手の銃を魔法弾で破壊した彼女は、大人の男相手でも全く引けを取らなかった。

 普段は監督だが、きちんと彼女も努力した強さを持っているのだ。


「女は大人しくしてろっ!!」


 敵は怒鳴りながら拳を繰り出して来るが動きは冷静。おそらく自分が少しでも動揺すればというところだろうが、生憎中学生ながら監督を務める真央には無意味だった。


「お生憎様。うちには大和撫子みたいなマネージャーがいるから私は別路線。真理ちゃんが女は度胸、藍ちゃんは小悪魔女子、そうなったら私は……」


 拳が魔力を帯び青く光る! その威力を一瞬の内に敵は想定したが真央の拳の方が速かった!


「鉄拳制裁じゃあ!!」

「グハッ!!」


 顎への強烈なアッパーにより、敵は十数メートル上の天井に激突するまで殴り飛ばされ、意識を失ったまま落下した。

 その光景が風雅達の視界に入ってきたが、彼等は見なかったことにしようと自分達の敵と向き合う。


 そして、風雅は既に勝敗は着いていたらしく、敵を思いっきり見下していた。


「何だ、中学生相手に手も出せないのか?」

「くそっ……!」


 風雅の前には既に膝を折ってる敵が一人。理由は簡単で幻術に嵌められたから。ただし、真央の言い付けは守っているらしく月眼は使っていないらしい。


「まぁ、幻術に耐性がなさそうだったからな。お前のとこのボスは俺がきっちり制裁を加えてやるからしばらく掛かってろ」


 そう告げて風雅はクズ役人のいる防弾ガラスの前に立つと、それは禍々しい空気を醸し出し魔力で完全に相手を威圧した。


「なっ……!」

「逃げられると思うな。それに防弾ガラス程度で」


 そこまで言いかけた瞬間、風雅はしゃがんで後方から飛んできた銃弾を避けた。どうやら晴人が隊長格に若干手こずっているらしいが、手出しをする必要はないと判断した風雅はクズ役人を魔力で縛り付けて傍観することにした。


 そして、晴人は若干押されていた。やはり敵は隊長格とあって部下達より熟練のスキルがあるらしくそう簡単には崩れてくれなかったのだ。


「子供は大人しく従え。痛い目に遭いたくはないだろう」

「だったらそっちが引け。俺達は学生であくまでも普通に野外活動しておけば良かったんだからな」

「ならば何故海宝にいる?」


 普通はEAGLEに入るためだ。特に特進クラスに入ってる晴人はもっともその方面に引きずられやすい。


 しかし、彼は平凡だと思っていた。潜在能力の点が異様に高かったと本人に全く自覚がない理由で一般クラスではなく特進クラスに入れられた。

 さらに魔法格闘技部へ入るつもりもなかったが幼じみだった美咲に捕まり、祥一に捕まり、トドメは水庭と陽菜から戦闘指揮官命令と訳の分からない理由で強制入部させられた。


 それでも彼は転校しない理由があった。どれだけ将来は戦闘官になりたくなくとも、彼は銃から離れられなかったのだ。


「……生憎、将来戦闘官なんてなりたくねぇよ。だがな、魔法格闘技は別なんだよ!! こんちくしょうが!!」

「ぐっ……!!」


 狙いがさらに的確になった上、晴人の魔力が跳ね上がってきたことをその場を見ていた誰もが感じた。

 感情によって力が変わるというのは誰でもあることだが、晴人の場合は特にそれが顕著だ。特に射撃の集中力は倍増している。


「俺はあんな出鱈目な強さ持ってる奴らに比べたら弱っちぃことぐらいわかってらぁ!! だけどな!! それでもあいつらと勝ちてぇって思ったらもう撃つしかねぇだろうが!!」


 魔力が一気に溢れ出した! 新技かと風雅達はその光景を目に焼き付けようと集中する。

 そして、晴人の二つの拳銃は黒い光を放ち、それを十字に解き放った!!


「双黒竜殺法・十字斬!!」


 正に飛ぶ斬撃が隊長格を襲ったが、それを彼は胸に浅く受けたのみで致命傷には至らなかった。そして、その隙を突いて晴人に銃口を向ける!


「浅いっ!!」

「訳ねぇよ」


 胸に痛みが走り出した。血が滲んで来ないということは即止血の魔法格闘技専用弾を使ったのかと思う。しかし、それは半分不正解で彼が使ったのは即止血の性質だけで銃弾自体は魔力で作り上げたもの。


「一撃ぶちこんでるだろうが」


 そう静かに告げた後、ドサリと隊長格の男は膝を折った。


 その様子をモニターで見ていた良秋は、改めて恐ろしい人材が育って来ていると思った。


「……凄いですね、魔力であれほどの銃弾を作り上げるなんて東吾君や綾奈ちゃんクラスでも容易ではないですよ」

「えっ? そうなんですか?」

「はい。銃から魔力のみの弾丸を放つことはガンアタッカーならあっさりやりこなします。ですが問題はその密度と威力です」


 これを見て下さい、と良秋が小さなスクリーンに先程晴人が放った魔力の弾丸を映し出せば、スタッフ達は有り得ない光景を目の当たりにした。


「えっ!?」

「綺麗過ぎるんで本物の銃弾なのかと疑うくらいですが、魔力のみで作られた即止血の弾丸です。つまり魔力のブレがないということになりますから、殺傷能力も当然高く場合によってはバリアを張っても貫通します」


 下手をすれば将来、良秋が張ったものでさえ意味を成さなくなるとは言わなかった。不安をこれ以上煽るつもりはない。


「ただし、まだ中学生ですからこれを乱発することは不可能です。ですが、末恐ろしいスナイパーなのは間違いないですね」


 だから水庭も陽菜も自分のところに早くから引き入れるようにと手を打ったのだ。この潜在能力が敵に回ることは避けたかったから……


 その時だ。突如現れたCROWNの権力者に全員が目を丸くした。そう、本来なら高校で授業中だったからだ。


「そこまでだ。全員動くな」


 中学生にも射撃部隊にとっても聞き覚えのある声が響いた。そこに現れたのは黒を基調としたCROWNの戦闘服を着て、銃口をこちらに向けている桐沢東吾だった。


「桐沢さん……!!」

「桐沢東吾……!!」

「CROWN情報部隊長か……!!」


 さすがの国家御用達の射撃部隊も東吾相手では迂闊に発砲出来なかった。彼は情報のスペシャリストというだけではなく、射撃もCROWN随一の腕前だからだ。


 そして、彼はズカズカと歩いて行き防弾ガラスをあっさり破壊してクズ役人の元に立つと、銃をしまって襟首を掴み、それはストレス全開と言わんばかりに往復ビンタをかました。


「中学生が野外活動やってんのを狙うだけじゃなく、俺達の授業邪魔すんじゃねぇよ!! あのバカ共が留年したら俺の将来はマジで破滅すんだよ!! てか、これ以上仕事増やすな!! こっちは受験生なんだよっ!!」


 出席日数ギリギリな上に、補習や課題を幾度となく熟さなければならない東吾のストレスは尋常なものではなかった。しかも受験生だということを忘れられているのも東吾ならではだ。


「魔法学院ってエスカレーターじゃ……」

「そうだけど試験はあるわよ。桐沢さんなら特待生だろうけど奨学金かかってるから……」

「ああ……」


 学費免除試験というものが魔法学院にある訳だがその条件が特進クラスでも上位五位まで、または一芸に秀でている者とされている。

 さらに試験官に認められなかった場合、例え特進クラスで上位五位以内でも対象外となり、その逆の五位以上でも対象とされることもある。


 ちなみにこれは海宝も同様で、EAGLEに所属している高校生達も受けている訳だ。


「しかも淳士さんの勉強も見なくちゃいけないんだろうし……」

「えっ? 淳士さんって魔法覇者の試験に受かってるなら進級試験くらい……」

「普通は解けるけど、淳士さんは出鱈目な成績だから……」


 それこそ学年トップから最下位までを自由に行き来する出鱈目な成績を残しているのが淳士だ。毎回、余計な心労を東吾は背負っているのである。


「桐沢さん、どうして……」

「ああ、休憩中にお前らが任務に巻き込まれたっていう連絡が入って、良秋さんが指揮をとってるってだけなら来なかったがな」


 東吾は無理矢理笑みを作りながらも、青筋がブチッと音を立てて一つ現れた。最早爆発寸前らしいが、中学生にキレても仕方がないと無理矢理抑えているらしい。


「翔子のバカが授業を抜け出した上に夏音が大変だと明日があるってのに出ようとして、さらにうちの三バカの二人も抜け出そうとするわでな……!!」


 ブチブチとさらに青筋が増えていく。もう彼のストレスは爆発して熔岩が流れているのにさらに爆発する寸前というところだ。


「仕舞いにゃ淳士のバカが戦闘部隊長の権力駆使して国に総攻撃掛ける寸前だったからよ、全員黙らせて俺が来たんだ」


 それって本気で洒落にならないよな……、と誰もが思った。CROWNはもちろんEAGLEも乗り、下手をすれば様々な権力が発動され国が国を潰すという事態にも成りかねないからだ。


「まっ、とりあえずこいつはどのみち逮捕だ。いろんな罪状付けてやれるしなぁ?」


 詰んだな、と風雅は思った。あれだけ東吾を怒らせて無事でいられる訳がない。それにストレスが溜まってる時点で破滅に追い込むつもりだ。


「桐沢隊長!」

「桐沢さん!」

「オウ、無事だったか」


 桐沢部隊の戦闘官達に連れられ美咲達も合流する。その傷一つない姿に東吾はとりあえず問題ないかと安堵し、部下達に命じた。


「田中と山田、遠山警視総監に連絡して敵は全員」

「それが……! 少ないのです!!」

「はっ? 傀儡が混じってたとしても軽く百人以上は……! 全員伏せろっ!!」


 東吾は叫ぶと同時に発砲した! そして突如転移してきた男に蹴り掛かり、さらに後ろから襲い掛かってきた二体の傀儡に一撃ずつ発砲して仕留める!


「ほう、今のを仕留めるか」


 風雅達は一気に気を張り詰めた。通常なら来るはずのない、魔法界にいるものなら傀儡使いの男がこの場に現れたからだ。


「あいつ、魔法覇者の……!!」

「沼澤京介……!!」

「元だ。夏音拉致の首謀者に加担して淳士にぶっ潰されたからな、魔法議院議長に魔法覇者の称号を剥奪された」


 あの時の議長は将来の孫嫁に手を出したからと、さすがは淳士の祖父ということかそれは凄まじい権力を駆使して敵を排除、さらに沼澤から魔法覇者の称号を剥奪することを一存で決めた。


 しかし、それにしても表舞台に出て来るのが早い上に傷も完全ではなくとも癒えているのはどういうことかと疑問に思う。


 そして、沼澤はニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、散らばった傀儡を再構築しながら東吾を褒めた。


「さすがはCROWNの情報部隊長、桐沢東吾だな」

「当たり前だ。淳士や烈のような出鱈目人間を昔から相手にしてたら嫌でも強くなる」


 射撃の腕もあの二人に当てるため、さらに個性豊かな部下達を黙らせるために鍛えられてしまったものだ。寧ろ、あの環境に常識人でいられる強者がいたら東吾は弟子入りする自信がある。


 しかし、相手は元とはいえ魔法覇者、風雅達を守りながら戦うとなれば少々歩が悪い。ならばどうするべきかと思った瞬間、彼の前に新たな魔法覇者が現れた。


「もう傷が癒えているとは流石だな。だが、淳士より強い私相手では引くべきではないか?」


 音もなく沼澤の背後に現れ、強烈な蹴りを繰り出すのを沼澤は構築した傀儡で辛うじて防いだ。

 そして、その艶やかな美女は強烈な蹴りとは対称的にふわりと舞い上がると、また音もなく風雅達の前に立つ。そんなことを容易に出来る人物は……


「母さん……!!」

「魔法女帝……!!」


 戻って来るとは聞いていたが、こちらに参戦していたのかと東吾は思った。「息子より杏たんが好き」と東吾は熱弁されていたが、やはり危険な方に足を運んだのかと思った瞬間、風雅の頭に鉄拳制裁が落ちた!


「ぐっ……!!」

「風雅、さっきはよくも私をおばさんと愚弄してくれたな」

「っつ……! 事実だろう、それに人より早く祖母さんになるだろうが」

「それは構わぬが風華ママと呼ばせる」

『あっ、僕はおじいちゃんと呼んでほしいです。孫は良いですよねぇ』


 念波を伝ってかなりほのぼのしている良秋の顔が思い浮かぶ。さすがは善人、良いおじいちゃんになることは間違いない。

 ただ、それに冷静なツッコミを晴人は入れた。


「真央、良秋さんっていくつなんだよ……」

「確か四十前半ぐらいかしら。パパと十歳ぐらいしか違わないから」

「見た目三十代前半だよな……」


 若作りしている訳ではないが若い、しかも真央の父親である水庭が良秋より年上に見えるため、余計そう思えるのかもしれない。


 そんな会話を繰り広げていたが、沼澤が攻撃を仕掛けて来ない理由は一つだけ。寧ろ、既に仕掛けたところで勝負が見えていると分かっているからだ。


「水庭もこちらの対策は抜群というわけか。そこまで一之瀬良秋を出させない策をしいてくるとは」

「お前に対する嫌がらせだそうだ。あいつも夏音には師匠という面では厳しいが、普段は淳士同様可愛がっているからな。東吾と違って」

「ああ、学校に行けっていうあたりはマジでそう思う」


 東吾にはここ最近、さっさと大検でも取ってCROWNに永久就職しろというぐらいだ。

 しかも教職をとっているにも関わらず、部活のみきちんと出るようにだの、お前の進路は俺が決めるものだと豪語しているあたり恐ろしい。


「そういうことだからお前はさっさと引け。新しい飼い主も元魔法覇者を安々と失うつもりはないだろうしな。それにLIGHTの瀬川も同様に対処されては動けないだろう?」


 SHADOWが動いているからな、とは続けなかった。魔法覇者を簡単に足止めする戦力を痛感しろと言われているのは確かで、これ以上戦っても無意味だとは分かるのだ。


「……良いだろう。こちらも冴島淳士に付けられた傷がまだ癒えきってないからな。それにこちらの目的はもっと小さなものだ」

「小さなもの?」


 どういうことだと尋ねる前に沼澤はその場から消えた。そして、その答えはすぐに東吾に掛かってきた電話で分かることになる。


「何だ、慎司」

『桐沢さん、すみません。兄さんと授業抜けました』

「はっ?」

『だけど許して下さい。可愛い俺の妹の桜を襲おうとした馬鹿を叩き潰しに来たんで』


 つまり小さなものとは桜のこと。さすがに普段からCROWNや冴島家の護衛が付いている桜がそう襲われることはないと誰もが思っていた。

 もちろん、彼女の身に何かあればすぐに淳士や慎司が察知して動くため、水庭も最低限の警戒をしていたのだが、それが今回唯一の彼が読み誤ったことだった。


「で、桜は無事なのか?」

『当たり前です。ただ、桜を連れ去りたかったのか国の特殊戦技部隊を千人使うのははふざけてますね』

「それをお前達は……」

『全員瀕死にしておきました』

「お前らがふざけ過ぎだ!! さすがに始末書もんだぞ!!」

『何言ってるんですか。桜の前だからその程度にしたんじゃないですか。まぁ、桜が可愛いから連れ去りたいと思う気持ちは』

「シスコン以外まともなんだからそれぐらいにしとけ。相手が不敏になってきた……」


 仮にも戦い慣れした者達だ。それを淳士と慎司であっさり倒されたとあっては敵も堪ったものではないだろう。

 ただ、そっちの思い通りにならないというのは十分過ぎるほど伝わっただろうが……


「で、淳士のバカはどうしてる?」

『さすがに無傷とはいきませんでしたから桜に治療してもらってます。ちなみに俺の治療はとっくに終わらせました』

「マジでふざけた時間で片付けたんだな」


 もうこれ以上つっこまないでおこうと思った。疲れるだけなのは分かっているからだ。


『とりあえず、明日の一之瀬家のパーティーには冴島兄妹全員参加しますから心配しないで下さい。もちろん桜同様、杏もきちんと護衛する気満々ですから』

「それってどういうことですか?」

『風雅!?』


 いきなり変わった話し相手に慎司は驚いた。寧ろタイミングが良すぎるくらいだ。というより、どこで気づいたのかと突っ込みたい!


「杏の可愛いドレス姿を俺より前に見ると?」

『いや、そういう理由で』

「じゃなくても俺は許しませんが?」

『お前の母さんに代われ! 何で話してないんだよ!!』

「そうしなければ杏たんを堪能出来ないからだ」


 だから何でそう簡単に変わるんだと思う。東吾が持って行ったのは任務用の携帯電話で、スピーカーは付いていてもあくまでも個人で話すぐらいの音量しか出ないはずなのに……

 それとも月眼を持っていると聴力まで高くなるということか……


 そんな応酬を繰り広げながらも、東吾はもう一度電話を風華から受け取り、きちんと情報部隊長として連絡することにした。


「とりあえず、お前は特別に今日冴島家に泊まれ。だが、淳士には戻るように伝えろ」

『兄さん駄々っ子なんですが……』

「戦闘部隊長がふざけんなっ! ボス達の会議もそろそろ終わるはずだからな、明日の作戦会議に幹部は召集する」


 全ては明日、全てが交錯する日はもうそこに来ていた……




お待たせしました☆

もう、年度末や年始ってどうしてこんなに社会人は忙しいのか……

私の部署には新人が入ってきませんので、いつまでたっても下っ端です

(そっちの方が好きなんですけどね)


ということで、しばらく遅い更新になりますが、ちゃんと書きますのでお待ち下さい☆



〜お手本なんです〜


東吾「おい、翔子」


翔子「なぁに、東吾ちゃん」


東吾「お前はもう少し夏音を見習え。高校生から年増に見えんのもどうなんだよ」


翔子「あら、良いじゃない。ギャップ萌えで東吾ちゃんのSMコレクション」


東吾「集めてねぇよっ!! てか、俺は少女趣味だ」(実際は違います、ただの巨乳好きです)


翔子「うん、そういうところは残念よね、東吾ちゃん」


東吾「言えば黙るだろう。で、何で色気方面に目覚めた」


翔子「風華様をお手本にしてみようかと思ったの。いかにも女王様とお呼びって感じでかっこいいじゃない?」


東吾「見た目はともかく違うだろ、アレ」


翔子「そう?」


東吾「ああ。てか、幼じみとして言わせてもらうがああならないでくれ」


〜実態は〜


風華「ダーリンっ!」


良秋「おや、今日は甘えたい日でしたか?」


風華「ああ、寧ろダーリンには毎日甘えていたい」 


良秋「それは嬉しい限りですね」


東吾「……アレが女王様だと思うか?」


翔子「ゴメン東吾ちゃん……」




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