第四十三話:野外活動攻防戦
授業も終わり部活前、携帯を見た隆星に師匠からの着信履歴が一件。それに何があったんだと思いながら隆星は折り返すと、すぐに彼女は出てくれた。
「なんだ、ジェニー」
『ああ、ちと悪いんだが今日は夜練にしか付き合えなくなってな』
「珍しいな、ちゃんと会議に出てんのか?」
『いや、会議はヒナに任せてる。私は別件で指揮をとってる最中だ』
「それこそちゃんとやれよ!!」
本当にEAGLEナンバー3の戦闘顧問かと思う。彼女の上である陽菜と三熊が真面目な性格なため、比べてしまうとあまりにも軽く思えてしまうのだ。
だが、彼女には電話していても問題ない理由がちゃんと存在した。
「Don't worry! こっちは小さな案件だし、カナデが出てくれてるからまず失敗はしないさ」
『兄貴も授業受けろよ……。マジで留年するぞ……』
「それも大丈夫だ。海宝高校は夏休みの最中に補習合宿があるからな、あいつらはその間に単位を取ってる」
要領良い奴らだからな、とカラカラ笑うが、我が兄ながら恋は盲目になり過ぎだろうと思う。ただ奏の場合、高校が卒業出来なくても大検を取るから良いとぐらい言いそうだが……
「まっ、そういうことだからリュウも居眠りせずに勉強しろよ。赤点を取ればフウガとマオにHardな勉強させられるぞ」
「死んでもゴメンだっ!」
そう答えて乱暴に通話を切ると、部活に行くのを待っててくれたのだろう、隣の席の杏が話し掛けてくれた。
「ジェニーさんからですか?」
「ああ、今日は部活に来れないってよ」
「そうですか、残念ですね」
杏は眉尻を下げて小さく笑った。ジェニーが来れないことというより、隆星が鍛えてもらえないことが残念だと言ってくれてるのだろう。
「まっ、夜には来るだろうし心配すんな。ほら、部活行くぞ」
「はい」
二人は荷物を持ち、体育館へと向かうのだった。
魔法女帝・一之瀬風華は幅広い廊下を走っていた。てっきり良秋も会議に出席するために魔法議事堂に来たと思っていたのに、いきなり指令室とスタッフ一式を借りて愛しの夫は篭ってしまったという。
ならば自分も義理立てて出るつもりはないと彼女は我が儘ぶりを発揮し、会議室を飛び出したという訳だ。
「ダーリン!!」
バンと両開きの扉を開ければ、そこには見慣れた任務中の指令室の光景が飛び込んできた。
野外活動センターの防犯カメラの映像がスクリーンにいくつも映し出されており、味方と敵の動きを青と赤の光で示したセンター全体の地図が一番大きな大画面に表示されている。
中には良秋とスタッフが八名ほど。ただし、そこにいるスタッフはCROWNやEAGLEのメンツではなく、魔法議事堂に所属している職員達だった。
しかし、任務のプロではないものの、最低限の事さえ出来れば構わないため、良秋は非常に落ち着いている様子だ。
「おや、風華さんどうされましたか?」
「どうしたじゃないだろう!! 何故優と陽菜を会議に出席させてダーリンが戦闘指揮をとっている!!」
「お二人にはどうしても出ていただかなければなりませんでしたので。それに三熊先生やジェニーさんにも別件で指揮をとってもらってますから心配いりませんよ」
ニコッと笑う良秋に風華はポンと顔を真っ赤に染め上げた。毎回この笑顔にコロッと騙されてしまうと分かってはいるが、態度と言動が絶対一致しないのが風華様だった。
「そっ、そんな素敵過ぎる笑顔に騙されはせぬぞ!」
「風華さんの方が可愛いですよ」
「はうっ!!」
魔法女帝が悶え苦しむ姿にスタッフ達は目を丸くして驚くしかなかった。
彼女のイメージは風華様ということで魔法界の絶対的な女帝だ。間違っても晩年新婚夫婦とは程遠い。
そんな夫婦の会話にまたかと思いながらも、風雅は任務中なのだからと突っ込んだ。
『父さん、念波使いながらイチャつくのは止めろ』
「ああ、すみません。風華さんが可愛いのでつい」
『ただのオバさんじゃ……』
「何だと風雅!!」
念波を使って親子喧嘩もどうなのかと思うが、現場にいるCROWNやEAGLEの面々からすれば、淳士のおかげで日常茶飯事なため、特に突っ込むことはなかった。
ちなみに彼女をオバさんと皮肉ることを良秋が許しているのは風雅と水庭ぐらいで、あとは二度と呼ばなくなるというのは世界の掟である……
「とりあえず風雅君、君達の動きに敵も気付いて寄って来てますからね、そろそろ臨戦態勢に入って下さい」
『ラジャー』
そう答えて風雅は話を切った。そんな生意気な息子に風華は後でシバいてやると思いながらもやはり母親、息子の敵は気になるものだ。
「何処のクズと戦ってる」
「DEVILです。DEVILの指揮官が水庭君達を会議に出席させないように行った事でしょうが、どうせなら痛手を負わせたいとの事でしたので」
「優らしいな」
風華はクスリと笑った。妨害されるならそれ以上に痛手を負わせる、それが水庭の主義だ。おそらく良秋に指揮を頼んだのも後々のことを相変わらず想定しているからだろう。
ならばもう少し痛手を負わすことを手伝っても構わないかと、彼女は敵にとって最悪の提案をした。
「さて、ならば私も戦場に出てやろうか」
「お手伝い頂けるのですか?」
「ああ、明日のパーティー、可愛い夏音と未来の娘の杏たんに最高のもてなしをしたいからな、邪魔者は消すのみだ」
「あっ、でしたら桜ちゃん達は僕が持て成しましょう。久しぶりに会えますから凄く可愛がりたいですし」
「なっ! 桜達も私が選んだドレスを着てもらいたいんだぞ!」
「風華さん、欲張ってはいけませんよ。夏音ちゃんのドレス、二人で選んだことは知っているのですから」
「うっ! 何故それを……!」
「僕の情報網は世界ですからね」
ズキューンと今度は不敵に笑う冷静な眼差しに風華は貫かれた。良秋が言うと大きな言葉がひどく様になってしまう。本当にいつも心臓に悪い夫だと風華は改めて思った。
「ダっ、ダーリン! やはりダーリンは世界一だ!」
「僕も風華さんを世界一愛してますよ」
「はうっ!!」
完全にトドメを刺され風華はその場に崩れ落ちた。
「あの魔法女帝を戦わずして膝を折らせる唯一の男」と各界で恐れられていた良秋だが、確かにここまで畳み掛けられて陥落しない訳もないのだろう。
それだけ彼は人としての魅力に溢れているのだから……
ただ、それを任務中に見せられてしまうと少々困ることがある。申し訳なさそうにスタッフは手を挙げた。
「あ、あの……、指揮官、宜しいでしょうか……」
「はい、どうぞ」
イチャついてる場面でも仕事をする時はするというのが良秋のスタイルだ。なので邪魔されたとしても特に気にすることも怒ることもない。それにスタッフは心から安堵し報告した。
「そろそろ風雅様の部隊が戦闘に入りますが……」
「かしこまりました。ですが、風雅の部隊は問題ありませんので引き続き一般生徒達の安否を優先して下さい」
「えっと、四小隊ほど同時に向かって来てますが……」
「ええ、寧ろそれで構いません。引き続き宜しくお願いします」
自分の息子が心配じゃないのかと思えるほどあっさりした答えにスタッフ達は戸惑った。
普通、中学生が命のやりとりをする任務に赴いて、ここまで心配いらないと言える親はいないだろう。もちろん、良秋と風華が空間転移ぐらい簡単に出来るからこそ言えるのかもしれないが。
「では風華さん、投入はもう少し待っていて下さい。今は中学生達の活躍を待ちましょう」
おそらく前線の状況を適確に判断している監督がいるだろうから、と良秋はニッコリ笑うのだった。
基本、四人小隊で突っ込んで来る敵に風雅達は全くといって良いほど動じることなく、寧ろ瞬速で敵を片付けていた。
それもそのはず、烈拳が当たり前の風雅に少々きつい訓練を受けたぐらいの者達が勝てるはずもないのだ。さらに相手の指揮官も良秋に比べれば下の下といったところか。
そんな任務をこなしていく中、とりあえず射撃の名手達が来るまでは魔力を温存しておくように言われた晴人は銃を換装したホルダーに閉まっているため、いつものヘタレに戻っていた。
「はぁ……」
「どうしたの、晴人」
「いや、学校指定ジャージで任務についた中学生なんて俺達ぐらいだろうなって思ったんだよ」
「そうでもないわよ」
さらりと真央は切り返した。学校指定ジャージならまだ良い方だと、彼等にやられた敵なら間違いなく言う格好をした兄貴分達がいるからだ。
「CROWNは学園祭の最中に任務になったらしくて、それはコスプレ集団だったらしいから。ちなみに淳士さんは馬の後ろ脚だったみたい。白雪姫をやってたみたいよ」
「無茶苦茶有りえねぇ配役だよな!?」
出鱈目でもイケメン戦闘部隊長、通常ならそれなりの役をやりそうなものだが、CROWNの面々いわく「出鱈目な白雪姫にさせる訳には死んでもいかなかった」とのこと。
ちなみに一番様になってたのは東吾の「后の家来」だったらしく、演劇でも任務でも適役だったらしい。
「まぁ、淳士さんは見た目は王子様になれる容姿だけど、中身が出鱈目だからね」
「黙っていれば……、黙るはずもないか」
祭となれば騒ぐのも淳士だ。黙るはずがない。それどころかCROWNがさらに煽るに決まっている。
そんな雑談を繰り広げながらもやはり周りに敵が寄って来た気配は感じ取っているらしく、そろそろ仕掛けどころかと修平は切り出した。
「風雅」
「ああ、四小隊は来るな。晴人」
「分かってる」
相手は射撃部隊となれば自分の出番だと晴人は銃を抜いた。人数が多ければそれなりの戦い方をした方が弾の無駄遣いも防げるかと、神奈も参戦することにした。
「晴人さん、援護は任せて下さい」
「オウッ! んじゃ、よろしく!!」
そう告げて晴人は飛び出すと目の前には戦闘官が四人、銃を発砲しながら晴人を一気に撃ち抜こうとしたが、それは彼が身に纏うバリアによって無効化した。
そして、そのまま晴人が撃って来るかと四人はバリアを張ったが、攻撃してきたのは彼の後ろから四枚の札を持った神奈だった。
「黙殺」
静かに唱えて勢いよく四人の額にそれを投げ当てると、彼等は一気に魔力が落ちていった。
「くっ!!」
「魔力が……!!」
札の性かとすぐにそれを外そうと思った時には晴人はトリガーを弾いていた。
「食らえっ!!」
「うわあああっ!!」
魔力がないためバリアを張れなかった戦闘官達は一気に貫かれ地に伏せるしかなかった。
その様子を修平は手際が良いものだと、敵をトンファーで殴り気絶させながらも感心していた。
「水谷は本当に援護上手いな」
「ヒーリングガードですから。まぁ、たまに晴人さんがしくじると背後から攻撃してやりたくなりますが」
「おいっ!!」
晴人は思いっきり突っ込んだ。任務にしても試合にしても仲間から、しかも後ろからとんでもない威力を持つ攻撃など受けたくない。
「ですがそちらには援護の達人、陸君がいるじゃないですか」
「ん? 小原と戦ったことあんのか?」
「ええ、一昨年のジュニアクラブの全国大会で。風雅さん達と決勝戦で当たったんです」
「そういや江森が水谷を知ってるとか言ってたな」
真理に海宝中のヒーリングガードと言ってすぐに出てきたのは神奈の名前。確かに決勝戦で戦ったことがあるなら面識があっても不思議ではない。
「ええ、あの時は負けてしまいましたけど、今度は負けませんので修平さんも背後には気を付けて下さい?」
「今は任務中だからマジでその札当てるなよ……」
「あら、つい癖で殺の札が……」
実際に味方に向けて投げたことはないらしいが、無意識に取り出すところまでは最早癖の領域。さっきの「黙殺」で魔法使用不可となったが「殺」になると本気で絶命するのではないかと思う。
「場合によってでしか死にはしませんよ」
「心読むなよ!! てか、場合によってって何だよ!!」
「私より強ければ効果は薄れていくので意味が無くなるんです。事実、烈さんに稽古を付けてもらった時に効いたのは淫夢だけでしたし……」
「何か烈さんのイメージ思いっきりダウンしたぞ」
淳士の親友をやっているだけあって常識人というわけでもなく、当然健全な男子高生には違いないが、絶対それはかかりたいと魔力を落としたことは間違いない。
しかもそれならかかってみたいと他の男子達もこぞって神奈の元に駆け付け、困っていた神奈に女性陣達から現実の悪夢を見させられたのは言うまでもない……
そして、ウォーミングアップになるだろうと一人で二小隊を軽々蹴散らしていた風雅のもとに、別動隊から念波が飛んできた。
『風雅隊長! 人質保護に成功しました!』
「現在地は」
『食堂館です!』
「よし、そのまま待機」
『しかし……』
「待機するんだ」
逆らうんじゃないと風雅は一蹴した。ただ、そのあまりにも一方的な命令にさすがの戦闘官も表情を歪めた。
「食堂に待機して敵が攻めて来たら」
『大丈夫、風雅君の意見に従って下さい』
「良秋さん」
自分の息子だからかと内心思ったが、良秋は全ての者が納得する理由をさらりと答えた。CROWNとEAGLEに所属するなら忘れてはいけないことがある。
『忘れないで下さい。風雅君の部隊には未来の戦闘補佐官が二人もいるんですから』
「あっ……!」
それに戦闘官達は気付かされた。風雅と同い年には彼女達がいて、その彼女達が出した指令だと分かったからだ。
そして、その優秀な未来の補佐官達は地図と全体の動きを把握しながら策略を展開していた。言わずもがな、真央と美咲だ。
「真央、味方が三小隊チンピラを撃破。CROWNでもかなり高い機動力を誇る小隊だからセンター内にも十分あれば突入出来るそうよ」
「了解。こっちも食堂に一般人が集まっていれば後援にガスを扱える部隊が来るから問題ない。あとは散り散りになっている生徒も近くにいる部隊と合流してる。私達は本館で幹部撃破に走れるわ」
現場での的確な指示は味方にとっては非常に有り難いものだった。それは指揮官をやっていた良秋も同様で、自分が指示した以上の働きに脱帽してしまう。
『真央ちゃん、どうせなら指揮官もやってみますか? 僕より良い策が出そうですし、美咲ちゃんのフォローもありますから勿体ない気もしますし』
「いえ、それは良秋さんに。私達が戦略を組みやすいように予め動かしてくれてたみたいですから」
そこまで気付いてくれてるなら尚更勿体ないなと良秋は笑った。さすがは戦闘指揮官の娘ということか、状況を把握する能力がずば抜けて高いと改めて思った。
しかし、そこで突然彼女達の前に数部隊が立ちはだかった。あらかたの予測はしていたが、この相手にとって一番最悪な状況で出て来るのかと真央と美咲は別の意味で驚かされた。
「一之瀬風雅!!」
その声と共に魔法弾の乱撃が放たれるが、真央が面倒だと前面にバリアを張り、それは全て消されてしまった。
せめてこの後に上空や地面から襲撃があってもと思ったが、目の前にいるリーダー格にはそんな知識がないらしく舌打ちしているだけだ。
ただ、風雅はいきなり呼び捨てにされているため、何か関わりでもあったかと尋ねてみることにした。
「何だお前」
「忘れたとは言わせんぞ!! 貴様の月眼で俺は……!!」
「知らん。お前のようなクズなど最初からいてもいなくても問題ない」
相変わらず敵だと容赦なさすぎる物言いだと一行は思う。一応、部隊を率いて来ているのだからそれなりの対応ぐらいしてやってもいい気がするが……
しかし、次の一言が余計だった。
「遊園地で冴島慎司共」
それを言った瞬間、風雅は神速で男の腹部を蹴り飛ばし壁に激突させた。遊園地、冴島慎司、その後にきたのは「杉原杏」。それだけで相手を滅ぼすには充分過ぎる理由に値する。
「思い出した。杏に手を出そうとして殺り損ねたクズ指揮官か。だが、お前はDEVILのボスじゃなく……、どこかのチンピラだよな?」
だとしたら指揮官というのもおかしな使い方だったかと思ったが、既に気絶していてはどうにもならない。
そんな突然の出来事に部下達は呆然としていたが、ハッとした部下がいて風雅に殴り掛かった。
「死ねっ!!」
「遅い」
殴り掛かってきた拳をサッとよけ、風雅は相手の顎を蹴り上げると、流れるような動作で烈拳を繰り出し次々と敵を始末していく。
しかし、その騒ぎを聞いてかそれとも本部前だからなのか、次々と敵がこちらに集まって来ることを真央と美咲は感じ取った。
「ちょっと効率が悪いかしらね」
「ええ、それに状況的には海宝が向いてるみたいだし、ここは私達海宝に任せて魔法学院は本館に突入して幹部撃破で!」
「あっ、だったら俺と晴人はチェンジしてくれないかな」
「なっ……!?」
まさかのチェンジかよ、と晴人は駿の申し出に驚いた。
戦力のバランスや普段のコンビネーションを考えればそのままの方が安定しているが、あくまでも駿はオールラウンダーであることを忘れてはならない。
それに彼は晴人に下されている指令を忘れてはいなかった。
「だってさ、晴人は隊長格をやらなくちゃいけないんでしょ? だったら戦力としても俺が残った方がいいし、都築君となら早く片付けられるしね」
つまり効率の良さを重視するとそうなると駿が言えば、晴人以外のメンバーも納得したらしく思ったことを口々にした。
「うん、俺は間宮君と同じ方がいいな。晴人と違ってオールラウンダー二人って攻撃のパターンが増えるし」
「私も駿さんの方が援護も楽ですし、私自身も戦闘に参加出来ますね」
「晴人、海宝組は問題ないからそっちに合流しなさい」
「お前らひでぇよな!?」
まるでいたら邪魔だといわんばかりの反応に晴人はつっこむが、駿の方が攻撃範囲が広いことを考えれば仕方ない。さらに星市とのコンビネーションも抜群だ。
「まっ、晴人も銃だけはイケるし、俺も切り込みが楽になれば問題ない」
「そうね。晴人、遠慮なく使わせてもらうからこっちに来なさい」
「そっちは殺す気かよ!?」
しかも真央の表情がいつもの百倍キラキラしてるあたり、絶対ろくでもないことを考えていると思う。
そんな会話を繰り広げている間に風雅は敵をあっさり全滅させていたが、本部や周辺からは第二陣が向かってきた。時間と労力は惜しいと真央は晴人に命じる。
「晴人、さっさと撃って道開けなさい」
「後で覚えてろよ!!」
そう言いながらも本館から出て来た戦闘官達に発砲して道をあけると、修平と晴人の後ろに真央と風雅が着いて行くような形で四人は突入していった。
そして、それを追って本館に入ろうとした戦闘官に向けて、美咲は瞬時に拳に魔力を纏わせ一撃を繰り出した!
「クレッシェンド」
「うわああああっ!」
彼女から遠くにいた者ほど数多く吹き飛んでいく。そして彼女は入口の前に立つと、ニッコリ笑って告げた。
「知らないの? クレッシェンドっていうのは音楽で段々大きくって意味よ!!」
「うわああああ!!」
二発目は攻撃範囲が違うが、やはり遠くにいるものほど大きなダメージを受けている。しかし、そんな魔力の属性があったかと戦闘官達はうろたえた。
「風系魔法か、それとも気功か……!」
「残念だけど不正解。そもそも気功なんて烈さんぐらいしか使えないわよ」
「グハッ!」
今度は直線的な一撃が戦闘官達に放たれる。それは当然気功の類ではなく、寧ろ気功こそどういうカラクリなんだと突っ込みたくなる一撃だった。
そもそも魔力を吸い取って攻撃を放つタイプはいるが、自然と融合してその力を発揮する感覚と言われてもいまいち分からない。
その点、自分の技はきちんとした理由もあり至ってシンプルな発想だ。ただ、通常と少しだけ異なる放ち方をしているだけで。
「すっ、凄い……!」
「指揮官、アレは……!」
魔法議事堂本部でも正体不明の攻撃にただ驚くしかなく、スタッフの一人が良秋に尋ねれば、彼は丁寧に答えてくれた。
「はい、美咲ちゃんは一撃から繰り出す威力を魔力で拡散させ広範囲に大打撃を与えているんです。ちなみに今使ったのは無属性ですね」
「えっ!? 通常は……」
「はい、狙わない限り通常威力は落ちますし魔力を溜める時間も掛かります。ですが彼女は自分から一定の距離を決め、その距離まで段々強くなるように攻撃を放っているんです。それも自然に打てるまで昇華しています」
だからどこまで攻撃範囲があるのか、さらには威力があるのかも相手は読めないということになる。そこを美咲は瞬時に計算し、一番ベストな威力を放っているという訳だ。
ただし、自分の距離から離れれば離れるほど強くなるというなら、瞬時に思い付く弱点がある。
「でしたら懐に飛び込めば」
「ええ、普通に威力は弱いです。ですが、彼女は攻撃力を拡散させ威力を強めるコントロールを自在にするタイプです。つまり範囲を狭めることも可能ですから」
「一撃必殺も可能……!」
「はい、正解です」
ニコッと笑い、良秋は画面に映る美咲の戦闘に視線を戻せば、まさに予測通り敵は叫んでいた。
「懐に飛び込め!! 隙を突くんだ!!」
「うん、そう来るしかないわよね」
たまには違う言葉を聞きたいと美咲は思うが、敵にそれを望んでもまず無理なのだろう。
さらにこちらは一人ではなく全属性を操るオールラウンダーが二人いることを忘れてはならない。つまり、攻撃範囲は自由自在に変化する!
「都築君!」
「うん、任せて!」
オールラウンダーが二人、美咲の左右を固めると二人は一気に水と雷の特大魔法を放った!
「ウォーターサイクロン!!」
「サンダーボルト!!」
声すらも掻き消される威力に戦闘官達はあっという間に全滅させられた。神奈に至っては既に戦う必要もないだろうと三人の魔力回復に努めているほど。
そして、辺りが静寂に包まれると美咲はポツリと呟いた。
「感電までさせなくても問題無かったんじゃない?」
「そうだね、こいつら防御苦手だったみたいだし」
「だけど任務となるとテンション上がるから仕方ないかな」
駿と星市の答えに美咲は納得するしかなかった。確かに任務となれば浮かれてしまうのは仕方ないこと。このメンバーで臨んでいるなら尚更だ。そこへ良秋の念波が飛んできた。
『皆、ご苦労様。安全のため風雅君達を追って下さい』
「ラジャー!」
そう答えて四人は風雅達の後を追いかけるため、本館へと突入したのだった。
そして、魔法議事堂指令室ではあまりの手際の良さにただ感心するしかなかった。この中学生達が将来のCROWNとEAGLEに加われば、彼等に敵う部隊が存在するのかと思えるほどで……!
「本当に凄い中学生達ですね……」
「はい、将来が楽しみで仕方ありません」
ホクホク顔で告げるのは本当にそう思うから。彼等はそれだけ大きく成長していると実感させられる。
そして、そこに新たな念波が良秋達の元へ飛び込んできた。
『良秋さん、本館裏口の退路を確保しました』
発信者はCROWN情報部隊情報官「服部翔子」だった。東吾の部下であり一つ年下の魔法学院高等部・魔法格闘技部レギュラーだ。
ちなみに本日は平日なので学校ではあったのだが、授業がダルいと抜けてきた「高二三馬鹿トリオ」の一人である。もちろん、名付けたのは東吾だ。
「翔子ちゃん、そちらはどうですか?」
『まもなく本館裏口から突入します。ですが、問題なさそうなので敵の指揮官は風雅ちゃん達にお任せしちゃっても良いかしら?』
「ええ、戦闘は問題なさそうなので情報収集を優先して下さい。それと翔子ちゃん、明日のパーティーなんですが」
『バックが開いた光沢のあるドレスで。東吾ちゃんを悩殺出来るレベルの』
「かしこまりました」
そう答えると翔子は部下達を残し一人本館へと突入した。彼女の任務は情報収集、それも乱発して起こる最近の任務に関わってる者達を全てあぶり出すこと。
だからこそ、比較的小さなこの案件に乗り込んで来たのだった。
そして、そんな良秋と翔子の会話を聞きながら風華はふと漏らした。
「何だ、翔子は東吾狙いになったのか?」
「幼じみなのでありと言えばありでしょうけど、残念ながら少し違います。今年は色っぽい現代くのいちの服が彼女の流行りみたいなので」
「……元々翔子の先祖は忍者だろう」
風華は思わず突っ込んだ。しかも翔子自身、昔から忍者の素養を叩き込まれて育って来ているのだ。精々違うところといえば、昔と違って魔法を多用し、情報機器を扱っているということか。
「ですが、彼女の情報収集能力は桐沢部隊でも重宝されていますからね。きっと大人の女性を演出しなければならないことがあるというわけです」
「ほう、パーティーの招待客も一筋縄で行かなくなったか?」
「かもしれませんね。ですが信じられることも多いでしょう?」
良秋は画面に視線を戻すと、そこには確かに感じられる将来を担う者達の存在。
「彼等は成長するということです」
「っつ……!!」
その綺麗な横顔に風華だけではなく、他のスタッフ達も完全に魅了された。本当にこの無自覚な魅了は何とかならないものだろうか……!
「私、転職しようかな……」
「俺も……」
「構いませんよ。CROWNでもEAGLEでも、僕の会社でも紹介しますので」
「一生付いていきます!! 良秋さん!!」
こうしてまた新たな戦力が加わった。
ちなみに一之瀬グループがここ近年さらに大きくなっている理由は男女共、良秋に惚れているからである……。
すっかりお待たせいたしました☆
社会人の二月は忙しいものなんですねぇ。
あ〜あ、有給休暇とりたいな……
さて、そんなこんなでお話は野外活動らしからぬ任務を熟す中学生。
しかもCROWNのメンバー(翔子以外は全員普通の戦闘官です)を既に従えてる感もあるという……
うん、貫禄ありすぎじゃないかと作者が突っ込みたい。
とりあえず、次回は晴人のノルマもこなして貰うということで。
楽できないキャラクターがいると助かりますね(笑)
では、小話をどうぞ☆
〜会議は嫌いですか?〜
水庭「ちっ、何で指揮官がこう面倒な会議に出なけりゃいけねぇんだよ」
東吾「指揮官だからだろうが。てか、予算分捕り会議だけはノリノリでちゃんと行ってるだろ」
水庭「当たり前だ。うちの食費がいくら掛かると思ってんだ」
陽菜「そうよねぇ、EAGLEもそこだけは悩みどころだわ」
東吾「陽菜上官」
水庭「お前のとこは服やら化粧品やらと無駄遣いが多いからだろ」
陽菜「あら、無駄な修繕費を払ってるCROWNに言われたくないわ」
水庭「フン、その程度淳士の沈没船発掘で賄っている」
陽菜「こっちもジェニーが王族ですもの、寄付はたっぷり過ぎるわ。だいたい」
東吾「そこまでにして下さい。今回は組むんでしょう? それにその予算会議に向けて俺も本気なんですから」
水庭「そうだな。仕方ねぇな」
陽菜「ええ、勝つためなら手段を選ばないわ。今年は……」
〜予算会議当日〜
水庭「何だ、今年は指揮官共はいねぇのか」
陽菜「そうね。じゃあ、予算は私達で決めましょうか」
東吾『ついに出席させない領域に入ったか……!!』