第四十二話:ワクワクする理由
午前の授業が終われば急げと言わんばかりに杏は両手を藍と真理に引かれ、彼女の作った重箱の弁当は昴に持たれて指令室へと走った。
休憩時間は一時間、しかも風雅がいない時に彼等がやりたいことは目白押しだ。
そして、その一つが指令室で早速始まろうとしていた。
「いっただきまーす!!!」
明るく響くランチタイム開始の声。いつもは個人の弁当も今日は突きあって食べることに今日は頬を綻ばせる。
最近ではごく当たり前になってきた日常だが、杏にとってはその日常が幸福だった。
そして、彼女の隣で豪快な食べっぷりを見せている隆星はパアッと笑顔の花を咲かせる。
「うめぇ!! やっぱ杏の飯はうめぇな!!」
「ありがとうございます、隆君」
ニッコリ笑って杏は礼を述べた。味に関してそれなりにこだわりのある隆星の賛辞は杏にとって嬉しいものだった。寧ろ、隆星が懐いて来ているといったところ。
そんな良好な友情関係を築いている隆星と杏を見ながら、陸は杏お手製のだし巻き卵に舌鼓をうっていた。
隆星が杏に恋愛感情を抱くことはないと言っていた理由も何となく分かる気がする二人の距離感、それは人間観察を趣味とする陸だからこそ分かるものだった。
「だが、風雅隊長も昼飯を指令室で食っていいなんて粋な計らいをしてくれたよな」
「そうですね、お蔭様で冷蔵庫が使えましたから杏さんのプリンも傷まずに済みましたし」
部活の前に指令室の冷蔵庫まで喜んでダッシュしたのも雅樹は初めてだった。それだけ彼女が作るプリンは美味で、さらに美味しく食べるためなら喜んでダッシュするとのこと。
「てか、学院もよくこんな待遇許してるっスよね。風雅様だからっスか?」
「それもあるだろうが、うちの学院は一之瀬グループから寄付金が出てるからな。それに風雅隊長の母親も魔法覇者だから逆らえないんじゃないか?」
「……へっ?」
昴の時が止まった。確かに蓮は今魔法界に五人しかいない「魔法覇者」という単語を出してきた。それも風雅の母親だという情報まで付け加えてだ。
しかし、そこで止まることなく藍が新たなオプションも付け加える。
「というより、モデルの一之瀬風華としての方が有名じゃない? 昴るん知らなかったの?」
「風雅隊長の母親だったなんて知らないっスよ!!」
滝のような涙を流しながら昴は吠えた。言われれば目元や風格がそっくりだと昴はようやく気付いた。
いや、寧ろあの母親にしてあの息子ありというべきだ。「魔法女帝」と言われる女の息子が「風雅様」を生み出したというのも納得出来る。
「もう風雅隊長って何なんスか。全てにおいて完璧なんて漫画の世界だけにしてほしいっスよ」
「いや、家事はそこそこだぞ?」
「ああ、そこまで含めれば風雅隊長の父親の方がさらに完璧だな。そう見えないが」
「風雅隊長の父親? そんなに有名人なんスか? やっぱ財界のトップだからとか?」
確かにそれもあるけどな……、というのが全員一致の表情。しかし、それ以上に覚えておかなければならないこともある。
「昴、CROWNに入るなら覚えておけ。風雅隊長の父さんはあのボスがちゃんと敬ってる数少ない人だ」
「そうだぞ。ボスの師匠らしいうちの親父をボロカスに言うボスがちゃんと敬ってるんだからな」
「そりゃすごい人に違いないっスね。反省するっス」
「オウ、そうしとけ」
水庭が敬うというだけとんでもない人だと納得してしまうのは躾の賜物。しかし、まさか腰が低い人物だと昴は当然知らない。あくまでも水庭より怖いというイメージだ。
その時、風雅の仕事机に置いてあるパソコンから明るい声が室内に飛び込んできた。
『おーい、皆いるかい?』
数日前、一緒に戦った主将の声に全員の表情も明るくなる。蓮は立ち上がり机の上に置いてあるパソコンの向きを全員が映るように回転させた。
「こんにちは、祥一さん」
「チワッス!!!」
『うん、元気そうだね』
ニコッと祥一は微笑んだ。どうやら今日は一人らしく、海は傍にいないようだ。おそらく情報収集に追われているのだろう。
『皆、明日の件はジェニーから聞いてる?』
「明日?」
『うん、一之瀬家においでって』
サラリと答えた祥一に杏を除く全員がムンクの叫びに変わった。一之瀬家、それはつまり風雅の実家ということになる。
ただ、ムンクからいち早く立ち直った蓮は風雅がいないのに行くのかともっともな疑問を浮かべると同時に、あの魔法女帝が考えそうなことも過ぎってきたため、一つの結論に辿り着いた。
「それって風雅隊長には内緒だと……」
『そうみたいだね。だからさ、蓮や涼は挨拶まわりに行かないわけにもいけないだろうから杏ちゃん、うちでも協力して守らせてもらおうかと思って連絡したんだ』
味方は多い方がいいでしょ、と笑う祥一に杏は眉尻を下げた。どこにいっても必ず自分を助けてくれる人達がいることには本当に感謝だ。
だが、杏を守るということは……、と雅樹は感づいたことがあった。政財界のパーティーには基本、奴らがいるからだ。
「嫌なジジィとかババアとかいるのかよ」
『一之瀬家だから基本は来ないよ。でも、CROWNとEAGLEが集結する場で何もないとは考えられないからね。乱入して来る客も考えとかないといけないし』
下手をすれば戦闘になる、それがCROWNとEAGLE、さらに一之瀬グループの宿命とでもいうべきなのかもしれない。
なんせ、世を騒がせる大物ばかりが集結し、魔法覇者が下手をすれば三人集う可能性もあるのだから……
「それって行かない方が……」
『俺も思ったけど、淳士さんと夏音姉さんの婚約発表には皆がいた方がいいし、あの二人が杏ちゃんに会いたいってかなり駄々こねてるみたいでさ』
それこそ先日、二人以外が杏と関わったということでしばらく頬を膨らまして不機嫌だったらしい。当然、そのとばちりを東吾が受けたらしいが……
だが、サラリと答えた祥一とは正反対に涼はとんでもない爆弾発言を聞き逃さなかった。
「ちょ、ちょっと待て!! 婚約発表って……!!」
『涼君、聞いてなかった?』
「いや、三条への当て付けは聞いてたが、一之瀬まで出て来たら……!!」
『本決まりだよね。でも淳士さん、あれでも一之瀬家に婚約指輪の依頼してたみたいだよ。夏音の夢だから叶えたいって』
そういえば……、と涼は思い出す。夏音の夢は「淳士のお嫁さんになること」だった。さらに淳士からロマンチックな場所でプロポーズされてみたいと、叶いそうもないことも密かに思っていた。
それに対して淳士は「毎日美味いものが食えるならお互いの夢が一気に叶うな!」と恋愛感情が伴ってるのかどうか怪しい解答をしていたのは記憶に新しい。
しかし、さすがに淳士といえど婚約指輪の意味を知らない訳もなく、冗談で済ますような兄ではない。それに誰よりも夏音を泣かせたくないと思っているのは確かだ。
「じゃあ、最近任務続きだったってのは……」
『そのためかもね。戦闘部隊長で魔法覇者の任務も熟せば竜泉寺家に失礼のないものは送れる金額になるし』
それを聞いて涼の目から滝のような涙が流れてきた。自分の兄なのにまるで子供のような感情が沸いて来るのは、間違いなくあの出鱈目がまともなことをしているからだろう。
「やっと淳士兄貴も身を固めてくれる気に……!!」
『うん、だといいけどね。だけど、淳士さんが好き勝手に周りを固められてそのままでいるとは思えないなぁ』
基本、かなりの自由人だ。恋愛一つでも大人しくしている方が奇妙だと考えた方がいい。それに何となく裏があると感じさせられるのもあの大人達の性だろう。
しかし、杏の意見は少しだけ違っていた。次元を持つ者同士というわけでもないが、何となく感じることもあるのだ。
「ですが祥一さん、淳士様は夏音様を大切に思われているのですよね?」
『うん、割合は夏音姉さんの方が大きい気がするけど』
その意見にはCROWNもEAGLEも大きく頷くだろう。ご主人様とペットの関係は非常に強固なものだ。
「ですが、淳士様の隣には夏音様しか考えられないのは私だけでしょうか」
そう感じさせられてしまうのは夏音の優しさを知っているから。それとテレビ越しでしか見ていないが、あの強さを誇る淳士の隣にいたのはいつも夏音だったからだ。
だが、彼等と長く付き合ってきた者達は納得させられるには充分だった。淳士の傍には夏音が似合う。
『……そうだね、考えられないな。じゃっ、詳しいことはジェニーに聞いてね。夕方にはそっちに行けると思うから』
「何だ? 珍しく仕事してんのか?」
隆星の発言に祥一は苦笑した。確かにジェニーは堅苦しい仕事に関してはサボり癖がある。しかし、その間に自分達兄弟を鍛えてくれていたので文句は言えないのだけれど。
『うん、今日は魔法議事堂で指揮官会議らしくてね、重鎮達が集うんだってさ』
「面倒くさがりそうだなぁ」
ジェニーの性格上、間違いなく行きたくないと駄々をこねるだろうが、そんなことをしている場合では無くなっていたのは別の話だ。
一方、飯盒炊飯が終わった風雅達は午後のオリエンテーリングに入っていた。ただし、両校とも魔法議院に入ることが目的とされる学校なので、その形式は任務のようにハードなものであると有名だ。
そして森の中を駆け巡りつつ、風雅達の班は最初の難関に差し迫りつつあった。
「第一問、目の前の機械兵を掃討せよ」
学校側から出た指令を美咲が読み上げた通り、目の前には機械兵が五体。さらに特進クラス用ということか強さも彼等仕様に設定されている。
しかし、それが風雅の前で通用する訳もなく彼は時間の無駄だと先陣を切った。
「簡単だな」
雑魚程度も切り崩せないならば、未来のCROWNの戦闘部隊長になる資格はない、そういわんばかりに風雅は軽く全身に魔力を纏い攻撃を繰り出した。
「烈拳」
それって烈拳かと突っ込まれそうな速さで機械兵に拳打を叩き込めば、あっという間に機械兵はショートしてその場に崩れ落ちた。
そして、表情も変えず先へと進む風雅に晴人はポツリとぼやく。
「アレ、烈拳だがスピードが神速拳だよな……」
「杉原への景品が掛かってるからな……、スピードが出鱈目になるんだろ……」
いつもの百倍ダメージも大きいとさえ思う。いくら機械兵とはいえ、一瞬のうちに鉄の残骸にされるのはどうかと思う。
だが、大破しなかっただけマシだと風雅なら言うのだが……
それからすぐに川に到着すると、そこにはまた機械兵が五体用意されていた。その瞬間、雷小僧はピクリと反応し美咲は指令を読み上げた。
「第二問、川で待ち伏せしている水系魔法の使い手を魔法で片付けろ」
「修平」
「んなもん簡単だ」
水系魔法は自分がやるのが役目だと、修平はトンファーを換装して雷をそれに宿し、川の水を強く蹴り上げて機械兵にかけた。狙いは一掃だ。
「サンダーボルト」
川には流れて伝わらないように、修平は心臓部だけを狙って機械兵を破壊した。杏へのプレゼントに風雅は気合いが入っているが、修平はその手伝いはしてやるが魔力は温存しておきたかったのだ。
理由は簡単、夜にたっぷり扱かれるというのに今死ぬわけにはいかないからである。
そして、また木から木へと飛び移りながら進んでいくと、今度は行く手を阻む大きな結界が現れた。
遠回りすれば他の道もあるが、問題を解いてポイントを稼ぎながら進まなければ優勝出来ないため、当然結界を解いて進む道を彼等は選ぶ。
「第三問、結界を解け」
「私の専門!」
今度は真央が先頭に立つと、彼女は既にその結界の性質を見極めていたらしく拳に同等の魔力を宿した。それを見て晴人はギョッとしたが、真央は勢いよく結界に拳を叩き込んだ!
「弾け飛べ!!」
結界って弾け飛ぶもんなんだな……、と晴人は薄い目をした。通常は様々な呪文やら魔法やら新たな結界術で相殺するものだが、真央にはその必要がないらしい……
だが、ここで冷静な見方をするのが風雅である。
「……あれって解いたって判定になるのか?」
「同じ性質で相殺したから解いたという判定にはなるわね」
先に進めれば良いのだし、と美咲は全く気にしなければ風雅も納得した。全ては優勝出来れば問題ないのだ。
それから風雅のスピードに合わせて数分走った後、今度はテーブルの上に二十個ほど魔力の粒子が入った試験管が置かれていた。
今度は何だと晴人は美咲に尋ねると、彼女は淡々と答えてくれた。
「第四問、次の魔力属性を答えよ。魔法を使うことも許可する」
「都築君、半分宜しく」
「分かった」
これはオールラウンダーの役目だと駿と星市は飛び出した。既に二人はあらかた見極めているらしく、解答用紙を持っていた真央も二人の答えを予測していたのか書き込んでいる模様。
そんなメンバーに晴人は改めて彼等の凄さを感じさせられた。
「……本当、あいつらがいたら手間掛かんねぇな」
「ですが、晴人さんの出番も来そうですよ」
神奈の言うとおりで、彼女が持っている予備の問題用紙に書かれていた五問目は、正に晴人に与えられたものであった。
「第五問、制限時間五分勝負、出現するガンアタッカーを掃討せよ。尚、仲間からの念波も許可する」
それを読んだ晴人に神奈はスッと札を手にしてニコッと微笑んだ。
「晴人さんしかガンアタッカーはいませんし、美咲さんや真央さんの指令があるにも関わらずやられたら今夜は蜂の巣にされるかもしれませんね」
「怖ぇよ!! てか、札出しながらお前も言うなよ!!」
「あっ、つい殺の札が……」
いけないと神奈は悪びれた様子もなく札をしまった。彼女の札は書かれている文字によってその効能を発揮する訳だが、文字によっては本気で洒落にならない事態にも陥る。
事実、彼女の怒りに触れた者達は消えたやら未だにこの世をさ迷い続けているなどの噂があるほどで……
「ですが、心配はしていません。晴人さんの腕は中学トップクラスです。いくらヘタレでもやる時はやりますから」
「それって褒めてないよな」
「気付かれましたか?」
「否定しろよ!!」
晴人は思いっきり突っ込んだ。ヘタレだと自覚しているが、褒め言葉の中にも入るのは正直痛い。それも神奈の真顔はさらにそれを突いて来るように感じさせる。
二人がそんなやりとりをしているうちに駿達は問題を全て解き終えた。そして、次の問題を確認した真央は指示を出す。
「ほら、そろそろ行くわよ。晴人、私が指示出すから銃換装しといて」
「了解、双黒竜」
こうなったら絶対見返してやると、晴人は黒い銃を両手に換装すれば彼の空気が変わった。どうやら今日は好調らしくあまり外しそうにない。
「晴人、久しぶりに合わせるけどいけそう?」
「ああ、任せとけ!」
何とも頼もしい返事をして晴人は駆け出した。それに真央は相変わらずだとクスリと笑う。
銃を持てば熱血野郎に変わるのが晴人の特徴だった。しかも有り難いことに冷静さや集中力も格段に上がるタイプで、指揮官としては正に扱いやすい模範的な部下となるわけである。
そんな晴人を見て、普通ならヘタレが熱血に変わったと取られるだけだが、やはり風雅は気付いていた。
「星、あいつまた強くなったのか?」
「当然、射撃の腕はね。だけど精神はより強気になったかな。止めるとなれば風雅でも手こずるかもね」
「確かにあいつの精神力は並じゃないな。月眼に嵌まりにくいし」
アレは一種の才能だと思った。月眼は基本、戦力アップと同時に幻術も強くなるのだが、まさか瞳術を持たない晴人が掛かりにくいとは思わなかった。
一般的に掛かりにくい原因は三つある。一つは同じ瞳術を持つもの、二つ目は幻術耐性を持つものまたは術者より高い魔力を持ち跳ね返せるもの、三つ目は晴人と同じく稀だが精神面が屈強で跳ね返すものだ。
「だけど風雅、幻術に磨きをかけてるって海から聞いてるけど?」
「まぁな。月眼だけに頼ってたらCROWNやEAGLEには死んでも勝てない。それに近いうちに慎司さん達と試合だしな」
「風雅達も?」
風雅達もということは……、といえば慎司のライバルの顔が思い浮かび、正解だと星市は苦笑した。
「こっちも沙里先輩達と試合だよ。あのパワーアタッカーと戦わなきゃいけない雄太が可哀相でさ……」
「確かにきついな。だが、祥一さんの相手は?」
「辰也さんだよ。兄弟対決だから……」
「ああ、基本は辰也さんの圧勝だろ。あの人は温和だけど戦い方は容赦ない。EAGLEの戦闘部隊はくせ者揃いだしな」
しかもやけにスキルの高いメンバーが揃っていると思う。戦闘部隊といわれるなら当然かもしれないが、魔法以外という点においての強さはCROWNを凌ぐといっても過言ではないのだ。
「だけど勝算はあるみたいだよ」
「ん?」
「祥一さんもえげつないとこあるからね。それに今年は海がいるから徹底的に分析してるし」
だから勝てるかもしれないと思う。祥一一人で勝てるほど甘い相手ではないが、海の分析力が加わればいくら兄とはいえ戦いづらくなるのは必至だ。
それに彼の上には烈や奏といった戦闘部隊長まで控えてるとなれば、強くなることに立ち止まる時間などないのである。
「まぁ、沙里先輩や辰也さんに勝つだけじゃ団体戦は勝てないからね、俺や晴人ももっと強くならないといけないんだけど」
そして辿り着いたのはフィールド。次のガンアタッカーのために用意された自然のバトルステージだ。
通常の体育館と違い、ひどく開放的な気分にさせられるが緊張感もある。おそらく、本格的な任務になればこちらに慣れていくのだろう。
「晴人」
「オウ! 頼んだぞ、真央」
そう言って勢いよく晴人がフィールド内に入れば、地中から機会兵達が八体這い出てきて晴人の前に姿を現した。強さもこれまで風雅達が破壊してきたものより強く、勝たせてくれるつもりはないらしい。
だが、少々違和感があるらしく修平は美咲の仕業かと尋ねた。
「美咲、アレってわざとか?」
「ん? 何が?」
「いや、俺達のより設定が高いからお前が晴人を鍛えるために学校側に何かいったのかとな」
「ああ、それでも良かったかもね」
寧ろそうしておけば良かったかもしれない、と美咲はクスクス笑った。
それに修平は余計な質問をしたかもしれないと心中で晴人に謝罪した。どんどん夜練のレベルが上がっているのは気の性ではないだろう。
「残念だけど違うわ。あの設定は学校側から私達がすんなり勝てないように組まれたものよ。まぁ、CROWNやEAGLEはレギュラーじゃないと入れないと、将来を失望する子を防ぐ間接的な策でもあるみたいだけど」
「なるほど。確かに俺や駿は運よく真央に見出だされただけで、関わってなければ今頃他の班員と走ってただろうしな」
その答えに美咲は内心そうだったろうかと思う。確かに真央の指導力も修平達をここまで強くしたが、やがてはレギュラーになる力はあったと思う。
ただ偶然、あまりにも突出したメンバーに恵まれただけなのだと美咲は思っていた。
「まっ、とりあえず晴人の腕前を見せてもらおうか。真央とどれだけやれるのかは気になるし」
そして修平と美咲は視線をフィールドに戻した。その間、真央は機械兵達を一瞬にして分析し晴人に念波を飛ばした。
『晴人、スピード勝負に持ち込んで。それに相手は闇属性だからバリアはきっちりと張ること。あと間合いは極力取ること。良いわね?』
『任せとけ!!』
二丁の拳銃をサッと構えれば機械兵も身構えた。どうやらかなりハイテクな作りをしているものを投入してくれたらしく、そう簡単にはいかせてくれないというもの。
しかし、拳銃を持った晴人にとってはそのレベルの高さが心地好かったらしくニッと口角を上げ発砲した!
「んじゃ、破壊させてもらう!!」
「速いっ!」
まさに一瞬! 機械兵の頭部に銃弾を二発撃ち込んでショートさせると、一気に彼は上空に飛び上がり二体目の後頭部を撃ち貫いた! そこですぐに真央の念波が飛んで来る。
『晴人!! 右後方から一撃必殺狙ってる奴がいるから先にそっちを破壊して! そこから乱舞!!』
『ラジャー!!』
空を蹴り上げて宙吊り状態になった晴人が右後方を見れば、そこには闇の魔法弾を作り上げている機械兵を発見した。
「ショット!!」
一瞬で頭部に撃ち込み機械兵は闇の魔法弾をその場で爆破させて自滅した。だが、そこへ一気に三体の機械兵がナイフを持って仕掛けてきた!
『晴人!!』
「オウッ!! 双黒竜・乱舞!!」
銃の回転乱れ撃ち、ただし無駄な銃弾を一切使わず仕留めているのは晴人ならでは。しかし、その乱れ撃ちを避けた機械兵がいたことにすぐ真央は気付いた!
『晴人!! 一体撃ち落としてる!! 裏を使いなさい!!』
「オウ!!」
すぐに晴人の返答が返ってきたが、真央は違和感を覚えた。晴人の腕前は蓮や藍より上、特に乱舞は何度も伐って来ているためそう外すことはないのだ。
しかし、晴人は外したならばとすぐに切り替えて第二波を放った!
「裏撃!!」
背後から飛び掛かってきた機械兵に背面撃ちを噛まし、機械兵はドサリと崩れ落ちた。だが、ここで更なる攻撃が晴人を襲う!!
「ガキ共を捕獲しろ!!」
その声と共に地中から機械兵ではなく数人の人間が飛び出して来た! それにすぐ様反応した風雅はフィールド内に飛び出し攻撃を繰り出す!!
「回転乱打!!」
「うわあああっ!!」
電光石火の乱撃は敵を一気に片付ける! そして相手の胸についているバッチを見た風雅は舌打ちした。彼等は魔法議院に所属する戦闘官だ!
「真央」
「ええ、いくら何でも本物の敵は用意しないわよ。学院に連絡するわ」
非常事態に備えて渡されていた特殊携帯で真央は連絡するが、いくらかけてもそれは空しいコール音を響かせるだけだった。
当然、それが演習の一部であるはずもなく、しなければならないほど一般生徒にとっては優しい問題ではない。
「一体どういうこと……?」
『真央』
「パパッ!」
いきなり飛んできた念波に一行は驚いた! 真央がパパと呼ぶのはCROWNの戦闘指揮官こと水庭優、つまりこれは彼等の任務に当たる訳だ。
だが、次に続いた水庭の言葉に一行は目を丸くした。
『お前達に任務を課す。そっちの雑魚共を掃討しろ。場合によっては幹部クラス撃破を命ずる』
「えっ?」
『ワリィな。すぐうちのメンバーを回したいところだが一般生徒の保護が優先となる。だが、お前達なら切り抜けられるレベルの敵だ。予行演習だと思って片付けとけ』
基本、水庭は中学生には任務を与えはしないが、今回そうするということは人員が足りなくなったということ。
しかし、今までそれなりに簡単な任務を熟してきた中学生達は特に慌てた様子はなかった。
「分かったわ。何処のクズが相手?」
『DEVILとチンピラ連合だ。魔法覇者クラスの敵はゼロ、闇系魔法の使い手が多いが格闘技には弱い。だが、ガンアタッカーはそれなりだから晴人』
突然呼ばれた晴人はビクッと肩を震わせた。若干、水庭が苦手なのだ。そして、その理由が……
『そいつらはお前がやれ』
「なっ……!!」
『やがてうちに来るならやれ』
「いかねぇよっ!! 誰が好き好んで」
『ちっ、EAGLEかよ。仕方ねぇな』
「違ぇよ!! 大体俺は!!」
『お前にあるのは拒否権じゃねぇ。とにかく撃て。じゃなければ風雅、今すぐ始末しろ』
「ラジャー」
「ふざけんな!!」
自分に全ての拒否権を与えない、全てにおいて逆らうなということを強要されるどころか逃げ道を塞がれるのだ。
事実、彼に銃を撃てるようになれと鬼のような特訓を幼い頃から真央が、さらに真央が留学していれば美咲に全てを託していたという徹底ぶりを見せている訳で……
ただ、このやりとりも水庭の若干の優しさがこもっていた。晴人が固まらないようにとの配慮がある。
『お前がそれだけ吠えられれば問題なさそうだな。ちなみに俺の変わりの指揮官は付けておくから指示には従えよ』
「ええ、誰なの?」
『皆さん、聞こえてますか?』
その声に一行は驚いた。専門は指揮官ではないが、一之瀬グループを率いる男が念波を飛ばして来たのだ。
それに息子の風雅は文句はないがと一つ溜息を吐き出した。
「父さん……、あんたはまた……」
『はい、水庭君の変わりに僕が指揮を執らせてもらいます。まず君達を死なすようなことはしませんので安心して下さい。あっ、ですが最初の号令は水庭君に頼みますから』
そっちの方が気分も盛り上がるだろうと、ニッコリ良秋が笑っている気がする。やはりCROWNの号令は水庭がやった方がしっくり来るのだ。
それに水庭は良秋でもやる気がかなり出るだろうと思いながらも、いつも通り指揮を飛ばした。
『これより作戦を開始する。敵はDEVIL、闇属性の魔法に注意しつつ掃討せよ。尚、今回は一之瀬風雅を部隊長に中学生八名が任務に参加する。援護は不要、手筈通り生徒の保護を第一に主犯格を撃破せよ!』
「ラジャー!!!」
その声と共に中学生達は走り出した。そしてその道中、風雅は真央に零す。
「真央」
「何?」
「任務だっていうのに何でワクワクするんだろうな」
表情は至ってクールでも心は隠しきれない。それに真央は風雅らしいとクスリと笑うと、一番しっくりする答えを返してくれた。
「……分からないわ。だけどワクワクしない理由がない!!」
その答えに誰もが納得し、彼等は戦場へと向かうのだった。
お待たせしました☆
今年の発投稿ですが、ゆっくり小説を書いている緒俐です。
うん、正月早々熱出してましたからね(笑)
さて、野外活動中の風雅様達。
どうもトラブルに巻き込まれたようで反撃開始というところ。
本当、戦うとなると乱闘戦ですねぇ。
ですが、まだ海宝中学勢の戦闘シーンは晴人しか書けてないので、他のメンバーも書きますよ!
では、小話をどうぞ☆
〜晩年新婚夫婦の息子〜
風雅「はぁ……」
星市「風雅、どうしたんだい?」
風雅「いや、母さんが帰国するとな……」
神奈「反抗期……、ではないですよね?」
風雅「そんなもの三歳で終わった」
星市「終わってるんだ……」
神奈「では御嫌いではないんですよね?」
風雅「ああ、嫌いじゃないがあの晩年新婚ぶりがな……」
星市「そういえばすごく仲が良いって有名だよね」
風雅「ああ。だが、あの魔法女帝は父さんが他の女に迫られると嫉妬して下手すれば戦闘だ」
神奈「それって絶対まずいですよね……」
風雅「いや、あの人はまだ自分が破壊したものぐらい戻せるからな。だが父さんはな……」
星市「良秋さんは魔法でも財力でも破壊したものは戻せるよね?」
風雅「いや、父さんは戻せるが戻さない」
星市「えっ?」
風雅「寧ろあの怒りに触れたら戻された奴がいない……」
神奈「……風雅さんも大変なんですね」