第三十話:雷小僧
それは今から約一年前の話。駿と共に魔法格闘技部に入部しようと体育館にやって来たところ、一軍の下っ端ともいえる上級生に修平は絡まれたのだ。
理由は簡単、魔法学院の特進クラスに学力の特待生として入学した修平を一目見て気に入らなかったからという理由だ。
もちろん、今より小さく体付きも頼りないものだからというのもあったのだろう。
「よぉ、成績だけで特進に入学したガリ勉が魔法格闘技部によく入れたよなぁ」
この手のタイプはどこにでもいるもんだな、というのが修平の感想だった。しかし、修平から言わせれば勉強も出来なければCROWNで通用しないからやってるだけの話だ。
とりあえず、軽くあしらってさっさと準備体操でもしようと修平は上級生に向き合った。
「俺はCROWNに入りたいからこの学校を受験したんです。当然、魔法格闘技部に入ります」
修平の言うとおり、特進クラスの殆どのメンバーがCROWNに入りたいからという理由で受験しているわけだ。それ以外に入れたとなれば、よっぽと成績優秀かCROWNのボスが気に入っていずれ所属させようとしている人材ぐらいだろう。
そして魔法格闘技部に入るつもりもなくとも、水庭が面白いと思って無理矢理特進クラスに推したのが昴だったりするのだが……
「ハッ、お前みたいなのがレギュラーになれるわけないだろうが! ジュニアクラブで特に目立った成績もないだろう?」
上級生の言うとおりだった。修平が所属していたジュニアクラブは弱小もいいところで、毎回地区予選で一、二勝もすれば上出来といったところだった。
しかし、それでも修平は諦めたくなかった。魔法学院で強くなって、必ずCROWNにいくと決めたのだから。
その時、魔法学院史上始まって以来、破天荒な理由の入部届けを持った真央が体育館にやって来た。
「すみませ〜ん、入部したいんですけど冴島慎司部長いらっしゃいますかぁ?」
体育館に女子の声が響くのは珍しいことだった。当然、選手になりたくて入部して来るものは少ないため、部員の一人がマネージャー希望だろうと近付いていく。
「君、マネージャー希望?」
「いいえ、監督希望です」
「……へっ?」
監督、それも中一女子が言い出すのだから誰もが固まった。ただ、それを聞いていたもので固まっていなかったのが風雅と慎司だけだった。
理由は彼女が何者なのか既に知っていたからであるが。
「またまたぁ〜、冗談は」
「本気よ! 特進クラスの結城真央、よろしく!」
そう強気に答えた真央にまた周囲は呆気にとられたが、誰かが吹き出したと同時に大爆笑が起こった。ひどいものは腹を抱えて床を殴っているほどだ。
「監督なんて無理無理っ! うちのコーチだって全国選りすぐりだよ?」
「あっ、マネージャーとして三軍選手に指導するのはありだよ。初心者も多いから助かるな」
「嘗めないでっ! こっちはアメリカから呼び戻されて来たんだから監督以外はやるつもりないわ!」
じゃなければ今すぐアメリカに帰る、と言いかけて真央は止まった。彼女は逸材を育てられると父親に言われて戻って来たのだ。事実、同じ特進クラスには風雅もいるのだし。
「でもさ、一軍を教えるのは無理じゃないかな。俺達も実力のない監督は御免だしね」
「そうそう。ほら、そこにいかにも三軍ってチビがいるからさ、そいつの指導してあげてよ」
上級生が指差したのは修平だった。確かに小さいが、磨けばかなりものになるということを見抜けないのかと真央は思った。
こんな状態で今年も全国連覇しようと考えられるのもおめでたいものだと、真央は内心馬鹿にしながらも逸材を育てられることに感謝した。
「へえぇ、あんなに良い感じの逸材与えてくれちゃって良いのかしら?」
「ああ、構わないよ。三軍の試合には出られるんじゃないか?」
いつになるか分からない、とさらに付け足して上級生は笑った。それにはその近くでストレッチに勤しんでいた駿もピクリと反応する。
馬鹿にして来る上級生が自分達より強いことは事実だが、試合にも出られないと言われるほど弱くもないからだ。
ただ、一番それに呆れ返っていたのは真央だった。これで全国制覇していたのかと言いたくなるほどにだ。
「呆れた……、彼は間違いなく二軍の実力はあるじゃない」
見抜くことも出来ないのかと真央は一つ溜息を吐き出した。一軍の主力は相手の実力が分からないことはないだろうと信じたいものだ。
とにかくこのままでは埒が明かないだろうと、真央はもっとも自分が監督でいられる方法を選ぶことにした。
「だったら良いわよ。君とそこでストレッチしている君、私が特別メニュー組んで育てるから付き合いなさい。ここの部長は話が通じるって聞いたからダブルスには出してくれるでしょ」
「うん、良いよ」
あっさり駿は答えた。育ててくれるならのってみれば良いというのが駿だ。
しかし、いつの間に自分もセットにされてるのかと修平は慌てて反論する。
「ちょっ! 待てよ!!」
「君、テクニックアタッカーでしょ。だけど身体が固いのと動きが単調だから負けやすいのよ。でも、かなりの素材だから私のメニューを一ヶ月こなせば間違いなく一軍レギュラーよ。どうする?」
修平は混乱した。真央の言うことは確かに的を得ているが、一ヶ月で自分がレギュラー入り出来るとはとても思えないからだ。
しかし、そんな修平に駿は全く心配いらないとサラっと促した。
「修平、一緒にやろうよ」
「おまっ……!」
「だってクラスメイトが力になってくれるんだし、修平のポジションをすぐ見抜いてるから指導力も絶対高いと思うな。だからやろう」
ニッコリ笑って促す駿に修平はガックリと肩を落とした。やらないと言ってもこの二人なら絶対人を引きずり込んででもやると思うからだ。ならば観念するしかない。
「分かったよ……」
どの道すぐにレギュラーは無理でも専属のコーチは有り難い。何より真央も馬鹿にされたわけで、やり返せたらこれ以上屈辱的なことはないだろう。
そんなやり取りを体育館の片隅で風雅と並んで見ていた慎司は、随分粋の良い新入生が入ってきたものだと微笑を浮かべた。
「風雅」
「はい」
「あの三人、来月には間違いなくうちの監督と一軍レギュラーだ。俺達もあの監督の指示に従って練習しよう、面白そうだからな」
一軍の練習メニューを組む主将がそれで良いのかと思うが、風雅も真央の指導には興味があった。少なくとも人の素質を見抜く目は確かだということと……
「……彼女がCROWNとEAGLEボスの娘だからですか?」
「いや、あの子自身もしっかり鍛えられてるし、海宝にも選手兼監督が入ったって沙里から連絡があってな、多分彼女がその子の親友じゃないか」
だとすればかなり期待出来る、そう慎司は感じていた。何より監督が女子中学生なんて常識はずれなことに付き合ってみたいと思うのだ。
しかし、一番の理由は間違いなく彼のライバルがニッコリ笑って命じているからだろう。
「分かりました。慎司さんが宮内先輩に勝てないことは知ってますから付き合います」
「うん、察してくれて助かる」
昔からライバルであり頭の上がらない悪友。毎年個人の部で勝っているにもかかわらず、性格の問題なのか未だに慎司は小さくなるしかないらしい。
それから修平と駿が一軍選手になったのは一ヶ月後のことだ……
雷小僧、それが修平を表す愛称だった。第二クォーター開始から雷を纏ったトンファーを振り回して相手にダメージを与える。
しかし、陸がいないため中一組のヘルプも気にしながら戦っているので全開には程遠い魔力しか解放していなかった。
だが、祥一が入ったことにより、その役目が軽くなった修平はダウンを取りに行くことに集中出来るようになったのである。
「いくぞ!」
直線的に修平は壮に向かって雷を宿したトンファーを振り下ろしたかと思った瞬間、いきなり彼の目の前で回転して裏拳を繰り出す。
しかし、そこからさらに空を蹴り上げて前方へ一回転して前に出ると、トンファーを腹部に叩き込んだ。
「くっ……! チョロチョロ動きやがって!!」
フラストレーションは溜まる一方だった。こちらは一撃も当てることが出来ないというのに、修平はこちらが倒れない程度に乱打を与えて来る。
おそらくガード面に関してのドーピングに気付いているからだろうが、それにしてもこの攻撃の繰り返しはどう対処しろというのか。
ただ、そう感じているのは中一組や桜も同じだった。特に陸は攻撃補助という面から見ているため、修平の視界がかなり歪んでいる感じが伝わって来る。
「あれって絶対酔いませんか……」
「うん、だけど去年からずっとマット運動で鍛えたからね。ついでに夏休みはいろんなアトラクションに乗せちゃったから耐性ついてるわよ」
遊園地って練習する場所だっけ……、と誰もが思った。そこまで魔法格闘技に打ち込まなくてもと思いたいが、真央にかかれば全てが魔法格闘技に直結してしまうのは仕方ないことなのかもしれない。
しかし、練習は裏切らないというのは事実らしく、修平の動きはさらに複雑且つ磨きがかかってきた。
「マジかよ……!!」
「修平さんスゴイ!」
「はい、速さは烈拳クラスです」
まるで雷だと杏は思った。それもどこから来るか分からないといった精神まで追い詰める攻撃力は、相手にどれだけのプレッシャーをかけているのだろうか。
正にテクニックアタッカーの基礎と技術を兼ね備えた、安定した選手と評されるだろう。
「修平は本当に燻ってたからね。ジュニアクラブ時代は伸ばしてあげられる監督や頼りになるチームメイトがいなかったのが負けていた敗因。だけど今じゃうちのテクニックアタッカーの看板背負っちゃって……」
懐かしいと思うのはそれだけ修平が成長したからだ。手塩どころか何でもかけたと表現するに相応しい扱きをして来て、さらに努力を続けてきた修平だからこそここまで動けるようになった。
テクニックアタッカーは武器を扱うだけでなく、武器を扱うためにいかに自由な態勢で技を繰り出せるかが重要だと真央は考えている。
「でも、駿先輩はかなりゆっくり攻めてる気がするな。ダウンが取れない訳でもなさそうだし」
オールラウンダーならば戦いの術はいくらでもあるはずだが、どうも手数のカウントにこだわっているように思えるのだ。
ただ、それが駿の役割なのだと真央は微笑を浮かべた。
「涼君、駿はああ見えて結構考えて戦ってるのよ。体力ゲージと手数を見てご覧なさい」
真央に促され涼は電光掲示板を見ると、そこにはダウンは三条学園に一つ取られているものの、体力ゲージと手数の差は既に大差となっていた。
「えっ!? 何か絶対こっちが勝てる差がついてる!?」
「そうよ。ダウンは修平が必ずとってくれると信じてる。だからもしダウン数が引き分けになった時、判定で負けるわけにはいかないから駿がそこを確実に取る。それも凄く重要なことなのよ」
寧ろダウンは取りにくく、両者が戦闘不能になることもあるとすれば、体力ゲージと手数は最大の勝利をもたらす。最後まで勝率を上げ続けることが駿の役目だった。
「でも、一撃いっときたいわね」
そろそろダウンを取りに行っても良いだろうと、真央は念波を修平と駿に飛ばした。
『修平と駿! 二人ともダウンを取りに行け!』
『了解っ!!』
一撃叩き込んでやると二人は一気に魔力を解放した! それに勝負どころだと感じた双子は一人ずつ相手をしていては確実にダウンを取られると感じたのか、二人で協力することにした。
「壮! あのチビを弾き飛ばすぞ!」
「オウッ!」
二対一に持ち込めば確実にこちらがダウンを取れるとシンクロした二人は修平を狙って襲い掛かったが、待ってましたと言わんばかりに修平は微笑を浮かべた。
「チビチビ言いやがって……、これでもあと四センチで百七十だっ!!」
成長期舐めんなと怒りが迸った雷光をトンファーに宿して、修平は光速でそれを叩き込んだ!
「電光石火っ!!」
「うっ……!!」
「くっ……!!」
まさにその名の通りの乱打が双子を滅多打ちにしたが、それでも双子はドーピングの性なのかギリギリダウンを堪えた。
そこに駿が更なるダメージを与えようと彼も雷を宿した両拳を繰り出そうとした瞬間、ブザーが武道館に鳴り響いた。
「第二クォーター終了! これより、インターバルを挟みます!」
先程の警告もあった性か、それ以上の攻撃が駿は特に出来なかった。間違いなく叩き込んでいたらこちらが退場になる可能性が高いからだ。
それは他のメンバーも同じで全員が一気に魔力を下げ切った。ただ、それぞれが不満が残る結果だった。
「クソッ!! もう少しだったのに……!!」
「昴、気持ちは分かるけど戻りましょう。それにあそこまで追い込んだのは大したものよ」
「真理ちゃん……」
何度も叩き込んだというのにダウンにまで至らなかった。真理のその悔しさは自分以上だと分かった。
ヒーリングガードとしてまだ大成していない、さらにパワーアタッカーとしてダウンを取ることも出来なかったのが情けないと思ったからだ。
しかし、魔法学院側のベンチでは真央は充分だといった表情で迎えてくれた。
「皆、お疲れ様! よくやってくれたわ。このインターバルで少しでも体力魔力共に回復に努めて。修平は大技出してるから特にね」
「お疲れ様です。すぐに回復させますから座って下さい」
杏と桜はそれぞれのメンバーに回復魔法を施していく。後半の体力ゲージもこのインターバルの間にいかに回復出来るかが勝敗を分けるのだ。
特に優秀な回復魔法を施せる者がいた場合、下手をすれば前半分の体力ゲージの減りを帳消しというところまで持ってこれるのだから……
ただし、それが出来るなら試合終了間際に全選手を交代させれば良いということになるが、魔法格闘技のルールとして第四クォーター終了五分前は選手変更が出来ないというものがある。
つまり、ラスト五分までいかに考えて戦うかというのも魔法格闘技の醍醐味というわけだ。
そして、確実に最後まで出るであろう祥一の回復をしていた海は魔力のペース配分が悪いと祥一に忠告した。
「主将、たった三分で魔力使い過ぎです。少し抑えて下さい」
「そうかな? 全く疲れてないんだけど……」
「えっ?」
海は目を丸くした。魔力スタミナは確かに上がってきているが、綾奈相手で数分とはいえ疲れてないことなど有り得ない。
しかし、本人はその疲れを全く感じていないのだ。
「ちょっと不思議なんだけどね、魔力を使ってるのに使った感じがしないんだ。ハイになってるかもね」
「……真央監督、ちょっと見てもらえませんか? 少し魔力をハイペースで消耗していると思うんですけど」
あと二十分はあるというのにそんなはずはない、普通ならまず持たないかギリギリだと海は真央に判断を求めた。
確かに盛り上がってるので三分間は任せてみようと真央は祥一に念波は飛ばさなかったが、その疲労は彼女も目を丸くするものだった。祥一の言うとおりあまり疲労は見られないのだ。
「……城ケ崎さん相手でのっちゃってる感じね。まぁ、第三クォーターは小原君に出てもらうから制限はきっちり守ってもらうわよ」
「了解! 海、そういうことだから第三クォーターは期待しててね!」
「はい、美咲先輩に怒られない内容分くらいは」
ズドーンと祥一のテンションはガタ落ちした。命令はダウン三つ。あと十分で取らなければ明日の練習は地獄巡りではなく霊界だ。
通常ならダウンを取れない相手ではない。しかし、綾奈を相手に他のメンバーをフォローする余裕はさすがの祥一でもないのだ。おまけに綾奈以外がドーピング状態にあるなら尚更だ。
「じゃあ、後半のメンバーを発表するわよ。中一組三人とは風雅君、涼君、小原君が交代。ただし、三人ともいつでもいけるようにしておいて」
「了解!」
まだやり返すチャンスはあると三人は強く応えた。それによろしいと真央は口元に微笑を浮かべたあと、第三クォーターの指示を出す。
「第三クォーターは両校主力のド突き合いよ! 特に風雅君と祥一さんの魔力は皆も知ってるとおり、周りに影響するからバリアはきっちり張っておいて! 小原君!」
「はい」
「攻撃補助は涼君中心、先輩達はバリアのみ補助。ただし、風雅君と祥一さんが制限をすぐ振り切るようなら完全に補助を断ちなさい。身体に負担が掛かり過ぎるから」
「分かりました」
このメンバーなら当然だと陸は思った。風雅や祥一はその実力から攻撃補助は特に必要なし、修平と駿は既に優勢とくれば涼に集中しても問題ないからだ。
ただ、昴は少々制限のことで疑問が浮かんだらしく陸に尋ねた。
「陸ちゃん、制限って身体に負担がかからないはずじゃ……」
「ええ、通常ならそう掛かりません。ただ、風雅隊長や祥一さんの場合、制限を一気に振り切ることをされてしまうと魔力が高過ぎるのでこちらにも影響するんです」
その説明にまだ納得半分といったところだったらしく、昴の頭上には疑問符が浮かんでいる。
これは初心者で昴なら仕方ないとして陸は思い直して彼に分かりやすく説明することにした。
「簡単に言えば制限という括りではなく、魔力を抑制してるのと同じ状況に陥るという訳です。こちらからリミッターをはずすのと違って自分の意志で魔力を上げる訳ですから、その上がった分の負担がこっちに返ってくるんです」
制限は相手の魔力とリンクして行う感じだから、と付け加えれば昴もある程度納得したらしい。
確かに風雅や祥一の魔力の上がり方は半端ではないため、それとリンクしている状態が陸に伝われば身体の負担は相応のものだ。
事実、藍のリミッターを外したあとは陸も制限からはずれていたのだから。
「あと風雅君、まずは三条百合香を確実に仕留めて」
「ああ、当然だ。杏、必ず勝ってくるから俺だけ応援してろ」
「えっ、えっと……」
個人戦ならともかく団体戦でそれはマズイと思う。しかし、両手を握って真摯にこちらを見てこられてはどう返事をすべきなのか分からない。
ただ、マネージャーとして言わなければならないことは決まっている。
「は、はいっ! 応援してます!!」
「っつ……!!」
やられた、そういわんばかりに風雅は顔を真っ赤にして悶え始めた。自分で言わせたことだというのに、それでも必死に応えてくれる杏が愛らしくて堪らない!
「修平……!」
「何だよ」
「今なら淳士さんにも勝てる!」
「ああ、いずれ勝ってくれ」
水分補給をしながら何とも冷めた答えを修平は返した。確かに杏から応援されて嬉しいのは分かるが、それだけで淳士に勝てるなら楽なことはない。
ただ、海宝なら杏お手製のレモンのハチミツ漬けを食べれば淳士にも勝てると言うかもしれないが……
「それと涼君、風雅君が三条百合香と戦ってる間、君が大坪さんの相手をしなさい」
「えっ……!」
それには誰もが驚いた。しかし、風雅はまだ悶えているのと妥当なところだろうと特に驚いた様子はない。
そして、予想通りの反応だと真央は楽しそうに指示を続けた。
「どこまで成長しているか確かめるチャンスだから全力でいって良いわよ。何より、他のメンバーの闘いを気にしなくて良いようにサポートしてくれる仲間がいるんだしね」
「〜〜っつ!!」
今度は涼が真っ赤になって口元を押さえた。その反応に蓮は何かそうなる要素があるのかと尋ねる。
「どうしたんだ、涼」
「蓮、まずい……」
「ん?」
本当にどうしたのかと思うが、やはり涼は涼だという答えを返してくれた。彼は口元から手を離すと、まるで淳士のように戦い前のウズウズした表情を向ける。
「早く戦いたくて堪らない……!!」
その答えに内心笑みは浮かべながらも、彼はいつものスタンスで涼に毒づいた。
「紛らわしい……」
「なっ! 怯えてるより良いだろ!?」
「ああ、だからどうせなら勝ってこい」
スッと拳を出してくれる蓮に涼はニカッと笑うと、彼も拳を出してパチンと合わせた。
「任しとけっ!」
その微笑ましい光景に各々が好感を抱いた。団体戦の良さは互いを信じて戦えるということ、つまりチームワークが存在するということだ。
そして、そんな後輩達を少しでも戦いやすくしてやりたいと思うのが先輩だ。
「だが、とにかくあのドーピングでダウンが取れないのは問題だな。まさかあれだけ叩き込んでも無理だとは思わなかった」
「そうだね。まぁ、ダメージはかなり蓄積されてるからいくら回復させたとしてもそろそろボロは出るよ」
ならば自分がそのトリガーをさらに早く引く動きをすれば良いと、駿はいつになく真剣な顔をして真央に提案した。
「真央、オール許可出してくれる?」
「……良いわよ。ただし召喚系は使用しちゃダメよ。中一組の身体が出来上がってないから間違いなく魔力にあてられるし」
「分かった、気をつけるよ。まぁ、そこまで出さなくても修平と祥一さんは絶対取るでしょ?」
「当然だ!」
「もちろん! 命がかかってるし!」
明日の練習が地獄巡りになることは避けたい二人はいつになく真剣に答えた。この分なら集中力はいつもの倍は軽くいってくれそうだと真央は安心した。
ただ、一番読めないのはこれから先の三熊の策略だ。おそらくお互い同じマッチアップになるように組んで来るだろうが、やはり三条百合香の動きがあまりにも大人しいと思う訳で……
一方、三条学園側のベンチは主に双子が放つ苛立ちに包まれていた。しかし、そんな選手達を前にしても三熊はまだ打つ手があると特に慌てた様子はなく指示を出す。
「さて、後半は一旦香川を下げて来るだろうから、栗原」
「はい」
「ラスト五分まで魔力を温存してなさい」
「分かりました」
新人エース同士の戦いはそこまで伸びるだろうと三熊は判断した。ただ、もしかしたら決着が着かない可能性もあると感じていた。
これから出て来るのが風雅で彼の投入と力の解放具合では出す訳にはいかなくなるからだ。
「壮と大は平岡と間宮。だが、明らかに向こうが有利だから二人同時攻撃を主軸で闘いなさい。一対一では明らかに向こうのペースだからね」
「ああ、あのチビ次こそ殺してやる!!」
双子の怒りは迸っていた。こちらも優秀なマネージャーがいるためすぐに回復出来たというのもあるが、明らかに実力はあちらが上だ。まだ中学生と侮っている双子では冷静な判断は厳しいだろう。
しかし、ワンダウンを取っているのと、こちらのダブルエースがまだ充分戦えるということが救いだった。
「綾奈は成瀬とだが、あの氷雪系魔法は魔力消費しか手がない。ガンアタッカーとの相性はまさに最悪だからね。もちろん、フォローは付けますが」
「はい……、ですが小原を出してくるとなると魔力消費がさらに難しくなりますが……」
「ええ、ですので真太郎」
三熊はこのチームのもう一人のエースに視線を向けると、かなり意外な指令を出した。
「冴島涼を仕留めましょうか」
「……一之瀬ではなく冴島涼ですか?」
普通なら自分が一番風雅の相手をすべきなのだろうが、まさか中学一年生と戦うことになるとは思わなかったらしい。
しかし、だからこそ真央ならやるであろうマッチアップを予測しなければならないのだ。
「ええ、あの監督ならまだ体力が残ってるメンバーを第三クォーターに出して来るでしょう。だとしたら真太郎に冴島涼をぶつけておき、一之瀬に三条をやらせるはずです」
何より魔力眼を持つものは魔力眼を持つもので対抗した方がリスクを減らせるからだ。いくら風雅の方が実力が上でも、舐めてかからないあたりが真央らしいところ。
そして、そういったタイプだからこそこちらも締めてかからなければならないのだ。
「冴島淳士の弟とはいえまだ成長途中、回転乱打も身体に付加が掛かるため二発打てるかどうかです。ですのでそこを確実に突きましょう」
「はい!」
それが自分のやるべきことだと真太郎は強く答えた。そのあまりにも真っ直ぐ三熊を信じている目は双子や中学生の面々から見れば馬鹿らしいと思うが、綾奈は幼なじみということもあってよくその気持ちが分かる。
なんせ、自分達を小さな頃から指導してここまで育ててくれたのだ。慕って当然だと彼女でも胸を張って言えるのだから。
「そして三条、一之瀬に魅了眼はおそらく」
「ええ、直接は無理ですわね。でも、間接では如何でしょうか」
含みのある言い方に何かを企んだかと三熊は思う。しかし、小手先程度の策略はすぐに撃破するのが風雅だからこそ、彼は細心の注意を払うように忠告しておいた。
「……言っておきますが、あまり一之瀬に月眼を使用させないように」
「ええ、あれほど危険なものは暴走させたくありません。それに……」
いつになく百合香の表情が黒い。その笑みの恐ろしさを知る者達はすぐに彼女の狙いが誰なのかを理解した。
そう、最初から彼女の狙いは風雅ではなく……
お待たせしました☆
最近ダルダルの緒俐です……
う〜ん、仕事したくない五月病的なやつですね(笑)
今回は修平メインのお話でした。
いつもツッコミが大変な彼ですが、それ以上に真央の扱きがきつかったという……
いつかその恐ろしさも書けたらいいなと思います。
では、小話をどうぞ☆
〜年俸はいくらですか〜
藍「CROWNって年俸いくらなんだろう?」
蓮「いくらって……、ああ、将来の年金がないって記事でも読んだのか」
藍「そうよ。涼の妻たるもの、養ってもらうだけの女じゃダメだから!」
真理「う〜ん、冴島家ってだけで全く問題なさそうな……」
藍「だからこそ頑張るの! お嫁に行く資金は自分で貯めるって決めてるんだもん」
蓮「なるほどな。とりあえず、CROWNの戦闘官は年収五百万は固い。部隊長クラスになると一千万以上らしい」
真理「そんなに高いの!?」
藍「やっぱりCROWNって凄いんだ!」
蓮「だが! いくら魔法議院といえど社会保険系統等の払うものは払わなければならないし、公共機関がタダという訳じゃない」
真理「そうよね、慎司さんが十代から大人みたいな扱い方をされるとは思わなかったってぼやいてたもん」
蓮「まぁ、それ以上にCROWNの場合は弁償が多いからな。それによる減俸はあるらしいが」
真理「ああ……、何かやばそうだよね……」
蓮「ああ……、淳士さんとかは高校生らしいお小遣しか手元に残らないみたいだしな……」
藍「やっぱり私も頑張って働ける女になる!」
真理「そうよね、私もきちんと手に職付けなくちゃ!」
蓮「そういう結論に至るって、CROWNは良いのか悪いのか本当に出鱈目だよな……」