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CROWN  作者: 緒俐
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第三話:血を見る予兆

 男子は黒の学ラン、女子は紺のブレザーにプリーツスカートはグレーのチェック、白いワイシャツに緑のリボンが付いた可愛らしい制服。黒の革靴を履けば少しだけ大人になったような気持ちにさせる。


 今日は魔法学院の入学式。桜並木の道を少し緊張した面持ちで杏は歩いていた。周りには自分と同じ新入生達が新生活に期待を膨らませており、上級生達は部活勧誘に必死だ。

 そんな勧誘を丁寧に謝辞しながら彼女はクラス表が大きく張り出されている掲示板の前に辿り着き、一組から順番に自分の名前を探すとすぐにその名前を見つけた。


「一組……」


 杏はポツリと呟いた。魔法学院を受験した時点で前いた学校の知り合いの名前があるはずはない。しかしそれに安堵する反面、自分が一人ぼっちだと思わされたのも事実だ。

 今度は何事もなく平穏無事に過ぎていくといい……、そう思って彼女は一組の教室へと向かうのだった。


 だが、彼女がその場から去った十分後、間違いなく学年一賑やかな集団もクラス表を見にやって来た。

 生憎、いつもはその中にいる蓮は学年総代の挨拶があるため彼等より早く登校し、今この場に宥め役は一人もいない状況だった。


 そして、昨日自分達がどのクラスに振り分けられているのか分かっていたのだが改めてそれを確認し、藍は喜びを全開にして涼に抱き着く。


「やったぁ! 涼、三年間よろしくね!」

「いや、来年クラス替え……」

「特進クラスは一つしかないんだから絶対一緒! 学校側だってよく試合で抜ける魔法格闘技部のスタメンは同じクラスにしちゃうんだから!」


 藍の言うことは確証があった。魔法学院は学年ごとに四クラスあり、一組に魔法格闘技部に必ず入部するものと学力や魔力が上位のものを集めている特進クラスが設けられている。

 つまり、六人とも間違いなく魔法格闘技部に入部すること、さらに蓮や藍は例え魔法格闘技部を辞めたとしても学力が上位な為、特進クラスから外れることはないということだ。


 ただし、一年に一回のクラス替えはあるわけで特進クラスから普通科クラスに行くもの、さらにはその逆も起こりうるという、中学生ながらに実力社会も存在しているわけだが。


 そして、もう一つの確認事項である「杉原杏」の名前を雅樹は見付けた。全員名前が早い方に偏っているので出席番号は近いらしい。


「杏も一緒だしとりあえず接点は持てそうだ」

「そうね。だけど杏も特進クラスってことは魔法格闘技の経験者?」


 魔力は自分達より下だったはず、と真理は杏のデータを思い浮かべると、陸は彼女が特進クラスにいる理由を相変わらずな無表情で教えてくれた。


「いえ、違いますよ。杏さんは学年三位の実力で入学試験を突破している特待生です。雅樹君のように部活がなければ不合格になっていた生徒とは違います」

「そりゃ涼も一緒じゃねぇか!」

「いえ、涼君は最悪、裏口入学も可能な家柄ですから」

「陸、さすがにそれはやってねぇからな?」


 一般家庭より少しだけ名門の家柄である冴島家なら確かに裏口入学も可能だが、さすがにそれはやっていない。

 第一、いくら魔法格闘技部に入部するといってもそれなりの実力や潜在能力が高くなければ入学出来る学校ではないというのも事実なのだから。


「あとは……、とりあえず蓮も一緒みたいだし早く教室に行きましょ。杏ってすっごく可愛かったからお喋りしたいもん!」

「とりあえずって……、お前ホント蓮には冷たいよな……」


 いつものことだと分かっていても雅樹は同情してしまう。これで蓮の相棒なのだから余計にだ。ただし、相棒よりライバルという意識の強い藍は涼の腕にギュッとしがみつきながら答えた。


「総代は涼の方がカッコイイから涼にやってもらいたかったんだもん! 蓮こそやっぱり裏口……」

「さすがに学年トップが裏口の学校はないだろ……」


 雅樹の突っ込みに全員苦笑した。蓮もかなり名門とされる家柄だがそれは関係なく文武両道をやりこなしている。おまけに冴島家に居候しているのも親の仕事が忙しいからだけではなく、そういった柵を嫌うからだ。


 ただし、そういった理由で冴島家に居候出来る権力は蓮も利用した、というより自分の思い通りに住める環境に大人達を動かしたという事実は涼達にも内密である……


「とにかく教室に行こうぜ。まずは杏と関わらねぇと風雅隊長に絶対絞められるしな……」

「こういう時に蓮が策略立ててくれないのは痛いわね……」


 真理の言うことに全員コクコクと頷く。友人にはなってくれても魔法格闘技部のマネージャーになるように誘導する話術、それがこのメンバーでは問題だった。

 寧ろ、命令してくれた張本人が入れと脅してくれた方がすぐに片付く問題だというのに、その張本人は自分達が悩んでる姿も想像して楽しんでいるに違いない。

 もちろん、そう命令したのも杏のことをいろいろ考えているのだろうと思うところはあるのだけれど……



 一組の教室に辿り着いた一行は教室の周りにいた女子の数に驚いた。口々に黄色い声を上げているというのだから、どこかの有名人でもいたかと思うがそれはないとクラス表から思い返す。

 ならば一体何があるのかと教室を覗けば、風雅が見たら間違いなく惨死体が一つ出来上がっていたであろう光景が飛び込んできた。なんと杏と仲良さそうに話している、雅樹と同じくらい背の高いイケメンがいたのだから。


「杏ちゃんと同じクラスになれるなんて無茶苦茶嬉しいっスよ! 去年は違ってたっスからね!」

「はい、私も昴君と一緒で安心しました」


 会話の内容から二人は同じ小学校出身かと真理は思った。それにどちらかといえば人見知りの杏が普通に会話出来るほど、昴といわれた少年が人懐っこいということはその笑顔で分かる。

 しかし、周りが近付けないほどの美男美女という雰囲気と昴に一目ぼれしたであろう、女子達の目が据わっているのにはまずいと思った。


 杏が昴とどれだけ仲が良かったのかは知らないが、杏が虐めを受けていた要因の一つに間違いなく彼も上がっていたのだろう。ただ、杏ほど頭が良くてそれに気付かないことはないとは思うのだが……


 そんなことを真理は考えながら、何とかきっかけを掴みたいと思っていると、トイレに行っていた涼と陸が戻ってきた。


「どうかしたのか?」

「あっ、涼! あいつ誰なの!?」

「あいつ?」


 涼が昴の方を向けば、彼は携帯を取り出して昴の情報を確認した。その時に飛び込んできた魔力の高さに一瞬目を見開いたが、おそらく知りたいのは杏との事だろうと思い簡潔に答えた。


「木崎昴、杏と同じ小学校からうちを受験したらしい。ちなみにあのルックスだから当然女受けが良かったらしいが、どうも杏には懐きまくってたといった方が正解だな。付き合ってる事実はないみたいだし」

「でも困ったなぁ、あそこまで二人の世界だと……」

「てか涼、お前冴島なんだから杏の席の前なんじゃねぇか?」

「雅きん! それを早く言ってよ! 涼、私達のために早く」


 行けと言う前に陸がその場から消えていた。さっきまでここにいたのにと教室に視線を移せば彼等は驚くべき光景を目の当たりにした。なんと、陸が杏達の傍に立っていたのだから。


「すみません、そこどいてもらえますか? 杉原杏さんにお話があるので」

『強者いたぁーッ!!?』


 全員が心の中で叫んだ。そう、最初から陸に任せていればこんな悩むことなんてまずなかったのである。

 そして、突如二人の間に入ってきた小柄な少年に昴は数度パチパチと瞬きしたかと思えば、その表情をキラキラさせて陸をきつく抱きしめた!


「うわあああ〜〜! 無茶苦茶可愛いっス! 名前何て言うんスか! オレは木崎昴っス!!」


 女子達が悲鳴を上げる。まるで子犬に抱き着くイケメン、しかもキラキラしたオーラを振り撒きながら頬擦りする姿は女子達のツボにはまったようだ。


 ただ、抱き着かれてる本人は無表情のままでも痛いことに変わりないらしく淡々と抗議の声を上げる。


「苦しいです、初対面で抱き着かないで下さい。僕は小原陸です、宜しくお願いします」

「陸ちゃんスか! 末永くお願いするっスよ!」

「嫌です。それより痛いので離して下さい」


 本当に骨が軋むというほど力強く抱きしめられたところに陸の相棒がカチンとキレたらしく、昴の後ろ襟首を掴んで陸から引っぺがしそのまま床に叩き付けた!


「痛ええぇ!! 何するんスか!!」

「いつまでも陸に抱き着いてんじゃねぇよ! こいつは俺の相棒だ!!」

「だからって殴ることないじゃねぇスか! えっと……!」

「香川雅樹だ! よく覚えとけタコっ!! 陸、骨は折れてない……おい」


 振り返ればそれはほのぼのした光景だった。陸は杏の膝の上で子犬化して気持ち良さそうに頭を撫でられていた。さらにその周りには涼達もきっかけが掴めたらしく集まっている。


 そして、動物好きなのか可愛いもの好きなのかは分からないが、まるで慈愛に満ちた女神のような表情を浮かべて杏は優しい声で尋ねた。


「陸君、気持ちいいですか?」

「はい、とても……」

「りっくんはよく子犬化するのよ」

「そうそう、しかも毛並みが凄く気持ちいいの!」

「良いよなぁ、ミニ化して様になるの」


 ピンク色のほのぼのした春のオーラ、まさにそれが発生している。陸の犬耳と尻尾がペタンとお昼寝モードのように垂れ下がっているのを見て雅樹はグゥの音しか出なくなった。


「何でもう全員友情を築き上げてんだよ……」


 一分前まで昴との会話に入れないと言っていたはずなのにあの友情は何だ、というよりあの朗らかさは何だ、寧ろ陸に関しては助けたというのに良いとこ取りかと思う。


 そんなほのぼのムードが漂う中、先程床に叩き付けられたというのに早くも復活した昴は、また陸の可愛さに当てられキラキラとした表情を浮かべた。


「やっぱ陸ちゃんは可愛いっスね……!!」

「あれは許されるのかよ……」

「良いじゃねぇスか、雅ちゃん」

「雅ちゃん!?」

「ウッス! オレ、気に入った友人にはすぐアダ名付けるんスよ」

「馴れ馴れし過ぎるだろうが! てか気に入ったってアダ名付けんの早過ぎだっ!!」

「細かいことは気にしないで下さいっスよ」

「気にしろよっ!!」


 何だこいつは、陸が子犬ならこいつは大型犬かと思うほどの人懐っこさにどちらかと言えば無茶苦茶な雅樹でも乱される。

 しかし、この手のタイプにはいくら言っても懐いて来るので雅樹はそれ以上言い返さず一つ息を吐き出すと、ほのぼのオーラ全開の杏の前に立った。


「雅樹、顔怖い」

「雅きん、笑顔固い」

「雅樹君、顔変えて下さい」

「だあぁっ!! ウッセェよお前等!! てか陸! 顔変えろって失礼だろ!!」


 初対面の挨拶からまともに出来ないのかよ、と応酬を繰り広げる一行に呆然とする杏に、いつもこんなものだから……、と苦笑しながら涼が教えてくれた。


 ただ、杏がその光景を見て少し悲しそうな顔をして笑ったことに昴は気付く。小学生の頃もこうやって馬鹿をやっていた同級生達を見て、彼女は悲しそうな顔をして笑っていたなと……


 そして、息切れがするまで応酬を繰り広げていた雅樹もようやく落ち着き、改めて杏と向き合った。


「香川雅樹だ、宜しく頼む」


 新入生なのに上級生並の恐さを身に纏っている気がする。しかし、昴と変わらない身長と体育会系といったイメージが先行するからなのか、杏は陸を涼に手渡すと頭を垂れて礼儀正しく挨拶した。


「杉原杏です。宜しくお願いします、香川様」

「か、香川さっ……! プッ!!」

「アッハッハッハ……!!!」

「黙れっ!! てか笑うな!!」


 昴も含め、一行から大爆笑が起こった。杏は何か可笑しいことを言ったのかと戸惑うが、無表情のままぷるぷる震えて笑っている陸が香川様は反則だと教えてくれる。それを証拠に、涼達が何度も香川様とからかって遊んでいる始末だ。


 そして、あまりにもしつこいため何故か昴だけを沈め、杏の両肩にドンと手を置くとゲッソリとした表情で雅樹は懇願した。


「頼むから香川様は止めてくれ……」

「あっ、すみません。では雅樹様」

「雅樹でいい……、ダメならせめて君付けで頼む……」

「かしこまりました、雅樹君」


 ふんわりとした笑顔に雅樹は若干朱くなった。可愛いと認識させられることなど同年代の女子では初めての経験だったからだ。

 どちらかと言えばすぐに胸、と杏のデータを見せられた時にも思春期らしい思考がすぐに出てきたが、こうして見ると藍や真理と違っておしとやかな美少女だと改めて思う。


 しかし、風雅が確かに惚れるのも分かると彼の顔が脳裏に過ぎった途端に青くなった。一瞬にして惚れたら殺される、というより下手したら近付いただけで消されるという方程式が成り立ってしまったからである。


 そんな雅樹の一瞬の変化に気付いたのは相棒の陸だけで、他のメンバーは教室にやって来た蓮に気付く。


「あっ、蓮! こっちよ!」


 真理が手を上げるとそれに気付いた蓮がこちらにやって来た。そして、彼の登場に女子達がヒソヒソと蓮のこともカッコイイと騒ぎ出すが、当人は慣れているのか全く気にした様子はない。


 ただ、昴は学年総代の魔力の高さに気付いたのか雅樹をチラリと見てもう一度蓮に視線を戻すと、改めてここにいるメンバーは並外れていると思った。


 だが、ここで一つだけ疑問が浮かぶ。どうして陸は低い魔力にも関わらず特進クラスにいるのかということだ。魔法格闘技部に入るのかもしれないが、それにしてもお粗末過ぎる魔力で強制退部も有り得るかもしれないというのに……


 そんな疑問を抱いている中、蓮達は新たな応酬を繰り広げ始めた。


「遅かったな、総代」

「すまない、式のことで先生に呼び止められてたからな」

「大変よねー、頭だけが良いと」

「藍……」


 それだけ言ってツンと顔を反らす相方に蓮はまたもや言い返せなかった。言い返して彼女に暴れられたら入学式の挨拶に立つ時、自分は間違いなく血染めの学ラン姿を全校生徒に晒す自信がある。


「へえぇ、蓮ちゃんやっぱり魔力だけじゃなくて頭も良いんだ」


 満面の笑みを浮かべて言う昴の方を蓮は向く。いつものメンバーの中に新入りがいる、それにしては違和感が全くないと思うが、ふと、馴れ馴れしく呼ばれた愛称に蓮は眉を顰めた。


「蓮ちゃん?」

「ウッス! 俺は木崎昴っス!」

「……手間が省けたな」

「手間?」


 一体何のことかと全員思うが、とりあえず蓮は杏とは初対面なのだからと挨拶しておくことにした。


「その前に挨拶が先だ。東條蓮だ、宜しく」

「あっ、杉原杏です、えっと……蓮君とお呼びしたら宜しいのでしょうか?」

「ああ、そうしてくれ」


 物分かりが早くて助かる、そういった表情を浮かべてふんわり笑う蓮に昴を見に来ていた女子達の心が若干蓮に傾く。

 どうも今年のバレンタインデーはこの二人が学年の半分のチョコレートを占めるだろうな、と真理は予測した。もちろん、誰も報われはしないだろうが……


「それで、手間って何のこと?」


 二人の自己紹介が済み、全員が首を傾げていることを真理が尋ねれば、蓮は若干顔色を青くしてその内容を伝えた。


「ああ、今日の日程が終わったら昴を指令室に連れて来いと風雅隊長に言われてな。で、お前達が先に関わっていてくれたから手間が省けたと言ったんだ。あと杏も一緒に来てくれ」

「えっ……?」

「風雅? 誰っスか、それ」


 珍しい質問をする奴がいたな、と蓮は少し驚いた。もちろん小学校が違い面識がない、おまけに昴が他人にそう興味を示すタイプではないことは情報から把握している。

 その点、自分達に関心を持ったのは魔力の質がこのクラスでも桁違いだと分かるからだろう。陸や杏は可愛いというところなのかもしれないが……


 しかし、それを差し引いても風雅を知らないのは奇跡に近いことだった。


「魔法格闘技部の主将だ。杏は知っているか?」

「いいえ」

「風雅隊長が泣きそうだな……」

「えっ?」

「いや、何でもない」


 凄くカッコイイ先輩がいる、と女子新入生からも騒がれていた上に校内の掲示板にも写真付きの記事が掲載されていたにも関わらず、どうやら彼女の眼中には入っていなかったらしい。


 まぁ、せめて魔法格闘技部の部活勧誘に出ていれば女子の人だかりに気付いたのかもしれないが、当人は来週の部活メニューを組むからと勧誘は部員任せと、相変わらず彼らしい行動を取っているのだった。


「とにかく今日の放課後、魔法格闘技部指令室に全員集合。杏と昴は入部届けを提出したから心配するな、以上。……という伝言だ」


 既に手配済みかよ……、と雅樹達は項垂れるが、昴と杏はあまりに風雅から好き勝手にされている性か事態すら上手く飲み込めなくなった。


「何なんスか、それ?」

「あの私、魔法格闘技のことはよく……」

「杏さんはマネージャーですので大丈夫ですよ。……いや、寧ろ貞操の危機でしょうか」

「はい?」

「とにかくついて来て下さい、僕達の命かかかってますから」


 陸は同情が隠しきれなかったため、珍しく少しだけ表情を和らげた。どうやら杏に貞操の危機、というのは聞き取れなかったらしい。

 だが、あの自己中な上に人を従順させるのが得意なドS策士が何もせずにいられるかと尋ねられたら、おそらく答えはNOだ。まず我慢出来ないじゃなく、我慢しないというより必要性を感じていないのが風雅なのだから……


 ただ、昴はいかにも不満タラタラらしく、口を尖らせてそれを拒否した。


「嫌っスよ! それに杏ちゃんも魔法格闘技なんて危ない部に入部させたくないっス!」

「お前、今の話聞いていたか……」


 はぁ、と蓮は深い溜息を吐き出した。こればかりは慣れてもらわなければ困るのだ。


「入部届は提出したと言ったんだ、つまりもうお前も杏も魔法格闘技部。それにこの特進クラスに入ってるってことは魔法格闘技部に入るつもりじゃなかったのか?」

「違うっスよ、俺の魔力が普通科クラスより高いから強制的にこっちになってるだけっス!」


 それに一行は顔を見合わせた。どうやら彼は元々の才能で特進クラスに振り分けられたらしい。もしかしたら雅樹と同じ魔力の方で入学を認められた特待生なのかと思い、陸は行動に移ることにした。


「昴君、少し失礼します」


 陸はピタリと昴の心臓に手を当てると、目を閉じてその力を感じ始めた。僅かばかり一行の表情は固くなりその光景を見つめていると、陸はホッと息を吐き出した。どうやら彼も魔力上位の特待生らしい。


「……成程、確かに高いですね。風雅隊長には瞬殺されるでしょうけど」


 でも成長速度は誰よりも早いかもしれない……、そう感じさせるには充分過ぎるほどの潜在能力を秘めている。

 おそらく、風雅がすぐにでも連れて来いと言った理由は早く叩けば叩くほど彼が伸びる素材だからと判断したからだろう。つまり、彼もスタメン入りさせたいということか……


 しかし、訳も分からず瞬殺されるというコメントに当然納得いかない昴は、声色は変わらずとも面白くないと吐き捨てた。


「随分横暴っスね。主将ってことは三年っスか?」

「いや、二年だ」

「はっ?」

「因みに今この中学で風雅隊長に逆らえる奴はいない。というより逆らうなんて命知らずがいる自体奇跡だ」

「少なくとも俺達が全員掛かりでもって五分だったよ」


 本気を出されたら瞬殺だけど……、と誰も答えられなかった。魔法格闘技部の主将は名だけでは当然ない。さらに二年生で主将になるレベルということはそれだけ彼が突出しているということだ。


 さすがにここにいるメンバーで五分持たないレベルとなれば力付くでは解決出来ないと理解したのか、昴は眉尻を下げて平和な妥協策に走ることにした。


「分かったっスよ、つまりその風雅隊長に話を付ければいいんスね?」

「止めておけ、それこそ血を見るぞ」

「いや、それだけは譲れないっス! なにより絶対杏ちゃんを守り切るっス! そしてだぁ!!!」


 それ以上発言するな、といわんばかりに陸は昴を床に沈めた。しかも床に減り込まんばかりに頭を押さえ付け、窒息死ぐらいしてもらおうかと容赦ない。当然、無表情なままだ。


「君は僕達の命を削る発言ばかりしないで下さい。蓮君、しばらくの間は僕が昴君の飼育係になってもいいですか?」


 子犬に飼育される大型犬……、そんな感想が一行の脳裏に過ぎったが、どのみち昴が魔法格闘技部に入部させられるのなら早目に慣れておいた方が良いのかもしれない、特に陸には。


「ああ、それが良いかもな。昴の性で俺には別の仕事が増えたし……」


 何でこう問題児ばかりが……、と蓮は深い溜息を吐き出した。


 しかしこの数時間後、彼等に更なる問題が降り掛かることを、この時はまだ知らなかったのである……




ゴールデンウイーク最終日にアップ出来て良かったぁ!

でも、明日からまた現実なんですよね……


はい、今回はやっと杏ちゃんと合流出来た一行。

おまけに大型犬、木崎昴も含めまして新生活はスタートとなります。

どうもこの昴君、杏ちゃんと同じ小学校出身らしく彼女と関わりがあったらしいですが……

でも、クラス表を見てすぐに気付かれなかったという残念な子です(笑)

とりあえず、彼の加入でさらに騒がしくなりますので楽しみにしていてくださいね☆


次回はやっと風雅様に杏ちゃんを差し出し……はい、もう入部届けを勝手に出しちゃったあたり逃げられる可能性は皆無です。

一体どうなるやら……




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