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CROWN  作者: 緒俐
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第十七話:ゲームセンター

 どれだけ猛練習で死にかけたといえども遊ぶ体力は別だった。もちろん、バイキングでたらふく食べた後というのもあって体力が回復してるというのもあるのだけど。


 そしてホテルの外に出て次の目的地となればあそこしかないと、涼は活々とした声で提案した。


「よし、腹ごしらえも済んだしゲーセン行くぞ!」

「賛成っ!」

「うわぁ〜い! 杏とプリクラ撮ろうっと!」


 その提案に真理と藍が実にほのぼのとした空気を放つ中、雅樹と陸の凸凹コンビはバッグに炎が見えるほどの闘志を互いにぶつけていた。


 そう、ゲーセンとは彼等にとってはまさに戦場なのだ。


「陸、今日は負けねぇからな」

「はい、今日も負けるつもりはありません」

「陸ちゃんカッコイイっス!」

「くたばれ昴!」

「全くです」

「何で!? 二人ともひどくないっスか!?」


 昴は大型犬化して涙目になった。雅樹にけなされるのはいつものことだが、陸に至っては褒めたのに何故刺されてしまうのだろう。

 しかし、何故かと問われればノリだとあっさり陸は答えてくれるのだが。



 それから一行はゲームセンターに行くと団体客な性か、他の客や店員達から注目を浴びた。ヒソヒソとした話し声で魔法学院という声も聞こえて来るのと、やはり風雅の顔が知れ渡っているのか魔法格闘技部という声も聞こえて来る。


 だが、風雅はそんなことより杏に色目を使って来る奴らを鋭い視線で蹴散らしていることに集中しており、それを後ろから見ていた一行は迷惑行為だと内心思っている訳だが……


 そして、ゲームセンターといっても魔法格闘技部にとっては練習と勝負が付き物らしく、真央は銃を見るなりパアッと表情を明るくした。


「それじゃ、シューティング勝負といきましょ! 中二組VS中一組でね」

「おっしゃ! ぜってぇ負けねぇ!」

「風雅隊長に勝つっス!」


 雅樹と昴は今まで散々やられた分を返してやると意気込むが、それを見ていたシューティングゲームのプロである陸は二人では絶対やられると思う。

 無論、風雅の腕がかなり良いことを知っており、藍や蓮がようやく互角に持ち込めるかというレベルだからだ。


 そして、他の中二組を見てやはり戦力はこちらの方が上だと判断した風雅は、若干のハンデにはなるだろうと、杏と桜に促した。


「杏と桜はこっちに入れ。少しぐらいは中一組にハンデをやらないと勝負にならないからな」


 それに反応するのはスナイパーである藍と弓道の名手である蓮。いくら何でもそこまでハンデを付けられてはナメられているようにしか感じられない。


「風雅隊長、余裕こいてると痛い目に遭うわよ!」

「確かに。こっちは陸もいるんだし」


 だが、彼等の自信も風雅は実に的確な意見で砕いてくれた。


「お前達や陸はともかく、あいつら四人が足を引っ張る可能性しか俺は感じられないが?」

「ううっ……!」

「あと真央と駿は強いぞ。俺が認めるほどに」

「マジですか……」


 そう、いくら射撃の名手が三人いても足を引っ張りそうな四人がいるとハンデをもらった方がいいのかもしれない。

 監督である真央でさえそれなりに撃てるなら尚更だ。


 そして、ただ勝負するだけは面白くないということで、真央はニッコリ笑って賭けの対象を発表した。


「じゃあ、負けた方がジュース代を出すってことで!」

「了解!」


 そして四百円が機械に投入され、中一組VS中二組の試合が始まった。


 各々のチームから二名ずつが選出され、中一組は先手必勝と藍と蓮のコンビが、中二組からは真央と修平が出て来た。

 それでも中一組のスナイパー二人に中二組は離されないどころか、真央の上手さに脱帽するほどだ。


「真央監督上手いっ!」

「というより、藍や蓮が撃つ位置より先に撃ち込んでないか?」


 真理と涼の指摘はもっともだ。何も当てるだけが射撃の真骨頂ではなく、相手を妨害する術も射撃では大切なことだ。


 それならばと頭脳明晰な二人は同じ手段に出始めるのも早い。相手より早く、正確に敵を見定めて撃ち込んでいくと、真央も微笑を浮かべて杏にニッコリ笑いかけた。


「ちょっと早いけど杏ちゃん、私と交代!」

「えっ!? ですがやったことが……」

「心配しなくてもフォローするからやってみろ」


 修平にも促され、杏は銃を片手に画面に向き合った。風雅が大丈夫だと微笑を浮かべてくれると安心するが、それでも足を引っ張りたくないと思う。


 だが、それは別の意味で大きく裏切られることになった。一行が歓声を上げる事態が起こったのである!


「杏ちゃん上手い!」

「本当だね。というより、修平が足引っ張ってない?」

「修平、射撃のメニューも増やされたいのか?」

「てか、本当に初心者かよ!?」


 そう修平がつっこむほど杏の射撃は上手かった。ゲームというだけあって命中すれば良いのだが、いくら何でも当たり過ぎじゃないかと思う。それも自分が助けられるほどにだ。


 それから一つ目のステージが終わると、杏は緊張感からかホッと息を吐き出した。まだ鼓動は早く、出来れば次にバトンタッチしてしまいたいが、どうやら次もやるようにと風雅の笑顔が物語っていた。


「杏、すご〜い!!」

「ド、ドキドキしました……」


 やったことがないのだから当然といえば当然だが、それを差し引いても有り得ないスコアだとスナイパーである藍でも思う。

 おそらく風雅の動きでさえ捉えられているため、ある程度何処から敵が沸いて来るのかも予測出来るのだろう。


「さて、俺と変われ修平」

「ああ」


 修平は風雅に銃を渡して後ろに下がる。そして風雅は杏に安心しろといった表情を向ければ、杏も若干緊張が解れたようだ。

 こういったところはさすが主将ということなんだろうか。


「蓮と藍も俺達によこせ」

「分かった」


 蓮と藍は次のステージ担当の雅樹と昴に銃を渡した。ただし、藍は渡した瞬間にそれは心配と不安がかなり入り混じった目で二人を見つめた。


「雅きん、昴るん、足引っ張らないでね?」

「マジで心配した目で見んな!」

「いくらなんでも雅ちゃんよりは器用っスよ!」

「んだと昴!?」

「いいから画面を見ろ。お前達が足を引っ張ったらジュース代全額お前達に払わせるからな!」


 蓮の忠告に二人は喧嘩を止めて画面に向き合った。本当に負けては元も子もない!


 だが、やはり二人の相手をしているのは風雅様だった。とにかく早く隙がない。寧ろ例えゲームでも杏に襲い掛かって来るなら容赦しないといったオーラさえ感じられるほど。


「何かさすが風雅隊長としか言えないよね……」

「桜は同じチームだから良いだろ……」

「うん、私が一体も倒せないとしても問題ないかも……」


 冴島兄妹がそう呟くのも無理はない。既に中一組は雅樹達の結果がどれだけ悪かろうと慰めてやろうとさえ思っているぐらいだ。


 そして、あまりにも的確に撃った性か、第二ステージはあっさりと幕を閉じてしまった。


「駿、まずはあいつらにトドメ刺して来い」

「うん……、というよりやり過ぎじゃない? 杏ちゃんもあまり撃てなかったんじゃない?」

「良いんだよ。杏、ちょっとついて来い」

「はい」


 ついて来いというより連れていってるじゃねぇか……、というツッコミを修平は心の中で入れながらも、まだ続いている対決に視線を戻した。

 おそらく風雅のことだ、きっとゲームセンターに入った時に気づいていたのだろうから……



 それから杏が手を引かれてやってきたのはクレーンゲームの前。そしてその中にあるのは色々な種類が揃った小さなウサギのぬいぐるみ達。


 それを目の前にした杏といえば、やはりウサギ好きなのか周りに花が飛んでおり、風雅は笑いを堪えながらも機械にコインを投入した。


「ほら、やってみろ」

「えっ?」

「ここに入った時、どうも気にしてたからな」

「うっ……」


 その言葉に杏は俯いて赤くなった。

 恥ずかしいと思った。極力表情には出ないようにと気をつけていたが、どうも隠せるほど自分は器用ではないらしい。こういう時は陸を見習いたいと思う。


 だが、ここで一つ大きな問題があった。杏とて義姉の沙里に連れられてクレーンゲームのやり方ぐらいは知っているのだが……


「あの……、風雅様」

「どうした?」

「その……、上手く出来ないので……」

「よし、取ってやるから好きなものを言え」


 元々プレゼントしたかったのもあって、風雅は珍しくかなり活々とした表情を見せた。魔法格闘技以外でここまで彼が年相応の反応を見せるのはかなりレアだ。


 そして杏はクレーンゲームの中に配置されたウサギ達を見つめる。どの子もとても惹かれるのだが、やはり一番のお気に入りは……


「ては……、奥の白い子を……」

「白いのか……、右四十五.七センチ、上六十二.五センチだな」


 ミリ単位で取るのかよ、と一行がいたら間違いなく突っ込んでくれただろうが、残念ながらまだ一行はラストステージのシューティングに夢中なため誰も突っ込んではくれなかった。


 だが、杏は感心することしかない。風雅の手捌きは言葉どおりに忠実でいつも鮮やかだ。

 あっという間にクレーンが白いウサギの縫いぐるみの頭を掴んだかと思えば、それはバランスよくこちらまで運ばれてきて落とされた。


「ほら、取れたぞ」


 差し出されたウサギを杏は両手でギュッと抱きしめると、破壊力満点の笑顔で風雅に礼を述べる。


「ありがとうございます……! 大切にします……!」


 やられた……、と風雅はくらついた。本当にこの笑顔の破壊力だけは制御してもらえないだろうかと思う。

 陸曰く「笑顔ドッキリ選手権があったら間違いなく審査員が評価出来なくなる破壊力」という表現に当て嵌まる。


 だが、悶えている場合ではないと風雅は次のコインを入れた。


「ほら、今度は杏がやってみろ」

「はい、御指導お願いします」


 生殺しにされる……、と風雅は思った。しかし、さすがの風雅も感情のままゲームセンターで押し倒すわけにはいかないため、これも珍しく杏に触れないまま指導することにした。


 そして、やはり物分かりが良いのか杏は言われたとおりに操作し、難なく二つ目の白ウサギをゲットして彼女も縫いぐるみ同様、キラキラした表情を浮かべながらウサキ化した。


「幸せそうだな」

「はい、とても。風雅様のおかげです!」


 有り得ないぐらい幸せそうだな、と中一組がいたら間違いなく同じ感想を抱いていたに違いない。二つのウサギの縫いぐるみもここまで好かれたら本望だろうとさえ思う。


 そこへ一行の中で一番縫いぐるみと縁がなさそうな修平と、一番縫いぐるみをプレゼントしそうな駿がやって来た。


「何だ杉原、随分花飛ばしてんな」

「修平先輩、駿先輩」

「ほら」


 手渡されたのは小さなテディベアの縫いぐるみ。リボンの色が青と白のコントラストにしたのは、魔法学院のカラーと同じだからという理由だ。


「俺と駿からも入学祝いだ」

「というより女子全員お揃いだよ。あっ、取ったのは修平だからシバくなら修平にしといてね」

「なっ!?」


 マジでそれは止めてくれ、といった表情に一瞬のうちに変わったが、さすがの風雅も女子全員と同じものをプレゼントするなとは言わないらしい。

 寧ろ今回は杏だけ除いていたらシバいていたところだ。なんせ、隣にいる杏がこれだけ幸せそうにしているのだから……


 その時、ドタバタと藍と真理がこちらに向かって走ってきて、二人でガッチリ杏の腕をホールドした。


「風雅隊長、杏を連行しちゃいます!」

「さっ、こっちにいらっしゃい!」

「えっ? ええっ??」


 今度は何なんだろうと疑問符を飛ばしながらも、杏は二人に連行されていった。


「連行というより拉致じゃねぇか……」

「そうだね」


 呆れ顔の修平の意見に駿はクスクス笑った。もちろんチームメイトで仲良くすることは大切ではあるし、杏の過去のトラウマを少しでも晴らしてくれたらいいと思うのだけれど。


「にしても、マジで杉原はゲーム上手いな」

「だよね。射撃なんて初心者とは思えなかったし、クレーンも一回で取るなんて才能あると思うし」

「そうだな。ただし、格闘技は無理そうだが」


 見てみろ、と風雅が促せば、何やら一行は杏をパンチングマシーンの方に連れていったらしい。その不釣り合いに修平は笑えて来るが、風雅に一睨みされてそれを抑えた。


 そして、パンチングマシーンの前でさすがの杏もこればかりは無理なのでは……、といった表情を浮かべているが、物は試しだからと真央にも促されてやる羽目になった。


「杏ちゃん、ほらグローブはめて」

「えっ?」

「普段のストレスをぶつけるんスよ! 思いっきりやって下さいっス!」

「はい……」


 昴に笑顔で差し出された赤いグローブを杏は戸惑いがちに嵌め、出て来たサンドバックにフォームだけ綺麗なパンチを繰り出した結果……


「七十三……、杏ちゃん可愛いっス〜〜〜!!」

「キャッ!!」


 突然抱き着かれ杏が悲鳴を上げれば、すぐさまそれに対処するのが風雅だ。まさに刹那の瞬間に駄犬は屍へと変えられた……


「調子に乗るな駄犬」

「ずびまじぇ……」


 痛々しいが誰も慰めの声をかけられない。いや、賭けても意味がない気がする……


 そして次のお題はということで、風雅はパンチングマシーンのランキングを見てフムと頷いた。どうやらここは魔法学院高等部も来たことがあるらしく、上位には知った名前のイニシャルが羅列している。


 しかし、何故か冴島淳士のイニシャルが見当たらず、彼が出しそうな数値も見当たらない。ゲームセンターの機械とはいえ、魔法格闘技専用となればそう簡単に壊せるとは思えないが……


「お前達、五百以上出さなかったら帰って正拳突き一万やらせるからな」

「陸は?」

「陸は百五十以上。ただし、雅樹と真理は六百超えなければ筋トレサーキット五倍だ」


 それだけは勘弁だと二人は試合並に集中力を高めていく。筋トレサーキット三倍でも死にかけたばかりだ。これ以上は消える自信がある!


 だが、ここで昴の脳裏に一つだけ疑問が浮かんだ。


「風雅隊長は出せるんスか?」


 おいおい……、というのは全員一致の意見。風雅はフッと微笑を浮かべると杏からグローブを受け取ってそれを嵌め、烈拳のスピードでサンドバッグを殴りつけた結果……


「軽くやって八百だが?」

「すみませんでしたっ!!!


 昴は勢い良く頭を下げた。そう、魔法格闘技部主将として部員より全ての数値が低いわけにはいかない上に、中一組には隊長とまで呼ばれていているその信頼を裏切るわけにはいかないのだ。


 そして、次はお前がやれと風雅は昴にグローブを差し出した。その後、何かしら昴の練習を見ている修平がいつもの癖なのかアドバイスを送る。


「木崎、魔力をきっちり拳に溜めて殴れよ。普通に殴ったところで五百はいかねぇだろうからな」

「了解っスよ! マット運動と同じくらい魔力のコントロールも自主練でやらされてるんできっちり五百弾き出してやるっス!」


 魔力コントロールもやらされてるのか、と修平は思った。


 もちろん、魔力コントロールも魔法格闘技の基本にはなるのだが、ある程度体力を付けてからというのが定石だ。

 しかし、それと同時平行でやれるということは陸のように魔力コントロールに長けているか、才能や体力がそれだけ優れているということだ。


「んじゃ、いくっスよ!」


 腕をブンブン回しながら昴はサンドバッグの前に立つ。ノリは軽い、だが魔力を拳に集中させると強烈な一撃を叩き込んだ!


 しかし、中二組はそれだけで既に結果が分かったらしく、深い溜息を一つ吐き出した。なんせ結果は……


「木崎……、ギリ五百ってシバかれたいのか?」

「出してこの言われようスか!?」

「仕方ないわね、木崎君は修平と一緒にマット三倍ね」

「だからもうマット地獄は止めてくれ……」


 大体、何で毎回マットなんだよ……、と修平は肩を落とす。いい加減にマット運動以外もキッチリやっても良い気もするが、それを言うと五倍としか言われないため修平は反論しない。


 その後、陸を除く全員が六百前後の数値を出し、真央が七百という数値を軽く出したことで一行がゾッとする羽目になる。

 しかし、やはりマックス千のパンチングマシーンの上位者は八百以上ということで全員まだまだだと思い知った。


「やっぱりこのイニシャルは慎司兄貴かなぁ?」

「そうじゃない? 慎司お兄ちゃんなら九百台ぐらい出すだろうし」


 やはり兄妹、涼と桜は慎司が出した結果を瞬時に理解した。そしてその下に一ポイント差で続いているものに杏も反応する。


「では、その下が沙里義姉さんでしょうか……」

「じゃないスかね。沙里さんなら九百いってもおかしくないし」


 きっと慎司がやったから負けまいとして本気で殴ったのが目に浮かぶ。

 普段は仲が良いらしいが魔法格闘技となれば別ということらしく、沙里は必ず慎司に勝負を挑んでいる。さぞ、この結果は悔しがっていたのだろう。


 そして、風雅の目に映ったのはトップのイニシャル。しかし、マックス千を弾き出してる人物は淳士ではない。


「トップは桐沢さんだな。ぴったり千出してるのは絶対狙ってだ」

「そうね。きっと千オーバーも出せるんでしょうけど、CROWNとEAGLEのメンバーで遊びに来たんならやりかねないわ」

「……桐沢さんに同情したくなってきた」


 絶対ゲームセンターの店員に頭を下げ倒したのだろうと予測出来るほど、CROWN一常識のある彼は昔から淳士に振り回されている被害者だ。

 おまけにCROWNだけではなく、EAGLEのメンバーまで加わったのならば、間違いなく彼は蒸発したい気分になったに違いない。


 そんな桐沢の気苦労に風雅と真央は渋い表情を浮かべていると、次の遊びを見つけたと藍が叫んだ。


「杏、一緒にプリクラ撮りましょ!」

「はい」

「どうせなら全員で撮りたいっス!」

「そうだな」


 そう結論付けられて全員でプリクラの機械の中に入り、それはかなりの混雑ぶりを見せた。


 杏はとりあえず風雅に支えてもらっているものの、これだけの人数に囲まれるという経験は初めてだったためにどうしようかと戸惑っていると、クイッと昴に腕を掴まれて前に出された。


「杏ちゃん! 真ん中に来て下さいっス!」

「陸、お前も小さいから前だ」

「小さくありません。成長期なだけです」

「修平も前行く?」

「駿っ! 平均身長ナメんな!」

「ほら、ボタン押すわよ!」


 真央の声が響き、機械からカウントが聞こえて来る。まだ早いと言ったのもつかの間、カシャッとシャッター音が響いた。


 そして撮られた写真。「目指せ日本一!」と書かれた初めてのプリクラはかなり疑い深い構図になっているが、とても幸せな一時を写し出していた。



 それから印刷されたプリクラを見て、それぞれが騒がしく感想を切り出していく。特に昴と陸は不満タラタラだ。


「風雅隊長ひどいっスよ〜」

「確かにお前殴られてんな」

「雅樹君、君も僕の頭を押さえ付けないで下さい」

「ワリィワリィ、良い高さだったしさ!」

「てか、藍も涼に抱き着き過ぎ!」

「アハハ、首しめる感じになっちゃったね」

「涼、生きてるか?」

「大丈夫です。治療は出来ましたから」


 賑やか過ぎる感想に風雅でさえ穏やかな笑みを浮かべる。これが今年の魔法格闘技部の色。そしてさらに濃く強くしていくのが自分の役目だ。


 そんな一行を見つめる杏は少々涙ぐんでいる。ただ、心配するものではなく寧ろ素直に流してくれたら良いと思った。


「杏、どうだった?」


 優しく尋ねてくれる風雅の声はさらに涙を誘った。答えはもう決まっている。


「とても嬉しいです……」

「そっか、また撮ろうな」

「はいっ……!」


 弾けんばかりの笑顔に風雅はドキリとした。まずい、これはいつも以上に自分の理性を崩して来る。ただでさえこちらの方が惚れさせられているというのに……


「風雅様?」


 いきなり顔を反らした風雅に首を傾げたが、風雅は問題ないと顔を反らしたまま答えてくれた。


 その時、ゲームセンターの店長だろうか、無精髭を生やした中年の男が愛想良くこちらに声をかけてきた。


「君達すごいね、中等部の魔法格闘技部一軍ってところかい?」


 怪しい人物ではない。寧ろ魔法格闘技部のメンバーが来る度に話し掛けているのだろう、彼からは親しみが溢れている。

 そういった人物に対しては風雅も警戒しないのか、きちんと受け答えする。


「ええ、でもランキング上位には差がありますけど」

「ハハッ、それは仕方ないさ。なんせエラーを出した奴が二人いるところだからな」

「えっ……?」


 杏は目を見開いて驚き、風雅はやはりそうかといった顔をした。まぁ、あの出鱈目男も機械だけは壊してはいけないという常識だけはあったらしい。

 おそらく、桐沢や慎司がそれだけはやめるようにと止めたのだろうけど……


「一人は冴島淳士。君達の先輩でCROWNの戦闘部隊長だよ」

「淳士様……」

「ん? お嬢ちゃんの知り合いかい?」

「いえ、俺がCROWNの中で一番会わせたくない人物です」


 そうきっぱり答える風雅の表情は真顔。さすがの店長もやっぱりあの出鱈目の被害に遭ったのかと察したらしく、少々同情した視線を送った。


「そうか……、あともう一人は海宝高校の主将でたしかEAGLEの戦闘部隊長の……」

「宝泉烈」

「そうそう! 来た瞬間に女子の視線をかなり集めてた良い男だったよ!」

「容姿だけはかなり良いですね。ですが淳士さんよりは幾分かマシですけど、EAGLEではかなりの問題児ですよ」


 性格は淳士の出鱈目がなくノリを知ってる人物だが、出鱈目な強さという点に関しては大差ない淳士のライバルだ。

 幾分かマシ、という理由は寸胴でカレーを食べるようなテーブルマナーじゃないという点からだが……


 そんなあまりにも坦々と答える風雅に、本当に彼は中等部なんだろうか……、といった感想を抱きつつも店長は会話を続けた。


「お兄ちゃん、かなり詳しいな。二人と親しいのかい?」

「淳士さんは昔からの兄貴分で、烈さんも何かしら関わることが多いので嫌でも知り合いになっただけです」


 せめて自分が一之瀬家に生まれなければ、少なくとも烈のことは強い人という認識でいられたのに……、と思う。

 ただし、どのみち魔法格闘技を続けていればいつかは親しくはなったのだろうけれど。


「そうかい。じゃあ、君達の試合も楽しみにしているからな」

「はい、今年のジュニア選抜で必ず優勝しますから」


 真っすぐな目に迷いはない。そう告げた後、驚く店主に一礼して風雅と杏は一行が騒ぐ元へと歩き出した。


 しかし、やはりマネージャーというのは分かるものなのか、杏は風雅が淳士達のパンチ力を聞いてまだまだ差があると改めて思い知らされたことに気付いていた。


「風雅様……」


 心配そうに見上げて来る杏に風雅はポンと彼女の頭に手を置いた。自分の心中をどうやら悟られたかと思いつつも、答えは一つしかないのだ。


「負けないさ。どれだけ強くてもな」


 だから心配するな、そう告げられたように風雅は杏に穏やかな笑みを向けると、彼女はホッとしたらしくまたこちらの理性を崩すかのような笑顔で答えてくれた。


「はい、風雅様」

「っつ……!」


 やばい、また好きになった……、と風雅は改めて思った。今なら淳士に勝てと言われたら本気でやれる気さえする。


 しかし、幸か不幸か大型犬化した昴がこちらにやって来て、相変わらず賑やかな提案をしてくれた。


「杏ちゃん! 風雅隊長! 次はカラオケに行くっスよ! 杏ちゃんは無茶苦茶歌も上手いんスからね!」

「すっ、昴君……!!」


 人前で歌うのは音楽の授業以外では恥ずかしいといわんばかりに、杏は真っ赤になった。

 しかし、それに反応しない風雅様が当然存在する訳がなく、彼のドSセンサーはすぐさま反応してくれた。


「そうか、じゃあ堪能させてもらおうかな」


 意地悪な笑みを浮かべて風雅は杏の手を握ると、杏は更に真っ赤になった。


 これからこの部はますます騒がしくなりそうだと思いながら……




残業まみれの緒俐です☆

最近帰りが0時できついんですよね〜(泣)

早く来い来い年末〜!!



本編もいろいろな人物の名前が……

魔法学院高等部の主将にして「CROWN」の戦闘部隊長は冴島淳士、海宝高校主将にして「EAGLE」の戦闘部隊長は宝泉烈といった感じです。


因みに風雅が同情している桐沢さんは魔法学院高等部の副主将です。

修平もですが、副主将はやっぱり気苦労するのかなぁ(笑)


では、小話をどうぞ☆



〜植物は癒されます〜


杏「うわぁ〜、可愛いサボテンの花ですね。駿先輩が育てたんですか?」


駿「ううん、違うよ。修平が育てたから貰ったんだ」


杏「修平先輩がですか?」


駿「うん、ああ見えて結構植物とか好きらしいんだ。確か部屋にはいろんな植物が置いてあると思うからお邪魔しに行く?」


杏「はい、是非見てみたいです」


修平「ああ、だったらせめて風雅か真央を連れて来てくれ。じゃないと俺が殺される」


杏「修平先輩」


駿「そうかい? 俺の部屋に杏ちゃんが来た時は問題なかったけど?」


修平「お前の場合はどうせ魔法格闘技関連だろ?」


駿「そうだね。それ以外だと今頃死んでるね」


修平「分かってるなら言うな。だから杉原、絶対一人で来るんじゃないぞ?」


杏「はい、かしこまりました……」


修平「……そんな落ち込んだ顔すんな。サボテンの花があと一つ咲いてるからそれやるよ」


風雅「ほう、俺の断りなくプレゼントとは良い度胸だな」


修平「ふ、風雅……!」


風雅「杏、修平の部屋にあるサボテンは貰っておいで。駿、連れていけ」


杏「で、ですが……」


駿「杏ちゃん、大丈夫だから行こうね!」


杏「は、はい……」


風雅「さて、修平はどんなサボテンにするか……」


修平「苦無!? いやっ、やめぎゃああああ!!!」


駿『杏ちゃんへのプレゼントは命懸けだね……』




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