起点
自己満足を目的としているため、展開が急で、稚拙です。
永遠の素人ゆえ、悪しからず。
『異常気象です!太平洋に突如発生した大型の台風一号が、勢力を拡大しながら、非常に速いスピードで北西に向かっています!本日午後には、沖縄地方を除く全日本列島を覆います!屋内に避難して――…』
『異常気象――…』
報道機関の混乱。対する現状は、打って変わったような静寂。台風なぞどこ吹く風。風は静かにそよぎ、曇天もまだ泣き出しそうにない。嵐の前の静けさというものだろうか。迫っているとは、到底思えぬ。
「いや、その油断こそが狙いかも。」
口にして、馬鹿馬鹿しいと笑う。台風に意思のないことは誰もが知るところである。
築五十年の校舎にいるよりは、と。坂を下った先にある自宅へ向かっている。もちろん許可は下りなかったが、家業を口実に下校した。
先日修築したばかりの家に人を上げたくなかった。そればかりの理由で、送る、と食い下がる大人たちを振り切って、一人でいる。
家業を継ぐ気はさらさらない。だがあの熱意、我ながら名演技であった。思い返してほくそ笑む。
『先生、私帰ります。今日は神事を行える人がいないんです。台風が来ている今だからこそ、私が帰ってやらなくては!』
ここら一帯の氏神神社。父が神職で、現在大学院生の兄が継ぐ。加えると、母は地元の保育士である。
この界隈、第一次産業に従事している家がほとんどで、学生の進学率も極めて低い。神社を囲んで森のある他は、畑ばかりの田舎。村人同士の結びつきは古く、そして皆、当然のごとくに氏子。氏神のもとに育ち、氏神を信じているのである。村に生まれた者は、自らそうなる。
こうでなくては、帰ること罷り通らなかった。
平素、真面目に振る舞っていたため、脱走のようなまね、初めての経験である。皆の悲鳴を後に、高揚感と帰路に就く。
報道が煽るからだろうか、通りには誰もいない。
俯きがちに歩いていた。あまりの静かさに、今になって不安を覚える。
鳴き始めた鶯の、下手な声が聞こえない。静かな風ばかりが肌をかすめ、生き物を感じない。
俄かに焦燥感に駆られ、固まる足に鞭打とうと何気なく目を上げた。
ふと。
砂利の混じる未舗装の路に、裸足が見えた。視線を上げる。
白妙の、というには何かが違う。ただひたすら白い。和服で過ごすことの多いこの地でさえ、違和感を練りだす大和装束。そしてそこから覗く肌。
射干玉の、では言い足りぬ。豊かで深く黒い。額に残さず、高く一つに結い上げた髪。そのもとで、じっとこちらを見据える双眸。
村の者は見知っている。この者は余所者。整った顔立ちなつかしく、だが素性の暗い。
ほう…と少しばかり感心した様子。
「……そなたには影響せぬのか……」
男とも女ともつかぬ声音。いや、声色は女のものだろうか。容姿からは判断しかねる。
どちらでもあり、どちらとも欠く。
よくも、懲りずに読んでくださいました。
自己満足小説とはいえ、やはり嬉しいです。
もとが縦書きなので、PDFでないと読みにくいかもしれません。
ご要望があれば、横書き用に精一杯改行致します。