Dispair
香奈と仲直りをして、
全てが上手くいっていると思ってた俺は、体育大会で絶望を味わった。
運動は好きじゃない方だったけど、チームで協力するといった様な活動は大好きだった。
だからこの日の体育大会も、クラスメイトと優勝を目指していた。楽しみだったんだ。
朝登校して、体操着に着替える為に空いていた学習室へ。
「翔平くん!」
優子が話しかけてきた。
鍛えていない身体を見られて笑われた。
「で、何?」
俺は不機嫌そうに答える。
「嫌な事聞いちゃってさ!翔平くん知ってるかなー?って思って。」
「嫌な事?」
「うん、昨日ダンススクールに向かう途中、駅で香奈がタメくらいの男の子に泣きついてるとこ見ちゃってさ。翔平くんじゃないから、不思議に思って。」
泣きついてる?
状況が掴めなかったし、
聞きたくなかった。
「気のせいじゃない?」
「香奈に聞いてみた方がいいと思う。」
優子の目は真剣で、
冗談じゃないことは分かった。
教室に戻ると俺の席に香奈が居た。
「翔平おはよ!昨日はごめんね?」
謝ってきた香奈に質問した。
「あのさ、昨日駅で誰といたの?」
ホントは聞きたくなかった。でも知りたい気持ちもあった。
香奈は戸惑った顔をしたまま、何も言わない。
少ししてから、
「誰ともいないよ。」
この会話を聞いてた優子が入ってきた。
「香奈、悪いけど、私が見ちゃったの。翔平くんの為にも正直に言お?ね?」
香奈は辛そうだった。
どんな答えが返ってきてもいい、そんな覚悟までしていた。
「元カレ。」
さっきまでの香奈とはまるで別人のような言い方だった。逆ギレに近いものだった。
「は?」
俺と優子は、目を合わせた。
もうダメだと思った。
「翔平くん、それに対して言うことは?」
「特になし!許す。」
「は?いいの?元カレとこそこそ会って、泣きついてても。」
「嫌だけど、昨日は俺が悪いし。」
思ってもないことを口にした。
いい人であり続けたかったのか、彼女を大好きだったからなのかは分からない。
だけど一つ確かな事がある。怒らなかった俺は甘かった。
彼女が反省もせず、続ける事は目に見えていたのに…
体育大会学級対抗リレー。
俺の隣に千尋が来た。
「だから言ったでしょ?」
香奈の事だ。
「でも、浮気って程じゃないだろ」
笑いながら答えた。
「佐藤翔平がそれでいいならいいけどさ、辛いよ?これから。」
優しかった。俺の事を本気で心配してるのが伝わった。
「辛かったらお前頼るわ」
千尋は嬉しそうに応援席に戻っていった。
簡単に口に出したこの言葉。この言葉は後に、俺にとって忘れられない言葉となる。
体育大会も終わり、
結果は惨敗。
優勝なんて、到底辿り着きそうになかった。
白井先生は頑張って土だらけの俺たちに、
「こんなに笑った体育大会はないよ!佐藤くんの、リレーで足をつるっていう事故は、ホントに面白かった。笑いの方では優勝あげたいな。」
すごく嬉しかったし、この先生に優勝をプレゼントしたいって本気で思えた。
体育大会が終わった。
先生のおかげか、最後はしんみりする事もなかった。
みんな笑っていた。
香奈を駅まで送ってる途中、俺は決心した。
「別れよう」
突然すぎて彼女も戸惑っていた。
別に元カレと会っていたからじゃない。
好きな子ができたわけでもない。
「元カレの事だったら謝るから、別れないで。お願い。」
香奈は必死だった。
俺は無言で帰った。
携帯が一晩中ずっと鳴り続けた。
俺はそれでも電話には出なかった…