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永遠

作者:
掲載日:2026/03/13

目が覚める。壁一面に数字。

99。99。99。99。

前には西洋風の扉。後ろには暗闇で満ちている扉だけない謎の空間。血のような液体がこびりついてる本棚。埃をかぶっている机、その上に明滅し続けるランタン。そんな部屋にいた。俺は大学への勉強の休憩として、本を読んでいたはず。

早く勉強しなければ‥。

何があったのか記憶を思い返そうとすると、頭が痛くなる。

【思い出すのがいけない】というふうに。その痛みの中ひとつだけ思い出せた。さっき読んでいた小説の名前と冒頭。

「無限の循環」

ふと俺は呟いていた。小説の中の登場人物ユズル。一緒の名前で、俺と似たような場所に迷い込んでいた。違いを挙げるとすれば、後方側に扉はなかった。そしてバケモノがいない。これは本の中の世界か?好奇心が生まれ前へ進む。腹が鳴る。そういえば勉強のしすぎで、ご飯を食べていない。食べ物があってほしいなどのことを思いながら冷たい金属のドアノブに手をかける。

大きい食堂のような場所だろうか。天井には所々割れているシャンデリア。塗装が剥がれ、部屋は薄暗い。右側には弱々しい火が燻っている暖炉。中央には貴族が食事に使うような縦長い机。その上にシャンデリアの破片、加えて【食べ物らしき物】が乗っている食器。暗くて塊ということしかわからない。気付かぬうちに貪り食っていた。柔らかく、鉄の味がする。噛めば噛むほど不快感が広がる。何かの肉。

‥なんの肉なんだ。

確かめたいと思った。いや思ってしまった。食器を持ち上げ朧げな灯りの暖炉に近づける。

【ヒトが食べてはいけない物。】

口の中に手を入れ、食べたものを掻き出すように吐く。何かがまだ残っている食器に目をやる。眼玉だ。他には腸、肝臓のようなものがある。貪り食った物。

人肉だ。

口の中にはまだ嫌悪感が残っている。突如嗅いだことのない匂いが漂う。妙な胸騒ぎ。

これ以上ここにいたらまずい。


その瞬間。

扉が開く音。

体が硬直する。

そして頭から血が滴る音。

腐った肉の匂い。

人のものとは思えない指。

暖炉の光に怪しげに照らされる壁。

それは指していた。


「プレゼントうれしい?」


子どものような字。そして血文字だ。

頭の後ろでは荒々しい息遣い。生ぬるい息が髪を撫でる。恐怖が体を支配する。

絶対的。

死。

初めて身近にそう感じた。次の瞬間大きな影が俺を包んでいく。止まっていた体が動く。逃げなければ。前へ。希望の灯りが消え、暗闇に叩き落とされた。鈍く大きな足音が机が壊れる音と共に響く。後ろを見る余裕はない。扉にぶつかる。中には入り、急いで横にある本棚を倒した。

「ドンッドンッ」

バケモノが入ろうとしてくる。死に物狂いで扉を押さえた。


どれくらいの間押さえたのだろう。腕の力がなくなってきた。もう音はしなくなっていた。

ほっとため息をつく。ここは図書館のようだ。縦長の部屋。本棚はぎっしり詰められていて、天井までにも続いている。あまり使われてないのか、歩き出すと呼応するように埃が舞い、光が照らされる。そして古いインクと紙の匂いが漂う。落ち着く雰囲気だ。周りを観察していると、本が落ちた音がした。ハシゴの上の足場の真ん中には本が一冊落ちていた。最初のページが開き始めた、まるで俺を待っていたかのように。さっきのあいつの絵と説明が載っていた。顔はワニ。目は異様なほど真っ黒。胴体は肥満の人間。四肢は腐っていて所々腐り落ちてる。さらに異様に腕が長い。獲物を捕らえるため発達したように。まさしくバケモノ。歪な肉体だ。

そして、名前は。

【プエル】

何かを対価に願いを叶える。掠れて見えないがそう書いてあった。他にも書いてることはないかページを捲る。全て白紙。

【なにかデジャヴを感じた。】

別の本からも情報を得られる。そんな期待を膨らませ本を取ると体に稲妻が打たれたような衝撃が走る。痛みを我慢し、読み進めようとする。その瞬間、目からたれた物。

血だ。

溢れ出す。意識が遠のくが目の内側が焼けているように痛む。気絶すらできない。戻すと、徐々に痛みが和らぎ、血が止まる。目を開けると、視力が少し落ちたようだ。先ほどは鮮明に見えた絵が見づらい。違和感に気づいた。以前と視力が違いすぎる。俺は小説を読んでいたのが直前の記憶だと思っていた。

【これをどこかで経験した記憶がある。】

だかどこで?疑問を頭の中で繰り返す。頭がまた割れそうになる。やっぱり思い出してはいけない記憶だ。景色に既視感を感じ、疑問が浮かび上がる。それを振り払う。考えるわけにはいかない。足を止める時間はない。前へ進み続けるしかない。ハシゴから降りまた同じような扉を開ける。


調理場だ。整備がされてるのだろう。床は妙に綺麗だ。食料も充分にある。蝋燭が所々に灯されている。まともな食事が取れそうだ。だから安心しきっていた。勝手安全だと決めつけていた。何か料理でもしようかと、歩きながら考えた瞬間、地面が小さく揺れる。一度嗅いだら忘れられない物がまた漂い始めた。

平穏が崩れる音。

「ドスンッドスンッ」

近づいてきてる。きっと俺のことを探している。

親を救う。ただそれだけのため。

生きなければ。

ただ一つの感情が恐怖ですくんでいる体を動かす。扉が開く直前、小麦がまとまって置かれてる山に入り込めた。バケモノは俺を探すように設備を手当たり次第壊した。俺の場所をのぞいて。冷たい汗が額を滴る。

その瞬間。


「今回も楽しい追いかけっこをしようね。

ユズル」


小麦の山をかき分けこちらに笑みを浮かべみつめてきた。重い足取りで扉から出てどこかへと行った。

息をするのを忘れていた。過呼吸になりうまく息が吸えなくなる。身体中から冷や汗が噴き出る。今回とはなんだ?俺はあいつと何かあったのか?疑問が頭の中で渦巻く。一度落ち着き辺りを見回すと、ハエがたかっている。腐り落ちた肉片までもある。

そんなこと気にしてはいけない。

前へすすまなければ。震える足を押さえる。

しかし突如として睡魔が襲う。手を伸ばす。抵抗虚しく、徐々に俺は意識を失っていた。


「ユズル?大丈夫?ちゃんと話聞いてるの」

「ユズルー。人の話はちゃんと聞けよ?」

「ごめーん。ぼーっとしてたー」母さんと父さんだ。家のリビング。仲良く食事を食べながら2人仲良く微笑ましく笑っている。俺もつられて笑う。こんな幸せが永遠に続いてほしい。

突如、窓ガラスを破り複数の人が入ってくる。手にはバール、銃、ナイフ。

そのうちの一人が、

「金目のものを出せ。逃げたら殺すぞ」

そう言って二人を床に打ち付けた。今なら逃げられる。そんな卑怯な考えばかり浮かぶ。

自分の命を優先した。

走り出す。

乾いた破裂音が2発聞こえる。

【振り返れなかった】

逃げた後は冷静になり警察に駆け込んだ。すぐ犯人らは捕まった。

父は下半身不随。母は植物状態。

幸せな瞬間から地獄へと落とされた。

振り返ればよかった。後悔が渦巻く。

あのとき他の選択をしていたら‥。

そんなことばかり考える。

莫大な治療費がかかることが発覚した。母の延命措置のためだ。

何億円もの金。高校三年生ではとてもじゃないが払えない。

病院での説明を受けたあと俺は猛勉強を始めた。絶望する暇はない。幸い成績はよかった。金がないなら、自分で治すしかない。

償い。

勉強の休憩として本を読んでいた時。

そいつは現れた。


「対価を払ったら願いをかなえてあげる」


目が覚める。思い出した。

自分の愚鈍さに絶望しながら思考を巡らせる。

対価として何を払った?

なにもわからず謎が深まる。

【前へ進む。】

扉を開けると、あの匂いが全身を包む。

臭いの原因は、ベッドで寝ていた。すぐ近くに蝋燭も置いてある。そして、革の敷物が敷かれてる。バケモノを起こさないよう慎重に歩く。

歩くたび、足下に感じる不可解な感触。ネチャと音がしないか不安になる。鼓動音が激しくなり、部屋に響いてるかのような気までした。幸い、気付いてないようだ。バケモノの近くに鍵が落ちていた。気づけば近づいてしまっていた。

【使う場所を知っている。】

そんな気がした。

バケモノの鼻息が顔に当たると同時に腐臭で鼻が折れ曲がりそうになる。這いつくばりながら鍵をポケットにいれ、バケモノの寝室を後にする。

一つの書見台と一冊の本しかない小さな部屋にでた。壁も天井も床も真っ白。奥には大きな扉。異様な光景に戸惑っていると、本の表紙が目に入る。

「無限の循環」

気づくと走り出し、本の中身を見ていた。記憶が徐々に戻る。

待ち受けるのが絶望と知ってしまった。

だとしても償わなければ。


扉を開けると、一直線の廊下に出る。

奥には鍵穴がある扉。

突如、後ろから大きな音。


「今回は絶対捕まえるよ」


楽しいのか、大きな笑い声が迫ってきてる。

今回も逃げ切らなければ。


ダメだった。掴まれた右腕が腐食して腐り落ちた。血が床に落ちる音とともに足音が近づく。

「腕美味しいよ。食べさせてあげるから止まって?」

無邪気にまるで子供のように。

捕まるわけにはいかない。走る。

扉についた。ポケットから鍵を出す。震える。気持ちだけが先走る。足音が止まり、背後に不気味な存在を感じた瞬間。

「ガチャリ」

中に駆け込んだ。

悪寒が走る。

「また逃げられちゃった。だいぶ楽しめたよ」


最初の部屋に戻っていた。

振り返る。あの夢の続きを。


「対価を払ったら願いを叶えてあげる」


道は残されていなかった。

「なにをすればいい?」

救いを差し伸べたそいつは懐から本を差し出す。


「これ読んで『無限の循環』っていうんだ。対価の中身が書かれてる小説。追いかけっこしたくなるよ」

ニヤニヤしながら見つめてくる。

対価がわかった。それは。

【こいつと100回追いかけっこをし生き残ること。】

小説の主人公は99回までして壊れて、そして食われた。

読み終わり、なんでこんなことをするか聞くと

「暇だから」

殴りかかりそうだった。

けれど全て自分が悪い。

責任を取る必要がある。

やるしかない。



記憶を失った理由。最初に書いてあった数字。

視力が悪くなった理由。これまでの既視感。

あと一回。覚悟を決める。前へ進むだけ。

助けられる。救われる。償える。

扉を開けると、待ち構えていたように悪魔は座っていた。


「飽きた。つまんない」


振り下ろされる腕。

血と肉がはじけ出す。

誰の?



俺のだ。














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