第九話 戦場の英雄
王都の空に、
不吉な鐘の音が響いた。
低く、
重く、
何度も。
テッドは、
治療院のベッドから
身を起こす。
傷は、
まだ痛む。
だが、
体は動いた。
扉が開く。
兵士が、
息を切らしている。
「魔王軍が、
国境を越えた!」
街が、
ざわめいた。
剣士大会は、
中止。
冒険者も、
騎士も、
全員動員。
テッドは、
剣を手に取る。
迷いは、
なかった。
城門の外。
兵士たちが、
列を組んでいる。
遠くの地平線。
黒い影が、
うごめいていた。
魔物の群れだ。
角のある獣。
翼を持つ魔物。
人型の兵士。
数え切れない。
恐怖が、
胸を締め付ける。
それでも、
テッドは前へ出た。
「俺も、
戦います」
指揮官が、
テッドを見る。
「少年、
名は?」
「テッドです」
「剣士か」
「はい」
短い沈黙。
「前線に立て」
角笛が鳴る。
進軍。
地面が、
揺れる。
最初の衝突。
魔物が、
飛びかかってきた。
テッドは、
踏み込む。
斬る。
首が、
飛ぶ。
間髪入れず、
次。
突く。
腹を貫く。
剣が、
軽い。
体が、
自然に動く。
ザイルの教え。
当てろ。
振るな。
テッドは、
淡々と魔物を斬った。
血が、
地面を染める。
仲間の兵士が、
叫ぶ。
「こいつ、
強いぞ!」
テッドの周囲に、
兵士が集まる。
小隊のようになる。
魔物の群れが、
押し寄せる。
テッドは、
先頭に立った。
斬る。
斬る。
斬る。
腕が、
止まらない。
視界の端で、
仲間が倒れる。
テッドは、
叫ぶ。
「下がれ!」
代わりに、
前へ出る。
剣を、
横一閃。
三体、
まとめて倒れる。
頭の中に、
文字が浮かぶ。
――剣技レベル11
息が、
荒い。
だが、
立つ。
空から、
影。
翼のある魔物が、
急降下。
テッドは、
地面を蹴る。
跳ぶ。
空中で、
剣を突き出す。
胸に、
深く刺さる。
魔物と一緒に、
地面へ落ちる。
衝撃。
背中が、
痛む。
それでも、
起き上がる。
周囲を見る。
魔物の死体。
兵士たち。
皆、
テッドを見ている。
「すげえ……」
誰かが、
つぶやいた。
戦いは、
半日続いた。
やがて、
魔王軍は退いた。
地平線の向こうへ、
消えていく。
勝った。
だが、
多くの犠牲が出た。
テッドは、
剣を地面に突き、
膝をつく。
疲労で、
体が震える。
指揮官が、
近づいてきた。
「名を聞こう」
「テッドです」
「今日から、
お前は部隊長だ」
周囲が、
ざわめく。
テッドは、
首を振る。
「俺は……」
「断るな」
指揮官は、
真剣な目をした。
「お前の剣が、
多くの命を救った」
テッドは、
剣を見る。
錆びた剣。
だが、
今は、
頼もしい。
「……分かりました」
小さく答える。
その日。
戦場で、
噂が広がった。
最前線で戦う、
若い剣士。
名は、
テッド。
少年は、
英雄と呼ばれ始める。
だが、
本人は知っている。
まだ、
終わっていない。
魔王は、
生きている。
テッドは、
空を見上げた。
「必ず、
辿り着く」
決戦の場所へ。
剣を握り、
歩き出した。




