第二話 最弱の称号
夜明け前。
テッドは村の外れに立っていた。
焼け落ちた家々からは、
まだ煙が細く立ち上っている。
土と灰と血の匂いが、
風に乗って漂っていた。
生き残った村人たちは、
皆、疲れ切った顔をしている。
泣く者もいれば、
ただ地面を見つめる者もいた。
テッドは、
その輪の外にいた。
肩の傷は、
布を巻いただけだ。
痛みはある。
だが、
それ以上に胸が痛かった。
――自分は何もできなかった。
そう思っていた。
たまたま剣を拾っただけ。
たまたま運が良かっただけ。
村を守れたわけじゃない。
「テッド」
声をかけられる。
振り向くと、
村長のバロスが立っていた。
白髪交じりの老人だが、
背筋は伸びている。
「お前のおかげで、
助かった命がある」
テッドは首を振る。
「違う……僕は、
怖くて、
ただ振り回しただけです」
バロスは、
しばらくテッドを見つめた。
「それでも、
剣を握った」
その言葉に、
テッドは黙り込んだ。
沈黙の後、
村長は静かに言う。
「この村は、
もう安全とは言えん」
テッドの胸が、
ぎゅっと締め付けられる。
「若い者は、
町へ行くべきだ」
「僕も……ですか?」
「ああ」
短い返事だった。
テッドは、
腰の剣を見る。
あの錆びた剣だ。
「強くなりたい」
思わず口から出た。
「もう、
誰も失いたくない」
村長は、
小さくうなずいた。
「ならば、
都市ガルンディアへ行け」
「冒険者ギルドがある」
※冒険者ギルド
依頼を受け、
魔獣討伐や護衛を行う組織。
テッドは、
その名前を心に刻んだ。
出発は、
その日の昼だった。
持ち物は、
剣と水袋と、
少しの干し肉。
見送りは、
少なかった。
皆、
自分のことで精一杯だ。
それでいいと、
テッドは思った。
村の外に出ると、
道はまっすぐ伸びている。
どこへ続くのか、
分からない。
それでも、
足を前に出す。
歩き始めて、
数時間。
背後から、
足音が聞こえた。
振り向くと、
三人組の男。
粗末な鎧。
汚れた剣。
盗賊だ。
「ガキが一人か」
「荷物を置いて、
消えな」
テッドの心臓が、
強く打つ。
逃げたい。
だが、
背中を見せれば、
斬られる。
テッドは、
剣を抜いた。
男たちが、
吹き出す。
「細っこい腕だな」
「剣技レベルは?」
テッドは、
分からなかった。
だが、
頭の中に、
文字が浮かんだ。
――剣技レベル1
思わず口に出る。
「……1です」
盗賊たちは、
腹を抱えて笑った。
「最弱じゃねえか!」
「帰れ、坊主!」
テッドの手が、
震える。
それでも、
剣を下げなかった。
「……通してください」
盗賊の一人が、
舌打ちする。
「面倒だ」
次の瞬間、
男が踏み込んできた。
テッドは、
反射的に剣を振る。
浅い。
だが、
男の腕をかすめた。
「チッ!」
逆に、
腹を蹴られる。
テッドは、
地面を転がった。
息が、
詰まる。
起き上がろうとした瞬間、
剣が振り下ろされる。
テッドは、
剣で受け止めた。
火花が散る。
腕が、
痺れる。
それでも、
歯を食いしばる。
「うおおっ!」
必死で押し返し、
横に転がる。
別の盗賊が、
背後から迫る。
テッドは、
振り向きざまに突く。
腹に当たる。
盗賊が、
うめき声を上げた。
残った一人が、
舌打ちする。
「クソガキ……」
仲間を引きずり、
逃げていった。
テッドは、
その場に座り込んだ。
全身が、
震えている。
勝った。
だが、
強くはない。
ただ、
生き残っただけだ。
それでも。
剣を握る手は、
離れなかった。
テッドは立ち上がる。
都市ガルンディアは、
まだ遠い。
だが、
進むしかない。
最弱の剣士は、
歩き続ける。




