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2話 島から世界へ

30数年前にユリカはスプリンターだった。地元開催で世界選手権が開かれるため、上手く行けば世界大会に出れる可能性があった。果たしてチャンスをものにできたのか。

30数年前ユリカは高校三年生だった。


ユリカの通っていた寺西高校の校長が陸上部顧問の大山田を校長室に呼んだ。


「大山田先生、テレビの取材依頼がきましたよ。ユリカ君のことで」

「そうですか。彼女はインターハイを獲れる可能性があります。受けましょう」

「それは良かった。なんかよくわからんのだがかね、島のテレビ局が来てやるけども、放送は全国でするそうなんや」


大山田は続けた。

「それはスゴいです。校長、もう一つ良いニュースがありまして、これは確定事項ではないのですが...」

「何だね。気になる」

「ユリカはインターハイより上の日本選手権に出ますが、もし日本人の中で3位に入れば、今年東京で開催される世界選手権に出れるかもしれないのです」

「な、なんと、世界だと。それはたまげた!」

「はい。とは言っても個人種目ではなくリレーです。開催国なので、日本が出場できる見込みです」

「それはスゴいな。こんな田舎の島の県立高校から出たら一大事じゃ。その世界なんちゃらはオリンピックぐらいなのか」

「はい。オリンピック以上です。4年に一回しかなく、参加標準記録もオリンピックより高くなっています」

「それはたまげた。たまげた。是非大山田先生の力で出れるよう頼むよ」

大山田は心を鬼にして指導する覚悟を決めた。


一週間後、地元のテレビ局が来た。練習の様子と先生、親、本人のインタビューを撮りたいとのことで、練習後、ユリカの自宅で親を撮るのだという。


スタートダッシュを繰り返すユリカを撮影し、大山田へインタビューがなされた。

「彼女は小柄ですが、ロケットスタートで、素早いピッチで駆け抜ける力があり、練習も人一倍努力する子なので、後輩たちの良い手本になっています」


続いてユリカへのインタビューがなされた。

「ただ走るのが好きだから、もっと速くなりたいから走っています。練習は強くなるために必要だから、どんなにキツくてもやります」


さらに自宅で母親にインタビューがなされた。

「子どもの頃から兄について行って、浜辺をよく走っていました。足腰が鍛えられたのだと思います。迷わず中学は陸上部に入り、家でも腕立て、腹筋、背筋とか毎日欠かさずやってましたね。あまり背は伸びなかったけども、速く走れるようになってスゴいです」


父親は

「島の誇りや」

と短く答えた。


一か月後、大山田とユリカは東京の国立競技場に来ていた。世界選手権に向けてスタンドは改装されてきれいになり、5万人収容のとてつもない巨大なスタジアムだった。本部で受付を済ませて、大会プログラムを入手すると、大山田は愕然とした。

「なんやコレは? 外人がおるやんか。バハマ? えらい速そうやな」


この年陸連は世界を意識して海外から招待選手を呼んでいたのだった。

「ユリカ、外人は気にせんでええから、とにかく自分の走りをせい。いいな」

「はい。わかりました」

女子100mは初日に予選と準決勝、二日目に決勝があり、代表に入るには、決勝に残り、最低でも日本人上位4番以内に入る必要があった。


予選が始まりユリカは出場した。実業団や大学生を寄せつけずに、組1着でゴールし、準決勝へコマを進めた。ゴール後、準決勝まで時間があり、ユリカは身体を休めていた。

その間、大山田は本部に行き、準決勝の組み合わせを見て愕然とした。バハマの招待選手と同じ組になったのだ。さらに実業団第一人者の南田とも同じ組に入った。同じ高校生の未央は別の組だった。


大山田はバハマの選手に途中で抜かれることでユリカの走りが硬くなることを心配し、

「何があっても後半力むな」

と指示を出した。

夕方になり、風が強くなり、向い風が吹く中でスタート。ユリカはロケットスタートするも、30mでバハマの選手に抜かれてしまった。南田にも80m付近で抜かれたが、その後は粘り、3位でフィニッシュ。


翌日の決勝進出を果たした。

「よくやった。今日はしっかり休んで疲れを取る。明日が勝負だぞ」


翌日、15時過ぎにNHKで全国放送され、島の両親や寺西高校の仲間も釘付けになって、ユリカの出番を待っていた。一つ前のトラック種目男子400メートルで世界のファイナルを狙う第一人者の滝尾が日本人初の記録を出し、会場のボルテージが最高潮に達した。そして女子100メートル決勝2コースに未央3コースにユリカ4コースがバハマ選手5コース南田


ユリカはあまりに張り詰めた空気に緊張し、足が震えてしまった。となりの未央は涼しそうな顔をしている。同じ高校生だがユリカより年下の高2にも関わらず、スゴい度胸だ。

そしてスタート。ユリカはいつもほど一歩目が速くなく、すぐにバハマの選手が先行した。」60mあたりで南田に抜かれ、90mで未央にも抜かれた。結果4着でゴール。


「あーあ、やっちゃったよ」

島の連中はがっかりした。


「ユリカ、よくやった」

バハマの選手は日本記録よりも0.4秒も速く、日本人1位の南田は貫禄だが、2位と3位の未央とユリカは0.02秒しかなく、目標の日本人3位に入ることができたのだった。


「先生、私、やりました」

ユリカは大泣きした。


四日後、日本陸連が世界陸上競技選手権の代表を発表し、女子4×100メートルリレーのメンバーにユリカの名前が入っていた。


これを知った寺西高校は大騒ぎとなった。

「島の誇りや。みんなで東京に応援に行くぞ」


世界陸上が8月下旬にあるがインターハイが8月頭にあり、一月に二度もビッグレースがあった。夢にまで見たインターハイで勝ちたいと願い、ユリカは出場したが、2位に終わった。優勝は涼しい顔をした未央だった。世間は未央に注目した。ユリカは地元でしか注目されなかった。


つづく




登場人物

ユリカ 群馬県でサロン経営するセラピスト 高校時代世界陸上に出場

智子 埼玉県でサロン経営 ユリカの友人 陸上教室も行う

大山田 寺西高校教諭 ユリカの恩師

未央 ユリカの現役時代のライバルで智子と同じ高校に所属





世界への切符を掴めたユリカだが、世間の注目は1個下の未央に集中していた。ユリカは世界を舞台にどこまで戦えるのか。

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