12話 島帰還
世界陸上の途中で国立競技場を後にした婦人はふるさとに帰る途中で宿泊し、テレビで世界陸上の結果を知る。翌日には天国に行った恩師の眠る元へ向かう。感動の最終話
婦人はこの時国立競技場にはいなかった。新幹線の車中だった。
「今日は島までは着けないから、手前の街に止まって、明日朝一番で島に入ろう」
婦人は新幹線駅を降り、ビジネスホテルにチェックインし、シャワーを浴び、出てくると、テレビのニュースで世界陸上のダイジェストがやっていたのが目に入った。
「男女混合4*400メートルリレーは日本新で決勝進出しましたが、決勝では8位となりました」
「…そうか」
それから女子選手のインタビューが流れた。
「………….」
婦人は号泣した。その婦人はユリカだった。
「やった….」
泣きながら小さな声でつぶやいた。
翌朝、ユリカは電車に乗り、島まで移動した。あの事件で島から逃亡して以来、20数年ぶりの初めての帰還だった。実家に帰るでもなく、ユリカが通い、教師でもあった寺西高校は2年前に少子化の影響で廃校となっていたこともあり、高校にも行くこともなかった。
ユリカは小さな駅で降りて、花束を買い、タクシーを拾い、あるところに向かった。着いたのは大山田が眠る墓地だった。花を供え、線香に火を点け、目をつむり手を合わせた。
「大山田先生。来たよ。亡くなる前に戻ってこれなくてごめんなさい。先生が寺西の校長になって、定年退職になるときにパーティーに陸部OB・OGが集まって、マラソンでオリンピック出た熊川さんとかも来たけど、私が来ないのを残念だと言ってくれて、それに対してあんな島の恥さらし女来なくていいって野次を飛ばした人に本気で怒ってたって聞いて嬉しかった。あの事件以来、私陸上をやることも教えることもなかったけど、今年東京で世界陸上開催されることになって、私と同じ歳で秋津大にいた智子がリレーの選手からアドバイスを求められて、私のアドバイスを伝えてくれて、その子たちが日本新出して決勝に行ったんだよ。ねぇ、先生の教え子らしくいいことしたでしょ。だから事件のことは許して。先生があの時、私に辞表だせって言ったの、言わされたことぐらいわかってるよ。先生は私の恩人だから….」
ユリカは片付けて、墓地を去り、そのまま群馬に戻った。
連日世界陸上は大いに盛り上がり、ユリカが出場した時よりも来場者が10万人以上多く、日本選手もたくさん活躍し、テレビもスタジアムも盛り上がって2度目の東京大会は大成功だった。
それでもユリカはこれまでと変わらず、群馬のサロンでセラピストとして働き続けた。ただ心にあったモヤモヤはなくなり、明るくなった。それから1年後、店の常連客の知り合いの同年代の男性を紹介され、意気投合し、結婚した。
おわり
登場人物
ユリカ 群馬県でサロン経営するセラピスト 高校時代世界陸上に出場
大山田 寺西高校教諭 ユリカの恩師




