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11話 世界陸上ふたたび

2度目の東京で世界陸上選手権が開催される年になり、日本中が大いに盛り上がった。前回参加のレジェンドランナーとして智子はイベントに招待される。そして代表選手の合宿に呼ばれることになりアドバイスを求められてユリカに頼る。ユリカの意外な答えとは。


ユリカは陸上のことは忘れて、テレビでの世界陸上やオリンピックの中継が目に入っても、チャンネルを変えるようにしていた。


それがひょんなことから今年にふたたびの東京の世界陸上開催ということで、テレビでCMが流れるのを見たりして色々思い出すようになっていった。


5月になった。智子から電話があった。


「もしもしユリカ。大変。私世界陸上の直前イベントに参加することになったわ」

「ええ?本当に?すごいじゃない」

「うん、前回の東京大会に出場した日本代表選手を集めてレジェンドイベントなんだって。私はマイルで予選敗退だったけどね」

「同じく私は4継で予選敗退」

「ねぇ、ユリカも来たら?私が先方に言ってみようか」

「智子バカなの?前科者の私が世に出たら、文春が面白がって記事にするだけじゃない。苦労しててにいれた静かな生活を自ら壊したくないわ」

「執行猶予でしょ。前科じゃないし。ユリカも参加すれば、過去を清算できるわよ」

「島の名誉を傷つけたと未だに思われているよ。大山田先生の墓参りだっていけてないのに」


智子は各地で小学生向けに陸上教室を開いたりして指導していて、世界陸上の30数年前の前回東京大会出場選手として、徐々にメディア等でも露出していくようになった。そのため、主催者や陸連など関係者から世界陸上東京大会に関する情報が一般よりも多く入ってきていた。


6月になりユリカと智子は前橋の店で食事を取ることになった。


「今年の世界陸上さ、日本の女子は4継、マイルとも無理みたい。でも混合マイルはいけそうだよ」

「混合マイル?何それ」

「知らないの2人男子、2人女子で走るミックスだよ。割と新しい種目」

「へぇ、そうなんだ。すごいね」

「あまり関心なさそうね」

「うん。でも、智子がアドバイスできそうじゃない」

「どうかな。意外とユリカのほうがいいアドバイスできるような気がする」

「私400知らないし。陸上20年見てないし。今の私はただのマッサージおばさんよ」

「そうかな。私にはユリカのロケットスタートとか、あの年はすごかったから、なんかヒントだせるんじゃないかなと思ってるよ」

「いやいやいや。男子400の鷹宮さんみたいな結果を出した人ならね、アドバイスする権利あるけど、予選敗退の私の意見なんて、誰も喜ばないよ」

「うーん。でも。そうかなぁ」


そして、8月。世界陸上まで半月程度となった。智子から電話がった


「ユリカ。明日代表のリレーメンバーが合宿している軽井沢に表敬訪問することになったのよ」

「へぇ。すごいね」「ねぇ、アドバイスなんかないかな。混合なのよ」

「私400やったことないからわからないよ。アンタはマイルで世界陸上出たじゃない」

「そうだけど、私は本職は800でスプリンターじゃないから」

「今も小学生に教えているじゃない」


「ユリカ。もしあなたが今全盛期だったとして、世界陸上に出れるなら、どういう気持ちで走るの?これなら答えられるでしょう」

「そうねぇ。通常運転かな」

「通常運転。なにそれ?」

「一応私、当時のこと思い出したのよ。アンタがうるさかったから。世界陸上とインターハイが同じ月にあったのよ」

「そうだっけ。覚えてないな」

「どっちもいまいちだったんだけどね。それで秋の国体で私は生涯ベスト出したわ」

「そうね。それで?」

「皆さ、世界陸上が頂上でさ、日本選手権が次でさ、後がインターハイ、国体って考えるじゃない?」

「当たり前でしょ。そんなの」

「違うのよ。同じなの」

「はぁ?。意味わかんない」

「そりゃあね。スタジアムががらがらとか超満員とか周りが世界のトップかあるいは高校生しかいないという違いはあるわ。でも走る距離も同じだし、スターターのヨーイからパンの間も同じ」

「今はon your marksって言うけど。まぁいいや。なるほど」

「だから特別と思わずに、国体と思って走ればいい」

「今は国体じゃなくて国スポって言うんだけど。でも面白いかも。言ってみるわ」


2日後、智子から電話があった。

「ユリカ。混合マイルの選手たちに会ってきて、アドバイスしてきたわよ」

「そう。笑われなかった?」

「それがね、あなたのアドバイスを聞いて、選手は目からウロコだって」

「そうなの?」

「うん。めちゃくちゃ感謝された。さすが元世界陸上選手って」

「へぇ、やるね私」

「ユリカの名前出したかったけど、ごめん」

「はぁ?なんでやねん。出さんといてや!」

「だって、まるで私の手柄みたいになるの嫌だし」

「私は陸上界を汚した女ですから。永久追放された身だからね」

「ユリカ。もうみんな忘れてるよ。それにここまで頑張ってきたじゃない」

「忘れないよ。特に島の連中は」

「ねぇ一緒に観にいかない?世界陸上」

「いいよ、私は。まぁせいぜいテレビで観るとかで十分よ」


そして9月になり、世界陸上を翌々日に控えて都内で、イベントショーが開かれ、前回の東京世界陸上戦士の一部さ集結。男子400メートル7位入賞の鷹宮はじめ、複数の当時の選手が参加。その中に智子も含まれ、懐かしのランナーとしてオールドファンを喜ばせた。


テレビ局のアナウンサーがそれぞれのレジェンドにインタビューをし、当時の思い出や今回の見どころを聞いていた。

「それじゃあ智子さん。注目している種目や選手を教えてください」

「そうですね。私は近年正式種目になった男女混合の4*400メートルリレー、いわゆるマイルリレーですね」

「ほほう、それはどうしてですか」

「日本勢の決勝進出がかかっていますし、私が出た時は女子は4*100メートルリレーも4*400メートルリレーも日本は開催国として出場できたのですが、今回はできないのでね。混合なら2名の女子選手が走れますから、ぜひ頑張ってほしいです」

「なるほど、それは気になりますね」

「はい。しかも初日に予選と決勝がいきなりありますから。良い結果を出して、日本チームに勢いをつけてほしいです」


他のレジェンドが注目したどの種目や選手よりも地味なようではあるが、智子はアピールした。


そして世界陸上が始まった。

。智子はユリカに断られて、国立競技場には陸上教室で指導する時にスタッフ2名と一緒に行き、観戦した。


そして注目の男女混合マイルリレーの予選が始まった。走順は1,3走が男子、2,4走が女子となっていた。予選1組に日本が登場した。一番内側の1レーンJAPANという紹介がアナウンスされると、会場から大きな歓声があがった。


オンユアマークス


セット


パーン!


スタートした。南アフリカが引っ張る、日本はいい位置で2走るへバトンが繋がれる。6位で3走へ。 前を詰めてアンカーへ。5位に入ればタイムで決勝も見える。ラスト80メートルでジャマイカを抜いて5位でゴール。日本心記録でゴール。3着+2が決勝進出 2組目の4位とのタイム差で決まる。2組目がスタートした。そして、ゴール。

2組目の4着はポーランドで、1組目5着の日本を上回ったため、日本の決勝進出はならなかった。ところが、数分後に2組目で3着に入ったケニアがコースの内側に入ってしまったというのが確認され、失格となり、日本の繰り上げ決勝進出が決まった。


これには選手たちは大喜び。スタンドも大歓声があがった。それを観ていた智子も泣いていた。


「やったー、よくやった。本当によくやった」

「智子、良かったね。智子のアドバイスが効いたね!」

「ううん、私じゃないの。あの子たちが頑張ったからなの」


2階席の一番上方で一人で観戦していた女性がいた。帽子を深々に被り、サングラスをし、大きなマスクをしていた。婦人は涙が頬を伝い落ちていた。そして立ち上がり、スタンドを後にした。


夜になり、決勝種目が開催される国立競技場は超満員になっていた。

予選で日本記録を3秒以上も更新した4名は混合マイルリレーに出場。その夜の最終種目。時間は22時24分。チーム紹介が始まり、3レーンに日本、JAPANという声に大歓声があがった。静寂の中、スターターの声がする。

オンユアマークス


セット


パーン!


アメリカが引っ張る。 日本は7番でバトンパス。

2走もアメリカが1位をキープ、日本は8位に後退する。

3走もアメリカが首位を守る、日本は8位のまま。

アンカーでアメリカにオランダがラストで詰めるも逃げ切り金メダル。

日本は8位のままゴール。記録は予選を上回ることはできず。インタビューを受ける日本選手は悔し涙を流した。

それでも日本新記録で決勝進出し8位入賞は素晴らしいとインタビューアーが声をかけると、女子の選手が「前回の東京大会30年以上前ですけれど、出場されたリレーの先輩からも想いを託されて、アドバイスいただき、決勝に立てたことを誇りに思います」

と力強くコメントした。


それをスタンドで観ていた智子は涙腺が崩壊した。

「うっ、うっ、うっ」


”ユリカは観ていたのかな。私たちの苦労を後輩が払拭してくれたのよ。ユリカ。あなたは間違えていない。あなたがコソコソ生きなければならないなんて絶対におかしい”


「大丈夫ですか、智子さん!」

激しい嗚咽に一緒に観ていたスタッフも心配した。


「う、うん。大丈夫。ごめん、取り乱して」


つづく



登場人物 

ユリカ 群馬県でサロン経営するセラピスト 高校時代世界陸上に出場

智子 埼玉県でサロン経営 ユリカの友人 陸上教室も行う

大山田 寺西高校教諭 ユリカの恩師




国立競技場のスタンド上方部で一人で観戦していた婦人は新幹線であるところに向かい、世界陸上の結果とインタビューを観ることに。翌日今は亡き恩師の前で想いを話す。物語のラストはいかに。

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