合言葉は「ゾンビは敵」
「なろうラジオ大賞7」作品です。
パニック最高!!
「復唱っ、ゾンビは敵っ!」
「「「ゾンビは敵っ!」」」
朝の訓練場では、そんな声が響き渡る。俺も、大声で合言葉を叫ぶ者のうちの一人だ。
叫びながら剣を振り下ろし、体を鍛える。
「ゾンビはーっ!」
「「「てきーっ!」」」
訓練場とはいうが、もともとは小学校の校庭だった。だが、ゾンビなんていうものが地球に現れて以来、教育なんていうのは二の次だ。
訓練が終わると、更衣室で清潔な服へと着替える。汗で濡れた服で外に出るとゾンビを寄せ付けてしまうんだとか。――まぁ、別にいいんだけど。
家に帰ると、真っ先に脱いだ服を洗濯機に放り込む。それから、妻に会いにいく。
「元気にしてた?」
「うがぁぁぁああぁあぁ」
大きな声を上げる妻。かわいい。
「ご飯何がいい?」
「ぐるぉあぁぁああぁぁぁっぁぁあ!」
顔を歪めて返事をする妻。こんなところまで愛おしい。
「おっけ、麻婆豆腐にするね」
妻は不服な顔で僕を見送った。いくら人間が食べたいからといって、あげるわけにはいかないんだよ。
そう、俺が愛する妻は――ゾンビだ。
ゾンビが実際に地球にやってくるまで、創作物の中では、ゾンビは感染するものだった。
でも、今地球にいるのは、そうじゃない。ゾンビは、ゾンビという種でそこに存在している。感染ることはない。
敵対するとは言うが、そんなこともない。現に、俺と妻だって種の垣根を越えて愛を育んでいるじゃないか。
「ゾンビは敵」
打倒ゾンビとして掲げられたそのスローガンを、ふとつぶやく。スローガンとして、あまりにも単純すぎやしないだろうか。
――やはり、洗脳なのだ。ゾンビが敵だというのは、全員の脳に植え付けられた固定観念でしかない。
思っていても、それを告発することはない。全員がそう思っているのなら、それを覆す力が自分にあるとは思えないのだから。
今日も今日とて、愛しい妻に食事を作る。
「今日は、ステーキだよ」
俺も妻も、日頃頑張っているのだ。たまには奮発してもいいじゃないか。
「ぐるぁぁぁっがぁぁ!」
な。嬉しそうだろ。
――そういえば妻は、いつも檻の中でご飯を食べているじゃないか。さすがに可哀想だ。
俺は、檻から妻を出すことにした。
◇ ◇ ◇
【速報】男性死亡 同居していたゾンビに殺されたか
昨日深夜、地元自衛団に所属していた男性(42)が自宅で死亡しているのが発見されました。男性には複数の咬み傷があり、同居していたゾンビに殺された可能性が高いとして、警察が調査を続けています。




