悪の博士、年賀状を書き終わった瞬間に狙撃されてしまう
12月のある日。とある研究所で、老年の博士が高笑いしていた。
「フハハハ……ついに完成したぞ! 長年研究した薬がなぁ!」
助手の青年が横で笑みを浮かべる。
「おめでとうございます、博士」
「うむ、世界中の悪人が、喜んでこの薬を買うことだろう。そうすればこの世は悪人の天下となる」
「その通りですね」
「……というわけで、知り合いの悪人どもに年賀状でも書くか」
「悪の博士でも年賀状って書くんですね……」
「こういう細かいことを大事にしなければ、悪人連中からは信用されんからな」
さっそく博士は机に向かって年賀状を書き始める。
「えーと、“きんがしんねん”ってどう書くんだっけ?」
「自分で調べて下さいよ」
こんなやり取りをしつつ、博士はどうにか年賀状を書き終えた。
その時だった。
パァン!
乾いた音と共に、博士の額に穴があいた。
博士はそのまま背中から地面に倒れてしまった。
窓にも穴があいており、外からの狙撃だった。
助手は叫ぶ。
「は、博士ぇぇぇ!!!」
慌てて博士の容態を確認するが――
「ダメだ……死んでる! くそっ、なんてことだ……!」
博士も悪人だけあって、数多くの恨みを買っている。
こういう最期を迎えるのは、自業自得でもあった。
ところが、博士の体がピクリと動き出す。
「……え!?」
博士の額にあいた穴もみるみる塞がっていく。
助手はその光景に驚くばかり。
やがて、博士はしっかりと目を開き、起き上がった。
「フハハハ、成功だ! ワシは死んだが、見事によみがえった!」
「博士……まさかあの薬を!?」
「ああ、すでに飲んでいた。たとえ死んでもこうして元通りになり動ける薬をな」
「自らを実験台にするとは、さすが博士!」
「しかも、心臓はもう止まっており、ワシはすでに死んでいる。つまり、もう誰もワシを殺すことはできん! この薬を世界中の悪人が飲んだとすれば、どんな世の中になるか……笑いが止まらんわい!」
「ええ、楽しみですね!」
「ワシを撃った者は後で必ず見つけ出し、報復してやる」
「研究所のセキュリティも高めておきましょう」
恐るべき薬を完成し、死すらも恐れることはなくなった博士。もはや世界は悪に屈してしまうのか。
しかし、博士は突如顔をひきつらせる。
「まずいことになった……!」
「どうされました!?」
やはり薬に問題があったのかと、助手が尋ねる。
すると博士は――
「ワシは死んでしまったから、こういう時は年賀状より喪中ハガキを送った方がよいのだろうか……」
完
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