ルマニア戦記 #003 Part A
自前のブログからの完全移植、おまけに再編集なのですが、そんなには変わっていないのか?
絵もおはなしもかなり以前のものなので、今やっているもう一方のおふざけノベルよりもふわふわしているかもしれませんが、進むにつれてどっちも良くなるはずなので、よろしくお願いします。
第一話 「実験機で初出撃!」
#003
Part A
航空高度、およそ500メートル弱――。
手元のデジタル高度計ではそのように計測される、飛行型のアーマーにしては、そこそこの低空飛行で機体が安定するのを確認する。
頑丈なシートに太いベルトでみずからの身体をくくりつけた大柄なクマ族のパイロットは、しごく納得のいったそぶりでしきりとうなずいていた。
「ふうん……! まあ、それなりに機体は仕上がっているのかな? 今のとこおかしな機体のブレや無駄なエンジンのうなりもしないし、すこぶる安定してるみたいだ。さすがに本国肝入りの新型実験機なだけのことはあって……! なるほどね、ならいざ本番のアーマーの実戦って時もかくありたいもんだよな♡」
『……はい! というか、もう既に今も実戦ではありますが? ベアランド少尉どの! そちらはもうじき通常の通信回線可能域から抜けてしまいますので、非常時の通信は本国の衛星を介した秘匿回線にて願います。敵国側からの妨害電波の余波ですでに雑音、入っておりますか??』
ただの独り言の感想だったのに、すかさずに打てば響く小気味のいい返答だ。
そんな回線越しの若い整備士の声には、もはや全幅の信頼と共にはっきりと応答するエース・パイロットどのだった。
「わかってる! 大丈夫、信頼してるよ、コイツの性能と優秀なメカニックの腕前をね? あんまり無茶しないでくれとは言われてるけど、多少は無理しないと機体性能の実働試験にはならないから、まあ、そのあたりはさ……! せいぜい腕まくりしながら無事の帰還を願ってておくれよ♡」
「はっ、それはもちろんであります! ですが何度も申し上げますように、そちらの機体はまだ組み上がったばかりのあくまで実験機ではありますので……」
既に通信回線が限界なのか、あるいはまだあどけなさの残る若いクマくんの言葉尻が濁っているのか、そこでしばしの沈黙が起こる。
だが普段から慌てず騒がず、何事にも鷹揚な態度と口ぶりのベアランドはまるで気にせずでひとりでしげしげとこの身の回りを見回した。
およそこの全てが新品で、ツンと鼻孔を刺激するほどに真新しい匂いのこもったコクピットは、どこにも染みのひとつとありはしない。
「はあ、ほんとに安定してるよな? これが初めての稼働試験とは思えないくらいにものすごく乗り心地ってものがいいよ。このシートもこのでかい身体に合わせた無理のないサイズだし、あのやたらに狭苦しい量産型のコクピットとは打って変わった居住性だよな! ははん、快適快適!!」
東の地平から顔を出す日の出に背中を照らされる機体は、さながら空中に仁王立ちして静止しているかのように地上からは見えるのだろう。
実際にはそれなりの速度で西へと進んでいるのだが、背後にジェットの噴煙らしきもたなびかせることないロボットは、空にぼんやりと浮かぶ雲のようなありさまだ。
「はは、フロート・フライト・システムだったっけ? 従来のジェット・フライヤーとは一線を画しているとは聞いていたけど、さっぱりわけがわからないや! 通常のアーマーが標準装備する重力キャンセラーとはまた別ものとは言うけど、これってつまりは完全に機体の重量を相殺しちゃってるんだよね? ひょっとしたらこの質量とかも??」
しきりと太い首を傾げてひとりごとめいたことを漏らそうとも、あいにくともう整備士からの応答はない。
その彼ときたら、思いあまってついには自身も一緒に乗り込もうとしたのを、出撃も寸前で押しとどめてつまみ出したのを今となっては少し残念に思いもするが、いよいよ実戦の時が近いことを意識した。
折しもそこに聞きなじんだ同僚のなじるような叱咤が飛び込んでくる。
「ごちゃごちゃうっせえよ! こちとらもう戦場なんだから、今はてめえの目の前だけに集中しやがれ!! 薄気味が悪いことそんなのんびりと空に浮かんでるだけじゃ、こけおどしにもなりゃしねえぜ? 後から譲ってくれなんてお願いされても敵機撃墜の星マークはくれてやらねえぞっ、どらっ、それじゃさっさとお先に失礼させてもうぜっ! こちとらノロマなクマ助の援護なんてはなっから期待しちゃいないんだ! あばよっ!!」
一匹オオカミとは良くも言ったもので、まるで協調性のかけらもない相棒のパイロットだ。
この相変わらず口やかましいオオカミのがなりに耳がキンとなるクマだった。
ひとしきり好き勝手なことをほざいたら地面を駆ける人型のロボット兵器、ギガ・アーマーの速度を前のめりにして上げていくその後ろ姿を高くから見下ろしては、やがてかすかにこの肩をすくめてしまう。
あちらの機体の管制アドバイザーとしてコンビを組んでいたはずの前線基地のブルドックさまは、さては今ごろどんな顔をしていることやらだ。
「あらら、行っちゃった……! まったくせっかちさんなんだから♡ あれじゃ援護なんてできたもんじゃありゃしないよ、でも機体性能とこの戦況からするには、サポートに徹したほうが合理的なんだよな? この見てくれ土手カボチャの新型ロボくんは……ん!」
……ビッ、ピピ!
現実に戦場に入ったことを告げる警告音が、出し抜けに短く鳴り響く……!
加えてただちに正面の大型モニターにいくつかのマーキングが赤く灯って、敵軍側の戦闘機がこちらに向かってくることを表示してくれる。
いわゆるジェット・フライヤーと類別される航空機タイプのものだった。
おおざっぱに言えば『ロボット』と称されるこちらとはまるで別カテゴリーのものなのだが、だからと言ってそうそう油断できたものではない。
もっぱらのロボット兵器と通常兵器における戦いのセオリー通りならば、地対空で地面を駆ける相棒のギガ・アーマーを空から総攻撃したいところなのだろうが、あいにくとおなじ空中にこんな目立つものがのさばっているあたり、あちらはこの思惑が大いにはずれているのだろうか?
五個のマーカーが足下の地面には脇目も振らずにまっすぐこちら目がけているのに、内心であらら♪と舌なめずりするクマさんだ。
「おやおや、のんびりしてる間もないな。さてはこっちのほうがよっぽど目立つのかね? 今日が初お披露目でみんな物珍しさにびっくりしてるのかも知れないけど、あいにくとびっくりするのはこれからさ……! 悪いが手加減はしてやらないからね!!」
初めて相対した時、そのあまりの異様さにギョッとした自分だが、それは敵陣営側にしても同様だろう。
機体の性能面ではあらがいようがない新型のロボット兵器へと目がけて、まずは遠目から先制攻撃しかけてくる!
対してモニターの中の小さなマーカーを拡大して、それらがどんなタイプの航空兵器か見定めるベアランドだ。
とかく冷静に手元の操縦桿を握りしめた。
「重装型ヘリコが3に、高機動フライヤーが2か! いきなりミサイルはキツイけど、果たしてコイツのコレが実体弾にもれっきとした効果があるか見るにはいい機会だな? どうれっと……!!」
はじめは小さな点でしかなかったはず敵影が、見る見る内にその色形を高精細モニターの中ではっきりとさせる。
音速を超えるスピードで迫り来る二機の戦闘機が、こちらの左右をかすめるように飛び去って行った!
これらが伴うソニック・ブームの爆音はけたたましいはずだが、あいにくで何重もの分厚い装甲に囲まれたこのコクピットまでは届かない。
かすかな空気の振動を、この手元の操縦桿に伝えたくらいだろうか?
飛び去り際にミサイルを2~3発、激しい機銃掃射と共に見舞ってくれる有人機だが、この機体にまで被害が及ぶことはなかった。
代わりに周囲にいくつもの爆発を巻き起こす。
この手前側で距離を取る大型の攻撃ヘリたちは、おなじく機銃とミサイルによる波状攻撃をたたみかけるものの、高速で飛来する鋼鉄の弓矢は、だがしかしながら、当ののんびりと空に浮かぶだけの鉄の巨人を撃ち抜くにはいたらず。どころかあえなくして、どれもがその寸前ではじかれたかのような爆発を繰り返した。
そのたびにまぶしいフラッシュとかすかな空気の揺れを伝えるが、それらを真顔でただまっすぐに見つめるクマのパイロットは、少しもうろたえずに軽く受け流すのだった。
周囲のモニターは、どこもかしこも平常通りのオール・グリーン。
やはり機体に被害を受けたアラートも鳴らないのに、ひとしきり納得する。
正面のモニターは爆煙越しの敵影をしっかりと捉えたままだ。
そこにかすかにノイズが走るのに、なおさらしたり顔してついにはご機嫌なうなりを発する。
「う~ん、ヒャッホウ!! なかなかいいカンジだな! はじめて聞いた時はちょっと眉唾ものだったんだけど、ちゃんと稼働してるよ、このフィールド・シェルター、だったっけ? 要はこの機体の主動力であるジェネレーターで発生させた強力な電磁フィールド、つまりはバリアってヤツなんだよな??」
通常よりも一回りは大型の機体の胸部、ここに突き出す形で先端部に据えられた大型の電磁力場発生器による、不可視のシールドの効果に満足顔でうなずいては、こうして実弾を防げたんだから最新アーマーのビームカノンもいけるんだろうと、にんまりとほくそ笑む。
どうにもお気楽なさまだが、おまけにまったくの受け身でおよそ反撃をしない状況で、剛毅なことこの上ないクマ助だ。
おかげで相手との距離が縮まるばかりだが、それもある種の計算だったか?
飛び去った背後の戦闘機を振り返りながら、手元のパネルにすばやくこの利き手を走らせる!
「ようし、それじゃ今度はこっちの番だよな! 一度過ぎ去ってからすかさずにターンして背後からのバック・アタック! おまけに挟み撃ちにしようってんだろうけど、あいにくこっちは後ろもバッチリいけるんだ! そおらっ!!」
機首を回頭して今しも機体を反転させるべくした態勢の敵機に、不意にまばゆいオレンジの光が襲いかかる!
大型の機体の至る箇所、無数に搭載したカノンが火を噴いたのだ。
新型のアーマーでもごく希な最新の火力装備を、ベアランドの機体はこれでもかとその身の内に抱え込んでいる。
前後左右、異様に膨らんだ下半身の土手カボチャと見まがうスカート状の装甲には、それこそ大小いくつもの発射口が口を開き、今か今かとその眼光も鋭く怪しい光りを放っていた。
かくして背後のそれらからふたつずつ走った閃光は、狙いも違わず敵機を見事に撃!。
ただちに爆煙まとわせて、地面にたたき伏せることとあいなる。
直後、空中にばさりとただようパラシュートにはもう目もくれずに、正面に向き直る大グマは、残る三機の武装ヘリにもターゲットを定める。
もはや手元のトリガーを引けばいいだけだった。
そんな中で機銃掃射がやかましい敵機に向けて言い放つ。
「そっちのヤツらはみんな無人機なんだろ? さっきから攻撃がやたらと単調だもんな! だったらいいや、ちょっとコイツの性能を試させてもらうよ!」
腹部に装備した大型粒子砲を一斉射すれば済むものを、あえてその他の機体装備で迎撃してくれるクマ族だ。
そのゴツイ腕やブサイクな頭部にもキャノンのたぐいは搭載されていた。
それらをひととおり試射するべく個別に狙いを定めていく。
正面にバリアを張ったままでは腹部のメインキャノンは威力を低減されてしまうので、接近戦においては必須の攻撃スキルだ。
決着が付くまで3分とかからなかった。
「う~ん、両腕のアーム・カノンは腹部のサブ・カノンと同等くらいかな? ちょっと狙いを付けるのが難しいけど、慣れればそれなりには……! ああっ、ん、ん、この、このっ!!」
最後の一機を蜂の巣にしてトドメを刺しながら、ちょっとさえない顔つきで愚痴っぽいことを言うエースパイロットだ。
「ああれれっ……なんだい、アタマのビーム・スプレッダーとレーザー・カノンってのは見かけ倒しで、実際は威嚇射撃くらいにしかならないんだな? こんなのよっぽど接近戦でもないと致命打になりやしないや!! いやはや、本番の対アーマーの前に試せて良かったよ。それじゃ……」
いざ友軍の口やかましいオオカミの同僚機の援護に向かおうと視線を向けると、戦況はおおかたで決着がついていることを認める。
敵軍はすでに撤退を開始、敵影らしきは目で見える範囲にはひとつも残っていなかった。
戦況を伝える手元のモニターには同僚の戦果、敵軍アーマーの撃破数が3とある。
それがご丁寧なことに機種類別も表示されているのに舌を巻くクマだった。
「あらら、すっかり先を越されちゃったな……! ま、かまわないんだけど♪ えーと、トカゲが二機に、その上級のオロチがイチか……!! でもこれってどれもロートルの旧型機だよな? こんな場末の戦場だからうなずけなくもないけど、あんまり機体の性能差があったら試験運用にもならないような……??」
この通信を開けば血気盛んなオオカミが何事か好き勝手なことをほざきそうだが、あんまり自慢ができたものでもないと、どっちらけた顔になる。
すっかり静かになったコクピット内でどうしたものかと太い首を傾げるベアランドだが、その丸い耳にピンと短い電子音がまとわりついた。
「んっ……あれ??」
機体のセンサーが敵影なき空に何事かを捉えたのか、短いアラームが中途半端に鳴り響く。
すぐに静かになるのだが、背後で白々と夜が明ける中、遠く西の地平はまだうす暗い。
そこにかすかな違和感を感じ取るクマ族のパイロットだった。
「へぇ、なんだい、どいつもオンボロばっかりと思わせて、ずいぶんと勘のいいヤツがいるみたいだな……!」
空中の機体を東へと反転させながら、背後の地平線に向けて意味深な目つきと口ぶりをするクマのエースだ。
かくしてベアランド、ウルフハンド両少尉の新型機による初陣は、めでたく勝利の内に幕を下ろすのだった……!!
現在なろうではこれとおふざけギャグとふたつを展開しているのですが、個人的にはこっちが断然推しているコンテンツなので、どうにか頑張っていきたい今日この頃ですw
挿し絵がもうちょっとマシだったらいいんですがwww




