第67話 エピローグI
武蔵第一艦橋——
御坂は、メインパネルを見つめていた。
大和から放たれた、青白い光。
九条の光線が、天を貫いていく。
「陽電子砲……」
呟く。
「聞いてはいたけど……まるでビーム砲ですね」
驚愕が、声に滲んだ。
「姉ちゃん、かっこいい」
ムサシヒメが目を輝かせていた。
蛇核が——消滅していく。
光の粒子となって、散っていく。
瘴気の雲は飛散し陽光が窓に差し込んできた。
終わった。
長い戦いが、ついに終わったのだ。
御坂は、小さく息を吐いた。
「micot、被害状況を報告」
『了解しました』
静かな電子音声が応答する。
『レールガンシステムに深刻な損傷』
『航行システムは出力20%までダウン』
『核融合炉、損傷なし』
御坂は頷いた。
「ムサシヒメ、応急処置ドローンを射出」
「了解、艦長」
ムサシヒメが応える。
武蔵の各所から、小型ドローンが飛び出していった。
◆ ◆ ◆
しばらくして——
大和が、武蔵の真横まで航行してきた。
二隻の巨艦が、並んで海に浮かぶ。
姉妹艦。
八十一年ぶりの再会だった。
「micot、移動用ドローンの状況は?」
『問題ありません』
「micot、大和に繋いでください」
『了解しました。通信を開きます』
ピッ——
通信が繋がった。
「こちら武蔵艦長御坂です」
御坂が告げる。
「大和の後部甲板に、ドローンでお伺いしてもよろしいでしょうか」
『こちら大和艦長新村です。了解しました。お待ちしております』
ボンノーの声が返ってきた。
◆ ◆ ◆
大和後部甲板——
御坂とムサシヒメを乗せたドローンが、ゆっくりと降下してきた。
大和の一同が、出迎えていた。
ボンノー、ヤマトヒメ、クレア、リリア、ナターシャ、ヴィヴィ。
ドローンが着地する。
真っ先に飛び降りたのは——ムサシヒメだった。
「姉ちゃん!」
一目散に駆け出す。
ヤマトヒメに向かって。
そして——
抱きついた。
「姉ちゃん……!」
声が、震えていた。
「ずっと……ずっと会いたかったよ……!」
ヤマトヒメが、ムサシヒメを抱きしめ返した。
「私もです……ムサシヒメ……」
「姉ちゃん……」
「ムサシヒメ、長い間……よく頑張りましたね」
「うん……寂しかったよ……姉ちゃん……」
「ムサシヒメ……」
「姉ちゃん……」
二人とも、泣いていた。
八十一年。
八十一年間、離れ離れだった姉妹。
ようやく——再会できた。
クレアが、そっと目を伏せた。
リリアが、祈るように手を組んだ。
ナターシャが、深緑の瞳を細めた。
ヴィヴィが、涙を拭った。
誰も、何も言わない。
ただ、二人を見守っていた。
◆ ◆ ◆
やがて——
御坂が、ゆっくりとドローンから降りてきた。
姉妹の再会を見届けてから。
静かに、落ち着いた足取りで。
ボンノーが、一歩前に出た。
「はじめまして、新村特務少佐」
御坂が告げた。
「こちらこそ、御坂艦長」
ボンノーが応える。
両者、扶桑式敬礼。
「扶桑を救った英雄にお会いできるとは、光栄です」
御坂の言葉に、ボンノーは苦笑いした。
「特務少佐とは懐かしい。自分はただ統制射撃を担当していただけの者です。はは」
「ボンノーさん、扶桑も救ってたんだ! すごい!」
ヴィヴィが目を丸くした。
「ボンノーさん……?」
御坂が首を傾げる。
「この世界ではボンノーと呼ばれています」
ボンノーが説明した。
「差し支えなければ、ボンノーとお呼びください」
「わかりました。ボンノーさん」
御坂が頷く。
「あたしはヴィヴィっていいます。よろしくね!」
ヴィヴィが元気よく名乗った。
「御坂です。こちらこそ」
扶桑式敬礼。
(この子、ドワーフかしら……)
御坂の内心が揺れた。
(ネットゲームでしか見たことないけど……かわいい……)
「あたいはナターシャっていうのさ。よろしくなのさ」
ナターシャが、にやりと笑いながら名乗った。
「御坂です。こちらこそ」
扶桑式敬礼。
(ダークエルフじゃないの……!)
御坂の心臓が跳ねた。
(エルフの中でも希少種と言われる……これもネットゲームの知識だけど……)
(耳、触ってみたい……歳も聞いてみたい……)
(そして、この妖艶な美貌……!)
ナターシャがニヤリと微笑んだ。
まるで、御坂の内心を見透かしているかのように。
「私はリリアと申します。よろしくお願いします」
リリアが、丁寧にお辞儀をした。
「御坂です。こちらこそ」
扶桑式敬礼。
「リリアは聖女様なんだよ」
ヴィヴィが付け加えた。
「聖女ですって……」
御坂の声が、わずかに上ずった。
「……っ、失礼しました」
(きゃーーーー!)
内心で絶叫。
(聖女って、転生したいランキング上位じゃないのーーー!)
(しかも、ありえないくらい美人……!)
表情は、かろうじて保っている。
だが、心臓は爆発しそうだった。
「わたくしはクレア・フォン・リヴィエラと申します。よろしくお願いします」
クレアが、優雅に名乗った。
「御坂です。こちらこそ」
扶桑式敬礼。
「クレアは姫様なんだよ。この国では、すごーく偉いんだよ」
ヴィヴィが説明する。
「……っ」
御坂の目が、見開かれた。
(本物の姫様って……)
(しかも、聖女様と負けず劣らずの美人じゃないの……)
「失礼しました、姫殿下」
御坂が、深々と扶桑式最敬礼をした。
「かしこまらないでください、御坂さん」
クレアが苦笑いする。
「ここでは冒険者クレアですので」
◆ ◆ ◆
挨拶が終わった。
ボンノーが、一同を見渡した。
「これからのことを話し合いたいと思います」
「皆さん、大和第二艦橋へどうぞ」
ヤマトヒメが案内する。
その手は、ムサシヒメの手をしっかりと握っていた。
離さない。
もう、離さない。
一同は、大和第二艦橋へと向かった。
続く




