第65話 決戦III
その時——
神々しい光が、空を貫いた。
徹甲神弾。
神殺しの砲弾。
ヤツマタノオロチの頭部に——直撃した。
ドォォォォォォンッ!!!
二つの首が、同時に吹き飛ぶ。
各頭に二発、首に一発。
計六発の徹甲神弾が、オロチの肉体を抉り取った。
『グギャァァァァァァ!!!』
絶叫。
ブレスが——止まった。
八つの首のうち二つを失い、オロチの動きが鈍る。
◆ ◆ ◆
大和第一艦橋——
ボンノーは、その隙を逃さなかった。
大和はヤツマタノオロチの側背に位置していた。
武蔵が囮となり、オロチの注意を引きつけている間に——回り込んでいたのだ。
「一番砲塔、二番砲塔——」
ボンノーの声が響く。
「第二射、撃て」
砲身が煌めく。
六条の光が放たれる。
一番砲塔と二番砲塔——計六門の主砲が火を噴いた。
通常とは異なる発射音。
キュュゥゥゥーーーンンン!!!
「最大戦速でヤツマタノオロチに接近せよ」
「了解です、兄様」
ヤマトヒメが応える。
魔導炉が唸りを上げた。
大和の速度が、ぐんぐん上がっていく。
数秒後——
ドォォォォォォンッ!!!
第二射も、頭部二箇所に命中。
さらに二つの首が破壊される。
「第三射、撃て」
キュュゥゥゥーーーンンン!!!
大和は最大戦速でオロチに接近しながら、容赦なく砲撃を続ける。
ドォォォォォォンッ!!!
第三射も命中。
頭部が——六箇所破壊された。
『ギャアアアアアアアアアアア!!!』
ヤツマタノオロチの絶叫が、海を震わせる。
八つあった首のうち、六つが失われた。
残るは——二つ。
大和は、オロチの至近距離まで到達していた。
◆ ◆ ◆
武蔵第一艦橋——
『ブレスの威力が急激に低下』
micotの声が響いた。
『再計算中』
メインパネルの数値が、目まぐるしく変わっていく。
『艦橋消滅まであと200秒』
御坂とムサシヒメが、息を呑む。
『艦橋消滅まであと30分』
数値が——跳ね上がった。
『艦橋消滅のリスク——消失』
——静寂。
そして——
「やった......」
ムサシヒメの声が、震えた。
「姉ちゃんが、やってくれたんだよ......!」
涙が、頬を伝う。
でも、それは喜びの涙だった。
「やっぱり、姉ちゃんは扶桑一の戦女神だね」
御坂は、ムサシヒメを見下ろした。
そして——
ふわり。
小さな体を抱き上げ、自分の膝の上に乗せた。
「ムサシヒメの姉ちゃんは、扶桑一だね」
頭を、優しく撫でる。
「でも——御坂の中では、ムサシヒメが一番だけどね」
「みさかさん......」
ムサシヒメが、御坂の胸に顔を埋める。
「あとは、大和がなんとかしてくれる」
御坂は、前方を見据えた。
大和が——オロチに迫っている。
「見届けよう。ムサシヒメの姉ちゃんの、最後の戦いを」
◆ ◆ ◆
大和第一艦橋——
ボンノーが、号令を発した。
「第二段階作戦——開始」
その声を合図に、クレア、リリア、ナターシャ、ヴィヴィが動いた。
艦橋を飛び出し、露天艦橋へと駆け上がる。
風が、髪を揺らす。
眼前には——残り二つの首を振り乱すヤツマタノオロチ。
「クレアさん」
リリアが、クレアの手を取った。
「すべてが終わったら......また、ボンちゃんと......」
頬が、赤く染まる。
だが、その瞳には確かな決意があった。
クレアが、微笑んだ。
「ええ、リリア。今度は——もっとすごいことをしましょう」
頷き合う。
そして——
「鐘よ鳴れ、祝祭の刻」
リリアの声が、聖歌のように響く。
「滴は流れ、流れは河、河は海——命は連なり」
金色の光が、クレアを包んでいく。
「女神の恩寵、この者に満ちよ」
『聖女権能——レファリア・セレブレーション!』
微風が舞い、金の花片が静かに降りた。
祝福の光が、クレアの全身に宿る。
「ありがとう、リリア」
クレアが、天羽々斬を抜いた。
「いきますわ」
凛とした声。
「姫騎士権能——ブレイブハート!」
赤いオーラが、クレアの全身から迸った。
「ナターシャ、頼みます」
「任せるのさ」
ナターシャが、にやりと笑った。
「あたいは風魔法が一番得意なのさ」
無詠唱。
風が、クレアの足元で渦を巻く。
「クレアちゃん、盛大にやってくるのさ」
ゴオォォォ——!
風がクレアを打ち上げた。
赤いオーラを纏ったまま——まるで赤い彗星が上昇していくように。
そして、ナターシャは無詠唱で石魔法を発動。
上空に、次々と足場を形成していく。
「あたしがみんなを守る」
ヴィヴィが、大盾を天に構えた。
リリアとナターシャ、そして大和を——落下物から守るために。
「ヴィヴィ、頼りにしてるのさ」
「任せよ、姐さん!」
◆ ◆ ◆
上空——
クレアは、オロチの残る二つの首を見据えた。
赤い瞳が、こちらを睨んでいる。
だが——もう、迷いはない。ただ、斬り伏せるのみ。
「リヴィエラの姫騎士——クレア・フォン・リヴィエラ」
風に乗り、オロチへと突撃する。
「あなたを討ち取る者の名前です」
剣を構える。
「覚えておきなさい」
そして——クレアが消えた。
斬撃が、始まった。
一閃。
二閃。
三閃。
通常の六倍速。
残像すら見えないほどの連撃が、オロチの首を切り刻んでいく。
四閃、五閃、六閃——
『グギャァァァ!』
オロチが悲鳴を上げる。
だが、クレアは止まらない。
七閃、八閃、九閃——
ナターシャが作った足場を蹴り、さらに高く跳躍する。
十閃、十一閃、十二閃——
血飛沫が舞う。
漆黒の鱗が、次々と斬り裂かれていく。
十三閃、十四閃、十五閃——
「二つの世界の民の想いを——」
十六閃、十七閃——
「この剣に込めて——!」
十八閃!
ズバァァァン!
一つ目の首が——切り落とされた。
『ギャアアアアア!』
残る首は、あと一つ。
クレアは、最後の足場を蹴った。
高く——さらに高く飛翔する。
「紅蓮剣——」
剣に、すべての力を込める。
金の祝福と、赤い闘志が、刃に収束していく。
「裂光斬!」
振り下ろされた一撃が——
ズバァァァァァァァァンッ!!!
最後の首を、切り落とした。
◆ ◆ ◆
『その剣は......』
切り落とされた首から、声が漏れた。
『あめのはばきり......』
オロチの赤い瞳が、見開かれる。
恐怖。
四千年前の記憶が、蘇ったのだろう。
『グギギィィィィアアアアアアアア!!!』
絶叫。
『おのれ——アマテラスめぇぇぇぇ!!!』
八つの首を失ったヤツマタノオロチが、断末魔の咆哮を上げた。
その声が——海を、空を、震わせる。
クレアは、空中で剣を構えたまま、その光景を見下ろしていた。
風が、亜麻色の髪を揺らす。
「——終わりです」
静かに、告げた。
続く




