第63話 決戦I
武蔵第一艦橋——
魔島。
瘴気に覆われた島。
禍々しい気配が、海を越えて伝わってくる。
御坂が、艦長席から立ち上がった。
メインパネルには、魔島の全景が映し出されている。
「魔島へ艦砲射撃を行う」
冷静な声。
淡々と、しかし確実に指示が飛ぶ。
「三式弾〈飛龍〉を装填」
「三式弾〈飛龍〉、了解!」
ムサシヒメが応答する。
「micot、最適な射撃ポイントを分析」
『了解しました。分析開始』
静かな電子音声が響く。
メインパネルに、魔島の地形データが展開された。
赤い点が、次々と表示されていく。
敵の集結地点。瘴気の発生源。地下施設の推定位置。
『分析完了。データを主砲へ送信します』
ムサシヒメの目が光った。
micotから送られてきた射撃諸元が、脳内に流れ込む。
「こっちも準備完了だよ、艦長」
御坂が、前方を見据えた。
魔島。
この世界を蝕んできた、災厄の根源。
「撃て」
ビギュゥゥゥゥゥーーーーンンンン!!!
九条の光が、放たれた。
レールガンの轟音が、海を震わせる。
数秒後——
魔島に、巨大な火柱が立った。
三式弾〈飛龍〉が炸裂し、業火が広がっていく。
爆炎が、瘴気を焼き払う。
「命中。効果甚大」
御坂が確認する。
「第二射、用意」
「了解!」
ムサシヒメの声が響く。
ビギュゥゥゥゥゥーーーーンンンン!!!
第二斉射。
再び、魔島が炎に包まれた。
「第三射」
「第四射」
「第五射」
容赦のない砲撃が続く。
魔島は、地獄の業火に覆われていった。
あちこちで爆発が起き、黒煙が立ち昇る。
「すごい……」
ムサシヒメが呟いた。
「魔島が、燃えてる……」
御坂は表情を変えない。
だが、その目は油断なく前方を見つめていた。
その時——
ピピッ——
通信機が鳴った。
『こちら大和』
ボンノーの声だった。
『武蔵へ警告します』
『ヤツマタノオロチが、ほどなく復活すると思われます』
『警戒してください』
御坂が応答する。
「了解した。引き続き——ザァァァァァ」
通信が、途切れた。
◆ ◆ ◆
——ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
地鳴りが、轟いた。
「っ!?」
ムサシヒメが目を見開く。
海面が、揺れ始めた。
波が立つ。
小さな波が、やがて大きなうねりとなって武蔵に押し寄せてくる。
「micot、状況分析」
御坂が即座に命じる。
『魔島内部で大規模なエネルギー反応を検知』
『規模——計測不能。エラーです。測定限界を突破』
micotが、そう告げた。
「艦長……」
ムサシヒメの声が、震えていた。
「いよいよだね……」
魔島が——崩れ始めた。
山肌が崩落していく。
岩が海に落ち、巨大な水柱を上げる。
地面に亀裂が走り、瘴気が噴き出す。
そして——
魔島が、真っ二つに割れた。
轟音。
大地が引き裂かれる音。
海が逆巻き、空が震える。
割れた島の中心から——
それは、現れた。
八つの首。
八つの尾。
漆黒の鱗に覆われた、巨大な体躯。
そして——背中には、巨大な翼。
神話の伝承記録より、遥かに大きい。
倍以上はあるだろう。
武蔵と比べてすら、その体躯は圧倒的だった。
「ヤツマタノオロチ……」
ムサシヒメが、呟いた。
八つの首が、天を仰いだ。
八対の赤い瞳が、武蔵を捉える。
そして——
声が、響いた。
地の底から湧き上がるような、禍々しい声。
空間そのものを震わせる、咆哮。
『我は扶桑を滅するもの』
八つの口が、同時に言葉を紡ぐ。
『バナテールの血肉を喰らい尽くし、時空の枷を断ち、大神アマテラスすら呑み込む……』
翼が広がった。
瘴気が渦巻く。
空が、暗く染まっていく。
『扶桑は灰一片残らぬまで蹂躙し、完膚なきまで滅ぼしてくれようぞ!!』
咆哮が、轟いた。
衝撃波が海面を叩き、武蔵が大きく揺れる。
御坂は、その光景を見つめていた。
表情は——変わらない。
だが、その目には確かな覚悟が宿っていた。
「ムサシヒメ」
静かに呼びかける。
「……うん」
ムサシヒメが応える。
拳を握りしめて。
「僕、負けないよ」
「姉ちゃんとの約束、守るんだから」
御坂が、僅かに頷いた。
「ムサシヒメ、令七式徹甲弾を装填」
「micot、ヤツマタノオロチの首に照準合わせ」
『射撃データを主砲へ送信完了』
「いつでも撃てるよ、艦長」
御坂が静かに命じる。
「撃て」
決戦が——始まる。




