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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第4章 扶桑の厄災

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第57話 対潜空襲

九月九日——午前七時。


セレスティア沖海戦から、およそ一時間が経過していた。

大和は魔島へと針路を取り、全速前進を続けている。

水平線には朝日が完全に昇り、海面を黄金色に染めていた。


第一艦橋——


一同は、ようやく一息ついていた。

「兄様、皆様」

ヤマトヒメが微笑みながら、両手を差し出した。

「戦闘糧食をお持ちいたしました」

その手には、竹の皮に包まれた何かと、竹のコップに入った薄緑色の液体が乗せられた盆があった。

「戦闘糧食……?」

クレアが首を傾げる。

「戦場での食事でございます」

ヤマトヒメが一人一人に配っていく。

「扶桑茶もございます。どうぞ、お召し上がりくださいませ」

ボンノーは竹の皮を開いた。

中から現れたのは——

三つの白い塊と、二切れの黄色い漬物。

「これは……」

リリアが興味深そうに覗き込む。

「三角形の……何かですね」

「見たことないなぁ……」

ヴィヴィも首を傾げる。

「白くて丸いの……いや、三角?」

ボンノーが静かに説明する。

「おにぎりと言います。扶桑の米を丸めたもので、手で掴んで食べます」

「手で……?」

クレアが少し驚いた表情を見せる。

「フォークもナイフも使わないのですか?」

「はい。戦場では、道具を使う余裕がないこともありますから」

ボンノーが一つを手に取り、実演してみせる。

「このように、直接口へ運びます」

「扶桑では戦場で食べる定番の糧食でございます」

ヤマトヒメが付け加えた。

「携帯に優れ、すぐに食べられる。まさに戦場のための食事でございます」


一同が、おそるおそるおにぎりを手に取った。

クレアが一口、かじる。

「……」

目を瞬かせた。

「簡素ですが……戦場では優れた糧食ですわね」

塩味が効いた米が、空腹を満たしていく。

余計な装飾がない分、すぐに食べられる。

「確かに……これなら、剣を振るう合間にも食べられます」

姫騎士として、戦場の食事の重要性は理解している。

豪華な食事など、戦場では意味がない。

素早く、確実にエネルギーを補給できること——それが最も重要なのだ。

「塩味が効いてて、おいしい!」

ヴィヴィが目を輝かせた。

一口で半分を頬張り、もぐもぐと咀嚼する。

「おかわりある!?」

「ヴィヴィ、まだ一つ目でしょう……」

ナターシャが苦笑する。

「でも、本当に美味しいですね」

リリアも静かに味わっていた。

素朴な味。

だが、どこか温かみを感じる。

「ボンノー様の故郷の食べ物は……不思議と人の温かみを感じます」

「温かみ……ですか」

ボンノーが少し驚いた表情を見せる。

「おにぎりというかい?」

ナターシャが興味深そうに眺めていた。

「単純だけど、腹持ちはよさそうだね」

一口食べ、頷く。

「あたいは、このたくあんの味が非常に興味深かったのさ」

黄色い漬物を摘まみ、しげしげと見つめる。

「発酵させてるのかい? 独特の風味があるね」

「糠漬けといいます。扶桑では古くから伝わる保存食です」

ボンノーが説明する。

「戦場では、こうした保存の効く食べ物が重宝されます」


ボンノーは、塩むすびを口に運んだ。

そして——

一瞬、目を閉じた。

舌に広がる、塩の味。

米の甘み。

懐かしい——

(ぁぁ……扶桑の味だ……)

八十年前。

この大和で食べた、あの味。

同じだ。

何も変わっていない。

「兄様?」

ヤマトヒメが心配そうに覗き込む。

「……いえ」

ボンノーは目を開け、静かに微笑んだ。

「懐かしい味だと思いまして」

扶桑茶を一口、含む。

ほのかな渋みと、茶葉の香り。

(これも……変わっていない)

輪廻転生した異世界で、扶桑の味に出会う。

不思議な感覚だった。

各自が戦闘糧食を食べ終えた頃——

半時が経過していた。


◆ ◆ ◆


「兄様」

ヤマトヒメの声が、緊張を帯びた。

「報告がございます」

水晶球が淡く輝き、映像が浮かび上がる。

「魔島方向より、飛行物体多数を探知」

「数、およそ二千」

「距離五万。高度一千」

「二千……!?」

クレアが息を呑んだ。

「ワイバーンの群れでございます」

水晶球に映し出されたのは——

空を覆い尽くすほどの、翼竜の大群だった。

「二千匹のワイバーン……」

ナターシャが呻く。

「リビィエラ王国が総力を挙げても、討伐できるか怪しい数なのさ……」

「三式弾〈桜花〉、装填」

ボンノーが即座に指示を下す。

「有効射程に入り次第、砲撃を開始します」

軍帽の鍔を正し、水晶球を凝視する。

敵の進路。速度。高度。

全てを計算し——

「針路80。面舵一杯」

「面舵一杯、了解でございます」

ヤマトヒメが復唱する。

大和がゆっくりと旋回を始めた。

ボンノーが告げる。

「三基九門で、一斉射撃を行います」


ギィィィィン……

主砲塔が、左舷へと旋回する。

第一砲塔。第二砲塔。第三砲塔。

三基の四十六センチ三連装砲が、ワイバーンの群れへと向けられた。

「三式弾〈桜花〉、装填完了」

「射撃諸元、入力完了」

「自動追尾装置、連動確認」

ヤマトヒメの報告が続く。

「全主砲、発射準備よし」

「距離二万。有効射程内でございます」

ボンノーが手を振り下ろす。

「撃て」

ズガガガァーーーンッ!

凄まじい轟音と共に、大和が震えた。

九門の主砲から、白煙が噴き上がる。

「弾着まで、十五秒」

ヤマトヒメの声が響く。

水晶球の映像が、空を映し出した。

砲弾が放物線を描き——

そして、炸裂した。


空中で、三式弾〈桜花〉が花開いた。

刃閃片が太陽光を乱反射させながら、半径数百メートルに飛散する。

続いて導炎霧が引火——

三つの巨大な火球が、空中に出現した。

右翼。中央。左翼。

ワイバーンの群れを、的確に捉えた。

「命中! ワイバーン群、次々と炎上!」

ヤマトヒメの報告。

水晶球の映像の中で、ワイバーンたちが火に包まれていく。

翼が焼け、悲鳴を上げながら海へと墜落していく。

「初撃で……約半数を撃破でございます」

「第二射、用意」

ボンノーの号令。

「撃て」

ズガガガァーーーンッ!

再び、空が火の海と化した。

「第三射、用意」

「撃て」

ズガガガァーーーンッ!

三度目の轟音。

そして——

「ワイバーン群、ほぼ壊滅」

ヤマトヒメが報告する。

「残存……数十匹」

わずか三斉射で、二千匹のワイバーンが殲滅された。

「あれだけの群れが……」

クレアが呆然と呟いた。

「ワイバーン一匹を討伐するのに、王国騎士団二十名が必要です」

「それが……二千匹……」

声が震えている。

「大和が一隻で……瞬く間に……」

「生き残ったワイバーンが、急速降下してきます!」

ヤマトヒメの声が緊張を帯びた。

水晶球に映し出されたのは——

生き残った数十匹のワイバーンが高度を下げ、大和へ向かって突進してくる姿だった。

「対空砲座、近接対空戦闘を開始」

ボンノーが即座に指示を下す。

ダダダダダッ!ドドドドドッ!

対空砲火が火を噴いた。

曳光弾が空を切り裂き、突入してくるワイバーンを次々と撃墜していく。

一匹。二匹。三匹——

「すべてのワイバーンを撃墜確認」

「本艦への被害、なし」

ヤマトヒメが報告する。

「……」

クレア、リリア、ヴィヴィ、ナターシャ——

四人は、ただ茫然と立ち尽くしていた。

◆ ◆ ◆

「すごい……」

ヴィヴィが、ようやく声を絞り出した。

「二千匹のワイバーンを……あっという間に……」

「古代魔法でもこうはいかないのさ……」

ナターシャが深緑の瞳を細める。

リリアは胸の前で手を組み、静かに祈っていた。

「レファリア様……どうか、散っていった命に安らぎを……」

クレアは、主砲塔を見つめていた。

(これが……扶桑の戦い)

(圧倒的な力)

(ボンノーは扶桑の戦士、指揮する姿はかっこいいですわ)

「ヤマトヒメ」

ボンノーが静かに問う。

「敵の本命は、これではないはずです」

「はい」

ヤマトヒメの表情が引き締まる。

「おそらく、ワイバーンは陽動でございます」

その言葉が終わるか終わらないかのうちに——

「兄様! 緊急報告でございます!」

ヤマトヒメの声が鋭くなった。

「水中に敵影を探知!」

水晶球の映像が切り替わる。

海中に、三つの巨大な影が映し出されていた。

「黒蛇、三体」

「大きさは——ヨコマール級」

「距離一万。深度十」

「ヨコマール級……!」

クレアの顔色が変わった。

あのヨコマールが変化した白蛇と同等の大きさ。

王都を蹂躙した、あの白蛇と同じ。

それが、三体。

「ワイバーンは陽動で、こちらが主攻か……」

ボンノーが呟いた。

◆ ◆ ◆

「副砲、徹甲推進弾〈水連〉発射準備」

ボンノーが即座に指示を下す。

「主砲には徹甲魔弾を装填。水中推進弾を可能な限り撃ち込みます」

「了解でございます」

ヤマトヒメが復唱する。

「副砲、徹甲推進弾〈水連〉装填完了」

「主砲、徹甲魔弾装填完了」

ボンノーが分析を続ける。

「ヨコマールと同類の蛇であるならば、肺呼吸のはずです」

水晶球を見つめながら。

「水中推進弾で肺へ衝撃を与えることができれば、呼吸するために浮上せざるを得なくなる」

「その瞬間を狙って、主砲を撃ちます」

「副砲、発射開始」

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

前後の十五・五センチ副砲から、徹甲推進弾〈水連〉が次々と発射される。

ボンノーは、その発射速度に少し驚いた。

(速い……前世の副砲より、遥かに速い……)

魔法と科学の融合が、ここでも成されているのだろう。

水晶球の映像が、海中を映し出す。

〈水連〉が推進力を維持したまま海中を進み、黒蛇へと向かっていく。

ドォン!ドォン!ドォン!

次々と、黒蛇の巨体に命中。

「命中! 三体とも被弾確認!」

ヤマトヒメが報告する。

だが——

「耐えております! まだ浮上の気配なし!」

「続けて撃て」

ドンッ!ドンッ!ドンッ!

〈水連〉が、執拗に黒蛇を攻撃し続ける。

数十発が水中に打ち込まれる。

そして——

「黒蛇第一、第二、第三、浮上の兆候!」


海面が、爆ぜた。

二体の黒蛇が、水中から飛び出してくる。

少し変則的な動きで残る一体も遅れて飛び出してきた。

漆黒の鱗。血のように赤い瞳。

大口を開け、大和に向かって咆哮する。

「主砲——」

ボンノーが叫ぶ。

「撃てっ!」

ズガガガァーーーンッ!

至近距離からの、主砲斉射。

徹甲魔弾が、浮上した二体の黒蛇を直撃した。

轟音。

爆炎。

そして——

「二体、爆散を確認!」

ヤマトヒメの報告。

黒蛇の巨体が、粉々に吹き飛んでいく。

血と肉片が、海面に降り注いだ。

「やった!」

ヴィヴィが歓声を上げる。

だが——

「兄様! 第三が——」

ヤマトヒメの声が、悲鳴に近かった。

「直撃を逃れました! 再び潜航——」

水晶球の映像が、海中を映す。

傷を負った黒蛇が、大和の艦底へ向かって泳いでいく。

「艦底に——取り付きました!」

次の瞬間——

ドォォォン!

艦底から、凄まじい衝撃が走った。

「くっ……!」

ヴィヴィが床に手をつく。

「何が……!」

「黒蛇が、艦底に攻撃を加えております!」

ヤマトヒメが報告する。

「突進による攻撃です——艦底装甲に被害が出始めております!」


ドォン!ドォン!

艦底からの衝撃が、断続的に続く。

「主砲では、艦底の敵を狙えません……!」

ヤマトヒメが歯噛みする。

「このままでは——」

「わたくしが参ります」

クレアが一歩、前に出た。

腰には、天羽々斬が携えられている。

「海に潜り、斬ります」

「クレアさん……」

リリアが心配そうな表情を見せる。

「わたしが艦底全域に防御障壁を展開します」

リリアが力強く宣言した。

「クレアさんが討伐するまで、時を稼ぎます」

そう述べると、リリアは駆け出した。

階段を上り、露天艦橋へと向かう。

「クレアさん」

ボンノーが懸念を述べた。

「鎧のままでは、水中での活動は……」

フルプレートアーマーで海に潜れば、沈むだけだ。

水中で身動きが取れなくなる。

「兄様」

ヤマトヒメが声を上げた。

「戦闘用の水着でしたら、ございます」

「水着……?」

ボンノーが首を傾げる。

「はい。扶桑での流行を考慮して、ご用意いたしました」

ヤマトヒメが差し出したのは——

『紅のビキニアーマー』だった。


「……え?」

ボンノーの声が、僅かに上ずった。

目の前にあるのは——

紅い布地。金の装飾。

申し訳程度に肌を覆う、極めて露出の高い鎧。

「これを……着るのですか?」

クレアの声も震えていた。

「はい」

ヤマトヒメが真剣な表情で頷く。

「この鎧には扶桑の加護が付与されております」

「水中でも呼吸ができ、動きを妨げません」

「そして、魔物の攻撃に対する耐性も付与されております」

「し、しかし……」

クレアが紅のビキニアーマーを見つめる。

(これは……水着というより……)

(ほとんど、下着ではないか……!)

顔が、真っ赤になっていく。

だが——

ドォン!

艦底からの衝撃が、再び走った。

「装甲への被害、拡大中でございます!」

ヤマトヒメの悲痛な報告。

切羽詰まっている。

迷っている暇はない。

「……分かりました」

クレアが、覚悟を決めた表情で告げた。

「着替えます」

別室へと向かう。


◆ ◆ ◆


露天艦橋——

リリアは、大和の最上部に立っていた。

海風が、淡い金髪を揺らす。

両手を広げ、目を閉じる。

そして——

「生命の女神レファリアよ、どうか大和をお守りください」

祈りの言葉を紡ぐ。

「白ノ一式・聖・ホーリーウォール!」

淡い金色の光が、リリアの身体から広がっていく。

光は大和の船体を包み込み——

艦底全域に、防御障壁が展開された。

「これで……少しは時が稼げるはずです……」

リリアが呟く。

額には、汗が滲んでいた。

艦底全域への障壁展開。

それは、聖女としても極めて困難な術だった。

だが——

(ボンノー様の……皆さんのために……)

リリアは、祈りを続けた。


◆ ◆ ◆


第一艦橋——

扉が開いた。

「……お待たせいたしました」

クレアの声が、小さく響いた。

一同の視線が、そこへ集まった。

「……」

紅のビキニアーマー。

亜麻色の髪。引き締まった肢体。

普段は鎧に隠れている、クレアの姿が——露わになっていた。

「あら、クレアちゃん」

ナターシャが目を細めた。

「官能的でいいじゃない」

「な、ナターシャ!」

クレアが顔を真っ赤にする。

「姫様、ちょっとエッチかも……」

ヴィヴィが頬を赤らめながら呟いた。

「う、うるさいです!」

クレアが叫ぶ。

「仕方なく着ているのです! この状況で他に選択肢が——」

その時——

クレアの視線が、ボンノーを捉えた。

ボンノーは——

軍帽を深く被り直し、視線を逸らしていた。

(目のやり場に困る……)

心の中で呟きながら、窓の外を見つめている。

「あまり……見ないでください」

クレアが小さく呟いた。

頬が紅潮したまま、第一艦橋を出る。

そして——

甲板に出ると、天羽々斬を握りしめた。

海面を見下ろす。

深い青色の海。

その下には、艦底を攻撃し続ける黒蛇がいる。

「いきます」

静かな宣言。

そして——

クレアは、海へと飛び込んだ。


◆ ◆ ◆


水中——

クレアは目を開けた。

(本当に……呼吸ができる……)

扶桑の加護が、確かに機能していた。

水の抵抗も、ほとんど感じない。

まるで空気の中を泳いでいるかのようだ。

(あれが……黒蛇……)

大和の艦底。

巨大な黒い影が、装甲に体当たりを繰り返していた。

あの白蛇と同等の大きさ。

あの時——王都で戦ったヨコマール戦の記憶が蘇る。

(あの時は……討伐に多大な犠牲を払った)

(だが——)

クレアは、天羽々斬を構えた。

(今は、この剣がある)

神剣。

四千年前、スサノオがヤマタノオロチを斬った刀。

静かに、黒蛇に接近する。

攻撃に集中している黒蛇は、クレアに気づいていない。

(まずは——尻尾を)

天羽々斬を構え——

「はぁっ!」

一閃。

銀光が、水中を切り裂いた。

ザンッ!

◆ ◆ ◆

黒蛇の尻尾が、切断された。

断面から、黒い血が噴き出す。

「ギィィィィィヤアァァァァァァッ!!」

絶叫。

黒蛇が、凄まじい勢いで暴れ始めた。

巨体が海中でのたうち回り、水流が渦巻く。

そして——

赤い瞳が、クレアを捉えた。

(来る——!)

黒蛇が、突進してきた。

大口を開け、鋭い牙を剥き出しにして。

クレアは——

上段に構えた。

迷いはない。

恐怖もない。

ただ、目の前の敵を斬る。

それだけを考えた。

「はぁぁぁぁっ!」

天羽々斬を、振り下ろす。

銀光が、水中を貫いた。

そして——


黒蛇の巨体が、真っ二つに割れた。

頭から尾まで。

一刀のもとに。

切断面から、黒い血が噴き出す。

二つに分かれた巨体が、ゆっくりと海底へ沈んでいく。

「……」

クレアは、天羽々斬を見つめた。

(あれだけ苦労したヨコマール級を……)

(一刀のもとに斬り伏せた……)

分かっていた。

天羽々斬の力は、試し斬りで理解していた。

だが——

実戦で、その力を実感すると。

(この剣は……本当に……)

神剣。

その名に、偽りはなかった。

クレアは、水面へと浮上した。

海上に顔を出すと——

「クレア様」

ヤマトヒメの声が聞こえた。

「お疲れ様でございました。今よりお迎えに参ります」

光が、クレアを包み込んだ。

次の瞬間——

クレアは、第一艦橋に立っていた。


◆ ◆ ◆


「クレアさん」

ボンノーが、真っ直ぐにクレアを見つめた。

「見事でした。ありがとうございます」

深く、一礼する。

「あ……」

クレアの顔が、ぱっと明るくなった。

(ボンノーが……褒めてくれた……)

嬉しさが、胸に込み上げてくる。

「い、いえ……当然のことを……」

照れ隠しに、視線を逸らす。

その時——

「クレアさん、そのハレンチな格好は……」

リリアの声が響いた。

露天艦橋から戻ってきたリリアが、目を丸くしてクレアを見つめていた。

「は、ハレンチ……!?」

クレアが自分の姿を見下ろす。

紅のビキニアーマー。

露出の多い、際どい姿。

戦闘の興奮で忘れていたが——

「ッ!!」

顔が、一気に真っ赤になった。

「き、着替えてきます!!」

クレアは、走って艦橋を出ていった。

◆ ◆ ◆

「リリアさんも、お疲れ様でした」

ボンノーが、リリアにも礼を述べた。

「艦底への防壁展開、助かりました」

「いえ……」

リリアが微笑む。

「皆さんの役に立てて、嬉しいです」

だが——その視線は、先ほどのクレアの姿を思い出しているようで。

そして、なぜか——

ボンノーの反応を、じっと観察していた。

(ボンノー様は……あの姿を見て……)

(どう思ったのかしら……)

聖女としての理性と、女性としての本能が、複雑に絡み合っていた。

一方——

ヤマトヒメは、少し反省しているようだった。

(扶桑での流行を考慮したつもりでしたが……)

(少し……露出が多すぎたかもしれません……)

(次は、もう少し布の多いものを用意いたしましょう……)

「兄様」

ヤマトヒメが報告する。

「黒蛇三体、全て討伐完了でございます」

「本艦への被害は、艦底装甲に軽微な損傷のみ」

「航行に支障はございません」

ボンノーは、水晶球を見つめた。

海上には、黒蛇の残骸が浮かんでいる。

ワイバーンの群れも、完全に殲滅された。

「次の攻撃は、いつ来るか分かりません」

ボンノーが告げる。

「引き続き、警戒を続けます」

そして——

「魔島まで、あと数時間」

水平線の彼方を見つめる。

そこには——

薄い霧に覆われた、不気味な島影が見え始めていた。

「決戦の地が、近づいています」

大和は、全速で魔島へと向かっていく。

その艦首には、菊花紋章が輝いている。

マストには、リヴィエラ王国旗と扶桑海軍旗が翻っている。

二つの国の誇りを胸に——

大和は、進む。

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