表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第4章 扶桑の厄災

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/69

第51話 扶桑皇国海軍少尉

地底湖の中央――

静かに、巨大な影が浮かび上がってきた。

黒灰色の巨体。

全長二百六十三メートル。

四十六センチ三連装主砲が、三基。

そして――艦首に輝く、菊花紋章。

「……っ!」

ヴィヴィが息を呑んだ。

クレアは言葉を失い、ただ見上げていた。

リリアは祝杖を握りしめながら、大和を見つめている。

ナターシャは、僅かに身を引いている。

ボンノー一行は、ただ呆然と立ち尽くしていた。


◆ ◆ ◆


最初に声を発したのは、ヴィヴィだった。

「お、おっきい……!」

「こんなの……見たことない!」

盾を持つ手が、小刻みに震えている。

「船……だよね?でも、でも……!」

「こんな大きな船、あるの!?」

ヴィヴィの声が、地底湖に響く。

その大きさは、想像を絶していた。

城が、水の上に浮かんでいるかのようだ。


「これは……」

ナターシャの声が、珍しく震えている。

魔法使いとしての冷静さも、盗賊としての洞察力も、今は役に立たない。

ただ、圧倒されていた。

「魔力が……流れてる」

ナターシャは目を細める。

「船全体に、巨大な魔力の流れがあるのさ」

「まるで……生きているみたい」

「いや、生きてる。この船には、魂が宿ってるのさ」

そして、畏怖の念を込めて言った。

「これが……扶桑の――」


クレアは大和を見つめていた。

黒灰色の巨体。

三基の主砲。

分厚い装甲が、鈍く輝く。

艦首の菊花紋章が、誇り高く輝いている。

(これが……ボンノーの艦……)

以前、ボンノーから聞いたことがある。

『拙僧は艦という戦のための大きな船に乗っておった』と。

(これほど……大きいとは……)

水上の鋼鉄城。

そう呼ぶに相応しい威容だった。

クレアの喉が、渇いた。

「美しい……」

思わず、言葉が漏れた。

クレアは理解していた。

これは、芸術だ。

人の技術と意志が結晶した、鋼鉄の芸術。

「わたくしは……これほど美しい兵器を、見たことがございません……」

それほどまでに、心を揺さぶられていた。

(ボンノーは……この艦で戦っていたのですね)

胸が、高鳴る。

尊敬と、畏敬の念が混ざり合う。

三基の主砲。

二基の副砲と無数の対空砲。

全てが、一つの意志のもとに統一されている。

(一切の迷いなく、ただ戦うために在る姿……)

そして――

(この艦が、ボンノーを……あの優しい人を、育てたのですわ)

クレアは右手を胸に当て、深く頭を下げた。

騎士として、この艦に敬意を表するために。


リリアは、静かに手を組み合わせていた。

彼女には、感じ取れた。

(これは……神域……)

(この船には、神が宿っている)

「神聖な……気配……」

リリアの声は、祈りそのものだった。

「ボンノー様の故郷……扶桑の……」

そして、静かに呟く。

「女神レファリア様が、ここへ導いてくださった理由が……」

「分かりました」

大和は、静かに湖面に浮かんでいる。

圧倒的な存在感で。

ボンノー一行を、ただ見下ろしていた。


◆ ◆ ◆


しばらくの静寂が場を支配する。

そして――

ヤマトヒメの瞳が、大きく見開かれた。

「兄様……!」

トトトッ――

紅白の巫女装束を揺らし、少女が駆け寄ってくる。

十歳ほどの小さな体。だが、その瞳には八十年という時の重みが宿っていた。

ボンノーは――無意識に、膝を落とした。

少女の目線に、自分を合わせる。

「ヤマトヒメ……」

「兄様、八十年……八十年でございます……!」

少女の声が震える。

次の瞬間――

ヤマトヒメの小さな体が、ボンノーの胸に飛び込んできた。

ギュッ――

細い腕が、必死に抱きしめる。

「待っておりました……ずっと、ずっと……」

ボンノーも、静かに少女を抱きしめた。

その瞬間――

世界が、光に包まれた。


◆ ◆ ◆


温かい。

眩しい。

懐かしい。

魂の奥底から、何かが込み上げてくる。

(これは……)

煌めく光が、ボンノーの全身を包み込む。

桜の花びらが、光の粒子となって舞い上がる。

地底湖の水面が、金色に輝く。

そして――

ボンノーの中で、何かが砕けた。

百八年という時の鎖。

老いた魂の殻。

それらが、音を立てて崩れ落ちていく。

(拙僧の……魂が……)

代わりに――

熱い血潮。

若き日の情熱。

大和で戦った、あの日々。

蘇る。

(自分は……自分は……!)

魂が、若返っていく。

扶桑皇国海軍少尉として、大和の中央射撃指揮所で戦っていた、あの頃に。


◆ ◆ ◆


光が、静かに消えていく。

ボンノーは、ゆっくりと顔を上げた。

仲間たちが、息を呑んで見つめている。

「拙僧は……」

言葉が、詰まる。

目の光が、違う。

佇まいが、違う。

空気が、違う。

「ボンノー様……?」

リリアが、戸惑いながら呼びかける。

ボンノーは、一度目を閉じた。

深呼吸。

そして――目を開く。

「拙僧は……」

言葉が、止まる。

仲間たちが、固唾を呑んで見守る。

ボンノーは、首を横に振った。

「いや――」

胸を張る。

背筋を伸ばす。

まっすぐに、前を見据える。

そして、力強く宣言した。

「自分は、扶桑皇国海軍少尉、新村煩乃であります!」

――扶桑皇国海軍式の敬礼。

右手が、額に添えられる。

ヤマトヒメが、にっこりと微笑んだ。

「はい。お帰りなさいませ――兄様」

静寂。

「すごい!ボンノーさん、目がキラキラしてる!」

ヴィヴィが、屈託なく声を上げた。

クレアが、呆然と呟いた。

「カッコいい――まるで、別人ですわ」

ナターシャが、不思議そうにボンノーを見つめる。

「これが本当のお坊様なのかい?魂の色が変わったのさ」

桜の花びらが、風に舞う。

地底湖に、静かな波紋が広がっていった――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ