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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第3章 王都決戦

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第48話 拙僧、王の呪詛を解き、ダブル添い寝される

夕刻――

茜色の空の下、瓦礫だらけの城下町に勝利の歓声が響いていた。

「化物が死んだぞ!」

「姫様が戻ってきた!」

民衆の歓喜の渦とは対照的に、司令本部前では戦後処理の指示と各方面からの報告が飛び交っていた。

「ヴィヴィちゃん、立てる?」

リリアが心配そうにヴィヴィを見つめる。

「うー……あたしの盾が……重い……」

ヴィヴィが大盾にもたれかかって、ぐったりしている。その横で、ナターシャも肩で息をしていた。

「黒ノ一式魔法の連発は……さすがにキツいのさ……」

褐色の肌に汗が光り、プラチナ色の髪が額に張り付いている。

「ヴィヴィ、ナターシャ」

クレアが歩み寄った。彼女の亜麻色の髪が、夕陽を受けて黄金に輝く。

「今、馬車を用意しています。無理をしないでください」

クレアの手が、そっとナターシャの肩に置かれる。その優しさに、ナターシャの目が丸くなった。

「ありがたいのさ、クレアちゃん……」

続いてリリアが駆け寄ってきた。

「ナターシャさん、これを!」

自分の指から外したリフレッシュリングを、ナターシャの指にそっとはめる。

「リリアちゃんもありがとうなのさ」

「今はナターシャさんの方が必要ですから!」

リリアはやわらかな声で告げる。その眼差しは誰よりも温かい。

ガラガラガラ――

王国騎士団の馬車が到着した。

「アベルト団長! ヴィヴィ様とナターシャ様をお運びする準備ができました!」

「うむ」

アベルトが振り返る。

「二人とも、先に王城で休んでください。ゲストルームを用意させています」

「え〜! あたしまだ大丈夫だよ〜!」

ヴィヴィが立ち上がろうとして――

ドテッ。

派手に転んだ。

「……大丈夫じゃないのさ」

ナターシャが苦笑しながら、ヴィヴィを抱え上げる。

「ほら、素直に休もう、たまには姐さんの言うことを聞くものさ」

「むぅ〜……わかったよぉ」

二人を乗せた馬車が走り去っていく。それを見送ると、リリアがくるりと振り返った。

「では、私は負傷兵の治療に向かいますね」

「リリア、一時間したら私たちも王城へ向かいますのでそのときに一度戻ってきてください」

クレアがリリアに声をかけながら、アベルトから被害状況の報告を受け取る。

ボンノーは錫杖を握りしめた。

(この二人、本当に疲れを知らぬのう……)


◆ ◆ ◆


一時間後――

「姫殿下、お迎えに上がりました」

先ほどの馬車が戻ってきた。応急処置も一段落し、いよいよ本命――国王の解呪だ。

「ライハルト、エルンスト卿。現場の指揮をしばらくお願いします」

「はっ!」

「承りました!」

ライハルト、エルンストが敬礼する。

馬車の中、クレアは膝の上で両手をぎゅっと握りしめていた。その手が、かすかに震えている。

「……お父様」

ぽつりと呟く。

「五か月……長かったですわ」

リリアがそっと手を重ねた。温かい。

「大丈夫です。ボンノーさまがきっと」

「拙僧の零式であれば解呪できるはずじゃ! 必ず、お救いいたします」

ボンノーは掌を胸に当て、静かにうなずいた。頼もしさに、クレアの口元がやわらぐ。

「……ありがとう、ボンノー」

小さな、でも心からの感謝の言葉だった。


◆ ◆ ◆


王城――

門をくぐると、三人が出迎えていた。

カティアは拳を胸に当てて敬礼し、ゼバスは深く一礼、クルーゼは片手を胸に当てて浅く会釈した。

「姫殿下、ご無事で何よりです!」

王国騎士団の中隊長カティア。凛々しい顔立ちに、安堵の色が浮かんでいる。

「姫殿下、御還城を心よりお慶び申し上げます」

続いて、白髪まじりの黒髪を丁寧に整えた老紳士――王城侍従長ゼバスが深々と頭を下げた。

「お待ちしておりました、姫殿下」

そして、片眼鏡をキラリと光らせた金髪の美丈夫――内務卿クルーゼが前に出る。

「ヨコマール枢機卿に与した文官たちは、沙汰があるまで謹慎といたしました」

「承知しました。追って処分を申し渡します」

クレアの声が、わずかに震えた。

「陛下は……」

「こちらへ」

ゼバスが先導する。

(これが王城……扶桑の皇居とはまた違う荘厳さじゃな)

ボンノーは天井の黄金装飾と、壁に並ぶ騎士の彫像に目を奪われた。

大理石の床に響く足音だけが、静寂を破る。長い廊下を進む間、誰も口を開かなかった。

重い扉の前で、ゼバスが立ち止まる。

「これより陛下の御前に参ります。どうかお心をお整えくださいませ」

扉が、ゆっくりと開かれた。

薄暗い部屋。天蓋付きの豪華なベッド。

そこに横たわる人物を見て、クレアが息を呑んだ。

「お父様……!」

駆け寄る。ベッドの脇に膝をつく。

痩せこけた頬。落ち窪んだ目。まるで生ける屍のような父の姿に、クレアの瞳から涙がこぼれた。

「ごめんなさい……ごめんなさい、お父様……」

震える声で謝罪を繰り返す。

「わたくしが……わたくしがもっと強ければ……あの時、お守りできたのに……」

「クレアさん」

リリアがそっと肩を抱く。

「過去は変えられません。……けれど、いまはボンノーさまがいらっしゃいます」

ボンノーが小さくうなずく。

「クレア殿、よろしいか?」

クレアは目元を拭い、首を縦に振った。

「……ボンノー、お願いします」

ボンノーが国王に近づく。首筋を観察すると、やはりそこには黒い紋様が刻まれていた。アベルトの時より濃く、深く、まるで根を張るように。

「かなり根深い呪詛じゃな。この五か月、よう耐えられた」

錫杖を構える。

「皆、下がってくだされ」

全員が壁際まで下がった。

ボンノーの全身から、白い光が溢れ出す。

「ミホトケサマの御光をもって、呪いを祓い清める――」

詠唱が始まった。部屋の空気が震える。

「穢れよ、無へ還れ!」

『白ノ零式・セイクリッドディスペル!』

爆発的な白光が部屋を包み込んだ!

国王の首筋から、黒い針が浮かび上がる。それは蛇のように身をくねらせ、激しく抵抗した。黒い瘴気が噴き出し、白光と激突する。

「ふむ、流石に根が深い」

ボンノーが歯を食いしばる。額に汗が浮かぶ。

バチバチバチ!

光と闇が激突する音が、部屋中に響き渡る。

「・・・」

ボンノーは精神を集中する。白光が一段と強まる。

パリィィィン!!

ガラスが砕け散るような音と共に、黒い針が粉々に砕けた。瘴気が霧散し、部屋の空気が一変する。

目に見えるような変化は見られないが、国王の体から瘴気がなくなったのを感じることができる。

「お父様!」

クレアが声を上げた、その瞬間――

ドサッ。

ボンノーが膝から崩れ落ちた。

「ボンノーさま!」

「ボンノー!」

リリアとクレアが同時に駆け寄る。

「だ、大丈夫じゃ……ただ、魔力が……」

ガクッ。

零式二連発。しかも今回は強力な呪詛との戦い。魔力が完全に枯渇したのだ。

「リリア殿……あとは……頼みます」

そして、ボンノーの意識は闇に落ちた。


◆ ◆ ◆


ゲストルーム――

「ふぅ……」

リリアが額の汗を拭う。ボンノーをベッドに寝かせ、脈を取り、呼吸を確認。問題ない。純粋な魔力切れだ。

クレアは胸に手を当て、安堵の息をこぼした。

「……ありがとう、ボンノー。お父様を救ってくださって」

窓の外はすでに夜。静かな部屋で、ろうそくの灯りが揺れている。

「ねえ、リリア」

「はい?」

「覚えてる? あの時の約束」

リリアの頬が、ぽっと赤く染まった。

「……はい」

あれは、ヨコマールとの決戦前夜。二人は小声で約束を交わしたのだ。

『ヨコマールを討てた暁には、二人で――』

「お父様も救われました。ヨコマールも倒しました」

クレアが窓の外を見つめる。星が瞬いている。

「でも、一番の奇跡は……」

振り返る。ボンノーの寝顔を見つめる。

「この人に出会えたことですわ」

「……私もです」

リリアが頷く。

「ボンちゃんがいなければ、私は……」

二人は顔を見合わせた。同じ想いが、そこにあった。

月が中天に昇る頃――

「リリア」

クレアが立ち上がる。鎧の留め具に手をかける。

「あの約束を、果たしましょう」

カシャン、カシャン。

金属音が静かに響く。重い鎧が、一つずつ外されていく。

リリアも立ち上がった。ひもを緩め、ローブを脱ぎ始める。

薄い寝間着姿になった二人。

クレアの頬が赤い。リリアも同じだ。

「これで……いいのでしょうか」

「言葉だけじゃ足りない。私たちができる最大の感謝を――」

そう言いながら、クレアはベッドの右側に入った。リリアは左側から。

二人は、そっとボンノーの隣に横たわった。

「あったかい……」

リリアが呟く。

「ええ……安心しますわね」

クレアも目を閉じる。

「今日みたいなことがあったからでしょうか、ボンノーと寝ると心が落ち着きますわ」

「そうですね、ボンちゃんと寝ると心が満たされます」

いつの間にか、二人ともボンノーの腕を抱きしめていた。

月光が、三人を優しく照らしていた。

安らかな寝息が、静かな部屋に響く。


◆ ◆ ◆


深夜――

ボンノーの意識が、夢の世界へと沈んでいく。

シャラン……シャラン……

鈴の音?

懐かしい。これは、扶桑の……

白い霧が晴れる。

そこに立っていたのは、十歳ほどの少女だった。

紅白の巫女装束。艶やかな黒髪。凛とした立ち姿。

「兄様」

少女が、深々と頭を下げた。

「お久しゅうございます」

その声に、ボンノーの心が震えた。なぜだろう。初めて会うはずなのに、懐かしい。

「八十年ぶりです……長い時でした」

少女が顔を上げる。その瞳に、深い決意が宿っていた。

「もはや、私の存在を隠す必要はなくなりました。動かなければいけない時が来たのです」

表情が険しくなる。

「兄様、時は迫っております」

少女が一歩前に出る。

「セレスティアの西の岬へお越しください。そこで、すべてをお話しします」

「待て! そなたは一体――」

「私は――」

少女は微笑んだ。

「兄様が毎朝、私の社を清めてくださったこと、忘れてはおりません。大和の艦内神社で、毎日毎日、私のために――」

「!!」

ボンノーの目が見開かれる。まさか――

シャラン! シャラン!

鈴の音が激しくなる。

「もうすぐ、お目覚めの時間です」

少女の姿が薄れていく。

「西の岬で……お待ちしております……兄様……」

白い光に包まれて、夢が終わった。


◆ ◆ ◆


朝――

ん……?

何かが鼻をくすぐる。甘い匂い。花の香りような――

右手に、ふわふわしたものが。左手にも、もちもちしたものが。

(なんじゃ、この感触は…)

薄目を開ける。

右――クレアの寝顔。亜麻色の髪。長い睫毛。ぷっくりとした唇。

左――リリアの寝顔。淡い金髪が朝日でキラキラしている。寝息が、ボンノーの首筋にかかる。

鎧を脱いだクレアが、薄い寝間着で! しかも二人とも、ボンノーの腕に抱きついて!

その柔らかい感触が、直接に伝わってきて!

煩悩という名の津波が、百八年かけて築いた理性の堤を襲う――!

「ぼ、煩悩が……!」

必死に念仏を唱える。

「煩悩即菩提! 煩悩即菩提! なむさ――」

プシュッ!

鼻血が出た。だが――

「ぬぅ……! この程度で……拙僧は倒れぬ!」

歯を食いしばる。額に汗が浮かぶ。

リリアが寝返りを打つ。より密着度が上がる。

「ぐっ……!」

鼻血の量が増える。しかし――

「耐える……耐えるのじゃ……! 拙僧も……成長しておる……!」

震える手で、枕元の手ぬぐいを取り、鼻に当てる。

その時、クレアも無意識に身を寄せてきた。

ダブルアタック!

「ぬわっ……!」

鼻腔に熱いものが込み上げ、手ぬぐいが一瞬で朱に染まる。それでも、ボンノーは意識を保っていた。

「ふぅ……ふぅ……耐えた……耐えたぞ……!」

(前なら一瞬で倒れておったのに...修行の成果か、それとも二人への想いが拙僧を支えておるのか)


◆ ◆ ◆


バタバタバタ!

「お坊様!?」

ナターシャが扉を開けて入ってきた。

「悲鳴が聞こえたのさ! 大丈夫――」

そして、光景を見て固まった。

鼻に真っ赤な手ぬぐいを当てながら、正座しているボンノー。その両脇で、まだ寝ているクレアとリリア。

「あらあら〜」

ナターシャがニヤニヤ笑う。

「でも、お坊様、倒れてないのさ? 成長したじゃない」

「う、うむ……なんとか……」

ボンノーが震え声で答える。

「ボンノーさん! 大丈夫!?」

ヴィヴィも飛び込んでくる。

「って、ええええ!? なんで二人が!?」

「しーっ!」

ナターシャが口に指を当てる。

「まだ寝てるのさ」

その声で、クレアが寝ぼけ眼で起き上がった。

「んん……? なに、騒がしい……」

寝間着がはだけて、白い肩が――

「!!」

ボンノーの鼻血が再噴射しそうになる。

「ぐっ……! 煩悩即菩提……!」

必死に耐える。

「あら? ボンノー、起きてたのね」

クレアがあくびをしながら、何事もなかったかのように言う。

「ボンちゃん、おはよう」

リリアも起きてきた。

「って、鼻血!? 大丈夫ですか!?」

「だ、大丈夫じゃ……少し出ただけじゃ……」

震えながらも、意識を保っているボンノー。

「お坊様、よく耐えたのさ」

ナターシャが感心したように言う。

「前なら確実に気絶してたのに」

「そうだね〜! ボンノーさん、ちょっとは煩悩に強くなったんだ〜」

ヴィヴィも笑う。

「ふふ、まだまだですわね」

クレアが腕を組む。

「王の夫となるなら、このくらいで鼻血を出していては――」

「え!?」

全員の視線がクレアに集まる。

「あ、いえ、その……!」

クレアの顔が真っ赤になる。

「な、なんでもありませんわ! 忘れてください!」

リリアが微笑みながら述べる。

「ボンちゃん、これも女人修行という名の修行ですよ」

賑やかな朝の一幕。

ボンノーは少しずつ、確実に成長していた。

煩悩との戦いは、まだまだ続きそうだが――


そして――

夢に現れた巫女服の少女。

その正体と、西の岬で待つものについては、まだ誰も知る由もなかった――

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