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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第3章 王都決戦

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第47話 拙僧、大蛇の猛威を撃ち砕く

黒紫の瘴気が、ブレスの噴流となって解き放たれんとした刹那――

「もう、誰一人死なせはしない!」

ヴィヴィの叫びが、戦場に響き渡った。

ヴィヴィは大盾を胸で受けて押し上げる。その目の奥に火が宿った。

(父ちゃん、兄ちゃん……あの時、あたしは何もできなかった)

十年前、モンスターに襲われた故郷の村。

父と兄が自分を守るために戦い、そして――

幼いヴィヴィは、ただ震えて見ているしかなかった。

(でも、今は違う!)

「あたしのすべてをかけて守る!」

大盾を天に掲げた瞬間、彼女の全身から蒼い光が溢れ出した。

それは聖盾士せいじゅんしとしての覚醒――守護者の証。

「大地の神イグナよ、我が盾に神威を宿せ!」

蒼いオーラが爆発的に膨れ上がり、光の粒子が舞い散る。

小柄なドワーフの少女が、まるで巨大な守護神のように見えた。

『聖盾士権能・ディバインシールド!』

ブワァァァン!

巨大な蒼い障壁が、ヴィヴィを中心に半球状に展開された。

それは単なる防壁ではない――イグナ神の加護を受けた、神聖なる守護の象徴。

高さ十メートル、幅二十メートルにも及ぶ光の障壁が、ボンノーたちを完全に覆った。

シュゴォォォォォォ!

黒紫色のブレスが、津波のように押し寄せる。

瘴気が草木を腐らせ、大気を毒で満たしながら迫る。

触れれば即座に肉が腐り落ち、骨まで溶かす死の霧――

ドガァァァァァン!

激突。

死のブレスと聖なる盾が、真正面からぶつかり合った。

ギシギシギシ……

不吉な音が響く。

パキパキパキッ

蒼い障壁の表面に、蜘蛛の巣状のヒビが走り始めた。

「ぐぅぅぅぅっ……!」

ヴィヴィの顔が苦痛に歪む。

小さな体が震え、膝から血が滲んでいた。

大盾を支える腕の血管が浮き上がり、今にも千切れそうなほど力を込めている。

額から汗が滝のように流れ、呼吸が荒くなる。

しかし――

「みんなを守り抜くんだぁぁぁぁ!」

魂を燃やすような絶叫。

(ボンノーさんも、クレアさんも、リリアさんも、ナターシャ姐さんも――みんな、あたしの大切な家族なんだ!)

そして――

「ああああああ!!!!!」

限界を超えた気力が、奇跡を起こした。

蒼いオーラがさらに増幅し、ヒビ割れた盾が瞬時に修復される。

まるで時間が巻き戻ったかのように、亀裂が消えていく。

「な、なんという精神力じゃ……!」

ボンノーが息を呑んだ。

「あの小さな体のどこに、これほどの意志が……」


◆ ◆ ◆


「ありがとう、リリア」

リリアの抱擁を離れ、クレアがゆっくりと立ち上がった。

体の震えは残っている。それは怒りの震えではなく、誓いを刻む鼓動だった。

「もう、大丈夫です」

声は整い、心は落ち着きを取り戻していた。

王剣セレスティアを握り直す。

刃に映る自分の顔は、涙と血で汚れていた。

(レオ兄様、ミュラー……あなたたちの分まで)

悼み《いたみ》を胸に、感情は鎮め、意志だけを研ぐ。

「想いを無駄にはしない――ここで終わらせます」


◆ ◆ ◆


ヴィヴィがブレスに耐えている最中、ボンノーが静かに口を開いた。

「フソウさまが何者かは分からぬが、扶桑という名に因縁を感じる」

錫杖の輪が、澄んだ音を立てる。

(なぜこの世界に扶桑の名が……まさか、拙僧の輪廻転生には何か意味が……?)

前世の記憶が、頭の片隅でちらつく。

扶桑海軍の記憶、最期の瞬間、そして――この世界での目覚め。

全てが繋がっているような、不思議な感覚。

「この世界の術式体系にない拙僧の零式が通じるかもしれぬ……」

ボンノーの瞳に、決意の光が宿る。

「確証はない。だが、他に手立てがない以上、零式に賭けるしかない!」

そして、仲間たちに作戦を伝える。

「拙僧の白ノ零式・セラフィムランスで外皮を破壊します。破壊したところに、クレア殿の姫騎士権能ブレイブハートを叩き込んでいただきたい」

クレアが頷く。

その瞳にあるのは復讐ではない――果たすべき務めへの覚悟だ。

「ナターシャ殿にはヨコマールの目を狙って視界を奪ってほしい」

「了解なのさ! 月の女神に懸けて、必ずやり遂げるのさ」

ナターシャは短剣を音もなく鞘へ返し、ひと息で心拍を整えた。

両手を空け、指先で印を結ぶ。黒ノ一式の詠唱へ――静かに入った。


◆ ◆ ◆


ガガガガガッ!

ディバインシールドが限界を迎えようとしていた。

ブレスが止み、今度はヨコマールが物理攻撃を仕掛けてくる。

ガブッ!

巨大な牙が蒼い障壁に食い込む。

ヴィヴィの口から血が漏れる。障壁へのダメージが、そのまま彼女の体にフィードバックされているのだ。

ドゴォォォン!

尻尾が鞭のように叩きつけられる。

その度に、亀裂が広がっていく。

「うぐぅぅぅ……!」

ヴィヴィの蒼いオーラも、徐々に小さくなってきた。

膝が完全に地面につき、血が石畳を濡らしている。

「ヴィヴィちゃんが、もう限界です!」

リリアが叫ぶ。

「もう少し……もう少しだけ……!」

ヴィヴィの声が、か細くなっていく。


◆ ◆ ◆


「今じゃ!」

ボンノーが錫杖を天に掲げた。

「ミホトケサマの御光をもって、邪を穿つ――」

全身から白い光が立ち上る。

それは、この世界の理を超越した力――零式の発動。

(これが通じなければ、全てが終わる……)

「天槍よ、我の求めに応じ顕現せよ!」

煩悩が魔力に変換されていく。

『白ノ零式・セラフィムランス!』

轟音と共に、純白の光槍が顕現した。

それは天使の槍――神聖にして破邪の極致。

長さ十メートルにも及ぶ巨大な光の槍が、音速を超えて射出される。

ドゴォォォォォン!

白蛇の喉元に直撃。

外皮が爆散し、赤い肉が露出した。

「ぐぎゃああああああああぁぁ!」

ヨコマールの絶叫が戦場を震わせる。

巨体がのたうち回り、建物を薙ぎ倒していく。


「今なのさ!」

ナターシャが即座に動いた。

(お坊様の作った隙を、無駄にはしない!)

「月の女神ルナテミスよ――」

褐色の美女が、深緑の瞳を細める。

淡い銀の輪が彼女の周囲に満ちる。

「銀光を下し、我が敵を貫け!」

『黒ノ一式・ブリザード・ドレイ!』

絶対零度の槍が生成される。

氷の結晶が舞い散り、大気が凍てつく。

(一発じゃ足りない……連続で行くのさ!)

シュバッ!

一本目が右目に命中。

眼球が凍りつき、そして砕け散る。

そして――無詠唱。

ナターシャの真骨頂、百八年の修練で得た連続魔法。

シュバッ!

二本目が左目を貫いた。

「ぐぎゃああああ、目ガー! 目ガー!」

ヨコマールが狂ったように暴れ回る。

視界を失い、方向感覚を失った巨大蛇。

「はぁ……はぁ……」

ナターシャが膝をつく。

連続で一式魔法を放った代償――魔力切れだ。

「あとは……頼むのさ……お坊様……」

そう言い残し、意識を失って倒れた。


◆ ◆ ◆


「クレアさん、私の手を握ってください」

リリアがクレアの手を優しく包み込む。

温かい光が、二人を繋ぐ。

「レオシオン様の分も、ミュラー様の分も――」

リリアの瞳にも涙が浮かんでいた。

「一緒に戦いましょう」

「リリア……」

クレアの瞳から、新たな涙が零れる。

「鐘よ鳴れ、祝祭の刻」

リリアの声が、まるで聖歌のように響く。

「滴は流れ、流れは河、河は海――命は連なり」

金色の光が、クレアを優しく包んでいく。

それは魔法ではなく――聖女の祈りそのものだ。

「女神の恩寵、この者に満ちよ」

『聖女権能――レファリア・セレブレーション!』

微風が舞い、金の花片が静かに降りた。

光は肌でなく意志に宿る。

それは祝福――

力が二倍、いや、それ以上に増幅されていく。

「これは……すごい力が……!」

クレアが驚愕する。

全身に満ちる、限りない力。

そして同時に、心も満たされていく。

(一人じゃない……みんなが一緒にいる)


クレアが一歩前に出た。

王剣セレスティアが、赤い光を放ち始める。

「わたくしは――クレア・フォン・リヴィエラ」

凛とした声が戦場に響く。

「リヴィエラ王国第一王女にして、この国を愛する一人の騎士です」

亜麻色の髪が風に揺れ、青の瞳に静かな闘志が宿る。

「猊下に奪われた大切な人たちの想いを背負い――」

脳裏に、兄の笑顔が浮かぶ。

ミュラーの最期の言葉が蘇る。

『命に代えても姫殿下をお守りしろ――!』

涙が一筋、頬を伝う。

しかし、それは悲しみの涙ではない。

決意の涙だった。

「わたくしが猊下の悪しき宿願ねがいを今ここで断ち切ります!」

「リヴィエラの姫騎士、その名に懸けて――勇気の光、いま解き放て!」

『姫騎士権能・ブレイブハート!』

赤いオーラが、クレアの全身から立ち上った。

通常の三倍……いや、レファリア・セレブレーションによってさらに増幅され、五倍以上の速度――!

赤い彗星の尾を思わせる残光を引きながら、クレアは間合いを詰める。


◆ ◆ ◆


外皮が剥がれ、赤い肉が露出した箇所――そこが狙い目。

一閃。

ズバッ!

鋭い斬撃が、肉を深く抉る。

血飛沫が舞い、クレアの顔を赤く染める。

「レオ兄様の想いを重ねて」

二閃、三閃、四閃――

連続する斬撃が、同じ箇所を執拗に攻める。

「父上の想いを重ねて」

五閃、六閃――

血飛沫が舞い、肉片が飛び散る。

「ミュラーの想い、騎士団の想いを重ねて」

七閃、八閃、九閃――

まるで戦場に咲く紅蓮の華。

舞うように、斬るように、ただ美しく――峻烈しゅんれつに。

通常のブレイブハートなら、ここで尽きる。

――だが、金の花片は舞い続ける。

「まだです――まだ、斬れます!」

「魔島へ送られた女性たちの想いを重ねて」

十閃、十一閃、十二閃――

切創はさらに深さを増していく。

「リヴィエラの民の想いを重ねて」

十三閃、十四閃、十五閃――

骨が見え始めた。

白い脊椎が、血に染まっていく。

「そして――」

十六閃、十七閃――

「わたくしたちの未来のために。想いを込めて!」

十八閃!

ズドォォォォン!

脊椎を完全に断ち切った。

巨体が崩れ、石畳が震える。

しかし、それでも白蛇は倒れない。

狂ったように暴れ回る巨体。

「猊下、御覚悟を――!」

クレアが最後の力を振り絞る。

地面を蹴り、高く跳躍。

首元へと跳び――

「紅蓮剣……」

王剣セレスティアに、託された数多の想いを込める。

「裂光斬!」

振り下ろされた一撃が、空間そのものを切り裂くように――

ズバァァァァァン!

白蛇の首が、胴体から切り離された。

ドスン!

巨大な頭部が地面に落ちる。

同時に――

パキン……

金属が折れる、澄んだ音。

王剣セレスティアが、根元から真っ二つに折れた。

「あ……」

クレアが愕然とする。

代々受け継がれてきた王家の宝剣が――

そして、次の瞬間。

「お見事です、姫殿下」

と、魂となったミュラーが語りかける。

「さすがは私の自慢の妹だね」

と、魂となったレオシオンが微笑む。

クレアは折れた王剣を胸に抱き、空を見上げた。

「兄上、ミュラー――」

声は静かだが、その奥に鋼の意志が宿っている。

「この剣は折れても、あなたたちから受け継いだ想いは折れません」

柄にそっと口づけ、静かに一礼した。

「……わたくしは大丈夫です。ありがとう」


◆ ◆ ◆


切り離された頭部が、なお言葉を紡ぐ。

「余を倒したところで、バナテールの滅びは変わらぬ」

ヨコマールの声には、もはや怨念ではなく——深い絶望が滲んでいた。

縦に裂けた瞳孔が、虚ろに宙を見つめている。

「これで終わりではない……終わりなど……ない……」

黒い瘴気が立ちのぼり、白蛇の巨体が徐々に溶けていく。

まるで悪夢が霧散するように。

「フソウさまは必ず復活する……そして全てを無に帰す……」

最後に、ヨコマールの人間の顔が一瞬浮かび上がる。

その瞳に、一滴の涙が浮かんだ。

それは、かつて理想を抱いていた若き日の顔だった。

「余も……かつては……お前たちのように……人を救いたかった……」

そして完全に、黒い霧となって消えた。


◆ ◆ ◆


静寂。

長い、長い静寂。

そして――

「やった……やったぞ!」

誰かが叫んだ。

「姫殿下がヨコマールを討ちとったぞ!」

「ヨコマールが……白い悪魔が倒れた!」

その声が引き金となり、歓声が湧き起こる。

「うおおおおお!」

兵士たちの士気が、一気に回復した。

蛇人兵たちは、主を失って統率が乱れ始める。

まるで糸の切れた人形のように、動きが鈍くなっていく。

「逃がすな! 一匹残らず討ち取れ!」

アベルトの号令が響く。

青銀の鎧を纏った騎士たちが、一斉に動き出す。

ライハルトも負傷しながらも前線で再び指揮をとり始める。

「楯列を展開しつつ前進せよ。セレスティア歩兵大隊の底力を見せつけてやれ!」

――エルンスト隊が合流し、蛇人兵への攻撃が強まる。

二時間余りの激戦の末、蛇人兵は完全に駆逐された。


◆ ◆ ◆


夕日が、血に染まった石畳を赤く照らしている。

戦いは終わった。

しかし、代償はあまりにも大きかった。

ボンノーは倒れたヴィヴィとナターシャを介抱していた。

「よく頑張りましたな、お二人とも」

「へへ……あたし、やったよね?」

ヴィヴィが弱々しく笑う。

小さな体は限界を超えており、全身から血が滲んでいた。

「みんな……守れた?」

「ヴィヴィちゃんのおかげでみんな無事です」

リリアが優しく微笑みながら、治癒魔法をかける。

金色の光が、ヴィヴィの傷を癒していく。

「お坊様……」

ナターシャが薄く目を開ける。

「うまくいったようだね――上々なのさ」

「ナターシャ殿の連続魔法も見事でした」

「ナターシャ殿の援護があってこそです」

ボンノーが頷く。

クレアは折れた王剣を見つめていた。

二つに分かれた刃が、夕日を反射している。

刃身に刻まれた古代文字が、かすかに光っているのが見えた。

『勇気と慈愛を以て』——代々の王家に受け継がれてきた誓いの言葉。

「セレスティア……」

クレアが愛おしそうに刃に触れる。

「あなたは、最後まで私と一緒に戦ってくれたのですね」

涙が、また零れる。

「お父様から、お祖父様から、歴代の王たちから——脈々と受け継がれてきたこの剣……」

「ありがとう、セレスティア」

まだ温かい——戦いの熱が、金属に残っていた。

「剣は折れても、その意志は受け継がれます」

ボンノーがそっと肩に手を置く。

「クレア殿の勇気が、この国を救ったのです」

アベルトが膝をつき深々と頭を下げた。

「姫殿下の御手により、ヨコマールは討ち果たされました」

「まこと姫殿下にしか成し得ぬ御業みわざにございます」

「リヴィエラの民を代表し、謹んで拝謝申し上げます」

「副団長ミュラーも……きっと誇りに思っているでしょう」

その言葉に、クレアは涙を拭い、顔を上げた。

「はい……みなさんの想いを、決して無駄にはしません」

そして、折れた剣を胸に抱きしめる。


◆ ◆ ◆


西の空に、大きな虹がかかっていた。

七色の橋が、まるで天と地を繋ぐように。

しかし――

ボンノーの胸に、不安が残る。

(フソウさま……なぜこの世界に扶桑の名が……)

ヨコマールの最後の言葉が、脳裏から離れない。

『フソウさまは必ず復活する』

(まだ、何か大きな脅威が残っているのか……)

その答えを知る時は、もうすぐそこまで迫っていた。


遠い海の彼方で、何かが蠢き始めていることを、まだ誰も知らない――

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