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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第3章 王都決戦

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第43話 拙僧、聖盾士と聖女の輝きをみる

王都セレスティア・中央広場司令本部――九月五日朝

薄明の光が司令本部の窓から差し込む中、作戦会議室には緊張した空気が漂っていた。

クレアは大きな作戦地図を前に立っている。その両脇にはアベルトとライハルトが控え、数名の士官たちが地図上の駒を見つめていた。

「副団長ミュラーより報告です」

伝令が駆け込んできた。

「王城に動きなし、とのことです」

クレアは小さく頷いた。昨日一日の膠着状態――この静けさが、かえって不気味に感じられる。

「消魔石がある限り、魔法での突破は不可能か……」

アベルトが苦い表情で呟いた。

その時、司令本部の幕が勢いよく開かれた。

◆ ◆ ◆

「失礼します!」

入ってきたのはヴィヴィだった。その表情には、昨日とは違う決意が宿っている。

「ヴィヴィ殿、どうされた?」

アベルトが尋ねる。

「報告があります! 昨夜、試してみたんだけど……」

ヴィヴィは一呼吸置いて続けた。

「消魔石があっても、あたしの権能は使えるよ!」

室内がざわめいた。

「それは本当か?」

ライハルトが身を乗り出す。

ヴィヴィは胸を張って宣言した。

「あたしは実は聖盾士せいじゅんしだよ」

アベルトとライハルトの目が驚きで見開かれる。

聖盾士――それは大地の神イグナに認められた者にのみ与えられる権能だった。

「権能とは人の術式ではなく神に紐づく加護ゆえに、消魔石を受けないのかもしれぬ」

ボンノーが静かに述べた。


「昨夜、こっそり大通りの近くまで行って試してみたんだ」

ヴィヴィが説明を始める。

「消魔石があっても、あたしの権能は発動できたよ。矢を防ぎながらバリケードまで接近して、あたしの必殺技でバリケードを破壊できるよ!」

クレアが立ち上がる。

「ヴィヴィの権能はこの目で確認しております。『蒼盾・砕鳴衝波』が柵に炸裂すれば、確実に破壊できます」

ボンノーも頷く。

「……よし」

アベルトは地図の大通りに指を置いた。

「ヴィヴィ殿を中心とした突撃部隊を編成する」

地図に向き直り、駒を動かしながら指示を始めた。

「ヴィヴィ殿と第一歩兵小隊は、重装歩兵の盾衾楔形陣で第一層のバリケードを制圧せよ」

アベルトの声が響く。

「カティア中隊長」

「はっ!」

頬に傷のある栗毛の女騎士が敬礼する。

「騎士五十騎は下馬し、徒歩で第二歩兵小隊と歩調を合わせ、第一層バリケード付近の側道の伏兵を掃討せよ」

「了解しました」

「第二歩兵小隊の重装歩兵は盾衾でカティア中隊長の部隊を護衛。第七工兵小隊は、第一層制圧後、ただちに逆バリケードを構築し橋頭堡を確保せよ」

「第一層制圧後は、そのまま第二層へ向かえ」

アベルトが締めくくった。

「承知しました」

ライハルトが頷く。

「部下に命令を伝えてくる」

カティアも敬礼して退出しようとした時――

「カティア中隊長」

ボンノーが声をかけた。

「拙僧も同行させていただきたい。カティア隊の一員として」

「ボンノー殿の武勇、心強い」

カティアが微笑んだ。

◆ ◆ ◆

午前十時――作戦開始

中央広場に集結した軍の前に、リリアが立った。

これまで後方で支援に徹していた聖女が、初めて前線に姿を現したのだ。

兵士たちがどよめく。

「聖女様……!」

「リリア様が、前線に……?」

リリアは祝杖を高く掲げる。

朝日が杖頭の水晶を黄金に染めた。


「命は連なり、輪は守りとなる。輪となって進みましょう」

澄んだ声が広場を満たした。

「どうか、手を取り合ってください――わたしが加護を繋ぎます」

リリアは静かに祝杖しゅくじょうを掲げ、口上を紡いだ。

「レファリアよ、我らの誓いを聴き給え。命は連なり、孤は群となり、群は輪となる。いま、この地に守護の円環を――」

杖頭に金の光がともり、波紋のように広がる。

『聖女権能――レファリア・プロテクション!』


金光の波動が、軍勢全体を包み込んだ。

まるで暖かい春の陽光を浴びているような、優しい感覚が兵士たちを満たす。

「あったけぇ……」

老兵が呟く。昨日から痛んでいた古傷が、嘘のように軽くなった。

「手の震えが……止まった」

新兵が自分の手を見つめる。初陣の恐怖が、不思議と和らいでいく。

「すげぇぞ、これ! 体が軽い!」

「痛みが消えた! 戦える、まだ戦える!」

兵士たちから歓声が上がる。疲労が薄らぎ、活力が体中に満ちていく。

クレアも初めて目にする聖女の権能に驚きを隠せない。

(これが……聖女の真の力……)

◆ ◆ ◆

続いて、ヴィヴィが前に出た。

「よーし、次はあたしの番だよ!」

大地を踏みしめ、大盾を構える。

「大地の神イグナよ、我が盾に神威を宿せ!」

ヴィヴィの全身から、蒼いオーラが立ち上り始めた。

『聖盾士権能・ディヴァインシールド!』

巨大な蒼い障壁が、ヴィヴィを中心に半球状に展開された。

まるで蒼い城壁のような、圧倒的な防御力を誇る蒼い盾。


「うおおおお!」

「すげぇ! これなら無敵だ!」

「あれなら、どんな攻撃も防げる!」

第一歩兵小隊の重装歩兵たちの士気が一気に高まった。

「野郎ども! ビビってんじゃねぇぞ!」

第一歩兵小隊長が号令をかける。

「ヴィヴィ様を信じろ! 楔になって、敵をぶち抜くぞ!」

「オオオオッ!」

重装歩兵たちが素早く隊列を整える。

ヴィヴィを頂点とした楔形の陣形――敵陣を貫く、最強の突撃陣形だった。

鋼鉄の壁が、今動き出す。


「前進!」

ガチャガチャガチャガチャ

百の足音が、一つの巨大な足音となって大地を揺らす。

敵のバリケードから、すぐさま矢の雨が降り注いだ。

ヒュン! ヒュン! ヒュン!

矢が雨のように降り注ぐ。

だが――

カンカンカンカン!

すべての矢はディヴァインシールドに弾かれ、まるで雨粒のように散っていく。

「よし! いける!」

ヴィヴィは短く頷いた。

「みんな、ついてきて!」

その姿に勇気づけられ、重装歩兵たちも力強く前進する。


第一層のバリケードまで、あと三十歩。

「来ます! 側道警戒!」

カティアが叫ぶ。

ガラガラガラ!

左右の路地から、鉄杭を仕込んだ荷車が突っ込んできた。

ガァン!

盾衾に激突。鈍い音と共に、兵士たちがよろめく。

「ぐっ……!」

若い兵士の腕が折れる音がした。だが――

シュウウウ……

金色の光が、折れた腕を包む。痛みが引き、力が戻る。

「まだやれる! 押し返せ!」

聖女の加護が、崩れかけた陣形を立て直した。

側道の掃討は左右に割り振った。左はボンノー、右はカティア。

騎士と第二歩兵小隊が路地へ滑り込み、火花が散る。

数分の戦闘後、側道の伏兵は制圧された。

ヴィヴィたちは、ついに第一層のバリケードに到達した。

荷車と長椅子を組み合わせた即席の防壁。しかし、その向こうには神殿騎士が槍を構えて待ち構えている。

「さあ、ぶっ壊すよ!」

ヴィヴィが大盾を振りかぶる。

蒼いオーラが、さらに激しく輝き始めた。

「これが――あたしの全力全開!」

大地が震える。まるで、地震の前触れのような振動。

「蒼盾・砕鳴衝波そうじゅん・さいめいしょうは!」

ドォォォォン!

凄まじい衝撃波が、バリケードを粉々に吹き飛ばした。

木片が舞い、神殿騎士たちが後方へ吹き飛ばされる。

「すげぇ……」

重装歩兵たちが息を呑む。

「今だ! 突っ込め! 橋頭堡を確保するぞ!」

小隊長の号令で、兵士たちがバリケードの跡を越えて突入する。

第七工兵小隊がすぐさま作業を開始し、逆バリケードの構築を始めた。

「第二層へ向かうよ!」

ヴィヴィが再び先頭に立つ。

だが、額には汗が浮かんでいた。息も荒い。

(もう少し……もう少しだけ……)

その時――

第二層バリケードから重い音と共に、巨大な鋼の矢が飛んできた。

ブシューーーーン!!

「バリスタだ!」

【バリスタ――城壁防衛用の巨大弩弓】

ガァァァン!

ディヴァインシールドに直撃。蒼い障壁が、ガラスめいた罅が走る。

「きゃあっ!」

ヴィヴィが膝をつく。鼻血が、顎を伝って落ちた。

「もう……無理……」

蒼い光が、蝋燭の火のように弱まっていく。

「後退せよ! 今すぐ!」

アベルトが決断を下す。

「これ以上は危険だ。攻撃中止!」

部隊は素早く後退を開始する。

ヴィヴィも重装歩兵に支えられながら、なんとか味方陣地まで戻ってきた。

「はぁ……はぁ……ごめん、みんな……もっと頑張りたかったのに……」

「何を言ってるんだ!」

兵士の一人が力強く言う。

「ヴィヴィ様のおかげで、俺たちは誰一人死ななかった!」

「そうだ! 初めて奴らのバリケードをぶっ壊したんだ!」

「ヴィヴィ様、最高だ!」

兵士たちが口々に叫ぶ。

◆ ◆ ◆

夕刻――

一日の戦いが終わり、両軍は再び睨み合いの状態に戻った。

しかし、今日は違った。

王国軍は第一層のバリケードを確保し、大聖堂への道を一歩前進させたのだ。

「明日は、第二層も突破できるかもしれない」

ライハルトが期待を込めて言う。

「ああ。ヴィヴィ殿の権能があれば……」

アベルトも頷く。


日が沈み、鐘楼から十回目の鐘が鳴り響く。

ゴォォォン……ゴォォォン……

重い音が、十度。

「あと四日……」

ボンノーが呟く。

その時だった。

ポツ……ポツ……

雨が降り始めた。

最初は霧雨だったが、次第に激しさを増していく。

◆ ◆ ◆

深夜――午前二時

雨音だけが支配する闇の中。

突然、大聖堂の窓が一瞬だけ発光した。

不気味な光が、雨の中で瞬く。

そして――

ギィィィ……

重い軋み音と共に、南門が静かに開いていく。

同時に、王城の東門と西門の跳ね橋が、密やかに降ろされた。

雨音に紛れて、何かが動き始めていた。

◆ ◆ ◆

「敵襲ーーーーッ!」

見張りの叫び声が、雨の中に響いた。

王城から出撃した神殿騎士が二手に分かれて出撃してきたのだ。

西側から五十騎、東側から五十騎。

雨と闇に紛れた夜襲だった。

「くそっ! まさか夜襲とは!」

王城側の陣地が混乱に陥る。


最初に攻撃を受けたのは、王城を監視していた王国騎士団だった。

不意を突かれ、十三名が瞬く間に倒される。

「円陣を組め! 隙を見せるな!」

副団長ミュラーが必死に指揮を執るが、闇と雨の中では統制が取れない。

神殿騎士たちは一撃離脱の戦法を取り、側道を通って東門へ向かう。


東門では、歩兵小隊が門の守備についていた。

しかし、まさか背後から敵が来るとは思っていなかった。

「後ろ!? 後ろから敵が!」

振り返った時には、もう遅かった。

神殿騎士の槍が、次々と歩兵たちを貫いていく。

七十二名が死傷し、東門はあっという間に開かれてしまった。

生き残った者も、恐怖で戦意を失っていた。


そして、南門から出撃していた神殿騎士二百騎が、開いた東門から中央広場へ向かって進撃を開始した。

その先頭には――

白銀の鎧に身を包み、純白のランスを構えた騎士がいた。

神殿騎士団長ヘイゲル。

「レファリアの御名において、異端どもを討つ!」

ヘイゲルのランスが、雨の中で白く輝く。


「緊急事態! 東門より神殿騎士二百騎以上!」

司令本部に緊急の報告が入る。

「ヘイゲル自らが指揮を執っているとのこと!」

アベルトの顔がかすかに引き締まる。

「ヘイゲル……あの男が動いたか」

(十年前の天覧試合。私は"王国最強"と持て囃され、奴は無名の新人だった。激戦の末、紙一重……刃一つの差で、私が勝ったが――)

アベルトは素早く指示を飛ばす。

「第三歩兵小隊、第四歩兵小隊、カティア中隊――姫殿下を護れ。司令本部の外輪を固めろ!」

クレアが剣を抜く。

「迎撃!ここで受けとめます!」

ボンノーも錫杖を構えた。

「拙僧はここでクレア殿を守る」

ヴィヴィが頷く。

「クレアさん……いえ姫殿下はあたしも守る!」

雨の中、中央広場で激戦が始まった。


ヘイゲルの純白のランスが、歩兵たちを次々となぎ倒していく。

一撃、二撃、三撃――

まるで舞うような槍さばきで、十名以上を瞬く間に倒した。

「化け物……化け物だ!」

兵士たちが恐怖に震え、後退り始める。

だが、ヘイゲルは突然、槍を収めた。

「全騎、東門より撤退せよ!」

神殿騎士たちは、潮が引くように東門へ去っていった。

◆ ◆ ◆

嵐のような夜襲は、わずか三十分で終わった。

雨に濡れた広場には、多くの死傷者が横たわっている。

「被害報告を!」

アベルトが叫ぶ。

「歩兵百五十六名、王国騎士三十二名が死傷……」

「敵の損害は?」

「神殿騎士四十七騎を討ち取りました」


四倍の被害。

完全に、してやられた。

ライハルトは拳を固く握りしめ、低く吐いた。

「……不覚」

雨は、まだ降り続いている。

「……潮時を完璧に読んでいた」

アベルトが、苦い顔で呟く。

「被害最小、成果最大――兵法の条にかなう夜襲だ」

血に染まった雨水が、石畳を赤く染めていく。


セレスティア滅亡まで、あと四日――

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