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ボンノーさまがいく〜異世界転生した108歳坊主の煩悩戦記〜  作者: wok
第1章 108歳童貞煩悩坊主が異世界へ
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第4話 拙僧、おっさん騎士と盾娘に出会う

冒険者として初めての依頼を終えた翌朝――

煩乃とシノは、再びリントベルクの冒険者ギルドへと足を運んでいた。

「……拙僧らの手持ちでは、宿と食事をとれば、もはや数枚の銅貨のみ。このままでは、煩悩どころか胃袋すら空に……」

「ボンノーさま、それ……修行じゃなくて、ただの貧乏ですよね……?」

シノのつぶやきに苦笑しつつ、煩乃は掲示板に目を走らせた。

すると、ひときわ目立つ依頼書が目に留まった。


■依頼名:ミスリル鉱の採掘

■報酬:銀貨五十枚

■依頼主:グスケン鉱業組合

■備考:パーティー参加推奨。魔物の出現報告あり


「……銀貨五十。これは、実入りが良い……」

「ミスリルって……すごく貴重ですよね……?」

シノが不安そうに問うと、近くで依頼書を眺めていた年配の冒険者が振り返った。

「おう、嬢ちゃん。ミスリルってのはな、魔法の武器や防具を作るのに欠かせない稀少鉱石だ。市場価格は普通の鉄の百倍はするからな」

「百倍……!」

シノが驚きの声を上げる。

「ただし」と、その冒険者は険しい表情になった。

「ミスリルが眠る場所には、必ずといっていいほど強力な魔物が巣食ってる。その鉱石に魔力が引き寄せられるからな。初心者にはお勧めできねぇよ」

「うむ。貴重ゆえに魔物も寄りつくのでしょうな。……仲間が必要ですな」

ボンノーが錫杖を軽く地面に突きながら呟いたとき、背後から不意に声がかかった。

「おっ。そこの坊さんたちも、この依頼に興味あるのか?」

振り返れば、全身を白銀色の全身鎧に包んだ騎士然とした人物が立っていた。

その鎧は見事な細工が施されており、朝日を受けて美しく輝いている。顔は完全に兜の中に隠れ、表情は窺い知れない。体格は中肉中背だが、どこか繊細な印象も受ける。

声は妙に低く抑えられ、つっけんどんな響きがあった。

「名はグレア。おれもこのクエストに参加したい。財布が寒くてな……報酬がいいってだけで十分な理由だろ?」

その口調は粗野で、まるで場慣れした傭兵のよう。

だが不思議なことに、その立ち居振る舞い――剣の位置、足の置き方、背筋の伸び具合まで、すべてが教科書通りの騎士作法に則っていた。

粗野な言葉遣いと、洗練された所作がちぐはぐに同居しているような――

「なるほど……装備も立派で、実戦慣れしていそうですな。ぜひ、共に参りましょう。拙僧はボンノーと申します」

「よろしくな、ボンノー。あと……そっちの子は?」

「シノと申します。少し白魔法が使えます。よろしくお願いします」

シノが軽く会釈すると、グレアは短く頷いた。

「ふーん。頼りにしてるぜ」

グレアの返事は相変わらず雑だった。

だが不思議と悪意は感じられず、むしろその"おっさんめいた空気"が場を和ませていた。

シノもまた、首をかしげながらぽつりとつぶやく。

「えっと……声、ちょっと怖いけど……優しそうな人かも?」

「優しそうって……おれを見てそう思うのか?」

グレアが少し驚いたような口調で返すと、シノは小さく微笑んだ。

「はい。なんとなく、ですけど」

その時、ギルドの奥からドタドタと大きな足音が響いてきた。

「おーい! あんたらもミスリル行くんでしょ!? タンク、いないでしょ!?」

現れたのは、小柄な体格に、元気いっぱいの赤銅色の三つ編みを揺らしたドワーフ族の少女だった。

快活そうな丸い瞳と、少しそばかすのある頬が印象的で、背中には、自分の体をすっぽり隠してしまえるほどの巨大な鉄の盾を背負っている。

その盾は明らかに特注品で、表面には無数の戦闘の傷跡が刻まれていた。使い込まれた証拠だ。

あまりにアンバランスなその姿が、むしろ彼女の元気さと自信を際立たせていた。

「ヴィヴィって言います! あたし、こう見えて超硬いよ! 盾で殴るのも得意!」

そう言いながら、ヴィヴィは背中の大盾をするりと回して正面に構えてみせた。その動作は驚くほど滑らかで、長年の訓練の賜物であることが窺える。

「……タンクは必要よね? ね? いなきゃ詰むよね?」

畳みかけるような自己アピールに、ボンノーは圧倒されながらも頷いた。

「う、うむ……確かに前衛は重要にございますな」

「んふふ、それじゃあ決まり!」

ヴィヴィは満面の笑みで拳を突き上げた。

こうして、突貫パーティーが編成された。

ボンノー(108歳転生僧侶)

シノ(謎の白魔法使い)

グレア(おっさん騎士)

ヴィヴィ(盾脳筋ドワーフ)

それぞれに事情を抱えた四人が、今、一つの目的のもとに集った。

「されば諸君、ミスリル鉱を目指して参ろう。準備を整え、一時間後に正門集合じゃ」

「おー!」

◆ ◆ ◆

正門前に集合した四人は、改めてお互いを見つめ合った。

「なんか、すごいメンバーが集まったね」

ヴィヴィがくすりと笑う。

「うむ。これも何かの縁でしょうな」

ボンノーが錫杖を軽く地面に突くと、澄んだ音が響いた。

「みんなで一緒なら……きっと大丈夫ですね」

シノが小さく微笑みながら呟く。

「……行くか」

グレアの静かな声に、四人は頷いた。

銀貨五十枚の報酬と、それぞれの理由を胸に、四人は"グスケン鉱山"へと向けて、旅立った――。

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