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ボンノーさまがいく ~異世界で46cm三連砲を撃つ物語~  作者: wok
第3章 王都決戦

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第38話 吾輩、蛇頭の化け物と戦うにゃ

「今すぐ助ける。放っておけねぇ」

砂が足元でざりと鳴る。踏み出そうとしたザリオの籠手を、ミケケがすっと掴んだ。

「待つにゃ」

ミケケの尾が警戒を示すように一度だけ振れる。声は低く、静かだ。

「助けたい気持ちは吾輩も同じにゃ。けど今飛び出したら、尻尾だけ掴んで頭を逃がすようなものにゃ。誰が回収に来るのか――そこを押さえるのが先にゃ。女性たちは眠らされてるだけと見ていいにゃ」

「だが——」

ザリオは短く息を吐き、剣の柄から手を離した。

「……分かった。ミケケの読みで行く。だが少しでも危険を察したら即救出だ」

「当然にゃ。一瞬たりとも目は離さないにゃ」

ミケケは銀杖を握り直し、低く応じた。

一時間が過ぎ、二時間が過ぎ――

そして深夜二時を回った頃、異変が起きた。

◆ ◆ ◆

闇に沈む沖合で、さざ波が不自然に四角く消えた。

舟? いや、普通の舟なら灯りがあるはずだ。櫂の音も聞こえない。

低い舷をもつ幅広の小舟が、音なき音――低い脈動だけを残して、海面を滑るように近づいてくる。

ドッ……ドッ……ドッ……。

規則的な振動が水を伝わってくる。波が押しのけられ、舟の後ろで青白い泡が細かく弾けている。何か見えない力が海を押し出しているのか、航跡が妙に軽い。舵も帆もないのに、舟は潮流を完全に無視して一直線に海岸へと向かってくる。

「にゃ……見たことない"ふね"にゃ」

ミケケが小声で呟く。

その船上には、人影が十体。

長身の四体は、月光を浴びて鱗のように光る皮膚を持つ――馬車から現れたあの"人ならざる影"と同じ姿だ。三日月刀を逆手に構え、刃が冷たい輝きを放っている。

小柄な六体は骨だけの躯体で、片手に短剣、もう一方にロープ束を持つ――小型のスケルトンだ。


舟は砂浜の斜面に鼻先を押しつけるようにして止まった。

次の瞬間――船首の板継ぎが内側からぱかりと割れ、鉄の渡し板がガタンと音を立てて降りた。

先頭に立つのは"蛇の頭をもつ人型"が四体。その後ろからスケルトンが六体続く。砂に浅い足跡を刻みながら、静かに上陸を始めた。

敵の全員が完全に陸に上がったのを確認し――

「今にゃ!」

ミケケの合図と同時に、猫尻尾を模した銀杖が眩い白光を放った。

『白ノ四式・サークルスリープ!』

白い霧が瞬く間に広がり、敵の集団全体を包み込む。

「僕も続く!」

ネルムが素早く詠唱を始める。

『黒ノ四式・サークルパラライズ!』

紫の霧と白い霧が混ざり合い、上陸した敵たちを覆い尽くす。

蛇の頭をもつ人型二体が、その場でよろめき、そのまま砂浜に倒れ込んだ。麻痺し眠りについたのだ。

しかし――残りの蛇人型二体とスケルトン六体は、魔法の効果をものともせずに立っている。

「シャァァァ!」

縦に割れた瞳孔が危険な光を帯びて細まる。蛇頭の怪物は三日月刀を逆手のまま半身に構え直した。切っ先が獲物を狙う蛇のようにわずかに揺れている。

「今――放つ!」

ユリスが即座に弓を構え、矢を番えた。

シュッ、シュッ、シュッ――息をつく間もない三連射。

毒を塗った矢が、蛇人型の胸板に次々と深く突き刺さる。

「ギシャァァァ!」

蛇人型の怪物が毒の苦痛に身をよじらせ、膝から崩れ落ちた。

「オレノ バンダ!」

ドランが野性的な雄叫びを上げて突進する。

巨大な戦斧を大きく振り回し、スケルトン三体をまとめて薙ぎ払った。

骨が粉々に砕け散り、白い粉塵となって夜風に舞う。

返す刃で、もう一体の蛇人型に斧を叩き込む。相手は三日月刀で受け止めようとしたが、ドランの怪力に弾き飛ばされ――

横薙ぎ一閃!

ザクリという湿った音とともに首が切断され、蛇頭が砂浜に転がった。

「グォォォ!」

残ったスケルトン三体が、短剣を振りかざしてミケケに襲いかかる。

「にゃっ!?吾輩、狙われてるにゃ!」

「させるか!」

ザリオが素早くミケケの前に滑り込み、ナイトシールドで攻撃を完全に受け止めた。

ガキィン! ガキィン! ガキィン!

短剣が盾に弾かれ、火花が夜闇に散る。

「今度はこっちの番だ!」

ザリオがロングソードを鋭く振り抜く。

一振りで一体のスケルトンの胴を両断し、骨を粉砕した。

ネルムが杖を構え直す。

『黒ノ五式・ストーン!』

空中に生まれた石礫が放たれ、スケルトンの頭蓋骨を撃ち抜く。白骨が散る。


「最後の一体にゃ!」

ミケケが杖先を残った敵へ向け、力強く突き出した。

『白ノ五式・ホーリージャベリン!』

収束した聖なる光が槍と化し、頭蓋骨を貫く。白骨が崩れ落ちる。

戦場に再び静寂が戻った。

砂浜には、魔法で眠っている蛇人型二体だけが無防備に横たわっている。

「眠ってる二体を……」

ザリオがロングソードを静かに構えた。

「情けは無用だ。確実に仕留める」

一歩一歩慎重に近づき、急所を正確に貫いた。


「戦闘終了にゃ!」

ミケケの尾が高く弾む。

「吾輩たちの完勝にゃ!」

「……たいしたもんだ」

ザリオが感心したように短く頷く。

「初撃で完全に流れを掴んだな。ミケケ、ネルム、見事な連携だった」

「ソウダナ……」

ドランも満足げに頷いた。

「ミンナ ツヨク ナッタ」

「はい、全員の連携が完璧でした」

ネルムが眼鏡を直しながら控えめに微笑む。

「……あの不気味な舟も調べましょう」

ユリスが浜に乗り上げた舟を指差す。

「何か手がかりが残されているかもしれないわ」


一行は慎重に舟に近づいた。

船内を隅々まで調べたが、完全に空だった。蛇頭の怪物たちは、この舟で女性たちや赤魔石を密かに運び出していたようだ。

砂浜には、魔法で眠らされたままの女性たちが十人、静かに横たわっている。

ユリスは一人一人の傍に膝をつき、喉元と手首に二本指を当てて脈を確認し、頬に顔を近づけて呼吸を確かめた。

「全員、無事に生きてるわ」

ミケケも鼻先を女性たちに近づけ、胸に耳を当てて心音を注意深く聴く。

「深い魔法睡眠に落ちてるだけにゃ。呼吸も脈拍も正常にゃ」

「この舟、沖に流されないようにロープで係留しておく」

ザリオの指示で、舟は砂浜に固定された。ネルムとドランは周囲の警戒へ回る。

「女性たちを一人ずつ、優しく揺すって起こしてみよう」

ユリスとミケケは、眠っている女性たちの肩を慎重に揺さぶり始めた。


「うーん……」

最初の女性がゆっくりと目を開けた。

「あ、あれ? ここは一体……?」

「大丈夫です、もう安全ですよ」

ユリスが安心させるように優しく声をかける。

「私たちは冒険者ギルド所属の灰銀の牙です。あなたたちを無事救出しました」

一人、また一人と、女性たちが意識を取り戻していく。

年齢は様々だが、10代から20代前半の若い女性ばかりだった。

全員が状況を理解できずに混乱していたが、灰銀の牙の面々が丁寧に事情を説明すると、徐々に落ち着きを取り戻していった。

「安心してくれ。俺たちが護る。立てるか? 無理なら肩を貸す」

ザリオが力強く言う。

「これより我々のアジトまで護衛していく」

◆ ◆ ◆

灰銀の牙のアジト『錨と樽』――

女性たちを無事にアジトまで連れて帰ると、ユリスとミケケが世話を始めた。

「お風呂を沸かしてきました。ゆっくり温まってください」

「温かい食事もたっぷり用意するにゃ」

「寝床もちゃんと用意してあるから、安心して体を休めて」

女性たちは、温かい対応に涙ぐんでいた。

「本当に……ありがとうございます……」

「命を救っていただいて……感謝してもしきれません……」

全員が落ち着きを取り戻したところで、ザリオたちが慎重に事情聴取を始めた。


「それで、皆さんはどこから、どのように連れて来られたんですか?」

女性たちの証言を総合すると――

バスタなどの地方都市から大聖堂のシスター見習いとして王都に連れて来られた者が七名。

王都で何者かに突然拉致された者が三名。

その中の一人――蜂蜜色の髪を丁寧に編み上げた十三歳の少女が、震える声で恐る恐る口を開いた。

「私は……エルナ・フォン・アルセインと申します」

その瞬間、ザリオの目が見開かれた。

「アルセイン……だと?」

「は、はい……」

「まさか、アベルト王国騎士団長の……?」

「……はい、父です」

ザリオの声が震えた。


「おい……これは、ただ事じゃねぇぞ」

ザリオが仲間たちを見回す。

「王国騎士団長の娘がさらわれてたなんて……」

「大変なことになってるにゃ……」

ミケケの耳が不安げにぺたんと伏せる。

「これは兄貴……ボンノーの兄貴に連絡を取らないとダメだ」

ザリオが決断する。

「だが俺は騎士団を追放されてる身だ。直接騎士団長に会いに行くのは……」

「それなら吾輩が行くにゃ!」

ミケケが手を上げた。

「吾輩が医者の変装をして、騎士団長屋敷に行くにゃ! 要点を外さず伝えられるにゃ!」

◆ ◆ ◆

翌朝――

ミケケは医者の格好に変装していた。

白衣を身にまとい、医療鞄を手に持ち、三毛柄の耳は帽子の下に器用に隠している。

「では行ってくるにゃ!」

「気をつけろよ、ミケケ」

ザリオが心配そうな表情で見送る。

「何かあったらすぐ戻って来い」

「大丈夫にゃ! 吾輩に任せるにゃ!」

ミケケは自信満々に胸を張ると、騎士団長屋敷へと向かった。

朝日が王都の屋根を金色に染め始める中、小さな医者の後ろ姿が朝靄の向こうに消えていく。


王都セレスティアでは、戒厳令発布から七日目の朝を迎えていた――

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